ドラえもんを本気で作る 大澤正彦 PHP新書 まとめ

本の概要

 ドラえもんを作る。そんな夢を持った研究者がどのようにドラえもんを実現しようとしているのか、ドラえもんを作るにはどう考え、何が必要なのかを通じロボットの将来についても学べる本。

 ドラえもんを作るには、機械学習をはじめとした知的工学の集大成のようになるが、心が通じ合う部分は機械学の発展だけでは実現不可能

 筆者はドラえもんの機能をすべて満たすのではなく、社会にドラえもんと認めてもらえるものをつくろうとしている。

 AIを用いた機械学習は人が介入するほど、情報処理の速度が落ちてしまうため、人と関わることは想定されていない。AIに対し、人と深くかかわる技術としてHAI(ヒューマンエージェントインタラクション)が注目されており、ドラえもんを作るには重要となる。

 HAIを利用すれば、AIでの完璧なロボット作りとは違い、人間と協力することを前提にドラえもんを作ることができる。

 例えば自然言語は話せないが、非自然言語を利用し、受け手である人の側に解釈してもらうのもやり方の一つになる。まずは完全でなくても人に関わらせたいと思うことが重要。

 AIではアメリカや中国に遅れているが、HAIの分野ではリードしている。

 人目を気にすることや、他者モデルを想定するのが得意な日本人にとってHAIは有利。HAIは人と関わる分野(医療、介護、教育、福祉)での応用が期待できる

本で学べること

  • ドラえもんを作るってどういうことなのか
  • それに必要な技術や考え方はなんなのか

序章 人を幸せにする心を持った存在

 筆者はドラえもんの、のび太を幸せにする心を持った存在という部分を最も作りたいと思っている。

 ドラえもんを作ることで人を幸せにした結果、世の中が良くなる「ボトムアップ式」で人を幸せにできると考える。これまでの社会は世の中を良くした結果、幸せになる「トップダウン式」。

第1章 現在のAIはどこまでできるのか

 ドラえもんがAIか?という質問に対して、筆者は研究者にはイエス、一般的にはノーと答える。

 工学的には機械学習をはじめとした知的工学の集大成のようになるが、心が通じ合う部分は機械学の発展だけでは実現不可能。

 これまで2回のAIブームがあったが最終的には、コンピュータが自分で知識を獲得できず、人間がコンピュータに知識を教え込み続けなければならないという結論になった。

 現在のAIブームではディープランニングによって、大量のデータと計算機資源を用意することで、コンピュータが勝手に知識の構造を学習できるようになった。

 多数のデータから特徴を見つけ出す、概念を取得するなどが可能となった。

 ただし、人間の認知の仕組みを再現したわけではなく、良くも悪くも人間の予想しないことをしてしまうことは多い。

 AIを社会に実装していくには汎用性がカギとなる。汎用性がないと一部の人しか使用できず、精度が高くてもコストに見合わない可能性が高い。

第2章 ドラえもんはこうしてつくる

  ドラえもんは作る際にはドラえもんの機能(人と会話できる、秘密道具を持つなど)をすべて満たすことは困難なため、社会的にドラえもんだと認めてもらう(社会的承認)ことが基準になる。

 ディープラーニングは大量のデータを処理するが、人間が介入するとデータ量が下がってしまうため人との接点を消す方向に進んでいる。

 AIに対し、人と深くかかわる技術としてHAI(ヒューマンエージェントインタラクション)が考えられている。HAIは心理学、認知科学などの領域を含んだ研究分野。

 例えば、AIを適用し完璧なごみ拾いロボ(ごみを認識し、人とぶつからず近づき、拾う)があると、人は邪魔者扱いしたり、イジメたりしやすいという研究結果がある。

 HAIを利用するとごみに近づくが拾えずにもぞもぞする。もぞもぞしていると周りの人がごみを拾ってくれる。

 ドラえもんも完璧なロボットではなく、ロボットを賢く作ることだけが問題解決ではない。

 HAIではロボット単独ではなく人間とのかかわりの中で、協力し問題を解決していく。人間の協力を得ることで技術的ハードルを下げることができる。

 HAIを利用することで、人が物に心を想定する(他者モデル)ことを可能にする。他者モデルを想定しないものは道具、他者モデルを想定するものは仲間とみなすことができる。

第3章 ミニドラのようなロボットを、みんなで育てる 

 ミニドラはドラえもんに登場する、自然言語を話さない小型ロボット。

 ミニドラは自然言語を話さないが周囲とコミュニケーションをとっている。AI分野ではいかに自然言語を読み取るかという研究が盛んだが、逆のアプローチが本当のコミュニケーション近づくとも考えられる。

 人間の脳は常に次に受け取る入力の予測を行っている。実際に入力されたものの誤差が許容範囲であれば、予測が正しいとして処理している。

 筆者は情報処理の精度を高めることが、人間の脳の知的処理に近づくとは限らないと考えている。

 非自然言語を用いることで、受け手は都合よく解釈し、気持ちの良いかかわり合いとなることもある。ペットと飼い主の関係も近いものがある。

 大量のデータ分析で完璧な言語認識を目指すよりも、言葉は分からないがコミュニケーションが取れる会話システムを作り、あとで言語を増やすほうが人間的。(赤ちゃんと一緒の方法)

 人間はロボットに対して持っていた期待値を下回ると、コミュニケーションを取らなくなる傾向にある。そのため期待値を下げる仕組みが大切。

 まずは理解能力が高いが表出能力の低いロボットを作れば、期待を裏切りにくい。表出能力が低くても人間側が勝手に解釈するため。

 まずは、人に関わりたいと思わせて、かかわり合いを増やし、精度を増していく。

第4章 仲間と作るドラえもん

 ドラえもんつくりをAI、認知科学、神経科学の研究を合わせた総合的な「知能」づくりで行っている。

 多くの参加者がフラットにかかわっている。

 専門分野が組み合わさった時には大きな爆発力を持つ。100人に一人のレベルでも3つ組み合わされば、100万人に一人の珍しさになる。自身の専門性だけでなく様々な人が組み合われることでさらに独自性の高いチームになっていく。

第5章 HAIのテクノロジーが日本から世界へ

 AIの分野ではアメリカや中国に後れを取っているが、HAIの分野では日本がリードしている。

 人目を気にするという概念は欧米にないが、この概念はHAIの研究で重要なため、日本人には有利となる。人とのかかわり合いが少ないディープランニングでは欧米が有利だが、人とのかかわり合いが多いHAIでは日本が有利。

 海外は自然を支配するが、日本は共存している。この感覚は山や川、森などに心を想定することにつながっている。他者モデルを想定するのは日本人が得意。

 AI技術を向上させても、グーグルをはじめとして、データを集めるインターネットで優位なアメリカに勝つことは難しい。

 日本の得意なHAIで新しい土俵を作ることで、勝負ができる可能性も有る。人とかかわるのが得意なHAIは医療、介護、教育、福祉などの分野で活躍できる。まずは自然言語を話さない形でロボットに乗移ることで人間とコミュニケーションをとることが期待される。

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