本の概要
非行少年のなかには、ケーキの3等分や図形の書き写しなど簡単な問題ができない認知能力に問題のある子が多い。認知能力は外界からの情報を整理し正しく認識する能力。
認知能力に問題がある場合、認知行動療法の効果が薄く、更生がうまくいかなくなる。
非行少年にはいじめられていたストレスから非行に走るケースが非常に多い。
いじめの原因は勉強ができない、友達の言っていることがわからないなど、認知能力の低さが関係している。
軽度の知的障害の場合、既存のテストでは発見できないことも多く、普段の生活では健常者と変わらないため、必要な支援を受けにくい。一度,知能的に問題ないと判断されてしまうと、性格(怠けている、不真面目など)の問題とされてしまい、必応な支援が得られない。
加害者を減らすことは、被害者を減らすだけでなく、受刑者にかかるコストを減らし、納税者にすることができれば税収も増加すると社会面でも非常に重要。
そのためにも特に小学生での認知能力の欠如の早期発見と対処が重要となる。
本で学びたかったこと
- 非行少年の実態と何が問題なのか
- どのような教育が効果があるのか
少年院での更生は認知行動療法に基づいているが認知能力に問題があると効果が少ない
筆者は精神科医で少年院で法務技官として働いてきた。
少年院などでの更生は認知行動療法に基づいて行われている。
認知行動療法は思考のゆがみを矯正し、適切な行為、思考、感情を増やすことで 対人スキルなどの改善を図っている。
認知行動療法は認知能力に問題のある場合に、効果がはっきりと証明されていない。発達障害や知的障害を持つ場合、認知能力に問題があることが多く認知行動療法では、効果が見られない。
基本的な能力がなければ反省することもできない
少年院には図形を移す、文章を復唱するなどができない 見る力、聞く力、見えないものを想像する力がとても弱い子が大勢いる。
更生のためには自分のやったことに向かい合う、被害者のことを考え内省するなどが必要だが、これらの力が弱ければ反省することもできない。
非行に走る理由も勉強がわからないなどで、いじめを受けたことが原因であることが非常に多い。
ほめる教育だけでは、苦手なことをそれ以上させないため、本人の可能性を潰してしまう。極端に苦手なことを放置すれば、障害を作り出すことになってしまうことも。
ただし、非行少年も学びに飢えていて、わずかなトレーニングで変われることもある。
ケーキの3等分といった簡単な問題でもわからない少年は多くいる。この状態で反省をさせられても効果がない。
少年たちに非行した理由を聞くと、「後先のことを考えていなかった」と答える。 計画力=実行機能がとても弱い。
殺人を犯した少年でもどういう人間か聞かれると、やさしい人間と答える。殺人によって人がなくっていると言われると、はじめてやさしくないと答える。
ここまで伝えないとわからない状況では被害者遺族への謝罪などは困難。
非行少年に共通する特徴があり、非行の原因や更生がうまくいかない原因となる
非行少年に見られる特徴は
- 認知能力の弱さ
- 感情統制のなさ
- 融通の利かなさ
- 不適切な自己評価
- 対人スキルの弱さ
- 身体的な不器用さ
などがあげられる。
認知能力の弱さ
見る、聞く、想像する力が弱い。
傷害事件に理由が相手がにらんできたからという理由が多い。実際には相手はにらんでいないことも多い。見る力が弱いため、相手の表情が見れないため。
認知能力の弱さは正しい情報の整理を間違える。困った行動を繰り返す子には見る力、聞く力に問題がないか確認する必要がある。
見えない力を想像するなかには、時間の概念がある。この力が弱いため、具体的な目標を立てることができない。
こちらが伝えたいことが伝わらない=反省以前の問題
感情統制の弱さ
感情のコントロールが苦手
性非行少年の95%ほどはイジメを受け、ストレスをため、そのストレスを幼女で発散している。感情の中でも怒りへの対応ができない。感情は多くに行動の動機付けになるため、感情統制はとても重要。
融通の利かなさ
何度も思いつきでやってしまう、予想外のことに弱い。
問題に向き合った時の解決法にバリエーションがなくなり、不適切な解決法を選択しやすい。お金がないときに借りるなどの前に盗むがでてします。
思いこみが激しく、被害感を強く持ってしまう。
不適切な自己評価
自身があり過ぎるもしくはなさすぎる。
適切な自己評価は他者との適切な関係でのみ育つ。相手のサインを受け取れないと自己評価が極端に高くなったり、低くなったりする。
対人スキルの乏しさ
人とのコミュニケーションが苦手
対人スキルにも認知能力は求められる。極端に断ることができず、非行に走るケースもある。
SNSなどの発達で対人スキルを学ぶ機会は減ったが、職人的な仕事の減少で仕事では対人スキルが要求されることが増えた。
身体的な不器用さ
力加減がわからない、左右がわからないなど身体的な不器用さも特徴とされる。
問題を抱えた子も周囲にサインは出している
普通の小学校の問題を抱えた子と少年院にいる子の小学生時代の特徴はほぼ同じもの
小学生から本人たちはサインを出しており、特別な支援ができていれば被害者を作らずに済んだ可能性もある。
現在、知的障害はIQ70未満とされているが、1950年代では85とされていた。85以下は全体の16%ほどと高すぎるため、変更された。IQ70~84のは境界知能であり、支援が必要な場合もある。
中学生になると対応は難しいため、小学生のうちにサインをキャッチすることが重要。
軽度な知的障害は本人も気づきにくく、支援が受けにくい
現在の知的障害はIQ70以下とされ、全体の2%ほどが該当する。以前の85以下では全体の16%が該当する。70~84の境界知能も14%いる。
軽度な知的ハンディを持つ人々普段の生活では健常者と区別がつかないが、何か困ったことが起きたときに柔軟な対応ができない。
知的障害者は軽度、中程度、重度、最重度に分けられるが、軽度が8割以上。軽度の場合本人も気づきにくく、支援が受けにくい。刑務所にいる受刑者は一般人と比較し、境界知能や軽度の知的障害者の割合が多い。
一度知的な問題がないと判断されると、仮に境界知能や軽度の知的障害であって、問題を起こした場合でも、ずる賢い、反抗的などと判断されてしまう。支援を受ければ改善した可能性もあるが、気づかれずにいじめなどにあい、加害者になるといった流れになってしまっている。
ほめる教育だけでは問題は解決しない
褒めることや話を聞くことは根本の解決にはつながらない。
問題のある子について、自尊心がないというフレーズが使用されるが、大人でも高くない人は多くいる。自尊心がないことが問題ないのではなく、自尊感情と実情が乖離していないことが重要。等身大の自分がわかることが必要。子供の支援は、学習面、身体面、社会面があるが、社会面の支援が系統立てされていない。
知能検査では、柔軟性や再現力、描画力を見られることはない。IQは高いが融通が利かないなどの特長は見落とされてしまう。また一度、知的に問題がないとされると、問題があっても怠け、性格などと捉えられ。適切な対応ができなくなる。
対人関係に課題がある場合、認知行動療法に基づいたトレーニングが行われるが、認知機能に問題があるとトレーニングを受けても効果が薄い。
特に性に関する犯罪は、性に対する欲求は必要でそれ自体は犯罪にならないため、性加害少年に理解させるのは難しい。
自己への気づきと自己評価の向上で大きく変わることができる
少年院に在籍する少年のなかにも8か月ほどで大きく変わり、犯した罪について、客観的に分析できるようになる子がいる。
原因は様々で
- 家族のありがたみを知る
- 被害者の手記を読み、被害者の視点に立つ
- 将来の目的がきまる
等があげられるが、共通しているのは「自己への気づき」と「自己評価の向上」。自己への気づきは少年自らで、行わなければ意味がない。
学校での勉強で、どうやっても無駄と思ってしまっているので、従来のやり方ではうまくいかない。例えば、少年たちに別の少年を教えさせるなど、別の経験をさせるとうまくいくことある。彼らにも学びたい、教えたいなどの気持ちがちゃんとある。
受刑者一人には年間300万円の費用が掛かっている。平均的な納税者は100万円程度の納税額のため、受刑者を健全な納税者に変えれば、犯罪被害をなくすとともに400万円の費用削減につながる。
そのためにも困っている子どもの早期発見が重要となる。
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