依存症と回復、そして資本主義 中村英代 3分要約

3分要約

依存症とは何か

 ある行動を繰り返し、その行動を止められなくなった状態。

 依存症は個人の資質や意志に起因すると考えられがちだが、自分の意志で行動をやめられなくなった状態であるため、意志の力での改善はできない。

なぜ依存症の理解が必要なのか

 依存症の正しい理解が治療の助けになる。特に意志があれば依存症から回復できると考えている人も多く、正しい知識が必要。

 依存症の回復を行っている組織の考え方や手法は我々の行動や現代社会の傾向性を別の側面から見ることで現代社会に潜む問題を知ることにもつながる

依存症治療で重要なことは何か

 もっとという感情を忌避し、何か一つの変数の(お金、権力、評判など)最大化を抑制する仕組みが依存症の回復に有効。

 自分の気持ちや環境の中で、変えられる物、変えられないものをわける。変えられるものを変えるようにし、変えられないものを変えようとすることをやめることも治療には重要となる。

依存症治療の知識から何を学べるのか

 現代社会は一つもしくは複数の変数の最大化を求める傾向が強い。特に資本主義では、利潤を最大化しようとする。

 利潤の最大化のためには他者を自分の目的のための道具と捉えてしまい、根源的な分断と孤立をもたらし、ナルシズムを助長しエゴを拡大化していく。

 依存症の回復で見られた特定の変数を最大化しない仕組みは社会の恒常性を高め、エゴを縮小する働きを持っている。

 社会はそう簡単に変わらないが、瞬間瞬間を生き切るスタンスを持つことが依存症の回復に有効であることは我々に希望を与えてくれる。

依存症への理解は人々の無意識の思考習慣を明らかにする

何かをやめられない依存症はアルコール、薬物、ギャンブル、ダイエットなど様々で時代や地域を問わず人々を苦しめてきた。

依存症からの回復をおこなっている組織であるダルクや12ステップグループの考え方や手法は依存症の回復だけでなく、我々の行動や現代社会の傾向性を別の側面から見ることができる。

依存症への理解を深めることで、依存症を正しく理解するだけでなく、人々の無意識のうちの思考習慣を明らかにし、そこにある問題を知ることのできる本になっている。

依存症の原動力は渇望で意志の力で勝つことはできない

依存症は人がある行動を繰り返した結果生じる、その行動を止められなくなった状態のこと。依存症は個人の資質や意志に起因すると考えられがちだが、自分の意志で行動を止めることができなくなっている状態であるため意志の力で回復することはできない。

依存症には何らかの物質の摂取が止まらない、行動が止まらない、他者をコントロールしようとする行動が止まらないなどの種類があるが、全ての止まらない行動の原動力は渇望。

渇望は意志の力で打ち勝つことの難しい強烈な欲求。渇望は欲求を加速させ、簡単に満足できなくなり依存症につながっていく。

意志の弱い人=依存症になりやすい人ではない

依存症になりやすいのは意志に弱い人や快楽に溺れやすい人でもなく、不安や緊張を抱えたり、痛みや苦しみを抱えている人だという考えが広まりつつある。

虐待経験者、精神疾患を抱える人、機能的な理由で欲望のコントロールが難しい人などが依存症になりやすい。

依存につながるような行動の前には特定の感情を抱くことが多い。

・痛み

・恐れ

・怒り

・欲望

4つの感情のをもとに行動に移るときに、他者をコントールする方向に向かうか自分をコントロール吸える方向に向かうかで依存する行動が変わっていく。

コントロールしようとしているものが、変えられないものであると依存症に近づいてしまう。

4つ感情を観察し、健康的な方向で受け止め、変えられるものと変えられない物を見極めることができれば、依存症から遠ざかることができるようになる。

社会的な相互作用の連鎖である分裂生成に歯止めをかけることが社会では重要

分裂生成理論は認識論を展開したベイトソンによって提唱さえた理論。分裂生成とは「Aの行動がBの行動を刺激し、Bの行動がまたAを刺激し、初めの行動を強めるという社会的相互作用の連鎖」のこと。

AとBの行動が本質的に同じであれば対照型となり、競争や張り合いとなる。違っていても噛み合っている場合は相補型となり、支配と服従、擁護と依存などのような形をとる。

対称型でも相補型でも関係性は徐々のエスカレートしていくと人間間では喧嘩や別離、国家であれば戦争などにつながるため、二つの型の分裂生成に歯止めを欠けることは個人や集団が生き残るための切実な課題となる。

分裂生成理論では、対称型の関係に相補型の行動を混ぜたり、相補型の関係に対称型の行動を混ぜることで緊張が緩和することも示されている。対立中にどちらかが服従したり、支配される側が対立姿勢を示すことでエスカレートする関係性は収束していく。

ベントソンはアルコール依存症にも分裂生成理論を当てはめている。飲んでいないときは周囲と対照型の関係を気づき、酔うことで相補的な関係を築くことができるためアルコールに依存してしまうと考えた。

特定の変数を大きくするような社会では定常性を保てない

現代社会において人間が一つないしそれ以上の変数(お金、信望、権力など)の値を大きくしようと分裂生生成的に求める傾向が強い。 

一方、ベイトソンがバリで行った調査では、現地の人々は個人も村も変数を高めるような行動を取らないようにすることで定常状態を確保することが確認された。

 バリではもっともっとを求める傾向を弱めるように教育を行なうことや経済的でない儀式や芸術活動に打ち込むことで未来の報酬を望む傾向を持たず、定常状態を維持することで苦痛を回避している。

現代人は苦痛を回避しつつ、未来の報酬を得るという目的のために自己や他者や環境を変化させている。変化させようとする気持ちが代えられないものに向いてしまうため依存症を避けることができなくなってしまう。

薬物依存からの回復では特定の変数を大きくしない工夫がある

ダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center)は薬物依存者たちに共同生活する場を与え、薬物を使わない生活を支援するグループ。

 ダルクではミーティングが最重要視され、出席することが唯一の規則。ミーティングでのルールは言いっぱなし、聞きっぱなし。ただ仲間の話を聞き批判や評価をしてはいけない。

相手からの評価がなければ良い話をする必要もなく、正直に話すようになっていく。

また、ダルクでは生活費を使い切ることが基本で、金銭を貯める行動も抑制されたり、仮名を使用することで対等な人間関係を目指している。

これらのルールは、分裂生成的なもっとを忌避し、一つの変数の最大化の抑制を図ることで現代社会の生きづらさからの解放を目指すことで依存症患者を変えていこうとしている。

アルコール依存からの回復でも変数の最大化の抑制が有効

12ステップグループ12のプログラムによってアルコール依存症に対応する組織から派生し、さまざまな依存症問題に利用されるようになっている。

 12ステップのプログラムでは、起こった出来事を宿命的なものとして受け入れつつ、学び成長していく姿勢を身につけることを目標としている。

苦しみの中にあっても何が学べるかと考えることはエゴを収縮させ、他人との過度比較を行わないようになる。

12ステップグループにおいても、一つの変数の最大化の抑制が根本原理として存在している。

変数の最大化は資本主義の特徴

一つの変数の最大化は資本主義の特徴的な傾向。資本の目的は利潤を最大化することで、そのための手段は問われず、儲けのためには何でも作られるし、何でも売られる。

ある一つの要素を最大化させようとすると、システムの破壊を導くことをベイトソンは指摘している。資本主義が人々の思考様式、意識行動、生活全てに入り込んでいることを考えると、ダルクや12ステップグループのような回復コミュニティには依存症の回復以上の意味を見出すことができる。

回復コミュニティから学べることは多い

現代社会では他者を自分の目的を達成するための道具で、幸福という目的の手段とする態度が多くの場所で見られる。

このことは根源的な分断と孤立の感覚をもたらし、ナルシズムを助長し人間性に対する脅威を生み、個人を商品化してしまう。

回復コミュニティでは、依存者が自己よりも大きな力につながることで全体の福祉を優先し、エゴを縮小し、自己のあり方を問い直す仕組みが取り入れられている。 

また、個人を変えるのではなく、関係性を変えることに注力することも特徴的の部分の一つ。

私たちが思っている以上に人と人との関係性をどうするのかは未開拓の領域。弱さや痛みでつながり合う回復コミュニティから学べることは多い。

分裂生成を抑制する組織から学ぶことは多い

分裂生成に満ちた現代社会はそうは変わらない。そのような社会の中で我々は常に、痛みを抱え、恐れを抱き、怒りに駆られ、欲望に支配される存在。

バリや回復コミュティの社会が今日を生きること、瞬間瞬間を生き切るスタンスを持つことを意識していたことは、過去と未来の間で右往左往する我々に希望を与えてくれる。

関係性の重視、一つの変数の最大化の阻止、今を重視するなどを学ぶことで、体や心の声に耳を澄ませれば、何が私たちを幸せにし、何がいらないのかを人生を通じて知ることができるかも知れない。

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