「自閉症の時代」 竹中均 講談社現代新書 まとめ

本の概要

 スティーブジョブズ、マークザッカーバーグ、ルイスキャロル、コナンドイル数々の著名人が自閉症であった可能性がある。

 近年、自閉症やその文化への注目が増している。

 自閉症自体は20世紀に半ば、知的障害だけでは説明できない子供に対し、自閉症という概念が生み出された。

 自閉症=他者を寄せ付けないというイメージだったが、研究が進み、その症状にも多様性があることがわかってきた。

 自閉症者に見られる特徴には以下のような物がある。

  • 感覚過敏:特定の刺激を強く感じたり、弱く感じたりする。
  • 弱い求心性統合:全体ではなく部分を見る力が強い。
  • 反復:同じ行動の繰り返しを好む。
  • モノトラック化:人とのコミュニケーションマルチトラックのため苦手
  • 高精細:部分への関心が強く、般化や以下同様と厳密に考えすぎないことが苦手

 近代の仕事は反復を伴わない仕事が増えてきた。職人的な仕事が減り、突発的な対応が必要な仕事が増加していることが自閉症が目立つ原因となっている。

 無意識を統御する一次過程では反復が快感を生み、その快感を人々が求める。

 意識を統御する二次過程では反復と快感に耽るのではなく、常に発展すべきと考えられている。

 ただ、実際には二次過程はアンバランスに一次過程に乗っているだけ              

無意識を意識化しようと考えるのは思い上がりに過ぎない。

 開くか閉じるかの2択ではなく、併存していく道が必要となる。

本で学べること

  • ・自閉症とはなんなのか
  • ・一口に自閉症といってもどのようなものがあるのか
  • ・自閉症とどのように付き合っていくのか

プロローグ

 MacやiPhoneを生み出したAppleのスティーブジョブズは21世紀において創造性あふれる偉人の代表格といわれる。

 現在彼は自閉症的な傾向があったと言われている。完璧主義性、周りとの軋轢が自閉症によるものであったかしれない。

 閉じるということは概して否定的にとらえられるが、過去の偉人や文化を見ると閉じることが革新的な視点への導きの糸になってきた。

第1章 自閉文化とはなにか

 伊藤若冲は現代の日本で人気の高い画家である。彼の作品では同じ姿の動物を異なる画の中で繰り返し用いている。

 このような同じモチーフを繰り返し用いることも自閉症的な特徴である。 

 20世紀半ばに自閉症は発見された。知的障害だけでは説明できない子供に対し、自閉症という概念が生み出された。

 初期のころ自閉症は他者をひたすら寄せ付けないとうイメージだったが、その後研究が進み、自閉症者のあり方にも多様性があることがわかってきた。

 自閉症は3種類

  • 孤立型:他者との相互交流が成り立ちにくい
  • 受動型:他者からの働きかけには反応できるが、自分からの働きかける力が弱い
  • 積極奇異型:他者に対し、遠慮なく関心を向ける。

 に分けられる。

 第二章 空間

 自閉症者の特徴の一つに感覚過敏がある。同じ刺激を定型発達者よりも強く感じたり、弱く感じたりする。

 スーパーマーケットのような色や文字などの視覚情報や様々な音で満ちている場所が苦手に思ってしまう。

 このような感覚過敏は「弱い求心性統合」によると言われている。求心性統合とは諸部分を1つの全体にまとめ上げる力。

 つまり、諸部分の存在感が大きくなり、全体の一部ではないほどの存在感を示してしまう。例えば周囲が騒がしいときに友人と会話していても周囲の音と友人の声を区別することが定型発達者に比べ困難。

 逆に複数の図形が近接して並んでいるとそれぞれの図形の大きさを実際とは異なって知覚してしまうことがある。自閉症者は部分を見る力が強いためこのような錯視を起こしにくいと言われる。

 自閉症社は感覚過敏ゆえに刺激の少ない閉じられた空間への関心が強い、一方で空間で把握できない時間の流れを把握するのが苦手な場合が多い。そのためスケジュールを可視化すると安心する場合が多い。

 ルーティンが守られず、突発的な変更があると不安を感じやすい。

第3章 反復

 自閉症者の別の特徴に常同行動、同じ行動を繰り返し行うことが多いというものがある。

 連続ドラマの特定の回を見続ける。アルバムの特定の曲を聴き続けるなど。

 このような反復は芸術作品も見られる。アンディ・ウォーホルの絵画における缶詰、エリック・サティの音楽においては1つのモチーフを840回繰り返している。

 偏食も特徴の一つ。ただの味の好き嫌いではなく、白いものしか食べないなどの偏りもある。

 現代の生活には限りなく反復がそりが合わなくなってきている。職人的な仕事は減り、対人関係の割合が増加している。同じものを大量に作る職人的な仕事は機械にとられ、手作りという別の価値観を導入し命脈を保っているがその数は減少している。

 自閉症の存在が注目を浴びているのはこのような時代の変化の結果とも考えられる。

第4章 機械

  反復を特徴とする作品を作ったウォーホルは機械になりたいと考えていた。

 機械は人間比べ、繰り返しをものともしない、部分の組み合わせから成り立っている等の特徴を持つ。

 自閉症者は部分を見る力が強いため、機械に対する関心が高い場合がある。

 また、機械化とはモノトラックからすることで自閉症の思考もモノトラック的な性質を持つ。ヒトとのコミュニケーションは言葉の内容以外にも音調、音量、イントネーションなどマルチトラック。自閉症者がコミュニケーションが苦手な理由の一つ。

 また、全体を見る力が弱い場合、他の人と自身の考えが異なることが理解できない場合がある。自閉症者が自己中心的に映るのは 他者が持つ自己を理解できないため。

 コンピュータは全ての情報をモノトラック化し処理をおこなう。そのためモノトラック化しやすい仕事はコンピュータに代替され、いわゆるコミュ力の必要な仕事が増えている。

 第5章 高精細・パラドクス・ゲーム

 自閉症者は全体よりも部分への関心が強く芸術作品でも細かい部分への執着が見られることも多い。

 また般化(具体的な学習から他の事例へ一般化すること)が苦手な場合も多い。

 以下同様とあまり厳密に考えすぎないということができない。

 自身で作ったルールに必ず従う、好きな分野にとことんこだわるという傾向となる。

 第6章 奇人たちの英国

 イギリスは比較的自閉性(必ずしも自閉症ではなく非自閉症の人が作り出したものに自閉的な側面があることもある。)を受容し育んできた。

 自閉症者は他者の内面を読み取ることが苦手なため、通常の小説よりもファンタジーへ没頭することが多い。ファンタジーの生まれる前はその対象が妖精であることもあった。

 子供はごっこ遊びによって「自身の視点を他者の視点に転換すること」を学ぶ。自閉症者にはごっこ遊びが苦手もしくは興味がないケースが多い。

自閉症者が世界と向き合う際には感覚のみが依るべき基盤になっている。首尾一貫した私や理性が基盤になっていない。

第七章 自閉症のアメリカ

 イギリスで生み出された文化や考え方が大西洋を越えアメリカで加速的に発展した事例は多い。

 GAFAの4社のうちAppleとFcacebookの創始者が自閉症であるともいわれている。ネット文化と自閉症の親和性は高く、自閉症への注目の高さの一因。

 GAFAは社会の在り方そのものも変えるような文化的な実験を行っている。

 極論を投げ込むと対面的な空間では共感する人はほとんどいないが、ネット空間ではどこかにいる賛同者を簡単に見つけることができる。

 これが繰り返されると極論が広く受け入れられているかのような見かけを形成していく。

 第八章 自閉症と近代

 反復的な仕事の中では気づかれにくかったが、近年ではイレギュラーな生活場面が増えたため、自閉症者とされる人の数は増加している。

 2次産業から3次産業への変化がこの流れを作っている。

第九章primaryとprimitive

 20世紀に神経症について深く分析し、その起源となる局面を探求したのがフロイト。

 フロイトは反復脅迫という概念を生み出した。定型発達者が自閉症者にもつ違和感を感じやすい点の一つ。

 さらにフロイトは無意識を発見し、無意識を統御する一次過程、意識を統御する二次過程も発見した。

 一次過程の特徴は反復が快感を生み、その快感を人々がもとめるというもの。

 一方で二次過程においては反復と快感に耽るのではなく、常に発展すべきと考えられている。

 一般的に意識が一次的なものと思われてきたが、一次過程の上に二次過程がアンバランスに乗っており、一次過程が抑圧されている。

 反復を主軸とする自閉症者の世界がPrimaryと見ることもできる。

 内なる自閉性と付き合っていくためにも自閉症の世界を排除するのは得策ではないのかもしれない。

 エピローグ

 無意識を意識化しようという考えは思い上がりに過ぎない。

 一方でコンピュータとネット技術によって暴力性などの一次過程の感情が日常を侵食している。

 開くか閉じるかの二者択一を加速させたり、閉じているものをこじ開けたりせず、併存する適度な抑圧状況を模索する必要がある。

 

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