働かないアリに意味がある 長谷川英祐 3分要約

3分要約

働かないアリにどんな意味があるのか

 アリ=働き者と追うイメージとは逆にアリのコロニーでは、働いていないアリが一定数存在している。

 効率から考えれば無駄に見えるが、生物の世界では競争を勝ち抜き、子孫を多く残すことのできる性質が次世代に伝わるため、働かないアリにも意味があるはずと研究が行われた結果、働かないアリのいる方が効率が上がることがわかっている。

なぜ働かないアリがいると効率が上がるのか

 余剰人員がいると、突発的に仕事が発生したときにうまく対応できることが知られている。常に全員が働いていると大きなエサを発見するなど突発的なチャンスを見逃したり、みんなでエサを取りに行ってしまい、卵の世話など常に行われなければならない仕事がおろそかにしてしまう危険性がある。

働かないアリはどのように生み出されているのか

 アリの脳は小さく、高度の知的判断や指令を受けることで行動することはできないため、反応閾値の違いを利用している。

 反応閾値とは刺激に対して行動を起こすために必要な刺激量の限界値。閾値が低い個体は刺激に対しすぐに行動し、高い個体は行動をなかなか起こさない。

 反応閾値の違いを利用することで、複雑な指令がなくとも適材適所による仕事の効率化を可能にしている。反応閾値は遺伝するため、遺伝的多様性の高いほうが様々な反応閾値を持ち効率的なことが多い。

アリの世界と人の世界の共通点は何か

 社会によって大きな利益を得ている半面、個人と社会の利益の違いは我々のストレスの原因ともなっている。社会性昆虫でも群れか社会かという問題は同じで決して避けられない問題。

 一見無題に見えることが実は効率的なことも多い。今役に立つことにしか投資しなければ滅亡への一本道。

我々は社会から大きな恩恵を受けているが、ストレスの原因でもある

 人生が複雑で大きなストレスを感じることも多いがその多くは社会との関わりによって起きている。 

 我々は社会や他人との軋轢で大きなストレスを受ける一方で、社会は個人の生活に大きな恩恵もたらしている。個人と社会は互いに影響しながら並行的に存在するため、個人と社会の利益の食い違いは避けられない。

 個人と社会の利益のバランスが人生の複雑さを生み出している。

 社会性は人間だけでなく、多くの動物が持っている。自分の子供を残すという個体の利益にならない他個体の繁殖を補助する利他行動をとる生物は真社会性生物とよばれる。

 社会を作るという他の生物にない特徴はユニークな生物現象を生み出している。真社会性生物の研究者である筆者が社会性生物の様々な生態を紹介し、その奇妙で時にユーモラスな行動を楽しむことができる本になっている。

働かないアリが効率を上げている

 アリとキリギリスの童話からも見られるようにアリ=働き者というイメージが強いが実際には、巣の中の働きアリの7割ほどはなにもしていないことがわかっている。

 多くのアリはその瞬間だけ休んでいるが、約2割はずーと働かずに暮らしている。効率性という観点から見るとこのようなアリは不要に見えるが、自然界では激しい競争を生き延びる性質のみが将来の世代で伝わっていくため、働かないアリがいること自体が種に有利な性質をもたらしている可能性も有り、多く研究が行われてきた。

 研究の結果、働かないアリがいることで大きなエサの発見など突発的な仕事ができたときに、うまく対応でき、コロニー全体の効率性が上がることがわかっている。

反応閾値の違いによって高度な判断無しで、適材適所を可能にする

 昆虫の脳は小さく、高度な知能低判断を行うことは難しく、仕事の刺激を受けたときもともとプログラムされていた単純な反応で応えるというやり方をしていると考えられている。

 また、人の組織のような階層的なシステムもないため、女王アリやハチもコロニー全体のことを把握しているわけではないが、指令を行うことなく適材適所に個体を配置することができる。

 これを可能にしているのは刺激への反応閾値の違い。反応閾値とは刺激に対して行動を起こすために必要な刺激量の限界値。閾値が低い個体は刺激に対しすぐに行動し、高い個体は行動をなかなかおこさない

 こなさなければならない仕事が複数あり、その質と量に時間、空間的な変化がある場合、反応閾値の違いがあれば、指令がなくても適材適所で個体を動員することができる。

 反応閾値の低い個体は刺激を受けると、すぐに仕事に取り組む。閾値の高い個体はすぐには働かないが刺激が大きくなれば、働くようになる。また、別の仕事の刺激があればそちらに反応し複数の仕事にも対応できる。

 アリの集団で見られる2:8の法則もこの反応閾値の違いによって起きるといわれている。

反応閾値は遺伝するため、遺伝的多様性が高いコロニーのほうが効率的

 コロニー内の遺伝的多様性が低いほうが、ワーカーにとっては自身の遺伝子を伝えやすいため、有利と思われるが、実際には女王蜂は多くのオスと交尾し子孫を残しているため、遺伝的多様性が高いほうが有利といえる。反応閾値は遺伝するため、遺伝的多様性が高い=集団内で幅広い閾値を持つことへとつながる。

 反応閾値が全員同じな場合、全員が一斉に行動し、疲れたときに対応できなくなる。閾値が違えば、疲れた際に休憩、閾値の高い個体が対応することができ、コロニー全体効率性は上がっていく。

 働かないものを含むことは一見非効率に見えるが、長期的な存続が可能となり、長い時間をかけそのようなシステムが選ばれるようになった。

 人間社会でも何の役に立つかわからないことを調べて置くことはリスクヘッジの部分からも意味がある。牛の持つプリオンというタンパク質が変異し狂牛病の原因となったが、プリオンは何の役に立つかわからず、ごくわずかな基礎研究が行われているに過ぎなかったが、狂牛病が流行したときに基礎研究のデータが非常に役に立った。

より自分の遺伝子を伝えられる行動は遺伝していく

 進化の法則は単純で、より多くの子供を残せるような性質を持つものは、その後の世代で数が増え、最終的にそのような性質を持つものばかりが残るというもの。

 アリやハチなどの社会性昆虫のワーカーは自分の子供を残さないため、なぜこのような性質が遺伝するのかは種の起源が発表されて100年以上説明不能であった。

 これを説明可能したのが血縁選択説。自分が直接子供を残すよりも親(女王アリや女王ハチ)を手伝うことで親が残せる子供が増えるのであれば、血縁者を通して自分の遺伝子を将来に伝えることができるため、親を手伝う行為を後世に伝えることができる。

 遺伝的な要素だけでなく、集団になることで血縁選択上の利益がない個体同士でも協力する方向へ進化し、群を形成し一個体あたりの生産性があがることができれば、後世に協力する性質が伝わるとする群選択説もある。

 どちらの説が有力かは議論が続いているが、血縁選択だけでは人間が見せる自分の身を犠牲にして、他人を助けるような行為の説明ができず、両方が進化に関わった可能性が高い。

社会ができれば利己的な個体が生まれるが、利己的な集団は淘汰される

 社会の中で協力が一般的になり、個体がコストを負担することで回る社会というシステムが常態化されるとただ乗りし利益をむさぼる行為が可能になる。

 このような利己的な個体はチーターと呼ばれ、社会が形成されるとどこにでも現れる。このような裏切りは利益が大きいが、集団内で広がりすぎると集団が滅びてしまうため利己性が利他性を排除するようなことにはならない。

 裏切りによってほろんだ場所で新しい集団が生まれ、その中でまた裏切りものが生まれるというループを繰り返すため、裏切り者の数は一定に保たれていく。

群れにもデメリットがあるため、社会性を持たない動物も多い

 群れは狭い範囲に個体がいることではなく、集団全体が何らかの機能を持つ、互いに相互作用のある複数の生物個体の集まりと定義される。

 群れは様々な生物で見られるがメリットは自分が捕食される可能性が下がる、複数の行為を同時に行うことができる、捕食者を威嚇するなど様々。

 メリットも多いが、群れを形成しない生物も多く見られる、群れには捕食者から発見される、伝染病が広がりやすいなどあげられる。

動物の社会では完全な個体から不完全な群体が生まれている

 多くの生き物は単体を個体とみなすが、細胞の集団とみなすこともできる。細胞間で競争が起きない位のは全ての細胞が受精卵のコピーであることや、次の世代に伝わる細胞が生殖細胞のみであるため、変異が伝わりにくいことが原因。

 細胞は一部で変異はするが、完全な個体に近い。それでも細胞同士の集合である個体になると一部ががん化するなど不完全な群体となる。個体が同士が集まり社会となると裏切るが発生する頻度は増えさらに不完全な群体になる。

 動物の社会は不完全な個体から完全な群体が生まれるのではなく、完全な個体から不完全な群体が進 化している。

 一部のアリでは遺伝的な多様性が低く、繁殖を無性生殖で行う女王と、繁殖を行わないワーカーからなる種も報告されている。この形態は細胞に近いより完全な群体だが、一部の種で見られるのみ。遺伝的多様性が低いため、伝染病に弱い、反応閾値に差が生まれにくく分業がうまくいななくなり、コロニー全体で見ると生産性が上がらないことが大きな理由。

 人間を含めどんな社会でも組織の効率追求と組織の存続できる可能性の綱引きは綱に行われ、群れか個体かという問題からは逃れられない。

今役立つものだけを見ることは滅亡への一本道

 生物は環境に適応し、進化していく。進化によって生物の種数が飛躍手に増えていくのは植物を食べる動物が現れた後であることがわかっている。

 食う食われるの関係はお互いの進化スピードを速め、多様性を大きく増加させた。

 進化論では次世代に残す遺伝子の数が多ければ、その形質が遺伝するとし、短期的に効率が高い性質が残っていくとされている。実際には次世代より先で効率を上げるような性質が発見されており、どのくらいの未来の適応度に反応して進化しているのかは全く分かっていない。

 進化の終着は完全な生物で、そのような生物が生まれればその生物だけが繁栄するようになる。しかし、進化にはゴールもなく、どうすればゴールに行けるかは永遠にわからない。

 アリの世界で見られたように無駄は結果的には効率的。今役に立つものだけに投資していれば滅亡への一本道。40億年を生きぬいた生物たちが効率より存続を優先しているのが無駄の重要性を物語っている。

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