世界を変えた6つの「気晴らし」の物語 スティーブンジョンソン 朝日出版 まとめ

本の概要と感想

 権力から離れたところで生まれたアイディアが、世に出ることで大きな変革を起こした例が大きく見られる。本書ではこの発想から「気晴らし」がいかに多くの発明、文化的な変革をもたらしたかが書かれています。

 人は遊びモードの時のほうが、生存するために集中しているときに比べ新しい驚きに寛容。遊びが多くの発見につながったのは驚きに寛容なため、

 脳は驚きに注意を払うようにできていて、驚きがあれば生物学的な動因がなくても遊びを行う。その遊びが生み出したものは社会に多くの変化をもたらしきた。

 遊びが新しい発見につながるパターンには

  • 遊びに必要なものを作る技術や需要が新しい学問や技術を生み出す
  • 最初はごく小さい遊びだったものが新しい文化や市場を生む

 の二つに分けれらる。

 驚きはイノベーションを生むのに必要で、結果的にイノベーションにつながるというのが重要。イノベーションのために遊ぶのではなく、遊びがイノベーションにつながる。必要なことだけしていては新しいことができないというのは重要となる。

 ファッションはショッピングという文化を生み、それに伴い生まれたショッピングモールは都市の設計にも大きく影響している。

 ファッションが文化になり、衣服の需要の増加にすると、供給量を増加する必要がある。供給を増やすために産業革命が起こったという説もある。

 音楽は文字や農業よりはるか前から人類が生み出していた。音楽はそれ自体を楽しむだけでなく、自動演奏装置はプログラミング可能な初めての装置であったし、コードにお金を払うと文化も創り出した。

 香辛料は世界的な貿易で取引された初めての商品。香辛料がヨーロッパにも豊富に存在していたら、東洋への旅の必要性がなくなり産業革命が大幅に遅れていた可能性ある。

 幻灯機とよばれる装置を使って幽霊の姿を干渉する娯楽は映画の登場で廃れていったが人々がお金を払い、大勢で集まって画像を観賞するという慣習を作り出した。

 中世ではチェスなどのゲームが、社会の意識の変化を民衆に伝える役割をしていた。

 ゲームに使われたサイコロは確率論を生み、統計学を発展させた。ゲームははっきりとした基準があり、進歩を測ることが容易なため、コンピューターやAIの開発においても大きく貢献した。

 仕事場でも住居でもない半公共空間、サードプレイスは不特定多数の関わりを作り多くの革命や改革の下地になっていった。

 その形は居酒屋、コーヒーハウス、公園など様々だが、異なる集団が共存できる場は近代以前には見られないものだった。

 遊びがいかに新たな発見につながったり、文化を生み出したかがわかって面白い本でした。新しい発想には驚きが重要で、必要なことをやっているときは驚きに気づきにくい。この点はなにか新しい発想を得たい人には重要な考えになるのでしょう。

本で学べること

  • 気晴らしに行われる遊びがどうような物を生み出してきたのか
  • なぜ、多くの発見や変化が遊びからもたらされたのか

序章 マーリンの踊り子

 一般的な歴史物語は戦争、条約、演説、選挙など大きな出来事を中心に展開する。しかし、権力で離れたことろでアイディアが誰かの頭に浮かび、何年も留まり、世に出て大きな変革を起こすことがある。

 歴史はぜいたく品ではなく、必需品を求める闘いと語られることが多い。しかし楽しみの歴史が「まじめな歴史」の領域に変化を及ぼすこともある。

 ぜいたく品のような人生の後ろめたい喜びは社会が将来どう変化するかの手掛かりになる。

第1章 下着に魅せられた女たち ファッションとショッピング

 第1章では、ファッションの追及がもたらした社会の変化について書かれている。ファッションはショッピングを生み、産業革命の原動力にもなっている。

 衣類のデザインは人類が登場したときから、技術革新を促してきた。その技術革新は実用目的(体を温めて濡れないようにする)以外に装飾のための道具制作が早くから行われていた。

 塗料による装飾もその一つ。紫色の塗料は巻貝から抽出されたが、その巻貝をもとめヨーロッパからアフリカへのを通った旅は初めて大西洋を渡った旅だった。

 塗料への渇望は危険な旅を行うほどだった。金銭的な価値が旅を行わせたと言われることもあるが、純粋な美的反応や新しいものを経験する単純な喜びが原動力になっている。

 新しいものは価値があり、営利目的の投資を引き寄せ、新しい技術や市場の資金源となる。遊びの歴史ではこの繰り返しが行われてきた。

 17世紀末、服を買う場に変化が見られた。これまでの市場のようなディスプレイから、飾り付けて展示され、買い物そのものが娯楽になった。ショッピングという娯楽を生み出した。

 当時木綿の輸入が増え、木綿素材の服が増えたのはその繊維としての性質だけでなく、ショッピングが流行したためでもある。

 産業革命が起きたため、供給量が増え、消費社会が生まれたというのが通説。しかしショッピングの登場が需要を喚起し、産業革命をもたらしたとする説も説得力がある

 一方で、木綿の大量生産のためにアフリカから大量に黒人が奴隷としてアメリカへ運ばれるような負の影響も今でも残っている。

 ショッピングの流行は、百貨店やショッピングモールの登場につながっていく。ショッピングモールの誕生は都市の設計そのものに、大きな議論を巻き起こすようになっている。今でもモールを含む都市の最適化の答えは出ていない。

第2章 ひとりでに鳴る楽器 音楽

 第2章では音楽が果たした役割が書かれている。

 初期人類は文字や農業よりはるか前に楽器を作っていた。音楽が絵画などと比べて抽象性が高いことを考えると音楽を生み出した早さには謎が多い。

 人類がこれほど音楽を好むのは、脳内で快楽ボタンを押し、新たな展開を追求するため。

 人は遊びモードの時には新しい驚きに寛容だが、基本的欲求を感じている(空腹、睡眠不足等)と生存に必要なことに集中する。そのため、遊びが多くの発見やイノベーションにつながった。

 特定のコードによって自動で決められた働きをし、コードを変えれば他の働きをする。このようなプログラミング可能な装置は楽器から始まり、コンピューターのもとになっている。

 入力装置としてのキーボードもピアノからアイディアを得ている。

 ピアノを演奏したときの内容を紙に書きつけ、コード化できるようになるとそのコードを購入し音楽を聴くことができるようになる。コードにお金を払うという商業モデルも音楽から生まれた。

第3章 コショウ難破船 味

 第3章では、香辛料がなぜこれほど世界に広がったのか、そして香辛料の拡大が世界に何をもたらしたのかが書かれている。

 食のグローバル化は大きく進んでいるが、その始まりは香辛料から始まった。

 香辛料は、世界的な貿易で取引された最初のものであり、銀ほどの価値を持つ時代もあり、現代の石油に近いほどの世界的な影響力を持っていた。

 香辛料がここまで大きな影響を持ったのは

  • 民間療法で薬として使用された。
  • ヨーロッパの人々にとって香辛料を食べることが、東洋を体験する方法だった。

 香辛料がヨーロッパに豊富に存在していたら、東洋へと旅するのは必要がなくなり、そこから生み出される富が減り、産業革命が数十年遅れていたかもしれない。

 新しい経験、願望、思考を探索したいという欲求が世界を拡張する原動力となる。

第4章 幽霊メーカー イリュージョン

 第4章では、視覚的な錯覚を利用した娯楽について書かれている。今では大きな芸術分野である映画がどのように生まれ発展してきたかも書かれている。

 幻灯機と呼ばれる装置を使って投影された幽霊姿を鑑賞する娯楽は18世紀に始まった。

 身分に関係なく、同じショーを見学する文化はそれまで存在しなかった。

 視覚は人間の情報取得の85%を占めるが、見たままではなく、予測し情報を処理する。そのため錯覚を起こしやすいため、ショーとして多くの人が楽しめる。

 幻灯機によるショーは映画の登場で廃れていしまったが、人々がお金を払い大勢で集まり画像に夢中になる慣習を作り出した。

 映画そのものも人間の視覚的な錯覚を利用して作成されている。

第5章 地主ゲーム ゲーム

 第5章では、ゲームが意識の変化や確率、統計学を生み出したりと幅広い範囲で文化の進化を後押ししたことについて書かれている。

 中性のヨーロッパでは社会的地位は神から与えられた必然的なものでなく、法的、倫理慣習から現れると考えられるようになった。チェスはこの考えが一般に広まる手助けをしている。

 チェスの駒の働きによって社会的意識の変化を民衆に伝えてきた。そのためチェスを用いた比喩は非常に多い。

 チェスに限らず、ゲームは言語の壁が少ないため、国境を越えやすいという特徴もある。国境を超える中でルールが変わることもある。ゲームは初めてグローバル化する中で開発、進化していく文化。ソフトウェアなどが世界中で開発、進化していくのと同じことをしていた。

 ゲームに使用されるサイコロの登場は確率論を生み。統計学を発展させた。確率論は幾何学と、違い中世まで生まれなかった。

 運のゲームは古代から見られたが、精密なサイコロを作る技術がなかったため、確率論は古代では生まれなかった。遊びに必要な技術が大きな学問につながった。

 ゲームはコンピュータやAIの発展にも重要となった。チェスをするコンピュータのようにゲームには、はっきりとした基準があり進歩を測ることができたため、コンピュータの歴史においても重要だった。

第6章 レジャーランド パブリックスペース

 第6章では、半公共空間がどのような働きをするのか、どのような場所があるのかについて書かれている。

 古代より、飲み屋という空間は存在してきた。仕事の場所でも礼拝のためでも、住居でもないただ余暇を楽しむという場所は飲み屋が初めてだった。

 居酒屋が生み出した半公共空間はサードプレイスとも呼ばれ、コーヒーハウスなどでも見られ、多くの革命や改革の下地となった。

 産業革命による機械化、工場化が進むと人々の中に自然を求める人が増え始める。それまで自然は畏怖する対象だったが、レクレーションの対象となった。

 この流れが公園や動物園を生み出していく。

 遊ぶ場は異なる集団が共存できる社会空間を生み出したが、このような場は近代以前には見られないものだった。

終章 驚きを探す本能

 遊びの歴史はその経験がもたらす喜びだけでも充分容認される。

 しかし、遊びが促したイノベーションもまた非常に多い。

 公共博物館、大航海時代、ゴム産業、株式市場、プログラミング可能な計算機、産業革命などなど

 私たちの脳は、世の中の何かに驚かされると注意を払うようにできている。本書で見てきた遊びは様々だが、最初に驚きがあった点が共通している。斬新な体験、味、手触り、音があったから人々は生物学的な動因がなくても、それらの遊びを好んで行い、結果的に社会の変化をもたらしてきた。

 機械の進化に恐怖を覚える人もいるが、機械が自ら考え始めることに心配するのはまちがっているかもしれない。本当に心配すべきは機械が遊び初めて時に起こることかもしれない。

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