どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2 宮口幸治 新潮新書

概要 本当に支援が必要なのは支援したくない人たち

 前書「ケーキの切れない非行少年たち」では認知力の無さが少年たちの犯罪の原因となり、認知力を高めることの重要性が書かれていました。本書では本当に支援が必要な人はどんな人で、支援者が気をつけることは何なのかが書かれています。

 「頑張ったら支援します」という言葉は、受刑者などを支援する立場の人たちからよく聞かれる。

 しかし、本当に支援が必要なのはそもそも頑張ることができない人たちでは、というのがの筆者の少年院などでの経験から得られた意見になっている。

 頑張れない人びとについて、本人はどのように感じているのか、支援者の工夫すべき点は何か、支援者のどのような行為が逆効果となってしまうか、支援者自身が頑張るにはどうすればよいのかという観点で見ていく。

 努力し自己実現することは様々な欲求の中でも上位の欲求で、その他の基本的な欲求をまず満たすことが一番。

 そのうえで、支援者はなぜ頑張れないのか背景を理解し、伴走者として働き、やる気をそぐような発言をしない、基本的な信頼関係を結ぶといったことが重要。

 余計なことを言わずに、助けを求めて来たら応じるくらいがちょうどよい。このように振る舞うことは、難しく根気もいるため、支援者を支援することもとても重要。

 誰もが全く支援なしで生きてこれたわけではない。なにか嫌な態度を取る人も、助けを求めているのかもと考えると、相手との向かい合い方が変わるかもしれない。

やればできるのうそ 頑張れない人たちもいる

 努力すれば報われると言われることは多いが、少年院での少年たちには頑張ってもできないが染みつき、そもそも頑張ることができなくなっている子が多くいる。

 頑張れない理由は認知機能の弱さがあるが、それだけではない。
努力し自己実現をするためには生理的、安全、社会的、承認の要求といった要求が満たされている必要があるが、彼らの環境は土台となる欲求が満たされていないケースも多く、頑張ってなにかを実現する状況にないことも多い。

頑張らなくてもよいではなく、無理をさせてはいけない

 近年聞かれる頑張らなくてもよいは、これまで頑張った人をねぎらう言葉。しかし、頑張れない人やその支援者が額面通りに受けとると、
本来頑張ればできることができなくなる可能性も有る。

 あくまでも、頑張ることは必要だが、極端な無理をさせないと考える必要がある。

本当に支援が必要な人たちは支援したくないような人たち

 そもそも支援者が支援したくないような人たち(文句が多い、暴力的)こそが本当に支援が必要。そのため、支援者である保護者を支援することも重要となる。

頑張っているの評価はお金次第?

 頑張っているかの評価はお金になるかなどで評価される部分が大きい。そのため、お金になる部分で評価を受けられないと頑張っていないと判断される場合もある。

頑張れない人と認知機能 認知能力が低いと頑張れなくなる

 認知機能(見る、聞く、想像するなど)が弱いと結果が上手くでず、失敗を繰り返しやっても無駄だと思い頑張れなくなってしまう。
 また、自己の問題や課題に気づくことができず、自分を変えようと思えない場合もある。

頑張れない人と欲求段階 

頑張れない人たちは低次の欲求を満たせていないため、頑張れない

 マズローの提唱した欲求の5段階では自己実現の欲求は最終段階であり、
生理的欲求:食べ物、酸素、睡眠など
安全の欲求:危険にさらされていない
社会要求/所属と愛の欲求:集団の一つの位置を締め、集団内の人間関係で愛を欲しがる
承認欲求:他者から尊敬されたい
の4つの上にありこれらの欲求を満たせて初めて自己実現の欲求に向き合うことができる

 虐待のある家庭は自己実現以前の欲求が満たされていないため、勉強を頑張ることは難しい。
 しかし、頑張らない人たちも周りと同じになりたいという要求を持っていることは多い。

やる気を奪う 

安易な否定はNG 基本的な信頼関係を結びことが大事

 支援者からの余計な言葉は、その人のためを思っていてもマイナスになることが多い。特に彼らは話を聞いてほしいとおもっているため、安易な否定はマイナスになる。
 「でも」「だから行った通りでしょ」「どうしていつもあなたは…」などは避ける必要がある。

 また、フォローなき厳しい指導もどき、場違いな褒め言葉もやる気を奪ってしまう

 彼らと頑張っていくにはまず好かれなくてはならない。好かれるは機嫌を取るのではなく、笑顔で挨拶する、名前を覚えている、最後まで話を聞くなどの基本的な関係を結ぶこと。

 やる気を出すには3つの段階:見通し、目的、使命感が必要だが、認知力が弱いとそれぞれを想像することが難しい。支援者はそれを視覚的にフォローするとやる気を出すことにつながる。

支援者の心得 

見捨てず、干渉しすぎない姿勢が重要

 本当に支援が必要なのは支援したくなくなるような人たちを支援する際の行動パターンは以下の3つ。
1.頑張ればなんとかなると働きかける。
2.もう頑張れないだろうと受け止め、無理をさせないようにする。
3.頑張れない行動の背景を考え、付き合っていく。

 
 理想は3となるが、とても難しい。なるべく3の方法でやる気を引き出すには安心の土台を作り、伴走者となり、チャレンジできる環境を整えることが必要。

 誠意を持って支援したのだから、期待に答えるべきと考えがちだが、そもそも簡単に期待に応えられるのであれば、支援が必要な立場になることはない。
 期待に応えられないからと支援を打ち切られると、頑張れない人たちに絶望的な心情をもたらすため、極端に言えば、期待に応えられなくても支援を続けることが必要になる。

 人からの評価が自己評価につながるため、頑張れない人たちにも評価をしてあげることが大事。他人からの評価を気にしなくてもよいと思わないことが重要。

 ただし、干渉しすぎると重荷に感じ、放っておくと見捨てられたと感じてしまう。余計なことを言わずに、助けを求めて来たら応じるくらいがちょうどよい。

支援者の支援

 全く支援なしで生きられるひとはいない

 支援者、特に保護者の支援も必要となる。保護者のやり方を無理に変えず子供の成長を目標とすると、子供の成長で保護者も変わる可能性も有る。

 すべての人が支援なく生きてはいけない。こちらをイラつかせるような言動や行動は頑張れなくて困っているサインかもしれないと考えると、相手への向き合い方が変わるかもしれない。

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