チャイナテック 中国デジタル革命の衝撃 WEILIN ZHAO 東洋経済新報社 要約

中国は世界の工場からデジタル経済へシフトしようとしている

 21世紀に入り、中国が世界の工場として驚異的な経済成長をとげ、2010年にはGDPで世界第2位となった。しかし、成長を支えてきた大量投資と輸出主導の経済モデルが生きづまり、経済成長に陰りが見え始めている。

 その状況から脱するために、イノベーションによる発展、特にデジタルエコノミーを新たな成長エンジンとして位置づけデジタル技術の開発と社会実装によって、質の成長を実現しようとしている。その発展の原動力がチャイナテック=中国のテック企業となる。

 本書は手放しの称賛や感情的な批判でなく、客観的にチャイナテックを見ることが重要になる中で、デジタル技術の開発や社会基盤を担うチャイナテック企業の実相に迫っていく。

イノベーションを新たな経済成長のエンジンとするため、様々な布石を打ってきた

 5G通信網で先行した中国が主導権でアメリカと火花を散らし、コロナウイルスとの戦いでも中国内では多くのデジタル技術で世界を驚かせている。

 アマゾンの登場が町の書店に大きな影響を与えたように、経済のデジタル化は私たちの行動や生活様式、社会経済に大きな影響を与える。既存ビジネスの破壊を招く一方で、UberやAirbnbのように既存のモノやサービスに新たな価値を与え、経済拡大の可能性を秘めているため、世界各国がデジタルエコノミーの進展にしのぎを削っている。

 中国は世界の工場と呼ばれ、驚異的な経済成長を遂げていたさなか、イノベーションを新たな経済成長のエンジンとするため布石を打っていた。研究開発費率の向上、特許の登録や論文の引用回数、経済成長に対する技術進歩の付与率などで目標を立ててきた。その結果もあり、チャイナテックはデジタルエコノミーのトップランナーとなっている。

民間企業の台頭でデジタル分野でアメリカ一極を崩した

 中国政府は経済政策において、グランドデザイン(中央政府による長期的な成長戦略や推進、規制政策)と地域間競争、民間活用を重視し、高度成長を実現させたが、この方針は今も受け継がれて、チャイナテックの源泉になっている。

 特に民間活用の効力が大きく、GAFAをはじめとしてアメリカに独占されていたデジタル分野でのアメリカ1極集中を米中の2極化に変化させた。

 中国政府による外国企業の禁止の影響が中国企業を保護し、成長を後押ししているとの声もあるが、筆者は要因に一つにすぎず、本質は国内での熾烈な競争や巨大な市場にあるとしている。

 Googleの撤退時、同じ検索エンジンの百度はGoogle以上のシャアを持っており、Amazoneも中国企業との競争に敗れている。

 デジタルサービスは多くの人が使えば使うほど、利便性や利益が高まるためネットワークの価値は利用者数に比例する部分がある。そのため人口が多く、国内で多くのユーザーを持つ点も優位に働いた。

 また、ある技術やサービスに関して未熟な社会が最新の技術を取り入れると、発展段階を飛び越え、最先端に達することがある。このようなリープフロッグと呼ばれる現象によって、社会インフラが未成熟な中国は一挙にデジタル化が進行したことも要因の一つになった。

デジタルエコノミーの牽引のキーワードはABCD5G

 中国はデジタルライフが浸透しており、人々の消費生活はすでに高度にデジタル化されている。次の目標は行政や産業などにもデジタル化を広げることで、中国政府の成長戦略の基軸にもなっている。

 その牽引役としてに力を入れるのがAI、ブロックチェーン、クラウド、ビッグデータ、5G、の5つであり、ABCD5Gをキーワードに関連産業の育成や市場拡大を狙っている。

 従来の問屋や小売りのような仲介業者を通さずに事業者が直接消費者に販売するD2Cと呼ばれるビジネスが登場している。中国ではさらにC2Mと呼ばれるビジネスモデルが注目されている。

 C2Mは消費者(Customer)から 製造者(Manufacture)へという言葉の通り、消費者のニーズをプラットフォーム企業が把握し、製造者へとつなげるもの。消費者ニーズを起点にする点がD2Cと異なる点で、消費者のニーズを知るためにビッグデータが大きな役割を果たしている。

 製造者側にもOEMメーカーなどのブランド力の無い企業でも人気をることができる利点があるが、多様なニーズにこたえるための柔軟な製造システム、受注、生産、流通の工程でのデジタル化が前提条件となる。人件費の高騰と生産年齢人口の減少への対応のためにロボットなどによるスマート製造も検討されている。

規制の緩さ、データの豊富さがAI研究を後押ししている

 中国は国を挙げて、AI技術の開発に取り組み、AI大国に躍り出ている。スマート社会に欠かせないテクノロジーであるとの認識の高まりと個人情報の収集と活用に対する規制が緩いこともあるため、データが豊富である点などからAI技術が大きく発展している。

 AI分野では国が民間企業に認定を与えることで、開発が効率的に行えるようにしている。その半面、オープンソースを義務化し、同じ分野への進出ハードルを下げ、エコシステムを拡大する効果を期待している。

 自動運転は百度、都市の機能管理はアリババ、医療画像解析はテンセント、音声システムはアイフライテック,画像認識はセンスタイムが認定されている。大手以外のICT企業のAI参入も活発で更なる成長が期待されている。

デジタル人民で元で世界の基軸通貨になることが中国政府の目標

世界中でキャッシュレス決済が増加しているが,中国のデジタルエコノミーを牽引する存在になっている。家計消費の成長に対するキャッシュレス決済の付与率は16%点されおり,利便性だけでなく消費活動を促すことも明らかになっている。

 キャッシュレス決済の普及は,リープフロッグ現象だけでなく,当局が普及を促したこと,偽札横行など様々な要因がある。

中国政府の最終的な目的は,デジタル人民元を発行し,米ドルのように世界の基軸通貨となること。

ブロックチェーンの特許数ではアメリカもリードしている

ブロックチェーンが仮想通貨の基幹技術以外でもその情報が改竄できないという特徴から,決済や送金,金融,さらにはトレーサビリティのも優れるため流通,物流,医療での活用が期待されている。

中国政府も銀行の融資の効率化,信頼性向上の期待から開発をに力を入れている。ブロックチェーンに関わる特許は世界の50%を取得しており25%のアメリカを大きくリードしている。

5Gは社会全体を変えるものと考えられ力を入れている

中国では4Gは生活を変えたが,5Gは社会全体を変えるものと考えられており,5Gへの移行で大量のデータ通信を必要とするスマート社会の実現が現実的になる。

基地局整備は他国を上回るスピードで進み,5G先進国となっている。ARや同時接続を利用したエンターテイメント,遠隔医療,自動運転,工場のスマート化など多くの分野での活用が期待でき,経済効果も大きい。情報通信分野はファーストムーバが優位性を発揮しやすい傾向があるため,企業間,国家間で激しい競争が行われている。

ABCD5G普及のために実験特区を設けて実証実験が行われている。

多くのプラットフォーム企業がBATHに続いて注目されている

バイドゥ、アリババ,テンセント,ファーフェイの頭文字をとったBATHはGAFAと比較されることも多い。中国ではそれに続くTMDPと称される次世代プラットフォーマーも注目されている。

Tはティックトックとニュースアプリを提供するバイトダンス社,Mは出前アプリのメイトゥアン,とスマートフォンメーカーのシャオミ,Dはライドシェアのディディチューシン,Pは上海の新興企業が運営するECサイトPDDを現しており,高い人気を博している。

 バイドゥ、アリババ、テンセントはネット人口の頭打ちや新興企業の台頭に対抗するために、豊富なユーザー数とそれに伴う膨大なデータを利用した事業領域の拡大を図っている。

 ファーフェイに対するアメリカの制裁は5G技術での実力がアメリカは恐れるほどであるということ。アメリカ製の部品が調達できなくなったことで内製化を進めているが、逆境を乗り越えることができるか正念場を迎えている。

ネットワーク効果の大きいビジネスでは一人勝ちが起こりやすい

 インターネットビジネスでは、利用者が増えれば増えるほど利便性が増すネットワーク効果が働きやすい。そのため各社がユーザーの拡大と囲い込みを行っている。

 こうしたエコシステムではプラットフォーム企業は巨大化し、一人勝ちしやすくなる。GAFAはその典型で市場の独占に成功している。市場独占やセキュリティの問題からGAFAに対する規制を強める動きも広がっている。

 中国のテック企業は経済成長、巨大な国内市場、国内企業に有利な規制を活かし成長してきた。その結果アリババやテンセントも巨大化し市場を独占するようになった。適切な規制の必要性を感じながら雇用や消費に貢献するプラットフォーマーを中国政府も規制を強化すべきかジレンマに直面している。

 デジタル経済での富の源泉はモノではなくデータとなる。データの価値に対する認識は高まっているが、一方でデータの蓄積と利用とプライバシー侵害への懸念が高まっている。

 中国ではこれまで、緩いデータ保護規制のまま技術が発展し、データを蓄積し、データを基に様々なサービスに活用されてきたが、個人情報保護の意識は高まっている。一方で画像認識の進化によって防犯カメラでの顔認証の利用での防犯などテクノロジーの力による問題解決への期待も高まっている。

 中国は元来コネを大事にする文化であることに加え、信用評価する仕組みが少なくコネに頼らざるを得ない部分があった。近年アリババなどの持つ個人データを基に個人の信用評価業務への進出が認められている。

 融資の返済履歴や決済の履歴、ECサイトやシェアリングサービスの利用履歴をもとに個人の信用状況を分析する試みも行われている。

 中国は1987年に改革開放で市場経済へ舵をきり、高度成長を実現してきた。今後も人口14億の巨大マーケットをどこまで国外に開放するか最善策を模索しながら、開放を進めていくと考えられる。外資に対する規制を緩めており動きは今後も進むものと思われる。

中国は国外への進出を狙っているが、逆風もある

 日中の経済関係は順風満帆ではなく、政治が影を落とし、投資額も増減を繰り返してきた。脱中国の動きも見えるが、中国からの撤退や他地域への移転を考える日本企業は10%程度とさほど多くない。 

 中国の国外への投資やサービス業の国外進出も増加している。これまではインドや東南アジアが多かったが、欧州や日本などの先進国やアフリカへの進出がトレンドとなっている。

 中国も国内市場が飽和する中でマーケットが成熟し、世界進出へ向け消費者の目が厳しい日本は企業の実力を測るうってつけの市場となっている。

 中国の国外進出最大の課題は政治的な影響、米中対立だけでなく、インドで反中感情が高まっており、国外進出への逆風が吹いており、日本に今後も目が向く可能性は高い。日中では国民性や気質、考え方が違うからこそ相互補完的な関係を活かしながら、新しい局面を切り開くことができる可能性を秘めている。

 

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