いのちの科学の最前線 チーム・パスカル 3分要約

3分要約

いのちの分野ではどのような発見がされているのか

本書には特に最先端の生命科学で明らかになった生命の根幹にかかわる部分について書かれている。

性の決定や腸内細菌の重要性、単細胞生物の知性、免疫や細胞死のメカニズム、老化の制御、ストレスと病気の関係、DNAやタンパク質のさらなる理解、こころの科学的な理解など多岐にわたっている。

新しい発見はどのような分野で役に立つのか

 最も大きいのは病気の治療や創薬の分野。細胞や人体の働きでわからなかった部分が明らかになれば、治療に活かすことができる可能性は高い。

科学者たちを見ることで何を学ぶことができるのか

 科学者たちは、壁を壊すようにコツコツ叩き続け、壁を壊してあたらしい世界を広げている。

 しかし、新しい世界にもまた壁があり、壁をコツコツ叩いていく。

 科学者の姿勢から自分の知っていることなどほとんどないことを知ることができる。

科学者について知ると自分の知ってることはほとんどないことを理解できる

 理系ライター集団パスカルがいのちをテーマに様々なジャンルの研究者への取材をもとに研究の最前線のディープな情報を届けることが本書の目的。

 自分の知らないことを知り、世界の壁を壊すと見たことのない世界が広がるが,また壁が現れる。壁をコツコツ叩き続ける研究者を通じて,自分の知っていることはほとんどないことを理解できる本になっている。

性の研究では生命感を塗り替えるような発見がされている

魚類の中には,生まれた後に環境に合わせて性を変える種が存在する。哺乳類はX染色体とY染色体があり,XXだとメス、XYだとオスになることが知られている。

 1990年代からオスにのみ見られるため、Y染色体中のSRYという遺伝子がオス化を促す遺伝子として有力視されていた。

 しかし、近年の研究でSRYだけではオスになれずSRY遺伝子を調節する酵素jmjd1aがオス化を促していることが明らかになった。酵素がSRYのON、OFFをコントロールし、性が決定している。

 遺伝子の発現具合のコントロールが性を決めているため、性はオスとメスの二つに分けられるものではなく、実は連続的に決定されるものかもしれない。

 性をコントロールすることは自分の遺伝子をどう残すか、その戦略を発達させていくのがいのち。いのちの始まりである性の研究は私たちの生命観を塗り替えるかも知れない。

腸内細菌の重要性が理解され始め、創薬への応用も期待される

 人の中には無数の微生物が存在するが、特に腸には100兆とも1000兆とも言われる腸内細菌が住んでいる。

 近年腸内細菌が人の健康と病気に深く関わっているため、大きな注目を浴びている。無菌状態で育てたマウスは個体が正常に生育しないなど、多くの生物は菌との共生を前提に身体がつくられている。

 生物は免疫によって非自己を排除するが、腸管では特有の免疫システムが働き、共生すべきか排除すべきかを判断し、腸内細菌との共生を可能にしている。

 腸内細菌の中には病気の原因となる新菌を攻撃するものもある。このような菌を特定できれば創薬にも応用できる。

 健康は遺伝子だけでなく腸内細菌を始めとした微生物との関係性で決まるため病気の予防も治療も共生微生物を最大限利用する方法が重要になっていく。

粘菌の知能のモデル化で知性を物理的な計算で表現できるかもしれない

 粘菌は単細胞生物だが、知能があるかのような振る舞いをすることもある。粘菌が生存に適した行動を選ぶことから基本的な知能を持っている可能性がある。

 粘菌と人間に共通するような知性があれば、粘菌の知能をモデル化し解析することで物理的な計算で知能を表現できる可能性がある。

 生き物が物質である以上必ずどこかに物理と生命現象の接点がある。これまで生物学独自の概念と見られていたことが物理の言葉で解釈できればエキサイティングな発見になる。

細胞死について知ることで病気の治療に活かすことができる

 人は37兆もの細胞でできており、その細胞は目まぐるしく入れ替わっている。

 細胞の死は細胞が自ら死にゆくプログラム細胞死と損傷などで死に至るネクローシス(壊死)に二つがある。

 特にプログラム細胞死による絶え間ない細胞の死によって生は支えられている。細胞死の研究は生命の根幹に関わるだけでなく、細胞死が体内でうまく起きないことで起こる病気の治療に利用できる可能性も秘めている。

免疫の仕組みが解明できれば自己免疫性疾患の治療が可能

 免疫は生物の体を病原菌から守る非常に重要な仕組み。免疫の働きは緻密に制御されており、病原菌をうまく排除するとともに自分の身体を攻撃しないようにブレーキも持っている。

 マクロファージと呼ばれる細胞は体内に入ってきた異物を取り込んで殺す役割や他の細胞に侵入を伝える警報装置の役割を果たしている。

 マクロファージは感染したことを周囲に知らせるためにサイトカイン呼ばれるタンパク質を放出する。サイトカインは周囲の細胞に伝わり、リンパ球などを引き寄せ炎症反応を起こし免疫反応を起こしている。

 これらの仕組みは欠かすことができないが、過剰に炎症が起きると自己免疫性疾患となり生命の危機となる。

 新型コロナでもサイトカインの過剰放出でウイルスを食べると同時に肺の細胞壁も攻撃してしまうことで重症化する例が多く見られた。

 サイトカインの制御システムを明らかにすることで、免疫反応を抑制する薬の開発ができれば自己免疫性疾患の治療が可能になる。

老化の原因がわかれば老化を制御できるかもしれない

 老化や死は避けられないものと考えられているが、老化を制御できるという考えに大きな注目が集まっている。

 Nrf2は非刺激時には分解されてしまうが、ストレスを受けた際に抗酸化タンパク質や解毒酵素を生み出し酸化ストレスから細胞を守っている。

 Nrf2のメカニズムを解明することで多発性硬化症の治療や老化の制御が可能になるかも知れない。

 ただしNfr2の活性化は老化を遅らせることはできるが、一旦老化が始めるとNft2を活性化していない場合よりも早く弱ってしまう。

 メカニズムはまだ不明だが、細く長い人生か太く短い人生かを選択する必要があるかも知れない。

ストレスがどのように病気を引き起こすかも研究が進んでいる

 病は気からという言葉に実感はあるが、ストレスがどのように病気を引き起こすかはまだあまりわかっていない。

マウスに自己の骨髄を攻撃する免疫細胞を注射すると症状が発症した。免疫細胞は脳や骨髄には血管中の免疫細胞は入れないと考えられていたため意外な結果であった。

小さなストレスを与えられたマウスほど血液中の免疫細胞の影響を受けやすく、ストレスを受けると骨髄に隙間が開きそこから免疫細胞が入り込み、病気を発症している可能性が示唆されている。

神経が血管を制御するメカニズムを解明し、制御できれば自己反応生免疫細胞が原因となるこれらの病気の治療に道が開けることとなる。

ジャンクDNAと言われた箇所の役割が明らかになっている

コロナウイルスのワクチンは従来のワクチンと違い、開発競争が始まってわずか1年足らずで新たなワクチン候補が発表された。

遺伝子中のDNAは4種の塩基(A、T、G 、C)が鎖のように連ねており、基本的にAとT、GとCが対をなし、二重螺旋構造を形成している。

しかし、まれに誤った対(AーA、AーGなど)が形成され病気の要因となることがある。ミスマッチ塩基対は結合力が弱いため、それぞれの塩基と結合する別の化合物を用いることでミスマッチがどこにあるか特定できるが、結合力が弱く、不安的なため構造が揺らいでおり効果のある化合物の構造を決めることは難しかった。

そこでコンピュータによるシュミレーションでミスマッチ対と化合物の変化する状況を想定することが25年前に開発され、化合物の発見されたが、どのように役立つかはよくわかっていなかった。

近年、遺伝子中のタンパク質に翻訳されない部分機能に大きな注目が集まっている。タンパク質に翻訳される箇所は全体の3%でしかなく、それ以外の部分の重要度は低いとされてきたが、大部分を占める転写されないDNAや翻訳されないノンコーディングRNAにも大きな役割があることがわかっている。

ノンコーディングRNAは生命を維持するための機能を持っており、RNA異常が病気の原因となることも少なくない。RNAはDNAに比べ構造が安定せず、RNAを標的とした創薬は困難だが、RNAに焦点を当てた化合物のライブラリが作られ、AIの力を利用し解析することで原理原則が見つかるかも知れない。

タンパク質の働きを解明することで生命現象の理解につながる

タンパク質は生命の中心を担っている存在。生物の形を作るのも、機能を発揮するのも、外部の環境を認識することもタンパク質の分子が中心に行われている。

 タンパク質の構造は広く研究され、データベース化されており、その数は約18万件にものぼる。現在ではAIを利用しタンパク質の構造を予測する研究も行われており、データベースの構造データと照らし合わせることで精度高く予測を行なっている。

塩基配列だけがわかっているタンパク質の構造を実験に比べ、迅速に特定できることで新たな医療技術やワクチン開発が期待されている。

タンパク質の働きを解明することは、生命現象を物理学の視点で解き明かすことであり、統合的な生命現象の理解にもつながるはず。

心理学以外の分野でもこころを理解しようとする試みが起きている

心の問題はうつや、依存症、摂食障害、解離性障害など様々だが流行があるように時代の傾向がある。30年ほど前は自傷行為や過食で悩む人が多かったが、最近では減少し、発達障害が増加している。

発達障害には自閉症や注意欠陥、多動性障害などが該当し、多くが主体が弱いことを特徴にしている。

 生き方の多様性が低ければ主体性がなくても、行きにくさは感じにくいが、時代が変化し、生き方の枠がなくなり、コミュニティが弱くなったため、主体性のなさが問題になりやすくなっている。

 心の問題を解決する心理学をサイエンスの土台に載せるには、規則性を見つけなければならないが、あるひとのこころの働きがその場限りなのか、普遍的なものかをサイエンスで応えることはまだできていない。

 人間にとって生きることは細胞がうまく働いていることだけではない。こころが死んだ状態を生きているとは表現しないがこころとは何かを表現することはできていない。

 こころとは何かを知るには心理学だけでなく、分子生物学、神経生理学、文化、歴史的な視点も必要。幅広い領域の研究者が分野を超えて話し合う組織が作られている。

研究者が肩に乗ることで科学は進化し続けていく

 博士と呼ばれる人たちは先人研究者たちの知見を学び、その上に乗って、誰も発見していない知見を見つける人たち。

 生命科学の分野では、新たな発見が相次いでいる。この領域は未だにわからないことだらけで、生命の起源もわかっていない。

 本書の研究もここに書かれたもので終わりではない。研究者たちが前に進むだけでなく、その研究者たちの肩の上にのる研究者が続くことで科学の進化は終わることなく続いていく。

コメント

タイトルとURLをコピーしました