もっと ダニエル・Z・リーバーマン インターシフト まとめ

脳内で今を体験

 我々が下を見て手に取れるものに触れることは簡単だが、上を見上げ手に届かないもの(天井、木、ビル等)に触れるには計画を立て、思考し、計算する必要がある。
 
 この2つの区分は脳内でも大きく異なる思考様式で認識されている。下の世界と上の世界を統率しているのは別の化学物質によっている。

 

 下の物資はH&N(ヒア&ナウ、今ここ)は目前にあるものを体験させてくれる。上の世界はまだ手にしてないものをあなたに欲しがらせ、新しいものを追い求めたいと思わせる。それに従えば報酬を従わなければ苦しみを与える。

 上の世界を欲しがらせる物質がドーパミン。ドーパミンは究極の多目的デバイスで想像性、狂気、野心、努力、追及の源となっている。

ドーパミンは予測と結果に誤差があると活性化する

 ドーパミンは1957年に発見された時は快楽物質であると考えられていた。しかし実施にはドーパミンは可能性と期待を感じたときに活性化することが徐々にわかっていった。

 我々は常に次に来るものを予測している。その予測との誤差を感じるとドーパミンが活性化する。

 しかし、活性化したドーパミンは長続きしない。新しく出来たカフェを初めて見たときには、ドーパミンが興奮を産むがカフェに行くようになると徐々に興奮は収まっていく。

今ここを重視する脳内回路と未来に手に入る資源を最大化する回路は別々で片方が活性化さると片方は抑制される

 ドーパミンは体から距離的、時間的に遠いものを手に入れようとするときに活性化し、未来に手に入る資源を最大化し、より良いものを追い求める。

 

 一方で近くにあるものを処理するとき、つまり今ここを司る(H&N)のはセロトニン、オキシトシン、エンドルフィンなどの様々な化学物質。

 ドーパミンとH&Nの回路はそれぞれ片方が活性化すると、片方が抑制される。

ドーパミンは今あるものの質ではなく、新しいかが重要 行き過ぎたドーパミン活性は倫理を無視することもある

 ドーパミンを始動させるるには目新しさこそが重要となる。ドーパミンは探求に興味があるが、所有に興味がない。
 今あるものがどれほど完璧かは問題でなく、新しいかが重要になっている。

 

 恋愛が長続きしないのも、ドーパミンによる探求を強く求める作用。初期の熱愛はドーパミンが影響するが、そのあとに来る友愛にはH&Nの作用が働く必要がある。

ドーパミン性の強い人が恋愛が長く続かないのは目新しいもの、スリルを求めることを好むため。

 ドーパミンが追い求めるのはもっとであって倫理ではない。そのため暴力や欺瞞もドーパミンにとってはもっとを実現するための道具でしかない。

ドーパミンは手にできるかもしれないものを見ると活性化し興奮を促す

 欲求は脳の進化的に古い領域から流れ出ており、この領域がドーパミンを産出する主要領域の一つ。


 ドーパミン回路は生存と生殖につながる行動を促進するために進化してきた。生存や生殖に価値がありそうなものを見つけると注意を引くように、ドーパミンが始動する。


 ドーパミンが始動するとエネルギー、熱意、希望が呼び起こされバラ色の未来展望を描き出す。そして未来が現在になると、興奮や熱意は霧散する。もし未来が実現できないとドーパミンの放出が急激に減少し不満を感じるようになる。 

 現在になったものを好むかはドーパミンではなく、H&Nの働きになる。

ドーパミン回路が乗っ取られると人はその行動に依存するようになる

 薬物はドーパミン回路を乗っ取ることで、ヒトを依存症にしている。薬物は自然界のモノよりもはるかに多くのドーパミンを放出させるため、強い渇望感を持ち続けてしまう。

 ビデオゲームなどもドーパミン回路を刺激するように設計されている。

ドーパミンは欲求だけでなく、計算と計画を立てる働きもする

 ドーパミンは欲求を司るだけでなく、計算と計画を立てる働きもしている。このドーパミン制御性回路は周囲の世界を理解、分析し目標達成手段を練り上げていく。ラットの実験ではドーパミンを除去すると粘り強く努力する意欲が低下することがわかっている。

ドーパミンとH&Nのバランスによって人間関係に求めるものも変わってくる

 人間関係には代理的、親和的要素がある。


 代理的要素は他者が自分の延長線上の役割を果たし、自分の目標達成を助けるための関係であり、ドーパミンが統制している。


 親和的要素は社交を楽しむことが目的で、H&N物質が関わっている。  

 ドーパミンとH&Nのバランスによっ人間関係に求めるものも変わってくる。

ドーパミンは感情が誤った判断をさせることを防ぐ機能もある

 感情はH&N的な体験であり、世界を理解するのに欠かせないが、時に私たちを圧倒し、論理的でない判断をさせることもある。ドーパミンはそのような時にH&N回路を抑制し冷静な判断を可能にすることもある。

 ドーパミン受容体の質と量によって、遺伝的にどれくらいH&N回路を抑制できるかは異なっている。

欲求と制御ドーパミン同士は対立することも多い

 欲求と制御ドーパミンは二つの回路で利用されている。この二つの回路が対立することは多い。ダイエット中のお菓子を食べたい(欲求)我慢すべき(制御)などが典型的。

 

 欲求の誘惑に打ち勝つために、意思の力に頼ることもあるが、意思の力だけでは限界がある。そのため薬物やアルコール依存の治療では、
他の欲求を高める(他のもので欲求回路を動かす)
依存となる対象を思い出させるものと接触させない(欲求回路を作動させない)
依存で苦しむ人同士で協力する(H&N回路を活性化する)

等の方法がとられる。

欲求ドーパミンの刺激は創造力の源でもある

 サリエンシーとは物事の重要度や目立ちやすさを意味する。場違いで目立つもの、価値の高いものほどサリエンシーが高く、欲求ドーパミンを刺激する。


 脳のサリエンシーが異常をきたすと、自分の関係のない物でも重要と考えてしまい、妄想の原因となる。統合失調症は全てのモノにサリエンシーを与えてしまい、混乱したり、思考や発言が無秩序
なものとなる。
 一方で思考の無秩序化は創造力の源でもあり、統合失調症患者が使用する脳の領域と想像的なことを考える時に人が使用する領域は同じである。

現実的出ないものを想像するという点で芸術と科学は類似している どちらにも優れた人はドーパミン活性が高い

 より深遠な抽象概念の世界を除くという意味で芸術と科学は近いものがある。
 現実ではないものを想像する、無関係なものを結びつける、モデルを破壊するような思考を
するなどはすべて芸術と科学に必要なものでドーパミンが関わっている。


実際にノーベル賞受賞者の中で、芸術的な趣味を持つ人は通常の3倍ともいわれる。
 その一方で、多くのドーパミン活性を持つ場合にはH&Nの働きが弱く、未来の資源を
最大化することに過度に集中し、今ここを犠牲にしがちなため対人関係を苦手とする場合も多い。

ドーパミン活性は政治思想にも影響する

 ドーパミン活性が高い人は政治的にリベラルになる確率が高く、ハリウッドスターやシリコンバレーの経営者にはリベラルな人が多い。
 
 保守的な人はドーパミン活性が低く、H&N活性が高い傾向にある。

 例えば、貧困層の補助を取ると、ドーパミン活性が強い人は、法律などでの保護を望み、
H&N活性の高い人は直接の寄付や慈善活動を好む。ドーパミンは資源を最大化する方法を選び、H&Nは実際の触れ合いを含む手法を好む。

7Rアレルを持つ人はドーパミン活性が高い

 ドーパミン受容体をコードする遺伝子D4は多様体があり、わずかに異なる遺伝子はアレルと呼ばれる。その中の7Rと呼ばれるアレルを持つ人は目新しいモノを求める傾向にあり、リベラルなイデオロギーを持つことが多い。
 7Rアレルを持つ人は新たな環境を求める力が強く、変化に対するストレスも小さい傾向にある。人類がアフリカから出て移動した距離が長いヒトの祖先ほど、7Rアレルの保有率が高く、移動後の生存に有利であったことが分かっている。

H&Nとドーパミンのバランスをとることが幸福につながる

 薬を使用し、体内のドーパミンとH&Nのバランスを変えることで人々が保守的にすることが研究されているが、ただ、抽象的な思考をするだけでドーパミン活性を高めたり、具体的な思考がH&N活性を高めることもある。

 ドーパミン活性の高さは新しい発見、発想に重要だが、ドーパミン活性が高すぎると精神疾患を発症する可能性も高い。
 
 新しい環境を求める移民の多さは精神疾患の多さと関連している。双極性障害は移民の多いアメリカで多く、少ない日本では少なくなる。

 一方でアメリカはノーベル賞受賞者が最も多く、さらにその多くは移民である。移民は新興企業の創業者、特許の出願も多い。

 ドーパミン産生細胞は脳の0.0005%を占めるに過ぎないが、大きな影響がある。


 価値観や原理などの高次の概念を持ち自らが良いと信じするものを選択する、意味を理解する、快楽を体験する、創造力の源となる。これらすべてがドーパミンによって起きている。

 一方で、ドーパミン活性が高すぎると精神的に不安定になる。

また、もっとを求めることが生存に役立ってきたが、現代の環境問題などはもっとを求め続けた結果ともいえる。

 ドーパミンとH&Nを共同させることがバランスをとることが重要となる。興味を引く何かを見つけ、それに注意を内側に向けることができればH&N系を作動することができる。


 自然は非常に複雑で新しい反面、注意を内側に向けやすいため、バランスをとることに適している。 

木工、編み物、絵画、裁縫のように想像し、実際に手を動かすこともドーパミンとH&Nを共同させる方法となる。

 終わりのないドーパミンの刺激という誘惑に勝ち、H&Nとの融合を図り、調和することが脳の機能を最大化し、幸せな人生につながる。

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