ファーウェイと米中5G戦争 近藤大介 まとめ 講談社+α文庫

本の概要

 中国深圳で生まれたファーウェイ。通信機器分野で世界最大のメーカーとなり、5Gで利用される技術でも優位な技術を持っていおり、一気に世界での地位向上を狙っている。

 そのファーフェイに対しアメリカが国家安全上の利益に反するとしてエンティティリストに追加し、アメリカからのファーフェイ排除、ファーフェイのアメリカ企業からの部品調達禁止で対抗している。

 もともとは貿易不均衡、雇用是正などから始まった米中貿易戦争は、世界の覇権を握り続けてきたアメリカとその座を狙う中国との闘いとなっている。

 アメリカがファーフェイを排除する理由、主張

  • ファーフェイ製品はバックドアによって機密情報を不正に入手している。
  • 5GとAIによって第4次産業革命が起こった際にAI兵器などにもつながるため。
  • 中国に21世紀の覇権を握られたくない
  • 政治が社会主義、経済は市場経済という中国システムの途上国への普及防止

 中国側の考え

  • ファーフェイが不正に情報を入手したという証拠はない。
  • ブロック化によって、短期的には痛みを伴うが、長期的には自主的な発展が可能
  • 途上国での中国企業、特にBATH等のIT巨大企業の普及をすすめGAFAに対抗する。
  • ロシア、ASEAN、インドと関係を強化し、アメリカに対抗する。

 EUの状況、考え

  • 経済を中国に依存しており、ファーフェイ排除は困難。
  • 一方で、軍事的には対ロシアを考慮するとアメリカとの協力は必須。
  • 情報の不正入手はアメリカも行っており、中国だけの問題ではない。
  • 安全保障の中核からは排除していく方針

 ファーフェイの5G戦略はホンハイでの製品製造とTSMCの半導体生産の二つが生命線。アメリカの企業にとっても両企業は重要なため、台湾を巡っての両国の争いは今後加速するものと見られる。

 総統選では反中派が勝利したが、今後も両国の争いは続くと思われる。

 日本はアメリカにならい、排除に踏み切っているが、EUのように核心部分以外での使用はしていく検討も必要な可能性がある。

この本で学べること

  • 米中貿易戦争がなぜ起きたのか
  • アメリカがなぜ、ファーフェイを排除しようとしているのか
  • 米中貿易戦争が世界に及ぼす影響

第1章 「ファーウェイ帝国」の全貌

 ファーウェイは中国深圳の企業であり、1987年、CEOである任正非によって設立。

 途上国での通信インフラ整備事業で発展し、2015年には通信基地局、ルーター、モデム、スイッチなどの通信機器分野で世界最大のメーカとなった。

 特に5Gで利用される通信基地局などで優位な技術をもっており、一気に世界での地位を向上させている。

 製品の高技術化と効率化を重要視することで、安価で高品質な製品を生み出している。

第2章 トランプ政権が仕掛けた対中ハイテク覇権戦争

 アメリカの歴代大統領たちはアメリカの理念を世界に拡大させる、理念外交を持っていたが、トランプ大統領は短期的な損得を追求する実利外交を展開している。

 中国との貿易交渉が決裂した際にトランプ政権は中国からの輸入品に対し、追加関税をかけた。中国も報復関税をかけて対抗したこれが米中の貿易戦争の始まり。

 アメリカ側は更なる報復として、ファーフェイを国家安全保障上の利益に反する活動に従事しているとして、エンティティリスト追加した。

 これにより、ファーウェイはアメリカ企業から部品を購入できなくなった。特に大きいのは半導体部品の供給が受けられなくなること。

 アメリカはさらにファーウェイの孟副会長をカナダで逮捕するなどでファーウェイへの対抗を強めている。

 アメリカによるファーウェイ対策はアメリカと中国の5Gをめぐる戦い。5Gは国家が主体となり整備するため、国家同士の闘いになる。

 第3章 中国の「5G覇権」におびえたアメリカ

 トランプ政権内には中国に対する考え方に二つの派が存在する。

 一つは貿易不均衡や雇用の是正を主眼に置く、通称強硬派。トランプ大統領が代表格でビジネスの対象としてとらえている。

 もう一つは中国が台頭することが許せない、軍事強硬派。中国に21世紀の覇権を握られることへの拒否感が強い。

 冷戦時にソ連の社会主義計画経済にはアメリカ式資本主義が勝利した。      

 中国は社会主義市場経済で政治的には社会主義で経済は市場経済を実施するシステム

 中国の経済発展が進み、他の発展途上国にも政治を民主化しなくても経済発展は可能であることを示しつつある。

 また5GはAIなどの技術と相まって第4次産業革命を起こし、AI兵器にもつながっていく。アメリカがファーウェイを排除しようとする理由の一つ。

 アメリカとしては中国がハイテク企業に補助金をだし、監視することでハイテク企業を牛耳っていると主張している。

 第二次大戦後、世界秩序を形作ったのはブレトンウッズ体制。ドルを基軸とした固定為替相場、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(IBRD)の設立を行った。

 また、情報処理システムを支配する秩序もアメリカを中心に定められた。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの「ファイブアイズ」によって世界中の通信情報を傍受している。

 ファイブアイズがファーウェイが国家の安全を脅かすと判断し、排除に踏み切っている。

第4章 EUを巡る米中の攻防

 ファーフェイは5G対応スマホや基地局向けチップの技術力で中国内の5Gインフラ整備を行っている。一方アメリカではファーフェイは排除されている。

 そのためもうひとつの巨大経済圏、EUでの勝負が重要となる。

 アメリカはファーフェイを採用した国とは情報共有ができないなどと発言している。

 EU側としては経済を中国に依存していること、ファーフェイの技術が必要なことからファーフェイを排除することはできない。一方で軍事的にアメリカとの協力は対ロシアを考えて必要である。

 また、ファーフェイが中国政府に支配され、情報が流れているという懸念についてはスノーデンの告発で明らかになったようにアメリカでも行われている。

 EUとしては5Gを核心的な安全保障の中核とその他に分け中核部ではファーフェイを使用しないという方向になっている。

 この流れを受け、アメリカはファーフェイのエンティティリスト入りを決定した。

第5章 米中「経済ブロック化」のゆくえ

 中国はアメリカとの貿易環境が悪化しても、自主的な発展をしていく考え。短期的には痛みを伴うが、長期的な国益には合致するとしている。

 中国側はブロック化は避けられないと考えている。

 有力ハイテク企業ではアメリカのGAFA、中国のBATHそれぞれが排除しあっている。そのため、発展途上国での普及は国家として重要となる。

 中国はロシア、ASEAN、インドなどとの関係強化で対抗している。

第6章 米中の「最終決戦場」台湾

 台湾では反中の祭英文政権が2016年から政権を維持している。

 中国からアメリカへの輸出している10大企業の8社が台湾企業で中でも最大の企業が世界最大のEMS企業のホウハイ。その創業者である郭会長が台湾総統選挙に出馬すると伝えられた。

 郭会長には中国側からは対中の架け橋としての役割が期待されていた。

 ファーフェイの5G戦略はホンハイでの製品の製造とTSMCの半導体生産の二つが生命線となっている。

 TSMCは2017年に10ナノチップを量産。2020年には5ナノも量産予定。世界中でTSMC以外にはどこも持ち合わせていない技術。

 アメリカでも半導体設計メーカーのクアルコムは5GのチップはTSMCに製造委託する予定。アップルもクアルコムのチップを使用している。またiphoneの製造の最大手もホンハイである。

 米中にとっても台湾の重要度は非常に高い。

 中国としては台湾を取り込み、アメリカとのハイテク戦争に勝利したい。そのために一国二制度を用いて台湾を統一したいという思いが非常に強い。

 (実際には総統戦には郭会長は出馬せず。現職の祭英文政権が圧倒的な得票で勝利。同じ一国二制度の香港での中国側の対応などが反中を増加させたためとみられている)

終章 ファーフェイと日本

 ファーフェイの主要な提携企業92社の中に日本企業は11社入っている。

 そのため、ファーフェイのエンティティリスト入りの衝撃は大きい。

 携帯電話キャリアはファーフェイのスマホの販売中止決定。

 一方でファーフェイが現在どのような悪事を働いているかの具体的な証拠はでていない。EUではファーフェイの扱いについて

  • 核心的な部分には参入させない
  • それ以外の部分には参入を認める
  • 常に調査を行い、問題が発生したら排除する。

 と決定。日本もアメリカからの禁止だけで判断するのではなく、5Gの普及に対し、国益を考えて判断するべき。

 アメリカの弱点はファーフェイを締め出しそれにとって代わる企業が見当たらないこと。製造業の放棄が影響している。

 

 

 

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