ライフサイエンス 長生きせざるをえない時代の生命科学講義 吉森保 日経BP 要約

病気の治療の多様性が増し、生命科学を知ることの重要性が増した

 生命科学を知っていると、病気の際にベストな選択をしやすくなる、健康的な生活を送る助けになる。一昔前までは選択肢はそれほど多くなかったが、研究が進み、治療の選択肢が多くなったため、その重要度が増加している。

 特に生命の基本である細胞について知っていると、身体や遺伝子、病気などの理解ができる。

 前半は科学的な思考についてや細胞の働き、後半では筆者の研究分野であるオートファジーについて初心者でもわかりやすく、書かれています。

仮説と検証の繰り返しが科学の基本

 真理や正しさをどこまで追及しても、本当に正しいかどうかは分からない。科学では100%の真実には到達できないが、より真実に近づくことは可能。真実に近い仮説からは他の色々なことを説明出来たり、予想出来たりできる。

 仮説と検証を繰り返し、真実にできる限り近づくことが科学の基本になる。

科学では現象よりなぜそうなるかを考えることが重要

 普段の生活の中であれ?と疑問に思うことが仮説の始まりになる。その際に相関と因果を理解しておくことが重要になっている。

 相関は目に見える関係で、原因と結果ではないかもしれない関係。因果関係とは確実に原因と結果の関係にあることをいう。因果関係であるか確かめるには、観察だけでなく、実験や検証が必要になる。

 因果関係があるかを見極めには対照群があるかが重要。あるものに効果があっても、あるものを使用しなかった対照群との比較がなければ効果があった後は限らない。

 現象自体よりもその背景にある理屈が重要で、なぜそうなるのかを考えることが重要。

細胞は生命の基本単位

 細胞内部の構造は生き物による差異がなく形状や機能はほとんど同じ。細胞は一つ一つが生きており、一つ一つに一人の人間を作る全ての情報が入っているため生命の基本単位であると考えられている。細胞の核の中にDNAがしまわれている。

生命の特徴は階層性と動的平衡

 生命の特徴は階層性と動的平衡。
 階層性とは小さなタンパク質やその複合体が集まってオルガネラ(細胞小器官)に、オルガネラが集まり細胞に、細胞が集まり、臓器や組織というように様々な階層から構成され、階層間で相互作用していること。動的平衡は、中身が変わっているのに見た目が変わらないこと。

 この二つを維持することが生命の特徴を作り出している。

遺伝子の発現とタンパク質の合成が生命科学の基本

 細胞内ではタンパク質が主役となり、様々な働きをしている。生命活動を担う化学反応の触媒である酵素などとして働いている。

 タンパク質の役割を決めるのが、遺伝子。遺伝子は塩基配列によってアミノ酸を指示し、並べることでタンパク質の構造を決めている。

 遺伝子の発現とタンパク質の合成は生命科学の基本で、仮設の中でも真実に近く、セントラルドグマと呼ばれる。

 遺伝子は設計図として働くが、書き間違えやコピーミス=変異は頻繁に発生する。この変異によって作られるタンパク質が変わることがある。タンパク質が変わることで 病気になる、何も起きない、進化するの3つのどれかが起こる。
 
 進化がどのように起こるかはまだ詳しく分かっていないが、生命において多様性があることで種の生き残りが有利になることは有力視されている。

恒常性を保てなくなると病気になる

 身体の調子が悪いときは細胞に異変が起きている。

 人間の身体には恒常性=体の状態を一定に保つ機能がある。恒常性を保つために細胞は働いている。

 細胞がおかしくなる原因で一番大きいのは細胞が死んでしまう場合。その原因は様々だが代表的なものには以下のようなものがある。

・細胞内のタンパク質の塊がたまって死ぬ
・ウイルスなどの病原体に殺される
・細胞内の原発事故が原因で死ぬ(細胞内の発電所であるミトコンドリアが傷つくことで活性酸素が放出される。)

 細胞はウイルスに感染したりしたときなどに、周囲への影響を最小限にするため自殺(細胞死)することがある。

 ミトコンドリアに穴が開くと細胞死を誘発する物質が洩れ、細胞死すべきでない細胞まで死んでしまうこともある。細胞の数が増えすぎ、増加が止まらない状態ががん。病気の遺伝は生殖細胞に変異が起きたときに起こる。

 細胞同士はホルモンや神経伝達物質によって情報伝達を行っており、この仕組みが壊れても病気になる。

免疫は外敵を排除する仕組み

 免疫は外敵を排除し体を守る仕組み。免疫は3通りの方法がある。

・物理的に防ぐ(皮膚などで病原体の侵入を防ぐ)
・細胞が病原体を取り込み取り除く
・抗体(ウイルスに付着し、細胞内に侵入できないようにする)

 ウイルスが細胞に感染するときには細胞に合った鍵のような構造を持つ必要がある。そのような構造部分に付着することで鍵が合わなくなり、病気を防ぐことができる。

炎症病気ではなく体の異常に対する防御反応

 炎症は肺炎、胃炎、脳炎など病気のように思われるが、本来は病気ではなく、身体に異常が生じたときの防御反応。

 炎症は免疫を活発するためにも働くが、過剰になると炎症性疾患になる。免疫機能の活性化はサイトカインと呼ばれるたんぱく質が分泌されることでおこる。免疫の暴走はサイトカインストームと呼ばれ、コロナウイルスの重症化の原因となっている。

死が種が絶滅することを防いでいるかもしれない

 生命はエントロピーの増大を相殺することで定常状態を維持しているというシュレディンガーの言葉は多くの生命科学者の実感になっている。

 恒常性を保てるにもかかわらず、多くの生物が死ぬのは種の絶滅を防げるからという説もある。実際に死なない生物は存在するが大きく繁栄はしていない。

 古い個体が残ると、食料不足が起きる、子供ができなく進化が起きにくくなるなどのデメリットがあり、ひっそりと生きることしかできない。

 老化についても同じく、絶滅を避けるためという説がある。寿命を迎えるまで健康で突然死を迎える動物もいるが、老化することで感染症や外敵に襲われたさいに老化した個体がやられているうちに若い個体が生き延びるチャンスができるというもの。

 技術の発展では、老化や死すらも克服できる可能性がある。それがいいことであるかについては答えがない。科学をどう使うかはについて、科学はその答えを持ち合わせていない。

オートファジーは細胞内の恒常性を保つ

 オートファジーは細胞内の恒常性を保つ仕組み。病気を防いだり、老化を緩やかにできる可能性もあり注目されている。オートファジーは細胞の中の物を回収し、分解しリサイクルすること。

 オートファジーの役割は主に以下の3つ

1.飢餓状態になった時、細胞の中身を分解し栄養にする。
2.細胞の新陳代謝を行なう。
3.細胞内の有害物質を除去する。

 マウスでの実験で、オートファジーの機能を止めると、機能を止めた臓器で病気が発生している。有害物質には病原菌なども含まれ、免疫機能の一部になっている。

 病原体は細胞に穴をあけることで、細胞に侵入している。この穴を感知すると、その細胞がオートファジーの対象となる。

 オートファジーはタンパク質の塊の除去も行うことができる。病気の原因となるタンパク質を除去できるが、加齢とともにオートファジーの能力は低下していく。低下のメカニズムと対策が解明できれば病気の治療も可能になる可能性も有る。

 ルビコンというタンパク質はオートファジーの機能を低下させることがわかっている。ルビコンは加齢とともに増えることでも知られルビコンを阻害する物質が見つかれば、薬として利用できる可能性がある。

 オートファジーが関係する病気は、神経変性疾患、がん、2型糖尿病、動脈硬化、感染症など非常に多い。

寿命を延ばすには働きすぎると寿命が縮む生命活動を抑える

科学的に寿命を延ばす方法は現在、おもに5つある。

1.カロリー制限
 ベストな方法はまだ見出されていないが、効果のある動物は多く確認されている。

2.インスリンの働きを抑える

3.TORの抑制
 細胞の増殖や代謝をコントロールするタンパク質であるTORを抑制する。

4.生殖細胞の除去

5、ミトコンドリアの抑制

 いずれも生命活動に必須だが、働き過ぎると寿命を縮めるという特徴がある。

 5つの方法はばらばらだが、すべてオートファジーが活性化するという共通点がある。

オートファジーを活性化すると言われているのは以下のような物質。

スペルミジン:ポリアミンであるスペルミジンは豆や発酵食品に含まれる。

レスベラトロール:ポリフェノールの一種。赤ワインに多く含まれる。

 カロリー制限をどのようにするのが最適化は分かっていないが一食をごく少なくしたり、抜くなどの方法がある。高脂肪食はルビコンの量を増やしてしまう。昔からいわれているような健康的な生活が有効である可能性が高い。(あまり食べ過ぎない、適度の運動する、十分な睡眠をとるなど)

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