ヤバい経済学 スティーヴン・D・レビット 東洋経済新報社 まとめ

本の概要

 本書の目的は裏側の探索。それまで試みられなかったやり方で裏側を調べたもの。下記のようなアプローチ、考え方で裏側を調べることができる。

 インセンティブは現代の日常の礎。インセンティブを理解すれば多くの問題を解決できる。

 インセンティブには経済的、社会的、道徳的の3つがあり、これらをうまく組み合わせれば、うまい仕組みを作ったり、犯罪を防いだりすることができる。

 一方、うまくインセンティブが設定できないと、ずる、八百長を招くこともある。

 遠く離れたところで起きたことが原因で劇的なことが起こることも多い。

 アメリカで増え続ける犯罪が減ったのは遠い地で、中絶が合法化されたため。一見関係なさそうだったり、直感的に否定したいこともデータを見れば、明らかになる。

 専門家は自分たちの目的を果たすため、情報優位性、非対称性を利用する。

 インターネットによって情報の非対称性は大きく改善されたが、今でもなくなっていない。

 秘密結社も不動産屋さんも自分たちが、より多くの情報持つことで成り立っている。

 通念はだいたい間違っている。

 子供の性格や能力は遺伝子で50%きまってしまう。残りの50%は環境だが、親が何をしたかよりも親がどんな人かのほうが与える影響は大きい。

 何をどうやって測るか知っていれば、こみいった世界もずっとわかりやすくなる。

本で学べること

  • ヤバい経済学で見た様々な疑問とその答え
  • データをどう見れば世界を理解しやすいか
  • 世の中の通念や印象がいかに間違っていて、実際はどのような状態なのか

経済学で物事の裏側を知ることができることがある

 1990年代の始め、アメリカでは犯罪が増える一方であった。多くの専門家がこの傾向は今後も続くと予想していた。

 実際には犯罪は減少していった、専門家たちは好景気、銃規制など多くの要因をあげた。

 しかし、実際に犯罪が減った大きな原因は中絶の合法化による家庭環境の悪い子が減少したこと。

 経済学は情報の山をかき分け、何かの要因が全体に及ぼす影響を探り当てることができる。雇用、不動産、銀行、投資に関する情報の山にも使われるが、もっと面白いことにも利用できる。

 本書の目的は裏側の探索。それまで試みられなかったやり方で裏側を調べたもの。

不適切なインセンティブは不正を招く

 経済学は突き詰めるとインセンティブの学問。インセンティブはほんのちょっとしたことで大変な力を持っている。

 インセンティブには

・経済的

・社会的

・道徳的

の3つがある。例えば犯罪を例にとると

  • 仕事、家や信用を失う=経済的インセンティブ
  • 悪い奴だと思われたくない=社会的インセンティブ 
  • 悪いことをしたくない=道徳的インセンティブ

 となり、それぞれを組み合わせることで犯罪を防いでいる。

 ある保育園で、子供の迎えに来る親から少額の罰金を取ると遅刻する人が増加した。道徳的インセンティブが少額の経済的インセンティブに置き換わってしまったため、迎えに遅れることが大したことでないと思うようになった。

 テストの点によって教師の待遇を変化させるようにすると、教師の回答の書き換えによるインチキが増加した。インチキをした教師を処分すると、インチキは30%以上も減少した。どちらもインセンティブによるもの。

 相撲の力士も八百長を疑われている。相撲は勝ち越しの勝ち星の価値が非常に大きいため7勝7敗の力士の勝率は非常に高くなる。一方で八百長報道があったあとの場所では異常な勝率は見られなくなる。

 ベーグルを自社で無人販売していたフェルドマンは、その後外の会社でも無人販売を始めた。そのなかでいろいろなことがわかった。

・回収率は87%(13%が無銭飲食した。)

・自社に比べ他社の料金回収率は低い。フェルドマンを知っていると無銭飲食をしにくい。

・料金の入ったBoxを持っていく人はほとんどいない。

・小規模オフィスのほうが大規模オフィスよりも回収率が高い。

・天気や祭日、休日なども回収率に影響を与える。

 道徳(私たちの望む世の中のありかた)と経済(実際の世の中)のちょうど交わる部分では多くの人が道徳を優先することがわかる。

情報の非対称性を活かした団体や組織は多い

 ク・クラックス・クラン(KKK)は白人至上主義の運動をする暴力的な集団で政治や警察ともかかわりを持っていると言われた秘密主義集団。

 その違法性を追求してもなかなか効果がなかった。しかし内部情報をラジオで公開すると入団希望者が減少し始めた。情報を蓄え、出し惜しみすることで力を得ている集団だった。

 情報の非対称性は取引の一方が、もう一方よりもたくさん情報を持つことで起きる。

 定期生命保険はどれも似ていたが、その保険が安いか比べるかは面倒で手間がかかった。しかしインターネットによって比較が容易になるとどれが安いかすぐにわかるようになり、全体的な価格が下がった。情報の非対称性がなくなると、それまで情報が少なく損をしていた側の損が小さくなる。

 インターネットによって情報の非対称性は大きく改善されたが、今でも多くみられる。

 例えば、不動産屋は顧客のほうが情報が少ないため、買い手には高く買わせ、売り手には安く、早く売らせるように仕向けている。買い手には多少高くても早く買うべきで、売り手には多少安くても早く売るべきと仕向ける(顧客に市場での適正な価格を判断することは難しい)。長く市場に出せばよい結果になることが多いが、不動産屋の手数料への影響は少ないため早く取引を終わらせたい。

何かが正しいかは通念ではなく、データで判断すべき

 通念は単純で都合が良い考えだが、正しいとは限らない。みんなが信じてる通念を覆すことができればいいことがあるかもしれない。

 コカインの売人は億万長者というイメージがある。しかしほとんどの売人はママと実家に住んでいる。

 なぜかを考えるには正しいデータを見つけられるかにかかっている。

 売人の例では元締めは稼いでいるが、一般的な売人の稼ぎは非常に低い。その一方で逮捕や負傷のリスクは極めて高い。このような職業に人気が集まるのはハリウッドスターを目指すことと変わらない。

 1990年代、それまでの専門家の予想とは逆にアメリカでの犯罪は大きく減少し始めた。予想の外れた専門家はその原因を様々について言及した。懲役の増加、警察官の増加のように言及され、かつ犯罪の減少に効果のあったものもあるが、多くは犯罪の減少と無関係だった。

 一方、一度も言及されなかったにもかかわらず、犯罪の減少に大きく影響があったのが中絶の合法化。中絶が合法化されたことで、育児環境の悪い子どもの数が減り、犯罪が減ったため。

 ただし、中絶で失われた命は殺人事件で失われた命と比較しても多い。中絶で犯罪を減らそうとするのは非効率的。優秀な親の子供のみを生ませるなどの優生学は成り立たない。女性は中絶が合法化されていれば子供をきちんと育てられるかどうか判断できる。

子育てには親がなにをしたかよりも親がどんな人かの方が重要

 子育ての専門家も他の専門家と同じく、感情に訴え自身をもって語る。しかも内容は人によっても違う、すぐに定説が変わりやすいなどの特徴があるひどい子育てが大変になることは、中絶と犯罪の関係からも明らか。

 一方、熱心な親が子供のためにできることはどれだけあるのか?

 生まれてすぐの離れた双子などの調査で子供の性格や能力の50%は遺伝子で決まることがわかっている。では残りの半分は?

 創造性や個性を数値で測ることは難しいが、学校の成績で子育ての効果を測ることは出来る。

 様々な要因を調べると、親がどんな人かを示す項目は成績と相関があり、なにをするかを示す項目は相関がない結果だった。

  • 親の社会、経済的地位が高いことは相関があるが、良い界隈に引っ越すことは相関がない。
  • 家に本がたくさんあるかは相関があるが、親が本を毎日読みきかせるかには相関がない。

 子供の名前を付けるのに親は非常に悩み、力を入れる。子供につける名前は人生を左右するのか?

 アメリカでの調査では、黒人と白人で名前の付け方が全く違っていることがわかった。黒人に多い名前は経済的に不利になる。同じ履歴書で面接に呼ばれやすいなど。

 ただし、黒人に多い名前を付ける親と白人に多い親の経済状況は同じでないことが多い。つまり名前は行く手を決めるというよりは、その子(と親の)の境遇を映すものと考えられる。

 所得と教育の相関が強いため、親の教育水準と子供につける名前にも相関が現れる。

 高所得・高学歴の親の間で流行った名前は低所得・低学歴の親に広まっていく。

 どんな名前であっても親は送りたいメッセージとして名前を考える。そのため、名前そのものよりもどう考えてつけたか=親がどんな人かのほうが影響は大きいということ。

経済学と道徳が導く答えは違うこともあるが、相反するわけではない

 ヤバい経済学は現実の世界で人がどんな風に動くかについて、筋の通った考え方をする。

 ヤバい経済学の導く結論(中絶が犯罪を減らした)は道徳派からは反発を食らう。

 道徳は私たちの望む世のあり方を、経済学は実際の世のありかを映しているだけで、相反するわけではない。

 

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