デジタルで読む脳×紙の本で読む脳 メアリアン・ウルフ インターシフト 要約

デジタルでの読字は集中力を減らしてしまう デジタルの便利さをあきらめるわけではないが、アナログとの違いを知ることが重要

 読字のプロセスは他の生物にないもので、人類も誕生時から字を読めたわけではない。読字は人類の脳に新たな回路を加え、その構造を変化させてきた。

 現代では、スクリーンで文字を読むことが増え、読むことへの集中力が減っていることを実感している人も多いはず。
 

しかしデジタルを遠ざけるのではその良さを生かすこともできないため両方を使い分け読むことが重要となる。

 読字の時の脳の働きや、デジタルとアナログでの脳の動きの違いを見て、それぞれの特徴をつかむことは、今後欠かせないデジタルと紙の両方を読む能力(バイリテラシー)を育てるためにも必要である。

読字は遺伝子によってではなく、脳内に新しい回路を作ることで可能になり、その回路は大きな利点をもたらす

脳はその配線構造を再配線したり、再配置する可塑性を持っている。言葉を理解し、話すことは人間の基本機能だが、読字を発達させるような遺伝子はなく、脳の可塑性によって読字回路を作り出すことで、読字を可能にしている。


 読字をする際に脳は膨大な数のニューロンを作動させ、複数の領域で信号が伝達される。
想像的な思考がほとばしる際には脳の複数の領域が活性化することが研究からわかっている。


 そのため、注意深く文章を読むことには、様々な力がある。現代の認知忍耐力の低下による深い読みの低下で多くのことが失われてしまう。

深い読みは共感、背景知識、洞察、正しい判断をもたらす

 注意深く文章を読むことには、様々な力がある。現代の認知忍耐力の低下による深い読みの低下で多くのことが失われてしまう。

1.共感
 他人の視点に立ち、その気持ちになることは深い読みの貢献の一つ。自分の領域を出て、他者視点を得ることで共感を得て、意識を変えることができる。
 自分と境遇の違う人、考えの違う人に対し、知的理解を深め、その感情を知ることで
共感を高めることができる。現在の若者は共感性が低下していることが明らかになっている。

2.背景知識
 新しい情報をただ読むのではなく、理解し解釈するには適切な背景知識が必要。知識と分析を持たないと利用できる情報の質を判断することはできない。

3.類推と推論
 これまでの経験から多くを知っていれば新しい情報に対し、類推を引き出すことができ、推論、演繹、分析、評価が可能となる。


 情報を分析し、予測を立て、価値を評価する手順の精度をためにも深い読みが必要となる。情報を批判的に判断することの重要性は情報量が多くなる現代での重要性は増している。

4.洞察
 文章から情報を取り込み、思考と感情を結びつけ、批判的結論を得て、未知の認知空間に飛び込むことで新しい思考=洞察を得ることができる。

デジタル機器は注意力を散漫にし、深い読みには不向き

人類は注意力を過剰にすることで、些細な危機に気づき生き延びてきた。今、その注意力は生き延びるためでなく、デジタル機器に向けられており、常に集中力が散漫になってしまっている。
 
 デジタル機器の利用は読む量は増やしているが、簡略化、短縮化が進み、自身で分析するは減っている。デジタルではキーワードを拾っていくようなななめ読みも増えているが、斜め読みでは複雑な考えや長い文章を理解するには不向き。


 紙で読んだ人とスクリーンで読んだ人を比べると、紙で読んだ人のほうが細部の情報や時系列純を正しく把握しやすいことが明らかになっている。


 デジタル機器での斜め読みは徐々に紙で読む際にも斜め読みするようになってしまい スピードを落として読むことができなくなる。
 また、前に戻る回帰性も紙に比べ悪く、理解が悪くなる特徴もある。

 言語の均一化も進んでいて、異なるものへの理解を低下させ、排除することにつながる。

文章の分析、検証を怠ることはフェイクニュースの拡散の原因にもなる

 20世紀初頭と現在を比べると一文の長さはおよそ半分になっている。また、SNSの発展で個人が書く文章も徐々に短くになっている。

 この傾向が文章を読んだときの分析、検証を怠ることを招き、フェイクニュース拡散となる原因ともなっている。

子どもはその成長過程で集中することを学ぶため、デジタル機器の注意力をそらせる要素の影響を受けやすい

 子供はその成長過程で注意を集中させることを学ぶ。デジタル機器は注意力をそらせる要素が強く、集中することを阻害する傾向にある。


 デジタル機器での読書は紙に比べ、物語の再現したり、細部を思い出せない。細部の記憶は学習を長期記憶に統一させる過程で重要であり、長期記憶を弱くする可能性もある。
また、情報過多にもなりやすいこと、画像や動画などより視覚的な知識に頼ることも深く考えることを妨げてしまう。

読み聞かせから子供も多くのことを学ぶ

 赤ん坊は驚くほど早い段階で人間の声を聴き、言語系を発展させている。親が子供に読みきかせをすると、読字を高めるだけでなく、親と視線を共有することで注意共有を発達させ、日常ではない新しい概念を学ぶこともできる。道徳律や共感も物語から学ぶことができる。

 画面での読書では回帰性が弱い、触覚を刺激しない等の弱点がある。紙で読む場合のほうが言語能力が発展しやすく、口語、書記言語の入り口に適している。
 仮に、子供用のアプリでも専門家が関わっているのはほんの一部でしかない。

読解力の無さはその後の他の全ての勉強を低成績にする

 アメリカでは小学4年生の3分の2は語学が堪能レベルではなく、読解力の無さはその後の全ての勉強で低い成績となってしまうことがわかっている。幼年期に言語と読字のスキル身に着けることが非常に重要。
 現在では、読字の発達様式には子供によって違いがあり、そのタイプを見極めることができるようになってり、個々に合った対応を取ることができる。

紙とデジタルのバイリテラシを学ぶことで相乗効果も期待できる

 一方で、デジタルを利用することはプラスの変化を生み出すチャンスでもあり、紙だけを利用することに固執するべきではない。


 多様な学習者を助けるデジタル機器をどう利用していくかは今後の課題となり、デジタル媒体が認知に与える影響の研究の重要度が増している。

 バイリンガルな子供は言語間の切り替えがうまく、柔軟性、共感性に優れることが知られている。デジタルと紙についても同じように切り替えることでそれぞれの良さを引き出すだけでなく、相乗効果が起きるかもしれない。

 幼年期はじっくりと印刷物でゆっくり考えながら読み、デジタルでは一つの考えから次の考えへ突進するという考え方の両方を行うことを親や教師が強調して努力する必要がある。

 プログラミングはデジタルの弱点であった順序付けを学ぶツールにもなる。
 最終的な目標は媒体に関わらず、深い読みのスキルに時間と注意を割り当てる能力を持つこと。そのためにも、さらなる研究、指導者への指導、研修、利用機会格差の是正などが重要となる。

良い読みてとなることは多くの知識を素早く獲得するよりも難しいことだが、深い読みの多様性は非常に高い

 良い読み手は読むことで第一に情報を得て、知識を得る。第二に読むことに楽しみを見いだす。
そして第三に読むことの完成である熟考を行うことができる。

 深い読みによる熟考の鍛錬はは批判的な分析と判断に欠かせないが、たくさんの知識を素早く獲得することに比べて、難しい。それでも知的、感情的、倫理的全ての力を統合する深い読みの回路の多様性に大きな期待がある。

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