シンクタンクとは何か 船橋洋一 中公新書 まとめ

概要

 筆者は米国の新タンクに勤務した経験を活かし、日本でシンクタンクを設立している。日本には独立したシンクタンクが少なく、政府とは違う視点で福島の事故を調査するために設立した。

 筆者がシンクタンクを運営する中で、シンクタンクの持つ政策起業力の影響力や現在シンクタンクが歴史的な転換期に差し掛かっていることを実感している。その中での体験や感想をもとに書かれた本である。

シンクタンクとは

 公共政策の在り方を的確なデータに基づいて検証、分析し新しいアイディアと政策を探求する組織。戦争、恐慌、事故などの社会の危機や悲劇をきっかけに人々は既存の体制やルールに疑問を抱き、政府の政策や規制への代案を求める。シンクタンクはそうした要求に応えるために生まれてきた。

 アカデミックな研究成果をいかに公共政策に結び付けるかが使命となる。

 公共政策のアイディアを思いつき、政治プロセスとメディアを通じて実現することになるため、一般市民に対する啓蒙活動も重要な仕事となる。

 行動を重視するシンクタンクはドゥータンクとも呼ばれる。

 営利か非営利か、特定の政治理念の立場から政策立案を行う唱導型、と中立な中立型に分けられる。

他の組織との違い

 コンサルや大学もシンクタンクの機能を持ち始めている。シンクタンクには調査研究を重視するか具体的な行動を重視するか、研究課題を自発的に決める(自律性)か発注元の意向を汲んで行う(応答性)かで立ち位置がきまる。

 コンサルは応答性が強く、大学は研究を重視する傾向にある。シンクタンクは自律的に調査を行い、その結果を政策に生かすことに重点を置いている。

シンクタンクが果たしてきた役割

 シンクタンクは行政分野の拡大でより専門的な知識が必要となり、その知識を与えてきた。アメリカでは政権交代が起こると新政権で政策のプロが3~4000人のレベルで必要となり、その需要に応えてきた また、政権を去る人がシンクタンクで勤務することも多く、このような回転ドアの仕組みによって、研究成果を政策に直接活かすことができる。

 政府への意見を行うこともあり、市民への啓蒙活動を行ってきた。安全保障や外交などの知識、情報を市民に伝えることも大きな役割になる。

現在のシンクタンク

 トランプ政権はエリート層を敵視することで支持を集めており、シンクタンクもその標的となり
政権内のシンクタンク出身者は少ない。シンクタンクの政党色が強くなり、独立性が失われている傾向もある。また短期の事柄のみに傾斜し、長期的な問題から目を背ける傾向も強まっている。

 中国は経済力、軍事力での存在感は増しているが、中国の公共理念や政策、アイディアは世界的に認められていない。中国側もソフトパワーの弱さを認識しており、シンクタンクの発展に力を入れている。しかし、共産党の政策に反対することが難しく、独立性に難がある場合が多い。

 中国やロシアは欧米のシンクタンクに資金を提供するなどして、自国に都合に悪い人物のフェイクニュースを流し、失脚させるなどの動きを取ることもある。

日本のシンクタンクの現状

 日本のシンクタンクは数、影響力ともに小さく、独立性のあるシンクタンクも少ない。公共政策の在り方を情報とデータに基づいて検証、分析し政策を探求、実現する意思、能力が低い状態。

 民主党政権がすぐに崩れてしまった理由は様々だが、政権交代時のマニュフェストが財政の裏付けがなく実現不可能であったことが大きな理由のひとつ。

 優れたシンクタンクと連携してしておけば、マニュフェストの妥当性を発表前に検討することが可能だった。

なぜ日本ではシンクタンクが発達しないのか

 日本でシンクタンクが発達しない理由の一つは官僚が政策を検討し、決定してきたため。これまでは海外の政策の輸入で成長可能だったが、これからは自ら新しい政策を検討していく必要がある。しかし官僚組織は硬直性、縦割り性、専門性の低さなどから対応は難しい。

 政策の評価を国民に分かりやすく伝え、国民の声を政策に反映する橋渡し役もシンクタンクが果たすべき役割。霞が関が独占してきた公共政策と公共性の追及を民間にも開かれたものにしていくことが必要でシンクタンクの重要性はこれまで以上に増していく。

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