バンクシー アートテロリスト 毛利嘉孝 光文社新書まとめ

本の概要

 バンクシーはどのような活動をし、その背景にどのような文化的な文脈があるかなど、バンクシーを巡る謎に迫る。

 バンクシーはもともとストリートアーティストして、壁に所有権の許可を取らずに書いた非合法的な作品が多い。

 圧倒的で理不尽な政治状況にどのように怒りを表現するかという試みを続けており、アートテロリストととも呼ばれている。

 現代美術やアートマーケットへの批判、皮肉も積極的に行っている。

 このような反政府、反権威はブリストルの精神を受け継いでいる。

 もともとはパレスチナ問題への問題提起で注目され、活躍の場を広げてきた。

 インターネットによって、消されて終わってしまっていたストリートアートのあり方は大きく変化した。バンクシーはメディアを渇望させながら、注目を集める手法が非常に上手い。またスポンサーがなしで計画されているため、政治的なパフォーマンスへの障害がない。

 ストリートアートの原点は様々な場所に書かれた落書き。所有権の概念ができ非合法となったのはごく最近であり、落書き自体は原始的な欲望で普通の人たちの日常の営みを見ることができる。

 バンクシーが投げかけるのは権威への反抗、都市が誰のものなのか?財産権や所有権と表現の自由の権利の対立など。

 ある表現がいいか悪いかを決めるのは国家や行政ではなく、市民の手にゆだねられるべき。ストリートアートの発展が表現の自由、民主主義をどう考えるかにかかっている。

本で学べること

  • バンクシーはどのような人物でどのような活動をしてきたのか
  • なぜ、アートテロリストと呼ばれているのか
  • なぜアーティストとして人気が高いのか

はじめに

 2019年1月、東京都の防潮扉でトランクケースを持つネズミの絵が見つかった。

 このネズミの絵を描いたのがバンクシーではと、大きなニュースとなった。

 バンクシーがニュースで大きく取り上げられたのはサザビーズでのオークションに関わるもの。オークションで1億5千万円で落札された作品が、落札直後に一部がシュレッダーで裁断されてしまった。

 バンクシーは現代美術やアートマーケットへの皮肉を込めて、裁断をおこなっている。

 バンクシーがどのような活動をし、その背景にどのような文化的な文脈があるかなど、バンクシーを巡る謎に迫る。

第一章 正体不明の匿名アーティスト

 バンクシーはもともとストリートアーティストとして、グラフィティの世界では有名であった。

 イラク戦争への反戦運動時にデモの参加者に自身の絵を書き、配るなど徐々に活動の範囲を広げ、今では大きな規模での活動を行っている。

 それでもバンクシーの活動の中心は壁に絵を書くことで、そのほとんどが所有者に許可を求めない非合法なもの。

 バンクシーがアートテロリストと呼ばれるのは、圧倒的で理不尽な政治状況にどのように怒りを表現するかという試みを続けているため。有名性が強く重視される芸術界で匿名性を貫いている。

 バンクシー作品のトレードマークはステンシル。ステンシルはあらかじめ準備した型紙の上からスプレーし、絵を書く手法。グラフィの世界では主流ではないが精密な絵を書くことが可能。

 一般的なアート業界からの評価は低かったが、一部のセレブ達がコレクターとなったことで注目を集めるようになった。

 バンクシーの正体はいろいろと説はあるが、100%特定されてはいない。正体を隠すのはグラフィテイが非合法なため、有名性が問われる芸術との区別などの理由。

 バンクシーが匿名で公共物への落書きを行うのは、都市が誰のものか?という問いかけでもある。公共空間が所有者によって独占的に管理されるようになったのは、ごく最近の概念に過ぎない。

 第二章 故郷ブリストルの反骨精神

 バンクシーはイギリスの港町ブリストル。ブリストルは黒人の奴隷が多かった、移民への締め付けを強くおこなったなどで、反政府的な活動が起こりやすい土壌があった。

 バンクシーもその精神を受け継いでいる。

 バンクシーのグラフィティは消すべきか残すべきかという議論になることも多い。

 バンクシーの代表的な作品にネズミのシリーズがある。ネズミは都市のホームレスや移民、難民などのあらゆるマイノリティたちを象徴している。

 インターネットの発展によってこれまで、消されてしまえば保存されなかったグラフィティが、写真として保存され、インターネットの中で生き続けることとなった。

 バンクシーはイギリスの反権威、反エリートなどラディカルな文化を持つポップカルチャーの正当な後継者と考えられている。

第三章 世界的ストリート・アーティストへの道

 2005年バンクシーはイスラエルがパレスチナとの間に建設した、分離壁にグラフィティを書いている。パレスチナは分離壁によって厳しい生活を強いられている。

 バンクシーの活動によって分離壁はグラフィティライターが集まって作品を残す一大スポットとなった。賛否はあるものの人々の関心をパレスチナに向けさせるという点では重要な役割を果たした。

 これらの活動によりバンクシーの活動に世界中から注目されるようになった。

 その後バンクシーが批判、揶揄したものには

  • アメリカの大量生産、消費の背後にある戦争犯罪
  • 美術作品の商品価値の曖昧さ
  • 移民、難民差別批判
  • BREXITによる政府の機能不全、国全体の亀裂

 などがある。政治的な関心もゆっくりと広がっている。

第四章 メディア戦略家

 バンクシーとメディアの関わりはバンクシーの活動において重要。

 最初は紙の作品集。ストリートアートは作成後消されてしまうことも多く、消去後は、作品集が一次的な作品になる。

 映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」では監督を務め、美術館におけるお土産の販売(=ギフトショップ)の重要度が増していることを描いている。美術がすべて商品経済に巻き込まれていることへの皮肉を込めている。

 有名アニメであるザ・シンプソンズのオープニングをジャックし、アニメ産業での下請けの途上国での過酷な労働を描くことでエンターテインメント業界のグローバル化が抱える問題を可視化した。

 パリスヒルトンのCDをパロディ化した際には空疎な拝金主義的なアメリカのセレブ文化を批判している。

 一つ一つの出来事に適切に広報活動をしていく戦略が絶えず、メディアを渇望させながら、注目をあつめている。この流れをチームとして適切に管理している。

第五章 バンクシーの源流を辿る

 グラフィティとは落書きのこと。新しい現代美術のように見られることもあるが、はるか昔から存在している。

 グラフィティは私的所有権、財産権などの近代的な概念が導入され、合法非合法が議論される前には人々は自由に絵を色々なところに書いており、原始的欲望の発露。

 落書きを書いているほとんどは権力を持っていない人々。美術品として残るものはほとんどは歴史の勝者の戦利品。一方で落書きは無名の人たちの日常的な営みを見ることができる。

 グラフィティのエッセンスは「名前」を公共空間に書くこと。バンクシーは名前を書くことにあまりこだわりがない。一方で公的な空間への介入やイリーガルな活動といった特徴は引き継いでいる。

 第6章 チームバンクシー

  イギリスは90年代には音楽に代表されるポップカルチャーが強かったため、現代美術は今一つだった。

 その後YBAsと呼ばれた若手アーティストが台頭し、熱狂的な人気と夏も2000年ごろには急速に冷めていく。この時期にバンクシーが登場する。

 美術マーケットへの批判は積極的だが、作品を売ってお金を得る行為自体を否定しているわけではない。資本主義を気に入っているのは敵にさえ場所を作るためと発言している。

 バンクシーのプロジェクトはスポンサーなしに計画されているため政治的なパフォーマンスが可能。

 実際のプロジェクトは「チームバンクシー」と呼ばれる優秀なスタッフで行われている。バンクシーはアーティストでありプロジェクトの全権を持った依頼者でプロジェクトを実行する役割を担っている。

 第七章 表現の自由、民主主義、ストリート・アートの未来

 現在の資本主義は資本主義から逸脱しているように見えるあらゆるものを回収し商品化している。

 バンクシーのアートマーケット批判も、商品化につながっている、サザビーズでのシュレッダーにはバンクシーの回収するだろうという諦念があったように思われる。

 東京で見つかったネズミの作品はバンクシーによるものである可能性は極めて高いが、イリーガルな作品のため、バンクシー側からの回答は得られない。

 真贋やその価格以上に議論になったことがある。

 一つは落書きなのかアートなのかという点。落書きは犯罪で消すべき、アートならば犯罪でなく保存すべきなのかという議論。

 また、日本のグラフィティへの非寛容さが話題に。日本の都市の風景は私有化され、建築物の持ち主が風景を占有している。

 欧米では都市の風景は公的なもので、公的なものだからこそグラフィティが登場する余地があった。

 グラフィティを巡る、犯罪とアートの対立は私的財産の侵害から守られる権利と表現の自由を優先する権利の対立でもある。

 グラフィティの広がり具合はその国がどのくらい民主的かを測る尺度にもなる。

 権威主義権力が強力な国では落書きが見られない。整然とした秩序を求めるのは支配、管理側の視線。

 ある表現がいいか悪いかを決めるのは国家や行政ではなく、市民の手にゆだねられるべき。ストリートアートの発展が表現の自由、民主主義をどう考えるかにかかっている。

 

 

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