「顔」の進化 馬場悠男 ブルーバックス 要約

顔は食べるために出来上がり、それぞれの環境に適応するための努力してきた工夫が満載されている

 動物の顔は食べるために出来上がり、外界の様々な刺激を感知するようになり情報を発信するように進化してきた。そのため顔には体の部品のうち、眼、鼻、口、耳などが集まっている。

 左右対称の動物は一般に決まった方向に早く動き、その方向が前になる。一定以上のスピードで移動すると食物が入ってくる。消化管の位置口である口が体の前端に配置されたため、その周辺に視覚、味覚、聴覚などの感覚器が集中するようになった。

 感覚器が集中したことでそれらを統率する脳も近くで発展した。

消化、咀嚼の進化はエネルギー効率を向上させ、感覚器の進化はエサを探す効率を向上させた

 消化器官の入り口である口では、最初に顎が、後に歯のような咀嚼器が進化した。獲物をかみ砕く、噛みつくなどに役立っている。特にかみ砕くことで消火しやすくなり、エネルギーの生産効率が向上し、体温を高く保つことができ、寒冷地での生息を可能にした。

 動物にとって生きるために食べることが最重要で、口のそばに感覚器を発達させることでエサを探すことを可能にした。

 魚類や爬虫類の顔は固く、表情がない。かれらには顔面筋がなく皮膚を動かすことができない。噛むことができずエサを丸のみにするため、哺乳類に比べ消化に時間がかかり寒いとことを苦手とする。また、エサを丸のみにするには口を大きく開ける必要もあり、その際に邪魔となる頬がない。

消化器と感覚器のバランスは環境によって変化する

 消化にかかる負担の大きさと器官の大きさには関係が見られる。高カロリーの昆虫やトカゲを食べるメガネザルは目と耳といった感覚器を発展させているが、身体の大きいゴリラは昆虫やトカゲで腹を満たすことは難しいため、感覚器よりも顎を発展させ、草や葉を食べている。

顔は環境に適応している

 動物の顔は様々な適応を遂げている。ウマの顔が長いのは移動しながら、草を食べるため、猫の顔が丸いのは獲物に強い力で噛みつくため、ゾウの鼻が長いのは高いとことと低いところ両方のエサを取るためなど環境に応じて顔の形や感覚器を進化させている。

ヒトと他の動物の顔の違いも環境への適応の結果

人と他の動物との違いには以下のようなものがあり、人間の特徴をよく表している。

・顔が胴体の真上にある
 1Fが口、2Fが鼻、3Fが眼、4Fが額、脳。
 猿人では2F建てに近かったが咀嚼器の退縮と脳の発展で4F建てに近くなっている。

・全体にのっぺりで毛がない
 毛は体温維持のために利用されるが、汗をかくことで暑い昼に行動できるようになり、毛が少なくなった。

・頭だけが盛り上がり、やたらと長い毛がある
 眉毛は庇、まつげは誇りやゴミよけともいわれる。頭髪が長い理由は脳を守る、日差しを遮る、汗をため徐々に蒸発させ頭を冷やすと言われているが、明確な答えはない

・鼻面がどこにあるかわからない、穴が下を向いている
 鼻は鼻腔の粘膜で、吸気を暖め、水分を与え、異物を取る働きがある。熱帯の湿った地域で進化した人の祖先は鼻腔の容積が小さい。鼻の穴が下を向くことで呼気や吸気が奥まで届きやすくなっている。

・耳が小さく、動かない
 脳が発展したため、耳が頭の上ではなく横についている。樹上での生活では聴覚による外敵の察知の必要性が低く、聴覚が退化した。

・目が前を向き、白目がむき出しで口が引っ込んでいる
 白目があると視線の向きがわかりやすい。野生動物にとっては視線が相手にわかるのは不利だが、社会性を築くには何処を見ているかわかることが優位に働く。

人種による顔の違いも適応の結果

 人種によっても人々の顔は大きく違う。この違いがホモサピエンスがアフリカから世界中に拡散した際にそれぞれの地域に適応した結果。
 肌の色は太陽光の強い地域では紫外線を防ぐためにメラニンが沈着し、色が濃くなる。太陽光はビタミンD合成に必要なため、太陽光の弱い地域では色を薄くし、光が入りやすくしている。
 
 人種による違いで区別を行うのは自然な行動で、問題なのは偏見に基づいて差別すること。人種による違いは存在しないという主張もあるが、違いが見つかった際に差別を容認してしまう可能性がある。毛の形状、眼の色、鼻の形などもそれぞれでの適応の結果。
 
 表情も文化的、心理的背景な違いでその表現に違いがある。片目つぶりが上手くできない民族とそうでない民族がいる。上手くできない民族は練習しても出来るようにならず、遺伝的な要素と考えられているが、その理由は不明。

日本人の顔も時代とともに変化してきた

 日本列島には原人や旧人は住んでいなかったが4万前からサピエンスは住んでいた。最も古い人骨は沖縄で発見されている。オーストラリア先住民が東アジアにやってきた人々が縄文人で彼らはヨーロッパ系の人種と似ていたと考えられる。


 弥生時代になると中国や朝鮮から日本列島にわたる人が現れた。彼らは寒冷な地方での生活に適応した。凍傷になりにくいように身長の割りに腕や脚が短くなり、唇や耳たぶが小さく、鼻が低くなり、皮下脂肪を増やし、歯と顎が頑丈になった。

 現代の日本人には渡来したヒトの遺伝影響の強い本州、在来の縄文人の特徴が強いアイヌ、縄文と渡来人の遺伝影響が半々の琉球人が暮らしている。

顔は環境で変化する

 徳川将軍の顔は細長く華奢になっていった。過度の柔らかいものを食べたことや細面の顔が美人というイメージから側室の女性が細面が増えたことが理由となる。

 現代も柔らかいのものを好むようになっているため、歯並び悪くなっているため、よく噛む食事をすることが大事になる。

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