ゲノム革命が始まる 小林雅一 集英社新書 まとめ

本の概要、感想

 近年、様々な遺伝子の働きが明らかになり、クリスパーの登場で遺伝子の操作も大きく進化しているこれらの技術は途方もない可能性とリスクを秘めている 

 遺伝子検査によってDNA上の一か所の遺伝子変異によって発症する病気のリスクを知ることができるようになった

 一方、多くの病気は複数の遺伝子が関わるため現状の遺伝子検査ではリスクを知ることができない

 クリスパーによるゲノム編集は編集精度が従来より大きく向上した操作が簡単等の点が画期的

 遺伝子検査や編集技術の向上は、受精卵の時点での病気の治療、農作物の効率性向上、犯罪捜査への利用、感染症予防のための蚊の撲滅などへの期待がある

 上記の裏返しで、 受精卵のゲノム編集による倫理的な問題や次世代への予期せぬ影響、精度が上がったものの予期せぬ遺伝子の挿入の有無、プライバシー保護、生態系への影響などの点で懸念もある

 遺伝子技術がなにをもたらし、その技術の乱用を防ぐ取り組みも重要性とともに学べる 細かいメカニズムの話はないので、ノーベル賞で興味を持った人にもおすすめ 

 可能性がある技術を止めることが人間にはできないとも思うので、多くの人が何ができて、何ができないのか、どんな利点があってどんなリスクがあるのかを知ることが重要だと強く感じます  

はじめに

 人間の食欲を抑制する遺伝子(MC4R)この遺伝子が常にOFFの人は食欲を抑制する機能が弱く、肥満になりやすいことが明らかになってきた

 現在、このように様々な個々の遺伝子の働きが明らかになっており、それを利用し一般消費者向けの遺伝子検査が急速に普及している

 遺伝子の操作技術もクリスパーの登場で大きく進化している

 これらの技術は途方もない可能性とリスクを兼ね備えている

第1章 ゲノムから私たちの何がわかるのか?

 近年、急速に利用者を伸ばしているDTC(direct to consumer)検査は医師を介さずに消費者に提供される遺伝子検査

 遺伝性疾患はメンデル性疾患と呼ばれDNA上の一か所の遺伝子の変異によって発症する病気

 このような病気は劣性遺伝子によってもたらされるため、両親から病気を引き起こす劣勢遺伝子を引き継いだ場合にのみ発症する

 DTC検査ではこれらの劣性遺伝子を持っているかを確認することができる 自分が発症はしないものの遺伝子を持っている場合、結婚相手の検査をすれば子供が劣性遺伝子が発現することを防ぐことが可能

 一方で、多くの病気は複数個所の遺伝子変異が関わるため、まだDTCでは力不足

 人類のゲノムは99.9%は同じ残りの0.1%が個人によって異なる 特定の場所にある塩基がヒトによって異なる部分をSNP(一塩基型)と呼ぶ

 SNPの中に様々な病気、身長などの特性に関わるものがあるが影響を与えるSNPの数が非常に多く、解明はまだ始まったばかり

第2章 ゲノム編集とは何か

 遺伝子組み換え技術は外来遺伝子を本来の遺伝子と組み替えることで行う技術

 微生物などの遺伝子を農作物に組み込むもの特定の場所を狙って組み替えることはできないため、意図しない改変が起こる可能性も有る、偶然に頼るため時間がかかるなどの欠点がある

 遺伝子ターゲッティング技術は、狙った遺伝子を探すガイド役と切断させる役を担うタンパク質を組み合わせることで、遺伝子操作を狙い通りに行うもの

 バクテリアや古細菌のDNA上に存在するクリスパーと呼ばれる部分が細菌の免疫機能(バクテリアフォージ)を殺していることが発見される

 つまり、クリスパーは細菌の特定の配列を感知し攻撃できる➡これを利用して開発されたのが、クリスパーによるゲノム編集

 ゲノム編集は操作が簡易で遺伝子ターゲッティング技術の操作が難しいという欠点を克服した

 遺伝子性疾患に対して効果を発揮する研究が行われている 受精卵のゲノム編集での遺伝子疾患の治療も可能だが、次世代以降にも変異の影響を与える そのため受精卵のゲノム編集は基礎研究のみでそれを女性の体内に戻す臨床研究は禁止されている

第3章 見えないゲノム編集食品

 ゲノム編集を行った食品は遺伝子組み換え食品と違い表示義務がない

 アメリカではすでにトランス脂肪酸を発生しない大豆などが栽培されている 

 外来遺伝子の組み込みがあると遺伝子組み換えと同じ規制、なければ規制がなくなる仕組みになっている

 一方、家畜に対するゲノム編集には一部の研究で意図しない副作用が見られていることもあり、厳しい規制設定している国もある

 消費者心理では表示をした場合、遺伝子組み換えと同じく消費者から受け入れられない可能性は高い

 表示義務がないため隠して売ることもできるがばれてしまった際のダメージは非常に大きい 

 人は食に対し保守的なため、警戒を解くのは難しい(ジャガイモがヨーロッパに持ち込まれて根付くまでに200年もかかっている)

 食べれば健康的に痩せることが科学的に証明された製品など劇的な効果がないと消費者に選んでもらうことは難しい

第4章 科学捜査と遺伝子ドライブ、そして不老長寿

 事件の犯人のDNA情報とDTCに提供されたDNA情報と照らし合わせ犯人を逮捕したケースが増加している

 一方でプライバシーの問題もある 中国では国家が国民のDNA情報を管理する流れが強くなっている

 特定の外来遺伝子を組み込み、子孫へ伝えていくのが遺伝子ドライブ

 マラリアを媒介する蚊に繁殖能力を奪うような遺伝子を組み込むと蚊の撲滅が可能となる 感染症予防には大きな効果があるが、生態系に悪影響を及ぼす可能性も否定は出来ない

 人間の寿命は115才が上限とされてきたが、近年それを覆すような研究結果が報告されている

 長生きに寄与する遺伝子を特定し、ゲノム編集を行うことで寿命を延ばす検討も行われている 関連する遺伝子の種類が多く現在も研究途中ではあるが、可能性は充分にある

おわりに

 着床前診断で受精卵の段階で重大な病気になるような遺伝子異常を持っていても、ゲノム編集で治療することが可能になっていく

 過去優生学の基づく選別を行っていたように技術の乱用が大きな懸念になる

 例えば同性愛の研究では同性愛は遺伝子的な要因が3分の1、環境や社会的要因が残り3分の2を占めるとされている 

 同性愛に反対する人が受精卵のゲノム編集で同性愛の要因となる遺伝子の改変を行うことの口実になるなどすれば技術の乱用につながりかねない

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