コロナ後 佐藤智恵編著 3分要約

3分要約

諸外国は日本の現状をどう見ているのか

 日本のレベルを嘆く人も多いが、強みはあり海外から注目されることもある。本書では特に日本の事例を取り上げることのハーバード大学の教授陣にインタビューを行い課題と強みを浮き彫りにしていく。

教授陣の考える日本の強みは何か

・優れたテクノロジーと製造能力でAI時代を先導する可能性を秘めている

・企業が公益性の高い存在目的を持ち、それ全社員で実現をめざしている

・3方良し、EGS経営を先取りした企業、起業家の多さ

・専門技術を理解する経営者の多さ

・両利きの経営を行う企業の存在

日本が克服すべきことや今後気をつけることはなにか

・前例主義を脱し変革を恐れず、常に変革し続ける

・ハードウェア中心の考えからソフトウェアへの切り替え

・謙虚さを持ち、信頼を得ることができるリーダー

・社内の才能を集合知とする姿勢

・企業の目的を再認識し、全社員に伝え、実現する姿勢

・心理的な安全性の高い組織作り

日本の社会にも強みはある

 コロナとの闘いは一進一退でいまだに収束の兆しはみえていない。感染の抑制と経済成長の両立の模索が世界中で続いている。

 コロナの対応で日本のレベルの低さを嘆く人も多いが、日本にも強みがあり、海外から強みに注目されることも少なくない。特にハーバード大学では社会や経済の発展のために貢献した日本人や日本企業を多く取り上げている。また、欧米の金銭、株主至上主義を見直すきっかけにESGやパーパス経営(企業の存在価値を重視した経営)が注目を浴びているがこれらは日本の企業が昔から行ってきたこと。

 本書ではハーバード大学の教授陣にインタビューを行い、日本の強みと課題を浮き彫りにしていく。

マルコ・イアンシティ 専門:イノベーション、ビジネスエコシステム

 モデルナはコロナのワクチン開発で注目を浴びた企業で、従来の製薬会社以上にデジタル化を進め、開発工程をでほぼすべてデジタル化している。

 モデルナにとってもワクチン開発は大きなかけであったが成功することができた。モデルナのCEOは製造部門出身であり、モデルナのオペレーションには製造業的な考え方が多く見られる。日本企業にも製造業的な考えを持つ経営者が多い。

 一方のファイザーもデジタル化や他社とのmRNA開発の先駆者であるビオンテックと共同開発を行っていたため、迅速にワクチン開発に成功できた。

 DXを進められない企業は大企業であっても、苦戦を強いられる状況は今後も続くと見られ、DXはピンチをチャンスに変える手段にもなる。パンデミックは変革の必要性を示しただけではなく、大企業でも短期間で変わることを学ぶことができた。

 日本には優れたテクノロジーと製造能力があり、変革を続ければAI時代を先導する可能性を秘めておいる。変革を続けるために必要なことは

・トップがDXなどの変革をリードする

・縦割り組織の改革

・ハードウェア中心の考えからソフトウェアへの切り替え

等が重要になる。

 変革し続けることが、今後のAI時代で生き残るために何よりも重要なこと。

レベッカ・ヘンダーソン 専門:サステナビリティ、組織変革

 サステナビリティ、持続可能な社会は企業にとって、片手間で対処するような問題ではなく、企業の存続に関わる問題になってきた。株主価値の最大化は依然重要な項目であるが、より良い社会を実現するための手段であって目的ではないという考えも改めて、広まっている。

 格差問題や気候変動問題に取り組み、持続可能な社会を実現するには市場の役割と政府の役割のバランスの見直しが必要。コロナやは大きな社会問題には政府の力が必要であることを再認識させる出来事でもあった。

 自由市場が働くのは公正な競争である必要があり、そのためには監督者=政府が必要で、資本主義の問題である短期利益の行き過ぎた重視を改善し社会を正しく機能させる必要がある。

 企業の経営者にも企業の存在目的を改めて考え、全社員に伝え実現に向けて行動していく必要がある。トヨタはそのような企業のお手本になっている。

 トヨタが職員関わらず全ての社員を大切にし、工場や拠点のある地域社会に貢献する文化を持っているように日本の企業には公益を重んじる傾向がある。コロナ渦で社会的な弱者が必要以上につらい思いをしている様子を見ておかしさに気づいた人も多く、公益を重んじる日本の文化の重要性を増す。このような文化を通じて、資本主義を修正=リイマジンすることが持続可能な社会を実現する方法。

サンドラ・サッチャー 専門:ゼネラルマネジメント

 リーダーに求められるのは倫理を持ち法律を順守し、人々の健康と安全を守り、経済的な利益の確保のすべてを満たす方法を求めること。リーダーが倫理に反した決断をしてしまうのは、正常化バイアスによって悪い情報を過小評価したり、権力をもったことでドーパミン分泌をしやすくなり、周囲の人々を思いやるのではなく、自らに報酬をもたらす行為を優先して行動してしまう。

 誤った決断をした際には

1.被害を及ぼしたことを認め、率直に謝罪する

2.結果を招いた要因を説明すること

3.再発防止策を提示すること

の3つが重要になる。真実を包み隠さず伝えることが信頼を回復させるカギになっている。

 企業が信頼されるには消費者が期待する商品やサービスを提供しているかだけでなく、

・動機:社会全体の利益を意識しているか

・手段:公正な行動をとっているか

・影響:社会に良い影響をあたえているか

のすべてを満たす必要がある。サービスや製品が優れていても、他の要素が欠け信頼の無い企業では成功は難しい。 

 伊藤忠商事の3方良しは、売り手、買い手、世間の3つの満足を目指すことで、信頼される経営の本質といえる。

 パンデミックによって、国際社会のもろさが露呈している。途上国ではワクチンが打てない状況が続いているが、世界全体でワクチン接種が進まなければ正常化することはできないため、国際社会がなんのためにあるかを認識し、地球全体の問題として考えるきっかけにもなっている。

 このような社会では、リーダーにはより一層信頼を得ることができる決断を行う必要がある。

ジェフリー・ジョーンズ 専門:経営史

 日本でも大河ドラマなどで渋沢栄一への注目が再び高まっている。渋沢の再評価の理由は、資本主義のあり方を見直す機運が高まったことやEGS投資への注目が大きくなったことがその理由。

 渋沢は資本主義を公益を追求することのできるものと信じて、社会貢献を念頭に置き活動を行っていた。また、福祉、環境保全に注目しEGS、SDGsを先取りしていた考えを持っていた。

 企業の財務状況が健全でなければ、存在価値はないが、お金を稼ぐことは公益を追求するための手段であり、目的ではない。そのため、利益を出すために環境を破壊したり人々から搾取するのは本末転倒と考えていた。

 日本では既得権益保護や先例主義が強いため、突然の変化に迅速に対応することが苦手だが、環境の変化に対応する能力=レジリエンスは不可欠になっていく。優れた製薬企業があるにもかかわらず、ワクチンの開発を行えなかったのもレジリエンス不足要因

 日本には多くの潜在能力が眠っており、それを生かせば渋沢のように世界中のロールモデルとしても役割を再び担うことも可能になる。

リカルド・アウスマン 専門:国際政治経済学

 コロナの終息は依然として見えず、ロックダウンの有効性などの確認は引き続き必要。世界各国は今後もパンデミックが続く前提で感染対策に臨む必要がある。現状ではロックダウンしながらワクチン接種を進める以外の解決はみえていない。

 コロナによる経済の影響は特に途上国で大きく見られる。ここまでは先進国の融資も積極的で何とかなっていたが、今後は先進国も苦しく投資が減る可能性もあり、さらに格差が進行する可能性もある。

 日本の成長にはエネルギーが大きな問題になる。石油由来のエネルギーを使用できなくなると、再生エネルギーを輸入するひつようがあるが、再生可能エネルギーの運搬は石油などに比べて難しい。そのため再生エネルギーを近隣国から輸入するか、再生エネルギーの豊富な国への生産拠点を移す必要がある。

 また、現在のIoT化やDXなどによる製品とソフトウェアの一体化に乗り遅れないことも重要。技術分野でリーダシップを取れる能力は充分にあるが、イノベーション、技術革新についていけるかがカギになる。

 アメリカでもイノベーションを起こすのは大企業からスタートアップに移っている。日本は系列などを利用し大企業からイノベーションを起こすのが得意だが、スタートアップによるイノベーションは苦手であり、企業文化を変え、大企業主導のイノベーション創出モデルの変革が不可欠となる。

ウィリー・シー 専門:マネジメント

 アメリカの製薬大手メルクはコロナウイルスのワクチン開発をmRNAワクチンほどの効果がないとわかった時点で、CEOの判断によって撤退し、治療薬の開発に集中している。

 難しい場面でリスクとリータンを考え、撤退したが適切な判断を行うには自社の科学技術力をCEOが正しく理解できていたことが大きな要因で、日本には専門的な技術を理解する経営者が大きいことは強みといえる。

 アメリカではデジタル技術だけが世界に革命を起こすと信じている人が多いが、21世紀はライフサイエンスの時代でもあり、科学技術の基本的な素養を経営者が持つことは非常に重要。

 世界的にはサプライチェーンの過剰な複雑さがパンデミックで大きな影響を受けており、今後サプライチェーンを賢く設計することが全てのメーカーとって重要なっていく。

ラモン・カサダスス=マサネル 専門:競争戦略

 アメリカのディズニーは顧客体験とブランドをコントロールするために、テーマパーク、ストア、ホテルなど全てのビジネスを所有しており、所有がディズニー成功の要因とも考えられている。

 一方で日本のディズニーランドを経営するオリエンタルランドとディズニーには資本関係がなく、ディズニーはパークやホテルなどを保有しているわけではないが、東京ディズニーリゾートは世界で最も成功しているテーマパークの一つ。

 経済理論からすると保有することのメリットは大きく、特にブランドを浸透させるためには不可欠と考えられるが、オリエンタルランドとディズニーは強い信頼関係があったため資本関係なしでもうまくいっている。

 コロナは人との接触を必要とするテーマパークにとって大きな痛手で、ディズニーも大きな打撃を受けた。これまでうまくいった戦略を変えることができるかがカギになる。 

 今後はリモート化、脱グローバル、シェアリング、産業再編、DXの進行など様々な変革が予想される。この状況でリーダーに求め得られるのは前例主義を脱し、既存とは異なる手法での価値創造を忘れないこと、競争戦略を根本的に見直すことが重要。

リンダ・ヒル 専門:経営管理

 ANAは新規事業としてアバターを活用したビジネスを開始し、分社化している。一見関係性に薄いように見えるが、ANAはコロナ禍でも投資をおこない続けた。

 コア事業の中で画期的なイノベーションを起こすことは難しく、新規分門や子会社によってイノベーションを起こそうとする両利きの経営は大企業で広く採用されており、ANAもアバター事業などで両利きの経営を行っている。

 イノベーションをコア事業に育てるには、社内に眠る才能に注目し、個人の持つ才能を終結させ、集合天才へスケールアップすること、パーパスを明確化し経営すること、変化に素早く対応するアジリティーを持つことが重要となる。

エイミー・エドモンドソン 専門:リーダーシップ、経営管理

 コロナ禍のような状況ではどんなに素晴らしいリーダーでも失敗するのは当たり前。問題になるのはどれだけ謙虚に状況に向き合い、透明性を持って情報を共有できるかどうか。

 目の前の利益を優先し、よい話ばかりしてしまうのは極めて人間的な行為で短期的には支持を受けることも多い。しかし長期的には率直に悪いニュースを伝え、過ちを認め、非難を受けることがプラスにつながる。

 不確実性の高まる世界を企業が生き抜くためには、全ての従業員の意見に耳を傾けることが重要。あらゆる社員からアイデアを吸い上げるには心理的な安全性がとても重要。構成メンバーが対人的なリスクを取り何を言っても許されると感じるとアイデアは出やすくなる。

 心理的安全性は3つの点で企業の業績に影響を与える。

・イノベーション創出

・品質管理と安全管理 

・不祥事やスキャンダルのリスク管理

 リーダの謙虚な姿勢と心理て安全性のある組織が不確実性の高まる社会でさらに重要度を増していく。

マイケル・タッシュマン 専門:経営管理、組織行動

 コロナ禍でどの企業も変革を迫られており、企業経営でも実験を繰り返すしかなく、両利きの経営の必要性が世界で再認識されている。

 コロナによるサプライチェーンの破壊のような大きく、非連続な変化に対応しなければならない場面は今後も増加すると考えられ、自己刷新を行うこと、変化に対応できる組織やシステムを構築することがリーダーには強く求められる。

 両利きの経営がうまくいくには経営者の情熱が不可欠。両利きの経営の本質は変化に直面しても、そこから学び、個人、チーム、企業が変化から学習し、自己刷新すること。

 

 

 

 

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