変異ウイルスとの闘い 黒木登志夫 3分要約

3分要約

コロナに対する正しい理解はなぜ必要か

 コロナが収まり以前の生活に戻っても,新たな変異や感染症は必ずやってくる。

 コロナ禍での経験を活かしていくかがコロナ世代の宿題でありそのためにもコロナに対する正しい理解は不可欠。

ウイルスについて知っておくべきことは何か

感染症の増減は主にウイルスの変異によって起きる。感染力の高い変異が起きれば新しい変異ウイルスがこれまでの,ウイルスに置き換わっていく。

 デルタ株のように遺伝子中のエラーを修正する能力を失っている株は一時的に流行してもすぐに減少する。デルタ株での感染者数の激減は行動制限やワクチンのおかげではなく,ウイルスの変異によるもの。

ワクチンについて知っておくべきことは何か

 ワクチンはリスクと利益を天秤にかけてどちらかがうわ回るかを評価することで審査を行う。

 ワクチンのリスクを評価することは重要だが,リスクだけに目を向けて反対することは避けるべき。

コロナが明らかにした日本の課題は何か

 ワクチン開発の遅れ,ブースター摂取の遅れ,Gotoなどの不要な政策,医療体制の不備など様々。

 原因は変化への対応不足,縦割り省庁の弊害,不適切な予算配分など変えるのは難しい部分もあるが,コロナで学んだことを活かし変えていく必要がある。

コロナ禍で得た教訓を次につなげるためにコロナへの正しい理解が必要

 2020年から数年間はコロナの時代として,後世に伝わるだろう。当初は特効薬もなく,致死率は高く恐怖感を覚えていたが、ワクチンの開発などで安心できるようになっている。

 ウイルスの致死率が下がり,経口薬開発も進み徐々に以前の生活へと戻りつつある。

 コロナ禍でも経験をポストコロナ時代にどのように生かしていくかがコロナ世代の宿題である。コロナについて正しい理解を得て、考えることができる本になっている。

急激な感染者の増減はウイルスの変異が原因

COVIDに限らず感染症はコンスタントに増えるのではなく,感染が急に増えたかと思うと減少し、治ったと思うと変異したウイルスがやってくる。

2020年の終わりに発見されたデルタ株は感染力が非常に強く,それまで流行していたα株を数ヶ月で置き換えてしまった。

感染力も高く,症状も重かったデルタ株だが突然大きく減少した。この原因はワクチンや行動制限のためとされたが,実際にはウイルスの変異によるもの。

 デルタ株ではウイルスの中のエラーを修復するメカニズムが働かなくなっていたため,生存に必要な遺伝子にエラーが出ても修復できないなど,複製に支障が出たため,急激な減少となった。  

ワクチンの評価はリスクとベネフィットを天秤にかけて行うべき

 ワクチンの感染症予防力は素晴らしく,これまでに20以上の感染症に対してワクチンができている。

 従来,ワクチン開発には長い時間がかかっていたが、COVIDのワクチンはわずか十ヶ月で,95%もの有効性を持つワクチンが完成した。ワクチンについて知るためには免疫について知っておく必要がある。

自然免疫は外部から入ってきた細菌などを取り除く仕組み。自然免疫をくぐり抜けた微生物には獲得免疫が待ち受けている。獲得免疫では微生物の持つタンパク質を認識,記憶し攻撃することで特定の敵に対抗する。

ワクチンは不活性化した病原体や病原体のゲノムが作るタンパク質のような遺伝子産物や病原体のゲノム情報を用いたもの(DNAやmRNAなど)を摂取し,獲得免疫を得る方法。

mRNAを用いたワクチンはCOVIDのワクチンで初めて用いられた。これまではmRNAの構造が不安定であったこともあり実用化されていなかった。

ワクチンの審査は安全性と免疫の誘導性つまり,リスクとベネフィットを天秤にかけ,どちらかが上回るかを評価することで行われる。ワクチンに反対する人は少しでも副反応があればダメという考え反対運動をおこなっているが,確率的,相対的にベネフィットと比較するものの見方が重要になる。

様々なワクチンが開発されたが,日本は予算などの要因で遅れている

mRNAのワクチンとして使用する研究は日本でも行われていたが,予算がつけられず頓挫している。ハンガリー出身のカリコーらによって実現され,モデルナ,ビオンテック,ファイザーなどの企業によって製造されることとなった。

mRNAワクチンは実社会でも大きな感染抑制効果を示し,その有効性が示された。

mRNA以外のワクチンもDNAワクチン,ウイルス遺伝子の作り出すタンパク質を利用したワクチン,不活性化したワクチンなども開発されている。

変異ウイルスに対してもワクチンの重症化予防効果は残る

子供の頃に打ったワクチンの効果が終生続くため,ワクチンは一生ものと思いがちだが,全てのワクチンが終生に渡り免疫を持つわけではない。ファイザーのワクチンはおよそ80日で抗体が半減することがわかっている。

また変異したウイルスに効果があるかも大きな関心ごと。現状ウイルスが変異しても,感染予防効果は減少するものの,重症化を防ぐ効果が落ちることはない。

ブースター摂取することは感染の抑制にも効果的であることがわかっている。

政府によるワクチンのネガティブキャンペーンは変えるべき

副反応についても様々な議論がある。アナフィラキシーショックや血栓症,心筋炎などがあげられるがいづれも対策をとれば大きな問題となるものではない。

ワクチン摂取後の急死が問題となることも多いが,ワクチン接種が高齢者の死亡を引き上げている事実は見られない。

現状の予防接種法では予防接種に努めなければならないとしているが,政府は強制ではないと繰り返している。予防接種法に従ってワクチン接種に努めなさいと言わなければ、政府によるワクチンへのネガティブキャンペーンになってしまう。

ブースター接種の遅れも日本の問題を浮き彫りにした

 日本ではワクチン接種の遅れも目立ったが、要因は審査の遅さや最新のデータを元に方針を変更するような柔軟性のなさ。

ブースタ接種の時期を2回目接種後8ヶ月後としたが、根拠は少ない。オミクロンについてはワクチンの効果は2ヶ月で30%まで低下することがわかったため、イギリスなどでは間隔を3ヶ月に短縮しているが日本ではそのまま8ヶ月で行っている。

そのため、他国と比較してブースター接種が大きく遅れてしまっている。

日本はワクチンの開発でも遅れているが努力で改善できる

ワクチン開発でも日本は出遅れてしまった。要因は以下のようなものが挙げられる。

1.研究費用の配分の決定の遅さ

2.予算の少なさ

3.ワクチンのリスクの高さから積極的に開発しようしない

4.感染者が少なく臨床試験が困難

5.接種効果を確認するために必要なデジタル化が進んでいない

6.基礎研究を疎かにした

困難な部分あるのは確かだが、努力すれば改善することもできるはず。

治療薬の開発も進んでいる

治療薬の検討も進んでいる。COVIDから回復した人の抗体を分析して、作成したモノクローナル抗体を軽、中等症向けに点滴で利用したり、パクスロビドやモルヌピラビルなどの発症初期に飲む経口薬も検討されている。

中等症で発生する炎症や呼吸器の症状についても、酸素飽和度が下がり、患者は苦しい状態になる。この状態を改善する薬剤としてはレムデシビル、デキサメタゾンなども有効性が確認されている。

医療圧迫は日本医療の問題点が関わっている

感染の波が来るたびに医療圧迫などが問題になる。医療圧迫が起こる要因には日本の医療の問題点が関わっている。

日本は公立の医療機関が少なく私立病院が多い。公的医療機関であれば国や自治体から指示出できるが、市立病院では難しい。また規模も小さいため、コロナ対応は難しい。

多くの病院が病床の稼働率を80%を超えないと採算があわないことも原因。病床をフルに使わないと利益が出ないため、コロナのために病床を開けておいたり、入院患者を追い出すことは難しい。

また医師の数の諸外国に比べ少ないことも大きな原因。特に病床あたりの医師の数は極めて少ない。

対策は専用の野戦病院を作り、軽症、中等症を受け入れ、自衛隊の医師、看護師が中心となって運営する必要がある。感染症がおさまった際は自然災害時に利用するなどすれば無駄にもならないと考えられる。

コロナの教訓から新たなパンデミックに備えた行動が必要

ウイルスにも変異が見られ徐々に終わりが見えてきた。今後のシナリオは以下のようなものが考えられる。

・終わりの始まり

ウイルスの変異による致死率の低下やワクチン、薬の開発などでコロナが終息していく。

・始まりの終わり

今後も変異したウイルスが繰り返し登場するというもの。ただし病原性はそれほど高くないと思われるため、リスクの高い人に対して予防すれば乗り切れるかも知れない。

・終わりなき始まり

強力な感染力と病原性を持つ変異ウイルスが繰り返し出現すると目も当てられない状況。それでもわずか2年間で10を超えるワクチンと薬を開発しており必ず乗り越えられる。

感染症法の2類(SARSと同じレベル)から5類(インフルエンザ)への引き下げは慎重にすべき。致死率は下がっておりやワクチンの有効性も高いが、後遺症の問題や変異の多さなどもあるため。

一方で新たなP類(パンデミック)を作ることで実務上対応はやりやすくなると考えられる。

COVIDはこの世から消えることはない。インフルエンザや風邪のようなウイルスになったとしても消え去ることはない。

新たなパンデミックに備えて、コロナで学んだことや変えなければならないことを考えなければならない。

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