サピエンス全史(下) ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新書 まとめ

本の概要

 人類は虚構を信じることで他の種を圧倒することができた。人類の信じる虚構は幅広い範囲に及んでいおり、虚構によって文化を統一させる方向に動いている。

 宗教もその一つ。神という超人的な存在を用いることで、想像でしかない秩序を正当化することができる。

 またイデオロギーも宗教と変わらない虚構。神ではなくサピエンス至上主義に基づく信仰に過ぎない。

 西暦1000年と1500年の世界は大きく違わなかった。一方、同じ500年でも1500年と2000年の差は凄まじく大きい。この差を生み出していたのが科学革命。

 科学革命は無知を認めたこと、人間が進歩できると考えたことで大きく発展した。科学によって新しい技術が発見されればそこにお金が集まり、さらに技術が進歩する正のフィールドバックループが起こるようになった。

 近代以前、経済の規模は長い間変わらなかった。しかし、信用による取引=将来発生するであろう財をお金に変える(融資など)が起こると経済の規模が大きくなった。

 科学革命で人類が進歩可能であることが、認知されると将来に期待をよせるようになり、信用による取引が起こり、経済が大きくなった。

 科学技術が経済が大きくなった際の投資先を作り続けることで、さらに経済は大きくなってきた。

 このループは産業革命でさらに加速する。人類はこれまでの飢餓と欠乏状態から消費主義へと変化し経済のパイはさらに大きくなっている。

 経済の発展は物質的な改善の代わりに家族や地域のコミュニティの力を弱めた。個人の力を国家が守るため、女性や子供の地位向上にもつながった。

 一方でコミュニティの崩壊は人々に孤独を感じさせるなどのマイナスもあり、人類の幸福にどう影響したかはわからない。

 そもそも歴史上の変化が人々の幸福にどう影響したかを研究は少ないため、不明な部分も多く人類の歴史理解の欠点となっている。

本の感想

 下巻では、宗教がどのように人類を統一に導いたのか、その後の科学技術、資本主義がどのように発生しどんな影響があったかについて書かれています。

 印象に残った部分は、科学技術の発展が無知を認め、将来が今よりも良くなると信じたことという部分でした。中世ヨーロッパではキリスト教の影響で科学が発展しなかったというのは聞いたことがありましたが、それがなぜかがわかり面白かったです。

 世界で知られていないこと=重要でないと考えていた

 世界は良くなることはなく、悪くなっていく考えていた

 というのはなかなか信じられませんよね。現代では回顧主義の人は後者にあたるかもしれませんが、前者のように考える人はいないですよね。

 もう一つは世界の人口が増えても一人当たりの生産量が増えていないという部分でした。

 信用による融資が経済のパイを大きくすることに欠かせないということがよく分かります。ここでも進歩主義が重要となっていて、人間の考え方を変えるだけで大きく文化が変わることがわかります。

 明日は今日よりよいというものと思うことも、結局は虚構を信じる力がなければ成り立たないので、いかに虚構を信じることが人間を変化させてきたかがよくわかりました。

本で学べること

  • 宗教、資本主義、科学革命がなぜはじまったのか
  • これらが始まったことで人類にどんな変化が起きたか
  • 人類を統一させる動きは人類を幸せにしたのか?

第12章 宗教という超人間的秩序

 12章では、人類を統一に向かわせるもう一つの要素である宗教について書かれている。神を信じるものだけでなく、イデオロギーと呼ばれるものもすべて宗教の一種。

 今日では宗教は、差別や意見の相違の根源とみなされているが、宗教も人類を統一する要素の一つ。

 神という超人的な存在を用いることで、想像でしかない秩序を正当化することができる。

 アニミズムなどの初期の宗教は、局所的で統一に向かう動きとは無縁だった。その後、多神教が生まれた。多神教の信者の一部が特定の守護神を強く信仰するようになり、一神教が生まれていった。

 過去300年で宗教の重大性は失われてきた。ただし、それは有神論の宗教に限られる。自由主義、共産主義、資本主義などはイデオロギーと呼ばれるが、超人的な秩序の信奉に基づく、人間の規範や価値観の体系であれば宗教と呼ばれるもの。

 イデオロギーと呼ばれるものは、神ではなく、サピエンス至上主義に基づく信仰といえる。

第13章 歴史の必然と謎めいた選択

 第13章では、歴史の選択について書かれている

 歴史の流れは決定論で説明することはできないし、人類の利益のために歴史の選択が起きるわけではない。例えば、白人種やキリスト教が権力をもったことは、必然でもなく人類のために有望だったためだったからでもない。

第4部 科学革命 第14章 無知の発見と近代科学の成立

 第14章では、近代の人類に発展の要因、科学革命について書かれている。無知を認めることで発達し、資金を集めることで革命が起こった。

 西暦1000年と1500年の世界は大きく違わなかった。一方、同じ500年でも1500年と2000年の差は凄まじく大きい。この差を生み出していたのが科学革命。

 近代以前、知識の伝統は有神論に基づく宗教で、世界について知る重要な事柄はすべて知られていると主張していた。近代科学は無知を認めることで、柔軟で探求的になり、発展していった。

 科学革命以前、人類の文化は進歩を信じていなかった。黄金時代は過去にあり、世界は衰退、停滞していると考えていた。

 近代科学が目標を達成することがわかると、資金が集まるようになり、技術は発展し金銭を生み出し。さらに資金が集まる。この正のフィールドバックによって科学革命が進んでいった。

第15章 科学と帝国の融合

 第15章ではなぜ、科学革命はヨーロッパの帝国で起きたのか、そしてヨーロッパの帝国にとって科学がどのような意味を持っていたのかが書かれている。

 ヨーロッパが世界の権力の中心になったのは、1750年以降のこと。それまでアジアが経済の大半を担っていたが、徐々にヨーロッパ経済が拡大していく。

 ヨーロッパの躍進はテクノロジーの違いではなく、探検して征服したいというあくなき野心によるところが大きい。

 科学者は帝国主義に実用的な知識と新しい知識を得ることは良いことだという、イデオロギーでの正当性を与えた。

第16章 拡大するパイという資本主義のマジック

 第16章では、科学革命と資本主義の関係について書かれている。どうして経済の規模が大きくなってきたのかについて書かれている。

 歴史の大半を通じて経済の規模はほぼ同じままだった。人口が増えても、一人当たりの生産量はほとんど変化しなかった。

 その大きな理由は近代以前は「信用」による取引がなかったため。事業を始めるには必要な金銭をあらかじめ持っている必要があった。事業に融資=将来発生するであろう財をお金に変えることができなったため、経済規模の拡大は人数の増加以外では見られなかった。

 信用による取引がなかったのは、世界のパイが変わらなかったため。今日のパイと未来のパイが変わらないのであれば、信用取引は起こりずらい。

 科学革命によって進歩の考えから、将来に信頼を寄せるようになったため、利益を生産に再投資することで経済のパイを大きくすることが出きるようになった。再投資の仕組みこそが資本主義の本質。

 科学によって見つかった新しい価値、技術に投資し、新しい市場ができてパイが大きくなる。この流れで経済は大きくなり続けてきた。

第17章 産業の推進力

 第17章では、経済の発展に必要なエネルギーと原材料、そして需要をどう生み出したかが書かれている。

 経済の発展には未来への信頼と再投資が必要だが、それだけでは十分でない。エネルギーと原材料がなければ、システムが崩壊してしまう。

 それでも産業革命後、エネルギー変換(蒸気機関、内燃機関、電気など)は進化し続けた原材料についても新しい調達場所を見つけたり、新しい原材料を発見してきた。

 産業革命で人類の生産性は爆発し、供給量は大幅に増加した。人類はそれまで飢餓と欠乏状態で生きて生きた(宗教でも倹約な倫理観を持つもの多い)が、消費主義を取りいえることで需要も増加していく。この組み合わせで経済のパイは大きくなっていった。

第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和

 第18章では、国家と市場経済は個人の力を強めた結果何が起こったかが書かれている。

 産業革命は人間社会に大きな変化をもたらした。正確な時間、都市化、庶民の地位向上、民主化など様々。

 最も重大な社会変化は家族と地域のコミュニティが崩壊し、国家と市場が台頭したこと。

 国家と市場は強大化する力でコミュニティの力を弱めた。家族による復讐を禁じ、警察官と再残暑が変わりとなった。国家と市場が守ってくれるため個人はコミュニティを離れても生きていくことができるようになった。個人の力が強くなり女性や子供も個人として認められるようになった。

 国家の台頭は暴力を減らし、国家間の結びつきが強くなることで戦争を採算が悪くなり、平和からこれまでにない利益が上がるようになった。

第19章 文明と人間を幸せにしたのか

 第19章では、文明の発展が人間を幸せにしたのか、また幸福に影響を与えるものが何なのかについても書かれている。

 過去500年で人類は単一に統合され、経済は大きな成長を遂げ豊かさを享受している。

 しかし、それらが私たちを以前よりも幸福にしたかを研究した例は少ない。

 富は確かに幸福度に影響与えるが、一定を超えると上昇は小さくなる。また、コミュニティとの関係性は富よりも大きな影響を与える。

 20世紀の物質面における状況改善は、家族やコミュニティの崩壊で相殺された可能性も有る。

 しかし最も大きいのは客観的な状況(富やコミュニティ)ではなく、主観的な期待と実際の差。期待通りであれば幸福を感じ、期待を裏切られば、以前より良くなったとしても幸福を感じにくい。

 仏教では外的要因だけでなく、内面の特定の感情を追い求めることをやめることが幸福につながるとしている。

 歴史上のことがらが人々の幸福にどう影響したかについてはあまり語られておらず、人類の歴史理解の最大の欠陥といえる。 

第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ

 第20章では、遺伝子工学をはじめとする科学技術の発展がもたらすものについて書かれている。

 これまでのサピエンスは生物学的な限界を突破することは出来なかった。しかし遺伝子工学を用いれば自然選択の法則に反するようなことも可能となる

 さらにはマンモスのような絶滅した動物やネアンデルタール人の復活も可能となる。サピエンスに対して遺伝子工学を行えば、サピエンスとは違う種へと進化していく可能性すらある。

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