ドナウ川の類人猿 マディレーン・ベーメ 青土社 まとめ

概要

 人類進化についての研究は現在、他のどの分野よりもダイナミックに発展している。注目すべき発掘物やこれまでの知識に疑問を投げかける調査が多く提示されている。

 本書は人類の起源を求める痕跡調査ではあるが、知識を伝えるばかりではなく、進化、気候、環境の関連性についての興味を呼び覚ましたいと願って書かれている。

どのような定説に疑問が投げかけているのか

 これまで人類はアフリカで進化し、ホモサピエンスとなってから、各地へ移動したとする、アフリカ単一起源説が有力視されていた。

 しかし近年、初期の人類進化がアフリカだけで起こったとする仮説を否定するような化石が見つかっている。

どのような発見が定説に疑問を投げかけたのか

 ブルガリアで発見されたヒト科の動物の化石は、700万前のモノだったが、これまでヨーロッパにおけるヒト科の動物はそれよりはるか前に絶滅したとされていた。

 以前グレコピテクス・フレイベルギと呼ばれる類人猿がアテネで発見されていたが、学会では
興味を引かれなかった。筆者らが再度グレコピテクス・フレイベルギを解析すると700万年以上前であり、アフリカで発見された最古の猿人よりもかなり前の時代のものであることが明らかになった。

 この発見によってアフリカ単一説起源説に疑問が持たれるようになった。

人類の起源探索史

 人類は人類の起源を長い間、求めてきたが、長い間その答えを宗教や哲学に求めていたが、自然科学が発達すると古人類学として発展してきた。

 20世紀初めには、様々な場所で西ヨーロッパからインドネシアに至る広範な地域から化石が見つかっており古人類学は概観しがたい状況だった。

 1987年にアフリカのエチオピアで320万年前の猿人の頭骨の一部が発見され、ルーシーと名付けられた。その他にもアフリカから多くの化石が出土したため、人類はアフリカで進化し、ホモエレクトスになって初めてアフリカ大陸を離れたという説が有力になった。

 しかし、人類とチンパンジーの系統分離は1300~1700万年前で、アフリカの化石は数百万年若い。 また、人類と現生類人猿の共通祖先はみつかっていない。
 ユーラシア大陸で発見されたグレコピテクスをはじめとした化石は、この数百万年の間に人類がユーラシア大陸で進化し、アフリカに移動した可能性を示唆している。

ユーラシア大陸での人類進化

 1400年万前ごろ、急速な寒冷化が進み、ユーラシア大陸では樹木がまばらになり、果実の量も減っていた。ユーラシアの類人猿はこのような困難に上手く対応した。

 一つの可能性として尿酸酸化酵素の生産ができなくなる突然変異が原因である可能性がある。酵素が欠乏すると血中の尿酸値が上がりフルクトースを脂肪に変え、蓄積するようになる。

 他にも様々な要因で環境変化に持ちこたえたが、この時代に由来する高度に発展した類人猿の化石はアフリカでまだ見つかっていない。

 ドイツのアルゴイ地方ではダヌヴィウス・グッゲンモシという1120万年前の化石は下半身は猿人に近く、上半身がサルに近い構造を持っている 4足歩行の類人猿と2足歩行の人類をつなぐ証拠となる可能性も有る。

 このような証拠は人類がユーラシア大陸で進化した可能性を示すものになる。

猿人の特徴

 化石から判明した種が猿人であるかを確定するのは難しい チンパンジーの祖先の外見もわからず、グレコピテクスについては発掘されたのが、下あごと歯2つのみでありおおよその像しか描くことができない。

 直立二足歩行は化石が人類であるかの見極めに役立つが、二足歩行が猿人でどの程度発達していたかには不明な点が多い。
 2002年、クレタ島で二足歩行による足跡が発見された。この足跡は人類のものと類似しており、これらの足跡は560万年以上前のものであると分析された。
 これまで、直立二足歩行が最初に発展したのは370万年前とされており、この発見も人類がアフリカのみで進化したとする説を覆す可能性がある

道具の使用

 道具の使用はアフリカで200万年以上前に発達し、その人類(ホモ・エレクトス)がユーラシアに広がったとされている。しかし、地中海、アジアなどで200万年以上前の集落、道具と思われるものが見つかっており、人類進化は特定の地域ではなく、広大な地域で起きた可能性がある。

フローレス人

 2003年にインドネシアのフローレス島で発見されたヒト科動物であるフローレス人の化石は、身長105㎝、30㎏のメス 当初はフローレス島にわたった人類が病気などで変形したものとされていた。

 しかし、化石のフローレス人は19万5000年~5万年前のものであり、フローレス島にホモサピエンスが上陸した4万6000年前よりもはるかに前であることがわかった。

 説の一つとしてフローレス島に入植した人類が食料の少ない島に適応するために小さくなっていたとするものがある。もしそうであれば、これも人類進化がアフリカ以外の場所で発生した証拠の一つとなる。

人類の進化と気候の与える影響 

 猿人アウストラロピテクスから原人であるヒト属への進化についてはわからない部分も多い。
300~200万年前にの間に生じたのは確実だが、進化のきっかけや場所は意見が分かれている。

 現在では、アウストラロピテクスはアフリカでしか見つかっていないため、アフリカ単一進化説が一般的になっている。

 260万年前、氷期と間氷期の交代する氷河時代への移行がホモエレクトスの進化につながった。寒さが増し海水位の低下や温暖地帯の乾燥化が進み、砂漠化が進んでいった。砂漠の影響で人類の進化がアフリカ東部、南部に限られたと考える科学者は多い。

 アジアやヨーロッパは気候変動によって樹木の多い場所と少ない場所が比較的短期間で交代していた。このような環境で生き延びることができたのは順応の上手い原人に限られる。

 シベリアの南で発見されたデニソワ人はホモサピエンスでもネアンデルタール人でもない新しい種である。デニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先は45万年前、3種の共通祖先は80~60万年前に分岐している。

 パプアニューギニアやオーストラリアなどに住む人々はデニソワ人のゲノムの5%を持っている。
デニソワ人は多くのホモサピエンスと出会い、子孫を残しているが、これほど早い時期に海を渡る能力があるとは考えられていなかったため人類進化の証拠となる可能性もある。

 多くの証拠からアフリカでのみ、人類の進化が起こったとするこれまでの説への反論が見つかっている。

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