クリーンミート 培養肉が世界を変える ポール・シャピロ 日経BP 要約

3分要約

クリーンミートとは

 組織培養によって得られた食肉。従来の畜産業のように家畜を育てる必要がない。

なぜクリーンミートが注目されるのか

 経済発展に伴い、肉食が増えるのは歴史上明らかで、中国、インドが経済発展し、肉食が増えれば現在の畜産システムでは地球が持ちこたえられなくなる。また代替肉などが普及しているが、肉食の減少は見られず、人間の肉食への欲求は強く本物の肉を効率的に得る技銃が不可欠。そのため多くの培養肉のスタートアップへの投資が増加している。

従来の畜産業の問題はなにか

・大量の飼料、水など資源が必要で効率悪い

・殺処分や狭い場所に閉じ込めての飼育など動物福祉の問題

・多量の温室効果ガスの排出

・飼料を賄うために広大な農地が必要

・飼育効率のための抗生物質の多量投与

クリーンミートの利点

・食肉部のみを培養するので、角などを作るエネルギーが不要で効率的

・動物福祉を向上可能

・動物由来の菌が混入しない、栄養素を加えたりとより健康的な肉を生み出すことができる

・家畜由来の伝染病を減少させることができる

クリーンミートの今後

 技術的、コスト面での懸念もあるが最も大きいのは消費者に受け入れてもらえるかどうか。利便性の向上、比較的抵抗の小さいレザーから商用化する、培養肉の利点を知ることで受け入れる人の割合が増えるなどのデータもあり、今後アニマルフリーの食肉が広がるのも遠くないとみられている。

食肉を細胞から培養する技術が注目されている

 現代の地球の大型動物のほとんどは家畜として、工場型の農場で暮らしている。何十億もの動物たちは痛みや苦しみを感じる生き物ではなく食肉、牛乳、鶏卵を生み出す機械として扱われている。

 畜産業は地球温暖化の主原因となっており、運輸業に匹敵する温室効果ガスを排出している。

 これらの欠点は食肉を細胞から培養することで大きく改善できる。細胞農業の技術で家畜を飼育し殺したり、多量の温室効果ガスの排出をやめられるかもしれないため、大きな注目を浴びている。

肉食は植物食に比べ効率が悪いが、世界の肉食は増加していく

1960年から現在まで地球の人口は2倍に増え、畜産物の消費量は5倍に増えている。中国やインドなどンも植物食から肉食への移行が進んでいるいるため、畜産物の消費量は今後も増え続けると予想されて いる。 

 動物を飼育して食料とするのは植物に比べ、非常に効率が低いため畜産物の需要が急増すると地球が持ちこたえることができなくなる。

 本物の肉を培養することができれば、動物の飼育や殺処分を不要にし、環境負荷も減らすことができる。

細胞を培養し、食肉を得る技術が注目されている

 細胞農業は本物の肉をはじめとした畜産物を研究室で生産することを目標とし、現在複数のスタートアップが商業化を目指している。細胞を培養し、組織を得ることは医療分野では、すでに行われている。

 実現できれば、動物福祉の向上、水など資源の削減、温室効果ガスの排出量削減、飼料のための耕地の必要性減少、動物の糞便による汚染の防止、家畜を経由する伝染病のリスク減少など様々な利点がある。

肉食は減らすことは難しいため効率化が求められている

 歴史上、収入が増えると肉食が増えることが知られており、今後中国やインドでも欧米のような食事をするようになれば、畜産の効率化は環境対策として必須となる。

 食肉の中で最も効率よく生産されている鶏肉でも1Kcalの肉を得るために9Kcalのエサを必要とし、非常に効率が悪い。これらの畜産へのネガティブな面は広く知られているが、アメリカでの肉消費量の減少にはつながっていない。肉の消費量を減らすことは難しいため、効率化が望まれている。

 成功に立ちはだかる壁にはコスト、政府の規制、遺伝子組みかえ作物とおなじ消費者の反発などがある。

 すでに多くのスタートアップが何百万ドルという資金を調達し、競争している。細胞農業のスタートアップが成功すれな私たちの食糧生産方式に約1万年前の農業革命以来の最大の変革が起こる。

旧来技術の問題点は社会運動ではなく、新しい技術が解決してきた

 鯨油はランプに使用されていたこと、多くの鯨が殺されていた。しかし石油から鯨油より性能が良く安価なケロシンが精製されると捕鯨産業はわずか30年で95%も減少した。

 馬車の時代にはウマもひどい扱いを受けることがあったり、道路に堆積する馬の糞便が大きな問題になっていたが、内燃機関を用いる車の誕生でこれらの問題は解決した。

 どちらも社会運動などによる変革ではなく、新しい技術が旧来の技術を不要にすることで問題が解決した。

 我々の大半にとって食品を買う選択の基準は価格と味と、便利さであるため現行の畜産の問題点をしっても肉の需要を減らすことにはつながらない。培養肉の技術であればケロシンや内燃機関と同じように工場型畜産の問題点を解決できる可能性がある。

ひき肉を作ることには成功し、コストも下がり続けている

 2013年には培養肉で作られたハンバーグを作れるまでに進化していった。この肉は筋繊維のみで構成されており、本来の肉に含まれる血液や脂肪などが含まれていなかったものの、肉の味は感じられるものだった。ただし、コストは非常に高く一枚33万ドルで現在もコストを下げる検討は続いている。

 また、ひき肉を作ることは出来るが、それ以外の塊肉を作る技術のめどは立っていない。

レザーの製造も環境負荷が大きく培養による製造が検討されている

 牛は食肉だけでなく、その革はレザーとしても使用されている。牛皮をなめすことで様々な衣類を生み出しており、巨大な産業でもある。

 なめしとは牛皮の中のコラーゲンを固定して束ね、タンパク質の構造を永久的に変化させること。現代では様々な化学薬品を用いており、環境にも労働者にも大きな悪影響を与えている。

 レザーを培養することができれば、これらの負荷を減らすことができる。また、食肉に比べ、消費者の反発も少ない。レザー市場で細胞農業に慣れ、食肉へと進めば抵抗が小さいとする考えもある

 平面での利用が多く形成が容易、コストメリットが食肉よりも見込めるなどの点もメリットで、食肉よりも早く市場に製品が出るとみられている。

最大の問題は消費者が受け入れるかどうか

 過剰な肉食は心疾患、がんの原因にもなっている。培養肉は通常の肉と違い、脂肪が少なく、タンパク質が多い。また脂肪は後で人為的に加えるため、不健康な不飽和脂肪酸ではなく、健康なオメガ3などを脂肪として加えることも可能。

 畜産はレザーのためでなく、食肉のために行われているため、レザーだけを培養しても畜産の問題解決にはならない。培養肉のスタートアップにも多くの投資家が投資し始めている。

 コストダウンも進んでいるが最大の問題は消費者が望んでいるかどうか。培養肉の環境へのメリットを伝えることで試食したい人の割り合いが大きく変わるため、メッセージの出し方は重要となる。自然に近い形のものを食べたいというのは人間の本能。すでに品種改良や工場生産の食品を多くあるが、培養肉が普及するかについては意見が分かれている。

 それでも特に肉を多く食べる人ほど培養肉を食べてみたい割合は多いため、大きな市場となる可能性は秘めている。 また、既存の食肉と比較して、培養肉は健康に良いだけでなく、家畜由来の菌が少ないため痛むのが遅く賞味期限が長いというメリットもある。

フェイクミートも普及しているが、肉食の欲求は強い

 培養肉への懐疑的な意見の中には、植物由来のフェイクミートがあれば十分では?というものもある。すでに大豆などから作られたフェイクミートは市場に出回っており、味も進化し中には本物の肉と区別がつかないものもある。

 ただし、人間の肉食への欲求はとても強いので、肉食愛好者が本物の肉以外では満足しない可能性も有り、培養肉への投資も必要というや工場畜産の問題は非常に大きいので解決法は一つに限定しないほうが良いという声もある(化石燃料に対するクリーンエネルギーが太陽光、風力、水力など複数あるのと同じこと)。

鶏肉の培養肉も検討が進んでいる

 牛肉の培養肉だけでなく鶏肉でも検討は進んでいる。鶏は牛に比べ、さらに飼育状況が悪く(狭い範囲に押し込まれて育つ)、殺されている数も多いなどから鶏肉の培養を目標とする人もおり、培養された肉からすでにナゲットが作られている。

 成長を早め、非衛生的な状態でも健康を保つように抗生物質を乱用されることも多く、抗生物質耐性菌の出現させる原因にもなっている。またサルモネラ菌などでの食中毒も家禽類を原因とすることが多く、培養肉ではそれらを防ぐこともできる。

 また、肝細胞を培養すればフォアグラだけを作ることができる。現在フォアグラの非人道的な製法が問題となっており、価格も高いため培養肉のチャンスが大きいとみられている。

牛乳や卵白もアニマルフリーで検討可能

 ビールの醸造で酵母と糖類がアルコールに代わるように、独自の酵母と糖類を牛乳や卵白に含まれるたんぱく質に変える試みも行われている。 液体の牛乳をつくるのは組織工学は不要で必要な6つのタンパク質があればよいため、食肉に比べ容易。コレステロールや乳糖をなくしたり、細菌の混入がないため、賞味期限が長いという利点もある。

 乳牛も乳を多く出すために、ホルモンや抗生物質を投与されているが、乳量が多すぎで、歩行困難や乳腺炎など動物福祉の問題が増加している。人口牛乳をつくると、乳牛を育てる必要が無く、エネルギー、水、土地全てを大幅に削減できる。

 同じように、卵白も酵母にタンパク質を作らせることでも成功している。

消費者の抵抗は利点を学んでもらうことで低減できる

 遺伝子組み換え食品への嫌悪感と同じような感覚を培養肉に持つ人は少なくないため、培養肉が普及するかは、消費者が受け入れるかどうかも重要になる。

 多くのスタートアップでは細胞農業の透明性を保ち、消費者にその利点を学んでもらうことで受け入れてもらえるようにしている。高い安全性、持続可能性、環境負荷が小さく、動物にも優しいというセールスポイントがあれば多少価格が高くても細胞農業を選ぶと考えている。

 そもそも「自然な」食品という定義はあいまいで、現在の食品には多くの技術が使用されており、チーズなどの製法は細胞農業のものとほとんど同じ手法になる。

高まる肉食需要のため効率的な食肉システムは必須になる

 今後数十年に及ぶ人口増に対応するためには、より効率的な食料システムへ移行する必要がある。植物食への移行は効率を大きく向上させるが、植物由来の肉が普及した今でもベジタリアンの占める割合は2~5%にすぎず肉食への欲求は強いため、今後も肉食の需要は増え続けると思われる。

 人間が正しい行いだというだけで行動を変えることは難しい。新しいモデルで既存のモデルを時代遅れにすることが既存のモデルをやめることのできる一番の方法。新しいモデルである培養肉が広まれば、既存の畜産の問題点に目を向けさせ動物福祉への考えが広まっていくことも期待できる。

 コスト、規制、消費者の需要、技術的な困難など実現への道を阻むものは少なくない。しかし、そう遠くない未来にアニマルフリーのチキンナゲットやソーセージを食べられる日が来るに違いない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました