データで見る行動経済学 キャス・サンスティーン+ルチア・ライシュ 日経BP まとめ

行動情報を活用したナッジ政策が多くの国で検討されている

 人々の行動情報を活用した政策をナッジによる政策とよぶ。様々な国でナッジを用いた政策が検討されているが、それぞれの文化的背景をはじめとした違いから、好まれるナッジと好まれないナッジが存在する。

 本書では多くの国で調査、分析の結果からナッジの権利章典を提言されている。

ナッジは物質的なインセンティブなしで、社会を変化することができる

 ナッジは一人一人が選択する自由を残しながら、人々を特定に方向に導く介入のこと。物資的なインセンティブを伴わずに社会的に変化をもたらすことができることから、費用負担が少なく、選択の自由が確保される政策手段として世界中で注目されている。

 一方で、ヒトを操作するものとして倫理的な不安を持つ声もある。ナッジがどうあるべきかを知るためにはナッジが人々にどのように受け入れられているかを知る必要がある。

 調査の結果大半の国ではナッジそのものには何の意見も持ってない。ナッジの価値はその目的と効果を認めるかで評価がかわる。

 ナッジの目標が正当で重要であれば政治的な立場に関わらず、ナッジを支持する傾向にある。ただし、目的が政治的思考を強く連想させる場合は政治的な立場に左右される。

ナッジの種類は様々で介入や操作の度合いが異なる

・啓発キャンペーン
 カロリーの表示の義務付け、たばこパッケージへの健康警告の義務付けなどのように情報を与え、消費者がより良い選択をできるようにするもの

・オプトアウト
 貯蓄プランへの自動加入のように自動的に加入するが、意思を表示すれば加入しないことを選べるもの。

・デフォルトルール
 なにも選択しなければより良い選択を選べるようにするもの。グリーンエネルギーへの自動加入を
をデフォルトにしておくなどのものがある。

・サブリミナル
 映像中に認識できないほど、細切れの情報を差し込み、潜在的に情報を認識させる。操作の度合いが強く反対が多い。 

・選択アーキテクチャー
 スーパーでレジ周辺に菓子類を置かないことを義務化し肥満予防するなど、やや介入度の強い方法。

アメリカ:目的が正当か、多くの人に利益があれば賛成率は高い   ナッジそのものへの反対は少なく、政治的な立場の影響も小さい 

 ナッジの種類による賛否の差は小さく、目的が正当でないもの、多くの人の利益を損なったり
価値観の合わないと感じるナッジには反対する。
また、慈善団体への寄付などのように同意なく経済的な損失を受ける場合も反対される。
 政治的な立場の違いはナッジの目的によって賛成か反対かには影響があるが、ナッジそのものへ反対かどうかには政治的な立場の影響は小さい。

ヨーロッパ:アメリカと似た傾向を示す

 ヨーロッパでの評価はデンマーク、ドイツ、ハンガリー、フランス、イタリア、イギリスで行われた。
 デンマークは北欧の福祉国家でナッジに好意的と予想され、ドイツは第2次大戦での秘密警察の存在で捜査への不信感があると考えられる。ハンガリーはポスト社会主義国家、イギリスはナッジの先駆け的な存在である。

 政治体制や文化的な背景に問わず、アメリカと同様目的が正当で多くの人の利益になるか、価値観に合えばナッジは支持される傾向となった。


 ハンガリーとデンマークについては他国と比べやや、賛成率が低い結果となった。ハンガリーは政府への信頼が低いことが要因と見られる。デンマークは今回の調査では要因は不明。

その他の国:日本は賛成率が極めて低い 中国と韓国は極めて高い

 その他の国としてオーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、日本、ロシア、南アフリカ、韓国での調査が実施されている。


 ナッジ自体は多くの国で支持されたが、その度合いはことなり原則的ナッジ支持国、慎重型ナッジ支持国、圧倒的ナッジ支持国に分けられる。

 

 日本は賛成率が際立って低く、慎重型ナッジ支持国になる。中国と韓国は圧倒的ナッジ支持国になる。中国は非民主主義国であり政府の政策に反対することは罰せられるかもと考えるため支持が高いのは予想通りだが、一方同じく非民主国家であるロシアはそれほど高くない。
 中国や韓国ではサブリミナルを利用した手法でも賛成多数となる。

政府への信頼度が高いほどナッジへの賛成率は高い

 日本やハンガリーがナッジに慎重になるのは政府への信頼度が低いためと予想される。その予想を検証するため、ナッジへの賛成を決める要因が検証されている。
 政府、制度への信頼度、年齢、性別、教育水準、都市に住むか郊外に住むか、政治的な姿勢、子供の人数などが調査されている。
 調査の結果、信頼度とナッジへの賛成には高い相関にあり、政策の透明性や市民からの懸念に耳を傾ける姿勢が重要となる。

ナッジには教育的と非教育的があり、働きかける脳の認知システムが異なる

 情報の開示義務や警告などは教育的ナッジ、デフォルトルールなどは非教育的ナッジとよばれる。教育的ナッジは人々の行為主体性を高める。一方、非教育的ナッジは選択の余地は残るが、行為主体性が高まるとは限らない。

 人間の認知システムには素早く、自動、直感的なシステム1とゆっくり計算し、慎重に判断する
システム2の2つがあることが知られている。
 教育的ナッジはシステム2の働きを強めるために、非教育的ナッジはシステム1に訴えかける。
 
 中立条件で過半数がシステム2を選考するようなナッジについて検証した場合、システム1のほうが効果が高いと想定してもらうとシステム1のナッジを選考する方向にシフトする。

一方で、システム2のほうが効果が高いと想定しても、システム2を選考する方向にはシフトしない。

 基本的にシステム2を選考する傾向に政治的な姿勢の影響は見られない。システム1による思考では主体性のより強いシステム2が好まれるが、システム2による思考でシステム1のほうが有用と判断されればそちらへシフトすると考えられている。

ナッジは悪用や行き過ぎをふせぎ、人々の賛成を得られれば大きな利益を得ることが可能

 ナッジは主体性をないがしろにする、政府への過度信頼がベースになっているなどの誤解があるが選択の余地が残っており、十分な主体性がある。命令や禁止には主体性はなく、こちらのほうが警戒感を持つべきでもある。

 ナッジの効果が小さいとういうのも誤解の一つで、費用便益がとても大きいこともある。
 

 多くの人にとって、ナッジは目的に正当性があり、一定以上の操作が認められなければナッジに賛成する傾向である。
 これまでの調査の結果からナッジの悪用や行き過ぎを防ぐためには以下の権利章典が提案される。

1.正当な目的を促進する

2.個人の権利を尊重する

3.人々の価値観や利益と一致する

4.人を操作してはならない

5.明確な同意のないまま人からものを取り上げ、他人に与えてはいけない

6.透明性を持って扱われる

 国による違いは思ったほど大きくなく、多くに市民が自律性と公共の福祉の両方の大切さを直感的に理解している。そのためトップからの押し付けではなくても権利章典が機能すると考えられ、ナッジが有用に利用されることも可能と考えられる

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