多様性の科学 マシュー・サイド Discover 要約 前半部

概要

 9.11アメリカ同時多発テロを事前に防げなかったことで、情報機関であるCIAは大きな批判を浴びた。多くの兆候が見られたにもかかわらず、点と点を線に結ぶ能力に欠けたため、見られた兆候をテロ計画に結び付けられなかったと批判された。

 それに対し、CIAは物事が起きた後、そうなると思っていたと感じる後知恵バイアスに過ぎないと反論し、CIAの行動に問題は無かったと考えた。

 しかし、失敗の本当の原因はCIA職員の能力不足ではなく、多様性の不足に合った。当時CIAでは、男性、白人、アングロサクソン系、中上流階級に所属する人がほとんどで組織の多様性が非常に低かった。

 多様性の低さは以前から指摘されてきたが、能力を最優先することが重要で、多様性を確保するために能力で劣る人を職員とすることはアメリカのためにならないと反論してきた。しかし難しい問題を解決する際には、一歩後ろに下がって違う視点からモノを見る必要があり、そのために多様性が重要なカギとなり、多様性の持つと力が個人の力にも勝っている。

多様性には人口統計学的多様性と認知的多様性がある

 多様性には人口統計学的多様性と認知的多様性が存在する。人口統計学的多様性には人種、年齢、性、性的思考、信仰などの違いがあげられる。認知的多様性は環境や経験の違いからくる物事の見方や考え方の違い。

視点の多様化が複雑な問題の解決に必要

 専門家や慣れたひとは、ものの見方や考え方に枠組みがあり、その枠組みの外に解決法がある場合、盲点となり、目を向けることできなくなる。

 多様な背景や経験を持つ人々の集団はそうでない集団に比べ、人間を深く理解する能力に長け、盲点を小さくし、考えの枠組み通しの橋渡しをすることもできる。その結果。集団としてのパフォーマンスは多様性の低い集団に比べ、高くなる。

 多様性の低い集団はパフォーマンスが低いだけでなく、共通しがちな盲点を強化しあってしまう。また、間違った判断を下しているにもかかわらず、似たような視点を持つため、自分たちの答えに互いが同意しあい、自信を持つようになってしまう。

CIAの失敗は様々な多様性不足が原因

 CIAは宗教的な多様性も低く、イスラム文化に詳しい人もいなかったため、ビンラディンの映像や言葉の持つ意味を理解することができなかった。イスラムの人々はメッセージの中身を理解し、一部の人は過激派となり、テロ行為を行うこととなった。

 CIAはテロを暗示するメッセージやメモの解析から実行を裏付けるものは出なかったとし、自らを擁護したが、テロを未然に防げなかったのは特定の作業がもたらしたものではなく、もっと大きな枠組み(低い多様性)にあった。

 CIAには中国語、韓国語。ヒンディー語、ウルドゥー語、ペルシア語、アラビア語を話せる人もほとんどいなかったが、これらの言語を使用する人たちは世界の約1/3を占める。

 CIAの職員は個人個人では高い洞察力を持っている。しかし、集団で見ると盲目になる。このパラドックスの中に多様性の大切さがある。 

背景が同じ人ばかりでの意思決定は盲目になりやすい

 サッカーイングランド代表は大舞台での優勝から長く遠ざかっていた。イングランドサッカー協会は企業家や陸軍士官などが参加する委員会を企画した。

 なぜ専門家でない人から意見を聞くのかという批判もあったが、サッカーに詳しい人同士とは違い、物の見方や考えの枠組みが異なるため、柔軟な意見=反逆者のアイディアが多く見られた。

 取り組む問題が単純であれば一人でその空間の情報をカバーできるため、多様性は必要ない。しかし、問題が複雑化した場合、同じような人が集まってもその空間の情報はほとんどカバーできなくなってしまう。その結果、問題の解決がメンバーのカバーできていない空間にあった場合、解決策にたどり着くことは出来ない。

 個人個人が優秀でも、同じ背景を持つ人ばかりで意思決定すると盲目になりやすい。問題の解決に重要となるのは今、問題の空間でカバーできていない部分がどこなのか知ることであり、問題について精査することではない。

 多様性の少ない議員や町議会は誤った意思決定をしてしまう。エコノミストの予想は異なるエコノミスト同士の予想を組み合わせることで精度をあげることができる。エニグマの暗号解読には数学者等の専門家だけでなく、クロスワードが得意な人も含まれていたなど多様性が成功のカギとなった例は多い。

 同じ考えかたのトップ集団よりも考え方の違う集団のほうが成果を上げる例は多く、優秀な人を集めさえすれば、良い成果を上げられるわけではない。

人口統計学的多様性が高くても、認知的多様性が高いとは限らない

 人種や性別が異なっており、人口統計学的多様性が高くても、経験や背景が同じであれば認知的多様性は低く、成果を上げられないことも多い。また同じ集団に属していると徐々に認知的多様性は低下していく。

ヒエラルキーは認知的多様性を妨げることがある

 1996年いエベレストで起きた大量遭難事件は認知的多様性が低かったことが原因。ガイド役の人達は人間的に素晴らしく、ガイドとしての能力も高かったが、顧客達に対し、登山中は自分の意見を絶対に聞き、反論は許さないとしていた。

 人間は集団になると、本能的にヒエラルキーを形成する。単純な問題であれば、リーダーが決定し他のものが従うほうが理にかなっており、生き残りやすかったが問題が複雑になると多様な視点や意見ー反逆者のアイディアーが欠かせなくなる。 

 しかし、権威のあるリーダーの存在は抑圧をまねき、集団の意見が表明、共有されにくくなる。本来は問題の空間を多様性でカバーできていても、抑圧的なリーダーがいると周りに人々の考えがリーダーによってしまい、多様性が失われてしまう。

  エベレストで起きた大量遭難事件でも顧客たちは、様々な異変に気づいていたが、それをガイドに伝えなかった。ヒエラルキーに影響を受け、無意識に自分を殺してしまう。

ヒエラルキーにも2種類あり、尊敬をベースにしたリーダーであれば、多様性を維持できる

 会議でも抑圧的な人の存在は、多様な意見が出ることを妨げる。この研究データを重視したグーグルは管理職を廃止したこともあるが、うまくいかなかった。リーダーが不在では、決断がなさらないという欠点があり、ヒエラルキーによる決断力と多様性のバランスが重要となる。

 このような結果からヒエラルキーと多様性は相反するものとされることもあるが、人間の社会ではヒエラルキーの形には2種類の形がある。

 人類のヒエラルキーには、周りから尊敬されることで自然とリーダーとなる場合と、支配によって形作られたものがある。集団の中の2つのリーダーの種類は外から見ても分類できるほど異なっている。

 尊敬型の集団は人類にだけ見られる特徴で、決定事項をそのまま実行するのではなく、考え直したり新たなアイディアを出したりする必要のある場合に有利となる。グーグルの研究結果ではチームの成功に最も重要な要素は何を言っても許されるような、心理的安全性であり、多様性が必要な仕事では支配型ではうまくいかない。

 ただし、多くの人が不安な状況になると多様性が必要になるにもかかわらず、支配的なリーダーを望む傾向にある。多様性を維持し、支配型のリーダーの影響を避けるには、透明性や序列を排除した意思決定を行うなどの工夫が必要。

 

  

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