3分要約
エンベデッド・ファイナンスとはなにか
金融以外の事業を展開する非金融企業が、既存サービスに金融サービスを組み込むこと。顧客接点を持つ非金融企業が主体となって金融企業に進出することが大きな特徴。
多くの場合、金融企業が非金融企業に金融サービスを提供し、既存のシステム中に金融サービスを組み込むため、非金融企業の
なぜエンベデッド・ファイナンスが注目されているのか
金融サービスのインターネット化でフィンテック企業が銀行にとって代わるとの予想もあったが現状実現されていない。
信頼の少ない新興企業ということで、消費者への金融サービスのハードルの高さをクリアすることは難しかった。
しかし、常に顧客との接点を持ち、信頼関係を構築しており、定期的な顧客との接点がある非金融企業が金融サービスを組み込むことで利便性の向上と安心感を両立することができる可能性が高い。
また、顧客接点の少ない銀行や保険会社にとっても、非金融企業と協力することで消費者の必要なタイミングでサービスを提供することが可能になるなどメリットもあり注目されている。
エンベデッド・ファイナンスにはどんなものがあるのか
・決済:自社サイト内への支払いの組み込み。決済行為の効率化、無意識化が可能
・貸付:後払いなど
・保険:旅行の際に保険などユーザーデータが多ければより精度の良い提案が可能
・投資
・銀行:スピード感のある融資を可能にする
主に5つの分野がある。決済が最も先行し、投資が立ち遅れている。
どんな企業が参入しているのか
Google、Apple、Amazon、Zホールディング、メルカリなど様々。データを多く蓄積できる企業ほどエンベデッド・ファイナンスを導入した際のインパクトは大きい
- 非金融企業が既存のサービスに金融サービスを組み込むエンベデッド・ファイナンスが注目されている
- 顧客接点を持つ企業は顧客との信頼関係が構築されているため金融サービスの提供が受け入れやすい
- 非金融企業が金融サービスを提供できれば利便性が向上
- エンベデッド・ファイナンスには5つの主要領域がある
- 決済の組み込みは消費者の手間を省き、事業者は購買データを蓄積できる
- 貸付の組み込みは利用者の幅を広げることが可能
- 保険の組み込みはリスクや心理的負担を軽減する
- 銀行の組み込みはスピード感のある融資を可能にする
- 消費者のデータを持つビックテックも参入している
- 日本企業の進出も続くが利便性よりも囲い込みがメインになっている
- スーパーアプリの状態が今後を占うカギとなる
非金融企業が既存のサービスに金融サービスを組み込むエンベデッド・ファイナンスが注目されている
現在、多くの企業が金融サービスの提供に乗り出している。すべての企業は金融サービス業になり、収益の大部分を金融サービスから得ることになるという予測がされるほどで、他業種からの金融業への進出が続いている。
エンベデッド・ファイナンスは日本語で組込み金融ともいわれ、金融以外の事業を展開する非金融企業が、既存サービスに金融サービスを組み込むことで大きな注目を浴びている。
多くの顧客接点を持つ非金融企業が主体となることがエンベデッド・ファイナンスの特徴。非金融企業の金融分野への進出がどんな影響をもたらすかを知ることができる本になっている。
顧客接点を持つ企業は顧客との信頼関係が構築されているため金融サービスの提供が受け入れやすい
フィンテック企業が銀行にとって代わるとの予想もあったが、新興企業の信頼の無さもあり、銀行などの大手金融機関に取って代わることは難しい。
一方で、常に顧客との接点を持つ、小売りや通信企業であれば一定以上の信頼関係を構築しており、定期的な顧客との接点が大きな武器となる。
銀行や保険会社が顧客接点を増やすことは難しいため、顧客接点を持つ企業が金融サービスを行うことで消費者が必要な時にサービスの提供を行うことができる。
・消費者が、欲しい洋服があっても手元にお金がないタイミングで、後払いを提案する
・旅行サイトで旅行ローンを提案する
など消費者の置かれた状況に応じた、ベストなタイミングでの適切なオファーが可能となる。これらの仕組みは自動車購入時のローンなど一部の業種で見られるだけであったが多くの企業に広がっていく。
オンライン化の進行、保険、決済などローン以外の領域への進出が進んでいることで市場規模の急成長が起きている。
非金融企業が金融サービスを提供できれば利便性が向上
超低金利政策を受け、日本の銀行も預金を利用したビジネスの収益が悪化している。またコロナ禍によって来店が難しくなり顧客接点がますます減少してしまう。
一方で、顧客接点を持つ非金融企業も自社サービス利用時にシームレスに必要な金融サービスを提供し出来れば顧客の離脱を防ぎ、成約割合の向上が期待できる。
多くの場合金融サービスのライセンスを非金融企業が取得することが難しい、非金融企業が金融サービスを提供する技術がないこともあり、非金融企業が金融企業のサービスを利用することも多く、その際にイネーブラーと呼ばれる仲介業を通してサービスを利用することも多い。
エンベデッド・ファイナンスには5つの主要領域がある
エンベデッド・ファイナンスには5つの主要領域がある。
・決済
・貸付
・保険
・投資
・銀行
現在、決済が最も先行し、投資が立ち遅れている。
決済の組み込みは消費者の手間を省き、事業者は購買データを蓄積できる
決済はアプリやサイトに支払いプログラムが組み込まれ、消費者がストレスなく支払処理が可能となる。
ECサイトで毎回個人情報を入れる手間がなくなれば、成約率は向上するように、支払いの発生するシーンで支払いが購買行動の動線内に組み込まれ、決済行為を意識させないようにすることが重要。
自社サイトに決済を組み込むことで、購買データの蓄積が可能になるというメリットもある。
貸付の組み込みは利用者の幅を広げることが可能
貸し付けは決済と相性が良く、同時に提供されることも多い。代表的なサービスは後払いで、消費者が即座に代金を支払う必要がなくなる。
・購入を迷う消費者の背中を押す
・購入金額の拡大が見込める
・クレジットカードをもっていなくても高額の買い物が可能
・分割払いの提示で一回の支払いを小さくし、心理的な障壁を下げる
など様々な利点がある。
ECサイトを経営するプラットフォーム企業が自社サイトに出店している企業に融資を行う形もある。出店企業の状況の把握は容易であり、銀行に比べスピーディーな融資が可能。
保険の組み込みはリスクや心理的負担を軽減する
組込み保険によって従来のように保険会社経由で保険に加入するのではなく、ウェブサイト上で直接加入することが可能にある。
航空券の天候悪化によるキャンセル保障を航空会社のWebサイトで販売することで、早い時期の成約率が上がるなどECサイトでの直接販売は消費者にとってのリスクや心理的負担を軽減可能。
マイクロソフトの製品ではサイバー攻撃を受けた際の保険を用意している。消費者の普段の行動からリスクが判断され、リスクの低い顧客には安価でサービスを提供している。
普段の行動からリスク度合いを反転し保険料を決める手法は自動車保険でも用いられている。ユーザーに近い事業者が保険を提供することでデータの活用が容易になることが特徴。
銀行の組み込みはスピード感のある融資を可能にする
コロナによって事業のオンライン化を進める企業は多いが、銀行口座の開設に時間がかかるケースも多い。組込み銀行は非金融企業が口座の提供やクレジットカードを発行するサービス。
自社の従業員向けや取引先向けへのサービス提供が多く、従業員へのスピーディーな給与の振り込みを可能にするなどの利点がある。
自社のプリペイドカードの購入した場合にその金額を預金と同じように扱い利子を付けるようなサービスも始まっている。
消費者のデータを持つビックテックも参入している
ビックテックもフィンテク企業の買収などでエンベデッド・ファイナンスに参入している。
既存銀行のサービスを利用し、金融サービスを提供している。ユーザーの同意があれば非常に価値の高い購買データの収集が可能になり、広告精度の向上が可能になる。データの蓄積が進めば融資サービスに乗り出す可能性も高い。
・Apple
アップルカードではゴールドマンサックスと協力しサービスを提供している。ApplePayでの後払いなどで利用者を増やし、Apple製品購入時のキャッシュバックなどで製品の購入促進を図り、決済システム全体の拡大を目指している。
・Amazon
融資、クレジットカード発行などを通じて、出品者と消費者を増やすことが大きな目的。クレジットカードを持たなくても利用可能なようにプリペイドカードの発行、出店者への融資、後払いの導入による購買額の増加を狙っている。
日本企業の進出も続くが利便性よりも囲い込みがメインになっている
国内ではYahooを傘下に持つZホールディングスとLINEとの経営統合で誕生した新世Zホールディングスが金融事業を強化している。
ヤフオクで落札した家電製品やスマホへの修理保険を製品購入時と同時に契約することを可能にするなど保険分野で先行している。
メルカリは本業の成長に合わせ、金融サービスを組み込むことで、循環型金融を目指している。メルカリでの売り上げを、メルペイで利用し買い物したり運用を可能にし、利用実績に応じた融資を行うことでメルカリ内でお金が循環するシステムを構築している。
これらの企業はエンジニア力が高いため自社でのシステム構築できたが、そのような企業は少数。そのため、銀行側が金融サービスを他業種に組み込むサービスを展開することで新たな収益となる顧客開拓を目指している。
ただし、本業に金融事業を組み込みタイムリーに提供している企業は少ない。コード決済を提供する企業は多いが、決済手数料の削減やポイントによる顧客の囲い込みがメインで顧客の利便性向上のためという目的は表面に出てこない。
スーパーアプリの状態が今後を占うカギとなる
エンベデッド・ファイナンスの今後占う際に参考になるのが、スーパーアプリの存在。スーパーアプリとはメッセージングやSNS、決済、送金、Eコーマスなどのアプリがすべて詰め込まれプラットフォーム化したアプリのこと。
・スーパーアプリで利用者情報を登録すれば、全ての機能が利用できる。
・ユーザーの囲い込みが可能
といった利点があり、普段使用するスーパーアプリに金融機能があれば、必要な時に選択肢として上がりやすい。中国ではアリペイやウィ―チャットなどがスーパーアプリとして知られている。
Zホールディング、各種通信会社、楽天などがスーパーアプリ化を目指している。まずは単体のサービスで圧倒的な集客力を持つアプリが必要なためLineを持つZホールディングが最有力。
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