エネルギーの人類史 下巻 バーツラフ・シュミル 青土社

概要

 エネルギーは唯一無二の普遍通貨であり、様々な形態があり、別のモノに変換されることで様々なことが可能になる。後半では化石燃料を用いることで人類がどのような変化をしていったかが書かれている。

 石炭は初めて非生物系のエネルギーを人類が使ったもの。エネルギー効率を大きく向上させた。

 石油は石炭の弱点であった質量出力費の小ささを克服し、エンジンとして利用されることで最も広く利用されるエネルギーとなった。その埋蔵地である中東が常に政治不安になるほど石油の影響力は大きい。

 再生可能エネルギーは効率性に問題はあるが、環境負荷の小ささから大きく期待されている。これまでと同じように新しいエネルギーへの移行は時間がかかる。

 様々な自然現象、人間活動はすべてエネルギーが変換されたもの。文明の進歩とはエネルギー利用をできるだけ高めることで起きてきた。しかしエネルギーの役割を過大評価したことは、エネルギーの消費量を高めること=文明の発展という偏ったアプローチを生み出している。

 エネルギーの量と生活の質はどこまでも比例するわけではなく、エネルギーの量と幸福度が必ず一致するわけでもない。

全ての文明は太陽放射に依存している。

 地球上の文明は基本的にすべて太陽放射に依存する社会にほかならない。人間や家畜の食糧、薪となる木を生み出すのもすべて太陽放射から産みだされている。風や水の流れも太陽エネルギーがそのまま転換したものであり、化石燃料も太陽放射が形を変えたものである。

石炭の利用はエネルギー消費を格段に増やし、わずかな間に機械の出力は30倍にもなった

 ごく一部の地域では古くから化石燃料が用いられていたが、広く利用されるようになったのは、16世紀に石炭が利用されるようになってから。

 石炭などの化石燃料の供給と機械的な原動力の利用で、一人当たりのエネルギー消費は格段に増えることとなる。

 

 石炭による蒸気機関は太陽放射を即時に転換するのではなく、化石燃料を通じてエネルギーを得る初めての非生物原動力であった。

 蒸気機関は世界規模の産業化、都市化と輸送に重要な役割を果たした。初期には楊水機として多く利用されていたが、水車の5倍、風車の3倍のエネルギーを出すことが可能だった。その後、工場のベルト駆動や蒸気機関として機関車や蒸気船に利用されるようになる。

 蒸気機関の普及で1800年から1890年の期間でに機械の出力は30倍にもなった。それでも投入される石炭の92%を無駄にする効率の悪さから蒸気機関はいつまでも重く、その質量を支えられる用途でしか利用できなかった。

 放出されるエネルギー単位当たりの二酸化炭素の排出量は他の化石燃料も高いが、その埋蔵量の豊富さと質量出力比が低くても問題が小さい発電の分野では今でも石炭が利用されている。

石油と内燃機関の発展で高い質量出力比が実現され、エンジンとして広く利用されるようになった

 19世紀の最後から大規模な原油の抽出と活用が始まった。シリンダーの内部で燃料を燃やす内燃機関という原動力は急速に発展した。
 効率の良さから高い質量出力比をもつため、エンジンとして自動車、飛行機などに利用されるようになっていった。

 石油は世界で最もよく使われるエネルギーとなっており、その埋蔵量の多い中東が政情不安になる原因になっている。

再生可能エネルギーは課題もあるが、環境負荷が少なく期待が寄せられている

 天然ガスは石炭などに比べ、粒子状物質の生成が少ないため、大気汚染の問題を起こしにくい等の特徴で利用が増加している。


 バイオマス、水力、風力、太陽光を利用した発電は環境負荷が少なく。大きな期待が寄せられている。しかし、いまだに効率に問題があり、改善が必要でこれまでのエネルギー移行と同じように長期的なプロセスとなる。

電気はこれまでのエネルギー革新と違い、新しいシステムを必要とした

 電磁誘導の実証によって力学的なエネルギーと電気エネルギーを変換できることが実証されると
電気の実用的な生成と変換の道が開かれた。

 電気の実用化はこれまでのエネルギー革新の中でも前代未聞だった。これまでの新しいエネルギーや原動力は特定の作業をより早く、安く、効率良くするためのもので従来の生産設備をそのまま使えたが、電気は全く新しいシステムが必要となった。

化石燃料によるエネルギー消費の増加は大きな経済成長をおこした   経済活動はすべてあるエネルギーを別のエネルギーに変換する行為

 非生物の原動力への変換はかつてないほど大きな変化をもたらした。1800年の各地の住民は、1300年の時点と大きく変わらない生活をしていたが、1800年と1900年の生活では大きく変わっている。この変化は可能になったエネルギー使用量によるところが大きい。
 
 低効率なバイオマスから化石燃料への変化と化石燃料使用時の効率化は世界中に広がり、農業の生産性と生産高の増加させ、農家を減少させ、都市化と産業化を促進させた。また輸送の範囲を広げ、情報、通信も大きく発展した。

 これらがあいまってかつてないほどの経済成長が起こり、世界中のほとんどの人の生活の質が向上した。エネルギーと経済は同じ事柄を違う言葉で語ることと同じとなる。基本的な経済活動がすべてあるエネルギーを別のエネルギーに変換する行為である。
 物質的な面だけではなく、教育個人の自由といった部分も大きく改善されつつある。
 
 また、狩猟採集では食料が唯一のエネルギーだったが、現在は産業、輸送、家庭での電気がほとんと
となり、食料の占める割合は2%未満になっている。

化石燃料の使用は大量生産、大量消費による経済成長を起こした      産業と輸送、情報の発展が経済成長を後押ししている

 産業:エネルギーの使用量が増えると、大量生産、大量消費が可能となり経済成長が起きた。
蒸気機関が電気に変わった時、その扱いやすさから工場の生産性を高めていった。

 輸送:使用できるエネルギーの質と量の増加は輸送の効率化を招き、利用者の増加と輸送コスト
の減少を可能とした。輸送コストの減少は食料や工業製品の輸送を可能とし、市場を広げ、個人での旅行も大幅に増加した。

 情報:印刷機も蒸気機関によって大きく性能が向上した。それ以降も新聞、電信、電話とより早く、多くの情報を伝えるように進化している。これらの低価格で信頼性の高いコミュニケーションも電気で可能となった。コンピュータとインターネットの発展は現代の経済成長にも欠かせないものとなっている。

大量エネルギー消費は環境汚染、格差の固定化などの悪影響もおこしている エネルギーの量と生活の質はどこまでも比例するわけではない

 食料生産性向上は廃棄物の増加、飽食による肥満を招くようになった。運動量の低下も肥満を助長している。
 都市化の進行は大気汚染、水質汚染を招いている。固定化した格差、経済的不平等も問題になっている。エネルギーの使用量と生活の質はある程度まで直線的な関係を持つが、一定の使用量を超えると
生活の質は向上しなくなる。

 原油産出の多い中東は様々な国の思惑を受け、政治的に不安定な状況におかれている。核兵器をはじめとした兵器の破壊力が大きく向上し、現在では抑止力と呼ぶには過剰なほどの核を保有するようになっている。

 温室効果ガスの排出による温暖化も大きな問題になっている。温度上昇を2℃以内に抑える必要が叫ばれているが、非炭素エネルギーへの変換はその効率、手軽さなどの理由から大きくは進んでいない。

歴史とエネルギー

 様々な自然現象、人間活動はすべてエネルギーが変換されたもの。文明の進歩とはエネルギー利用をできるだけ高めようとする追求のことで、増えたエネルギーで食料を収穫したり、より高い出力と多様な素材を用いて、多様な品物を作り、より早く移動し情報量を増やしてきた。

 これらの進歩が複雑な社会を作り、質の高い生活を可能にしてきた

 

 エネルギー利用法は人間の生活を大きく変えるのは確かだが、単純にエネルギーによって人類の歴史を分類する見方は改める必要がある。
伝統社会=生物的な原動力、近代社会=非生物的な原動力と単純に分けられるわけではなく、
伝統社会でも風車や水車のような非生物的な原動力は利用されているし、現在でも低所得国では
生物的な原動力が使用されている。産業革命時にもすぐにすべてが蒸気機関に移行したわけではない。

 新しいエネルギーへの移行には非常に時間がかかるため、単純な切り替わりは起きにくい。原動力に占める人間の割合50%以下になったのは1900年になってから。エネルギーの割合でも石炭が木材などのバイオ燃料を上回るのも1900年になってから。そのため、化石燃料から再生可能エネルギーへの変換にも非常に長い時間がかかると考えられる。

 それでも狩猟採集時代と比較すれば変化のスピードは比べものにならないくらい早い。現代はエネルギーの過剰利用ともいえる状況が見られるが、そのような状況も世界の20%ほどに過ぎない。

 歴史の中でのエネルギーの役割過大評価したことは、エネルギーの消費量を高めること=文明の発展という偏ったアプローチを生み出している。

 一人当たりのエネルギーの使用量が今よりはるかに少ない時代に生み出された芸術作品が現代と同じように心地よく、魅力的であるのはエネルギーだけでは説明がつかない。

 幸福度という観点でも一人当たりのエネルギーの使用量が多い国が小さい国よりも幸福度が高いとは限らない。

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