ジャンクDNA ネッサ・キャリー 丸善出版 まとめ

本の概要

 DNA自体は体内で何もしていないが、作り出すタンパク質が、生物を特徴つける全ての活動(呼吸、摂食、老廃物の排出、生殖等)に不可欠な役割を果たしている

 そのため20世紀の科学者は遺伝子をタンパク質をコードするDNA配列と定義した

 しかし、ヒトゲノムの解析結果ではゲノムの98%はタンパク質をコードしていない 

 なぜ多くの領域がタンパク質をコードしていないのか説明できず、ジャンクDNAという言葉で片付けられてきた

 タンパク質をコードする遺伝子の数は他の生物と変わらず、人の複雑さを説明できなかった 一方で生物がより高等になるほど、ジャンクDNAの割合が大きくなることがわかっている

 ジャンクDNAは実際何をしているのかを研究すると、数え切れないほど多岐に渡る機能をはたしていることが明らかになってきている

 特に遺伝子の発現の制御(発現を抑制したり、促進する)にジャンクDNAは極めて重要な役割をしている

ジャンクDNA とは

 DNAの内タンパク質をコードしていない領域 

 ヒトゲノムの約40%は外から来たDNAに由来する部分 外来因子はそれ自身はタンパク質をコードしないがコードする遺伝子の発現に影響する

ジャンクDNAの重要性

 ヒトゲノムの解読終了後も、遺伝子変異による病気の有効な治療法が次々に見つかるような状況にはならず、人類の複雑性もタンパク質をコードする遺伝子では説明できなかった

 タンパク質をコードする遺伝子の数も種類も他の多くの生物と差異が少なかった

 一方で、人類のタンパク質をコードしていない領域=ジャンクDNAの量は他の生物に比べ非常に大きかった

 これほど多くのジャンクDNAを持ち、子孫に伝えた以上大きな利点があると考えられるようになった

ジャンクDNAの役割

 ジャンクDNAの役割は多岐に渡っている

 1.ゲノムの損傷を防ぐ

 重要なタンパク質をコード部分を守るために重要でない領域を持つことで、重要な部分に損傷を受ける可能性を減らせるというもの(=インスレーション)

 2.染色体末端の結合防止

 染色体はダメージを受けて切断されても、すぐにつなぎ合わされ、修復される仕組みを持っている 

 染色体の末端が切断された染色体と結合されると間違った形になってしまう そのため染色体の末端はテロメアと呼ばれる構造を持ち、他の染色体とつながれない仕組みになっている このテロメア自体がジャンクDNA

 テロメアは細胞分裂の際に少しづつ短くなり最終的に分裂を止めてしまう テロメアがなるべく短くならないようにする仕組みも、タンパク質をコードしないRNAによって制御されている

 3.遺伝子の発現の調整

 ジャンクDNAはタンパク質をコードする遺伝子の発現制御(エピジェネティクス)に大きな影響を与えている 

  体内のすべての細胞は同じ遺伝コードだが、場所によって適切な遺伝情報を使い分けているに過ぎない この適切な遺伝情報の使い分けをジャンクDNAが行っている

 例えば、女性はX染色体を二本、男性はXとY染色体を一本づつ持っていて、女性は片方のX染色体の遺伝子発現を抑える必要がある 

 この抑制をしているのは、Xistと呼ばれる遺伝子部分 Xistもまたタンパク質をコードしない遺伝子

 他にも様々な方法でジャンクDNAはエピジェネティクスをコントロールしている

ジャンクDNA研究

 ジャンクDNA領域の重要性がわかると、創薬の分野でタンパク質コードしないRNAを薬として利用しようという試みが始まっている

 ジャンクRNAを投与し遺伝子の発現に影響を与えて、治療を行おうとしている 特定の遺伝子のON/OFFをコントロール出来ればこれまでの薬とは違ったアプローチが可能になる

 正しい組織にジャンクRNAを届けるのが難しい点が大きな難点ではあるが、研究が進んでいる

 

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