ゲノム編集の衝撃 NHKゲノム編集取材班 3分要約

3分要約

ゲノム編集とはなにか?

 遺伝子の狙った部分を切り取ることで、その遺伝子の働きを阻害することができる。切り取る際に挿入したいDNA配列を同時に組み込めば、望む遺伝子配列を挿入することもできる。

 このような手順で、遺伝子の編集を行うことのできる技術といえる。

なぜゲノム編集が注目されるのか

 遺伝子組み換え技術も同じように遺伝子の特定部位に異なる遺伝子配列を組み込む技術となる。

 しかしゲノム編集、特にクリスパーキャス9はその精度が極めて高く、慣れれば誰でもできるようになるほど簡便な手法であることがこれほどの注目を集める理由。

クリスパーの具体的な仕組みは?

 クリスパーは元々は細菌がウイルスに感染した際に、ウイルスのDNA配列を記憶し、再度感染した時にウイルスのDNAを切断するためのもの。

・クリスパーキャス9

・特定のDNA配列と補完的な関係にあるRNA

・挿入したいDNA断片

の3つを組み込むことで、

1.配列の特定

2.切断

3.DNAの修復性を利用し、新しいDNA断片が挿入

されるという手順で遺伝子編集を行うことができる。RNAの作成の容易さが遺伝子編集を容易にしている。

ゲノム編集の応用分野は

精度の高さから品種改良の効率化、遺伝子の働きを人つづつ観察できるため遺伝子治療など医療への応用、体内で油を生成する微生物の遺伝子を編集し油の生産量を上げるなどエネルギー分野まで応用はさまざまな分野での検討が行われている。

ゲノム編集の懸念点は

 技術的な問題もあるが、それ以上に一般市民への認識が問題。正確性に優れる技術だが、情報が断片的に伝わり、感情的に拒絶してしまう可能性もある。

 公平で正確な情報提供と一般市民を巻き込んだ議論を行った上での有効なルール作りを行うことが必要となる。

ゲノム編集は遺伝子の働きを簡便に高精度で変えることのできる画期的な技術

ゲノム編集について聞く機会は増えたが、その詳細はまだ認知されていない。その驚くべき技術の概要と私たちの生活への影響を明らかにしていく。

人類は必要な性質を持つ個体同士を掛け合わせることで家畜化や品種改良をおこなってきた。これらの方法には時間が膨大な時間がかかるため、短時間での品種改良のため遺伝子組み換え技術が開発された。

しかし、遺伝子組み換え技術も従来よりは短いものの、精度が低かったため時間がかかり、さらなる方法が望まれていた。

 その中で登場したのはゲノム編集。ゲノム編集は遺伝子の狙った部分を切り取ることで、働きを阻害することができる。また挿入したい遺伝子配列を組み込んで置けば、遺伝子を挿入し編集することが可能になる。特にクリスパーを用いた手法は簡便で精度も非常に高い画期的な技術である。

例えば、筋肉の成長を抑える働きをするミオスタチオンの機能を止めて、魚の肉量を増やすことが検討されている。わずか1年で、1.5倍ほど体重を増加させることに成功している。他の魚での検討やDHA、ビタミンなどの健康に良い成分を多く含む魚を作り出す事も検討されている。

遺伝子編集で作り出すたんぱく質に影響を与え、生物の特性を変える

私たち人の体は60兆個の細胞からできており、その一つ一つに核がありその中には46本の染色体が収まっている。染色体は半分は父親からもう半分は母親から受け継いでいる。

染色体の中にDNAが存在しており、A、T、G、Cの4つの塩基が並んだ構造をしている。AとT、GとCが対になる事で、二重螺旋を形成しており、DNAの遺伝情報全ての総称がゲノムと呼ばれている。

遺伝子はその配列からたんぱく質を作り出す設計図の役割をしており、体の大半はタンパク質から成り立っている。遺伝子の編集を行うことでたんぱく質の作用に影響を与え生物の形や特性を変えることができるようになる。

DNAと補完するRNAを使用するクリスパーは高精度と簡便性を実現した

遺伝子組み換えもゲノム編集同様挿入したい遺伝子を挿入する手法だが、挿入する場所のコントロールは不可能なため、狙った場所への挿入は偶然任せで時間がかかった。

ゲノム編集では挿入したい場所を認識させることができ、精度、効率共に大きく向上している。クリスパーではガイドRNAによって切り取る標的を決めている。RNAはDNAの配列と補完する関係にあるため、切り取りたいDNA配列と補完するRNAを作成すれば、合致したDNA配列を探し出してくれる。

目的のDNA配列を探すと、キャス9が切断を行うが、この仕組みは細菌がウイルスに感染した際にウイルスのDNAを取り込み、再び感染した際=同じ配列を認識した際に切断することで感染を予防するを応用している。

ガイドRNAとキャス9は複合体を形成し、新たなDNA断片を入れておけばDNA断片を取り込むため、遺伝子の切断、編集が可能になる。RNAの作成が容易な点が他のゲノム編集技術と異なっており、その簡便性によって大きく普及することとなった。

クリスパーで遺伝子の操作が容易になり創薬、生物学が大きく進歩した

クリスパーは一つづつの遺伝子の働きを観察することを可能にし、創薬や生物学など多くの分野で開発の方法を劇的に変えつつある。

アドジーは様々なクリスパーキャス9を制作し、研究機関に提供している。そのおかげでゲノム編集の技術が世界中の技術者に行き渡り、開発競争の速度と密度は飛躍的に増加した。

技術的な問題もあるが、それ以上に一般市民の拒否感が問題

ゲノム編集が簡易になることで応用分野は広がり、様々な分野で研究が行われている。技術的にも問題はあるが、それ以上に一般市民の認識が普及に問題となる。

これまでの遺伝子組み替えとは違い、正確性に優れるが、情報が断片的に伝わり、人々が感情的になって拒絶してしまうことを危惧する研究者は多く、公平で正確な情報提供が重視している。

日本政府も農業分野での品種改良の効率化で収量増加などの取り組みに着手し始めている。

医療への利用でも大きな効果が期待される

ゲノム編集の医療への利用も検討されている。特に原因遺伝子が明らかで、1つの遺伝子異常で引き起こされている場合は治療の可能性は格段に高まっている。

HIVやがんなどの複雑な病気に対する研究も進んでいるだけでなく、iPS細胞と組み合わせることでさらに応用範囲は広くなる。DNA上に欠損があり、タンパク質がうまく作れないような場合でもDNAを編集することができれば、正常なタンパク質を作り出すこともできるようになる。

iPS細胞を用いることで、患者の体細胞から万能細胞を作り出し、遺伝編集を行うことで、正常な働きをできれば、どのような遺伝子編集が病気を治すことができるかどうかを確かめることができる。

 ラット以外の病気の実験動物を作り出すことは難しかったが、遺伝子編集でより人間に近い猿などをモデル生物とすることもできるようになったことも創薬をはじめとした分野での効率を上げている。

広い議論が必要であり、多くの人が知識を得ることが重要

ゲノム編集した生物を遺伝子組み換え生物として扱うべきかも大きな問題。遺伝子組み替えとは違い精度が高く自然で起きる進化と同じものとする声もある一方で、人為的な操作があり、自然とは発生する頻度が異なるとして慎重にすべきとの声もある。

現状は遺伝子組み換えとどうような扱いを求めらるが、これは暫定的な処置で研究者の自主的な取り組みとなっている。

また遺伝子編集はその痕跡が残らないため、自然で起きたかどうか確認するすべはない。有効なルール作りを行わなければ、ゲノム編集した作物が突然食卓に並ぶ可能性もあり今から広く議論をしておく必要がある。

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