クリスパー 究極の遺伝子編集技術の発見 ジェニファーダウドナ 文芸春秋 まとめ

遺伝子編集の影響は大きく多くの人が知識を得て議論する必要がある

 ノーベル賞受賞者でもある作者が授賞理由となったクリスパーCas9による遺伝子編集の発見、その応用用途、その危険性に対する考えなどが書かれた著作。

 遺伝子コードを編集し、操作することでこの遺伝的な変異をコントロールするようになっている クリスパーはこのゲノムを簡単に書きかえることのできる技術で、可能なことは非常に多いが、どのようにこの力を行使すべきかには多くの人による議論が必要であると考えている。

 クリスパーがどのように仕組みで何ができるかを知ることで、多くの人が議論に参加するために必要な知識を得ることとができる本になっている。

遺伝子編集は遺伝子の修正能力を利用している

 DNAは様々な要因で切断されるため、切断時に修正する能力が高いそのため狙った部分で切断を行い、近くに挿入したい塩基配列を置くことで遺伝子の編集が可能となる。

クリスパーとは細菌がウイルスの塩基配列を記憶し、感染しにくくするためのもの

 細菌のDNAには規則的に間隔の空いた短い同じ回文の繰り返しがあり、クリスパーと呼ばれている。この繰り返し部は全ての細菌が持っており、その構造は異なっていた。多くの種が持っていて、変化が速いということは環境への適応に重要と思われていたが、その機能は不明であった。

 細菌の持つ回文部分は細菌に感染するウイルスと一致し、細菌が回文をもつとウイルスに感染しにくい。つまり細菌は侵入したウイルスの塩基配列を組み込むことで、将来攻撃された時に免疫反応を起こせるようにしていることがわかった。

クリスパーは塩基配列の記憶、切断することDNAの編集を行う

 クリスパーの近傍にはcas遺伝子と呼ばれる遺伝子群が存在していたが、その機能は知られていなかったが、Cas遺伝子の作るCas9タンパク質をコードする遺伝子を不活性化させると細菌の抗ウイルス力が失われたため、免疫反応に重要であることは確かであった。
 その後の研究で、cas9は遺伝子のDNA配列の切断を行っていることがわかるようになった。

 クリスパー(回文部分)から作られたRNAがCas9を切断箇所に導き、ウイルスのDNAを切断することで抗ウイルスを可能にしていた

 つまり、切断したい部分=編集したい部分と同じ塩基配列を持つRNAとCas9、それらを繋ぐRNAの3つを組み合わせることで任意の配列を持つDNAを切断し、編集を行うことができるようになる。

クリスパーの利点は安価で操作が容易な点

 同じような手法で遺伝子編集可能な技術もあるが、クリスパーは、旧世代の遺伝編集技術と比べ、安価で操作が容易な点が画期的な技術となっている。

クリスパーの応用分野は病気の治療以外にもある

1.単一遺伝子疾患の治療
 7000以上ある単一遺伝子疾患治療には特に期待があつまる。幹細胞を編集できれば正しいタンパク質を合成するように遺伝子を編集し治療が可能になる。

2.それ以外の疾患                                      

 多数の遺伝子が関わる疾患を治すのは現状困難だが、癌細胞が生存するために必要な遺伝子をノックアウトすることで治療する、免疫細胞が癌細胞を攻撃しやすいように編集するなども検討されている。

3.遺伝子の発現の研究

 動植物への遺伝子編集、不活性化配列の組み換えを簡単にし、様々な実験を可能にしたため、遺伝子の発現(≒タンパク質合成)を促進または阻害することが可能となる。病気のメカニズムや創薬に役立つと予想されている。

4.遺伝子組み換えに代わる、品種改良への利用

 遺伝子組み換えは外来遺伝子によって、新しいタンパク質を合成することで特性を変えている。遺伝子編集では外来遺伝子の挿入は必要ないため、さらに安全性は高いことが予測される。

家畜では肉の量を増やす、病気への適応を高める、牛の角をなくすことも検討されている。

5.遺伝子ドライブ

 遺伝子編集時にクリスパーをコードする遺伝子を導入することによって、子に100%形質を伝えることが可能。このような遺伝子ドライブも検討されている。マラリアを媒介する蚊にマラリアの抵抗を持たせる 不妊遺伝子を伝えさせ、死滅させることなどが検討されている

 他にも絶滅種のDNAを既存種に組み込み、復活させる、豚の遺伝子編集で人間に移植する臓器を作成する研究も進んでいる。

クリスパーには技術的、倫理的な不安がある

1.オフターゲット
 どんな薬品にもオフターゲットはつきもで、クリスパーは従来技術に比べ、精度が高いものの間違って違う部分を切断してしまうこともある。なるべく類似配列を持たない配列を標的にするなどの手法も検討されている。

2.ヒト胚への遺伝子編集

 ヒト胚へ遺伝子編集が行われれば、それは次世代以降にも影響が続くため、どんな影響が起こるかを完全に把握できていない状況では危険が大きい。

 また、遺伝性疾患を起こす遺伝子の編集であれば抵抗は小さいが、強化であれば抵抗は大きい。ヒト胚への遺伝子編集が始まれば、治療と強化の境界はあいまいになっていくことは間違いない。

 遺伝子的な画一さが求められるようになると、遺伝子治療を受けられる富裕層と受けられない貧困層や遺伝的な短所の有無で新たな差別が生まれる可能性もある。

倫理的な問題を持つ遺伝子編集はオープンな議論が必要

 懸念点があるとはいえ、遺伝子の変異自体は体内でも常に活発に起こっており、クリスパーによる遺伝子編集の影響を全て把握できないからといって、禁止しては遺伝性疾患に苦しむ人々のためにならない。

 一方で生殖細胞への議論が十分行われる前のリスクに高い状態で、研究が進んでしまうこと
で乱用や悪用される危険もある。

 核兵器の開発ではオープンな議論が少ないなかで、研究が進んでしまったことが反省点であり、遺伝子編集ではオープンな議論を行うことが重要となる。

 そのためにも研究者が一般市民に理解できるように技術を伝えていくことが今まで以上に必要になる。

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