サピエンス全史(上)ユヴァル・ノア・ハラリ 河田書房新社 まとめ

本の概要

 サピエンスは人類種の中で唯一生き延びている種。なぜ他の人類種を圧倒できたのか。

 その大きな理由は言語の進化。柔軟な言語使用が社会性を強化し、協力できるようになったことで他の人類種を圧倒することができた。言語の進化は物事を想像し、集団で共有することを可能にした。

 虚構を大勢で信じることできることで、見ず知らずの人との協力が可能とり、大きな集団を作ることができるようになった。

 農業がはじまった後の人類は狩猟採集民に比べ幸せな生活をしていたというイメージが強いが、実際は労働時間の増加、偏った食生活、感染症などもあり、楽な生活ではなかった。

 一方、進化上の成功をDNAの複製回数とすれば、人口増という意味で農業革命は大きな成功といえる。しかし種としての成功と個々の幸福度のかい離が見られている。牛や豚などの家畜でも全く同じことが言える。

 虚構、神話を信じることは想像上の秩序を形成し、多人数での生活を可能にした。ヒエラルキー、人権、自由、幸福、民主主義、資本主義すべてが皆が神話を信じているから成り立っているに過ぎない。

 想像上の秩序によって人々は、人工的な本能を作り出した。この人工的な本能が文化と呼ばれる。

 サピエンスの文化の多様性は小さくなり、統一の方向に向かっている。統一を促した大きな要因は

  • 通貨
  • 帝国
  • 宗教

 の3つ。それらすべては神話にすぎず、神話を信じる力はサピエンスを統一させる方向にも働いている。

本の感想

 各所で話題となった作品。歴史の本のため文章は堅めですが、読みやすく面白くなっています。

 印象に残った一つ目がサピエンスが他の種を圧倒できた理由が虚構、神話を信じることができたからという主張。そう言われると不思議な気がしますが、世の中の制度や文化、主義のほとんどは虚構をみんなが信じているからに過ぎないことが書かれています。 

 通貨も宗教も民主主義も人権も自由、資本主義、全てが虚構を信じることで成り立っているのであれば確かにサピエンスの最大の特長が虚構を信じると言われても納得できます。

 虚構を信じることができたために、認知革命を起こし、他の種を圧倒し、農業革命を起こし人口を多くく増やし、文化の統一に進んでいく。

 もう一つは種としての繁栄=DNAの複製回数=人口増と個人の満足度は別物という主張。農業を伴う定住と都市化は狩猟採集と比較して生活の質が落ちていたというのは知らない部分でした。

 人類の場合は、現代での発展があるのでそれでも、幸福といえるかもしれません。しかし、牛や豚などの家畜を考えてみると確かに種として繁栄=満足度が完全に別物であるのは明らかですね。

 歴史を学ぶことの面白さはいろいろあるのでしょうが、どんなことが起きたのか、なぜ起きたのかが面白く分かりやすく書かれているので読みやすい

本で学べること

  • サピエンスはなぜ他の種を圧倒することができたのか
  • 言語、農業、通貨、帝国など人類の躍進を支えた事柄が虚構を信じるという能力に依存している

第一部 認知革命 第1章 唯一生き延びた人類種

 サピエンスは人類という種の中で唯一生き延びている。第1章ではどのようにしてサピエンスが生き延びたかが書かれている。

 200万年前から1万年前ごろまで世界にはいくつかの人類種が存在していた。一万年前からサピエンスは雄一の人類になったため、ヒトとそれ以外の動物とには大きな隔たりがあると思いがちだが実際はただの動物の一種。

 大きな脳、火の利用などはサピエンス以外の人類でも見られていた。では、なぜサピエンスは他の種を圧倒できたのか?何よりもその言語が理由考えられる。

第2章 虚構が協力を可能にした

 7年前から3万年前にかけてサピエンスは、新しい思考と意思疎通を始めた。この認知革命によって他の人類を圧倒することとなる。

 第2章では認知革命とはなにか、そして、なぜ認知革命がサピエンスの躍進に重要であったかかが書かれている。

 多くの動物が、言語を持っている。しかしサピエンスの言語は、極めて柔軟に使用できる、噂話をできるように進化した。噂話は社会性を高め、集団を形成するのに非常に役に立つ。

 言語が進化し、認知革命が起きると存在しない、虚構についても語ることのできるようになった。

 虚構のおかげで、物事を想像し、集団で共有することが可能となった。虚構により大勢で柔軟に協力することができるようになった。

 噂話の力を借りても、顔見知り150人ほどの集団を形成することしかできないが、虚構は見ず知らずの人と集団を形成することができる。

 虚構は現実以外のすべてが含まれる。宗教、会社などのあらゆる組織はすべて虚構によって生まれた。

 虚構の誕生によってサピエンスは社会構造や経済活動などを素早く変えることもできるようになった。これにより変化への適応が容易になった。

 虚構による多人数の協力、変化への適応がサピエンスの躍進の原因となった。

第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし

 第3章では認知革命後、狩猟採集民がどのように暮らしているかについて書かれている。

 我々は狩猟採集民だった時代が長かったため、社会的特徴や心理的特徴はこの時代に形成されたと言われている。我々が高カロリーなものを好むのも食料の少なかったこの時代の名残。

 狩猟採集民は危険も多かったものの多様な食生活、短い労働時間、人口密度の低さによる感染症の少なさなど農耕時代と比較して健康的であったことがわかっている。

 一方で石器などの遺物しかないため、どのような思考かやどのような社会、政治的環境かを知ることは難しい。

 そのため、当時のサピエンスは何もしなかったとされることもあるが、実際に多くのことを行っている。狩猟採集民は地球の生態環境に大きな影響を与えていた。

第4章 史上最も危険な種

第4章では認知革命によって生息地を広げた人類が他の動物に与えた影響について書かれている。

 認知革命以前の人類はアフリカとユーラシア大陸で暮らしていた。認知革命によって海を渡るために必要な技術、組織力を獲得し、オーストラリアやアメリカ大陸に渡るとことにも成功した。

 人類が進出した場所では多くの大型動物が絶滅している。気候変動では説明がつかない部分が多くサピエンスの進出が関与している。

第2部 農業革命 第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇

 第5章では、約1万年前に始まった農業がサピエンスをどのように変えたかについて書かれている。

 農業によって狩猟採集民より良い生活をしていたというイメージがあるが、実際には異なっていた。

 従来、雑食の人類にとって、小麦などわずかな種のみを育て、食べることは栄養の偏りを生んだ。

 労働時間も増え、大勢で生活するため感染症による死者も増えていた。

 人口は増えたが、生活は決して楽にならなかった。それでも農業革命が止まらなかったのは、一度増えた人口を支えるために狩猟採集民には戻れなかったため。 

 農業革命で進化上の成功=人口増(DNAの複製増加)と個々の苦しみのかい離が起きた。

 牛、鳥、豚、羊なども家畜化したことで進化上の成功をおさめたが、それが個々の満足につながっているとは思えない。

第6章 神話による社会の拡大

 第6章では農業革命によって密集して暮らすようになった人々にどのような変化が起きたかが書かれている。狩猟採集民のDNAは都市のような密集した状態での暮らしにはあっていない。農業革命によって引き起こされた変化に人類は神話を信じることで対応していった。

 農業革命により人々は

  • 未来を念頭に置く必要性が大きく増加した
  • 都市化が進み密集して暮らすようになった

 このような変化に人々は様々な特定の神話を信じることで「想像上の秩序」を形成することで適応していった。

 ヒエラルキー、人権、自由、幸福、民主主義、資本主義などもすべて、みなが神話を信じているに過ぎない。

第7章 書記体系の発明

 第7章では秩序の維持、情報量の増加に対応するために作った書さ記体系=記号を使った情報の保存法がコミュニティをどのように広げていったかが書かれてる。

 アリやハチ等の種では大きな社会を安定して作っている。これは社会を維持する情報の大半がDNAに組み込まれているため。

 それに対し、サピエンスの秩序は想像上のものなため、秩序維持には大きな努力が必要。

 さらには農業革命後複雑な社会では数の情報を取り扱う必要が出てきた。

 この二つの制約により農業革命後何千年も人間のネットワークは比較的小さいままだった。

 この問題を解決したのが、記号を使い情報を保存する=書記の発明だった。

 記号を使うことで人間の脳の記憶容量やDNA鎖がコードできるよりも多くのデータを保存することができるようになった。

第8章 想像上のヒエラルキーと差別

 第8章では、想像上のものでしかないヒエラルキーがなぜ秩序の形成に役立つのかが書かれている。

 想像上の秩序は多くの人にとって、公平でも中立でもなかった。架空の集団、上層と下層に分けられていった。

 自由人と奴隷、黒人と白人、富めるものと貧しいものこのような区別はすべて虚構に根差している。

 これら想像上の区別によって一部の人を法的、社会的、政治的に優位にすることで秩序を生み出してきた。優位にたった人は形成したヒエラルキーを想像上ではなく、自然で必然なものと扱うことで確固たるものとすることで秩序を保ってきた。

 男性は女性に比べほぼすべての文化で高い地位を得てきた。女性と男性に生物学的な違いは確かにあるが、それだけでは説明がつかない部分もある。にもかかわらず、独立したほとんどの文化が家父長制となっていたのか。これも神話に基づいているのであれば、どうやって説明できるのかわからない。

第3部 人類の統一 第9章 統一へ向かう世界 

 第9章では文化が常に変化し、統一に向かっていることが書かれている。

 神話と虚構により人々は特定の方法で考え、標準に従って行動するようになった。彼らは人工的な本能を生み出し、見ず知らずの人と協力できるようになった。この人工的な本能のネットワークを「文化」と呼ぶ。

 文化は不変ではなく、その価値観、信念はたえず変化している。他の文化から影響を受けていない純正な文化は存在しない。

 文化は大きな視点で見ると統一へ向かっている。サピエンスのみが持つ見ず知らずの人と協力できる特徴がこの文化の統一を可能にしている。

第10章 最強の征服者 硬貨

  文化を統一に向かわせている要因の一つである硬貨。第10章では硬貨が文化の統一にどのように機能したかが書かれている。

 小さなコミュニティでは物々交換、恩恵と義務で経済は十分機能するが、見ず知らずの人との経済活動の基盤にはならない。

 他のものの価値を体系的に表すことのできる貨幣は素早く価値比較し、交換を可能にした。貨幣の貢献で複雑な商業ネットワークと活発な市場が出現することができた。

 貨幣も想像上の信頼で成り立っている。なぜ貨幣の価値を信頼するかといえばみんなが貨幣の価値を信じているから。

第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン

 貨幣の存在は人々の名誉、忠誠、道徳心をも市場に取り込んできた。常に市場は拡大してきたが、人類が統一が経済活動のみでなされれたわけではない。

 第11章では人類の統一のもう一つの要因である帝国について書かれている。

 帝国は異なるアイデンティティと独立した領土をもつ多数の民族を支配し、その境界を常に広げようとする国家のこと。過去2500年で人類のほとんどは帝国で暮らしてきた。

 多数の小さな文化を大きな文化ににまとめる過程で帝国が決定的な役割を果たしてきた。

 帝国は多数の民族を残酷に支配して来た。だが支配によって生まれた余剰が芸術、建築、哲学など多くの文化的業績を生み出している。

 帝国は文化のるつぼとなり、文化は徐々に融合し人類を統一の方向に導いた。

 帝国を悪とするのは簡単だが、帝国主義の遺産(民主主義、英語、鉄道網、法制度など)を廃止したい人がいないようにその恩恵も充分にある。

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