アメリカ黒人の歴史 上杉忍 中央公論社 まとめ

本の感想

アメリカでは、オバマ大統領が誕生する一方で黒人への警察官からの差別が問題になっている

 黒人差別がどのように起こり、黒人の立場が変化してきたかが分かりやすく書かれている

 人種差別の状況の変化も経済的、政治的な理由が大きいと感じた

 特に、差別の動きが大きくなるのは、白人労働者が黒人に仕事を取られる恐れがあるため、現状のまま黒人を抑え込みたいという気持ちを持ったとき

 奴隷のままでいてほしい、単純な職にだけついてほしいと白人側が思えば、白人からの支持=票が欲しい政治家がそれを助長する政策を実施する

 一方、政府が民主主義を主張したいときは人種差別が収まるなど、政治的な理由でも差別の状況は変わっていくことを感じた

  本質的な人種による差別を本気で行っている人はそこまでいないのかもしれないと感じた このことが希望になるのかはわからないものの、人種差別と呼ばれるものがどんな経緯をたどるのかがわかりやすく学べるようになっています

はしがき

 アメリカでは人口調査で住民を

・白人

・黒人あるいはアフリカ系ヒスパニック

・アジア系

・先住民

・太平洋諸島人

の5グループに分けている

 人種は生物学的概念ではなく社会的な概念であるため時代ともに変化する

 現在でもアフリカやカリブ海域からの移民が増加し従来の黒人とは異なる歴史認識や自己認識を持ち、多様化が進んでいる

 しかし、アメリカ人は彼らを一様に黒人として扱っており、一気にアメリカ人になるにはまだ、時間がかかる 

プロローグ

 2008年黒人初の大統領となるオバマ大統領が誕生した

 オバマは大統領選で圧勝ともいうべき勝利を収めた オバマ圧勝の理由は

1.共和党に投票してきた白人労働者を民主党に取り戻した

2.黒人の有権者登録が増えた

 特に若年白人層では黒人中間層と触れる機会が増え恐怖感、不信感が薄れ投票につながった

 奴隷制から始まった人種差別は今も根深く残っているものの、反黒人の動きは減少してきている

 黒人はアメリカ社会の最底辺に多くの人を抱えてきたため、社会の矛盾をいち早く感じ伝える役割を果たしてきており、アメリカ社会全体の変革に重要な存在となる

第一章 黒人奴隷制共和国アメリカ(1502~1860)

 ヨーロッパ人によってアフリカからアメリカに運ばれた黒人奴隷は1250万人

 奴隷需要はアメリカの単一作物を栽培する大型農園(プランテーション)によって爆発的に増加した 特に砂糖の需要増加がプランテーションを増加させた

 黒人奴隷は南部で見られることが多かった(1750年委は黒人奴隷の87%が南部に)

 アメリカの独立後も黒人を「万人の平等」から排除し奴隷とし続けた。1808年に奴隷貿易は禁止されたが歴代大統領の大半が奴隷主であったため、奴隷主の支配権は保障され続けた

 南部は綿花の栽培が盛んなため、奴隷をより必要としていた 綿花の栽培には土地の拡大が必要なため、開拓を行い開拓した土地で奴隷制を広げる必要があった

 一方、北部は開拓された土地は白人のために確保すべきと考えていた

 アメリカ北部は奴隷制に反対、南部は賛成する構図が生まれるようになる この流れが南北戦争につながっていった

第二章 南北戦争から「どん底」の時代へ(1861~1929)

 南部は連邦から離脱し、連邦軍への攻撃を開始し、南北戦争がはじまった

 連邦軍のリンカーンは当初、奴隷制を戦争の焦点としなかったが、1863年奴隷解放を宣言した

 奴隷解放の宣言によってイギリスの後押しを受けたことなどで連邦軍が優位となり、南軍が降伏し、4年にわたる戦争が終結した

 戦争終結後、奴隷制は廃止された しかし解放されても、過酷な労働条件の仕事しかなく、政府も白人からの票を得るため状況の改善には手をつけなかった

 また公共のスペースでの人種隔離が憲法違反でないと判断されたため、学校、公園、トイレなどで人種隔離が行われた

 この時期は奴隷からは解放されたものの黒人にとって「どん底」だった

 第一次大戦では戦争特需による労働力の需要が上がり、北部での黒人の工業雇用が始まった 南部でもこれを受けて多少の労働条件の改善がみられるようになった

第三章 大恐慌・第2次大戦期の黒人(1930~1945)

 第二次大戦でアメリカは反ファシズムを掲げていたため、黒人差別は枢軸国にアメリカの民主主義の欺瞞を証明とされる危険性があった

 黒人側も第1次大戦へ協力したのも関わらず、人種差別がなくならかった反省から政府の譲歩を引き出す運動を行った

 その結果、大統領が初めて人種差別を認め、その否定が民主主義の重要な課題と宣言することとなった

 軍事産業などに黒人が進出すると白人の反発が起こり、分断が起こったものの徐々に黒人の経済状況は改善傾向に向かった

 軍隊での差別も少なくなり、黒人の地位は向上していった

第四章 冷戦下の公民権運動(1946~1965)

 第2次大戦頃から黒人の都市人口は増えはじめ、選挙で黒人票が大統領選のカギを握るようになっていく

 これまで黒人は多くの訴訟により差別の是正を訴えてきた これまでの判決は、黒人と不平等に扱ってはならないが、白人と黒人を平等にするのであれば分離することは問題ないという傾向であった

 しかし1945年ブラウン判決で分離も不平等とする判決が出たことでアメリカが大きな転換を示した

 背景には黒人への差別や暴力に対する国際世論の高まりがあった

 冷戦下で国際的政治を有利に進めたいケネディ大統領は公民権法を成立させ、差別の禁止や参政権を明記した

第五章 脱人種「白人保守革命」の時代(1966~1992)

 1960年代アメリカは経済的にも外交的にもかつてないほど強力であった

 公民権法成立後も、暴力や経済格差は残っており、黒人の暴動はたびたび発生した

 経済的には黒人にも改善は見られたが、期待に現実が届かなかったことが暴動の理由であった

 黒人に職を取られたことや暴動への恐怖から白人側の意識も変わらない面があった 学校では白人の80%が白人以外の生徒がほぼ0の学校に通っていた

 大学での100人の定員の内16人をマイノリティに振り分ける政策もあったが、白人から逆差別だと訴えられることもあった 共和党はこのような議論を起こすことで白人大衆の票を集めることができ、白人保守が目立っていた 

 その一方で、1965年に移民と帰化の緩和が行うことで白人至上主義の否定を世界にアピールし、有色人種を積極的に受け入れてきた

第六章 「分極化」と「多様化」の時代(1993~)

 ホワイトカラーに従事する黒人も公民権法以降、徐々にだが増えていった 教育レベル向上、収入の増加も見られるようになり、中産階級の黒人が増加した

 公職につく黒人も増えていったが、保守的でなければ白人からの票が得られないこともあり、大きな変化は見られなかった

 中産階級の黒人にも問題は多数あったが、社会の最底辺の黒人たちとは区別されるようになり、黒人社会の分極化が目立つようになる

 特にアメリカ全体で脱工業が進むと労働者間の賃金格差はより大きくなった

 また黒人社会への麻薬(クラック)の普及も黒人の暮らす都市の荒廃を招く大きな原因となった 取り締まりの強化と厳罰化を実施したが、刑務所収監者が大きく増加した

 刑務所収監者は選挙権はないが人口には含まれるため、収監者の多い地域は割り当てられる代表権も増える ➡白人が不釣り合いに代表権を得ることできるようになる

 警察官が黒人を優先的に取り調べるようになるなどの問題も報告されている 

フリカからの移民たちは、アイデンティティが異なるにもかかわらず、黒人とひとくくりにされている 将来は新たなアイデンティティを形成していく可能性もあるがまだまだ時間はかかる

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