多様性の科学 マシュー・サイド Discover 要約 後半部

画一的な視点はイノベーションによる社会の変化も遅らせる

 電動機の発明、普及による第2次産業革命が社会の発展に大きない影響をおよぼしたことは、データからも疑う余地はない。 

 しかし、電動機が使用されるようになってから社会が発展されるまでに奇妙なタイムラグがあり、25年もあとになってから社会が発展し始めた。

 電動機はそれまで用いられていた蒸気機関くらべ、効率に優れるや小型化が可能といった利点があり、多くの企業が電動機によって莫大な利益を得るチャンスがあったが、チャンスを生かせなかった。   

 これらの企業は電動機を単なる蒸気機関の代替として使用したため、電動機による利益を得ることができなかった。

イノベーションにも多様性が必要

 イノベーションには特定の方向に1歩づつ前進してくタイプのものと関連の無かったものを融合するタイプの二つがある。

 近年のイノベーションは融合タイプが増加している。多くの人がイノベーションのチャンスを逃しているのは、融合のチャンスがないのではなく、可能性に背を向け融合を行わないため。

 アメリカで、起業して成功を集めている会社の創業者の多くは移民化その子孫によって経営されている。移民の割合は人口の13%だが、企業家の27.5%が移民で占められている。

 移民は順応度が高く、アイデアや技術を普遍なものと見ずに変化させたり、修正していく、また二つの文化で暮らした経験が広い視野をもたらすこともある。その世界に長くいると修正や変化が可能なことを当たり前とみなし、イノベーションの種に気づけないが、広い視野を持つことでイノベーションを起こすことが可能になる。

 物理的な移動を伴わなくても、様々な分野に関わることでも別の角度から物事を見ることは可能。自分の説や信念に反するデータを常に視野に入れるべき。

アイデアの共有がイノベーションの鍵となる

 アイデアや情報の波及効果は人々がつながって初めてもたらされる。テクノロジーの進化の度合いは人口密度や人々のつながり度合と強い相関関係にあるという研究結果もある。一人一人の能力が高い集団よりも、能力はそこまで高くなくても社交的な集団のほうがイノベーションを起こしやすい。

 ルート128はマサチューセッツ州を走る幹線道路で1970年代にハイテク企業を多く持ち、経済が大きく発展していた。同じころシリコンバレーはルート128に比べ、規模も小さくあまり注目されていなかった。

 ルート128の企業は垂直統合型の企業で自社内で多くの仕事が完結していた。そのため、各企業間の交流はほとんど見られなかった。シリコンバレーにはエンジニアたちが自由に交流し情報やアイデアが行きかい融合する機会が多くあった。

  ルート128の企業は徐々に視野が狭くなり、シリコンバレーの企業では多くのイノベーションが起きたことで産業の中心がシリコンバレーに移っていった。

繋がる人が増える=視野が広がるではない

 

 大規模な環境のほうが小規模な環境よりも人との関係性が多様性のあると考えがちだが、実は逆である。小規模な関係では自分と近い人がいる確率は小さいが、大規模な環境では自分の考えと近い人がいることが多く、同じような考えの人たちとばかり関係を強めていく。

 世界が広がり、多様性豊かな環境になればなるほど人々は自分に近い考えの人を見つけやすくなり、さらにその考えが強化される。インターネットの発展もあり、現代に特徴的でエコーチェンバー現象とも呼ばれる。

反対意見に触れるとさらに自説を信じるようになる

 自分の意見と反対の意見を見るとその意見に耳を傾けるのではなく、自分の意見にさらに強める傾向がある。反対派の意見を攻撃したり、反対派の人格を否定するなどして自分たちを正当化してしまう。

 反対の情報が耳に入らない状態はフィルターバブルと呼ばれるが、この状態で反対の意見を聞くと自分の意見に自信がなくなる。しかし反対の情報を得られる場合は反対の意見を持つ人の人格否定などで、より自信が強くなってしまう。

環境の変化で反対意見に向き合えるようになる

 デレク・ブラックは両親から白人至上主義を教育を受けることで自身も白人至上主義者として育ち、白人至上主義の世界で有名な人物となった。父も有名な白人至上主義者であったため、彼の周りは多くの白人主義者がいた。反対派の情報を遮断していたわけではなかったため、エコーチェンバー現象によって彼はより強固に白人至上主義となっていった。

 デレクは実家を出て大学に通うようになる。通っていた大学は規模が小さく彼のような極端な白人至上主義者は見当たらず、様々な背景を持つ人々と出会うこととなった。

 その影響もあり、デレクはそれまで目を向けて来なかった反対意見に向き合い、徐々に白人至上主義に疑問を持つようになった。

 エコーチェンバ減少は現在の政治的な二極化を招いている原因でもある。不信感は人から人へ伝染し反対意見を言う人への人格攻撃にもつながる。しかし信頼が伝染することもあり、反対意見に向き合うことを可能にする。

平均値が現実を現しているとは限らない

1940年代,黎明期にあったジェット機で米国空軍はある謎を抱えていた。航空工学の発展にも関わらず,事故が多発していた。航空機にもパイロットにも問題は見られず,コクピットの構造に問題があった。

 当時のコクピットは測定したパイロットの体格の平均値に合わせ設計されていた。コクピットの設計に重要と思われる10箇所の身体的特徴を測し,算出した平均値に当てはなるパイロットがどれ位いるか調べた所、全ての測定結果が平均値付近に当てはまるパイロットは4000人で1人もいなかった。身体的な特徴は正規分布することが多いため平均値が持ちいられてきたが,それぞれのバランスは人によって大きく異なるが、平均値を用いると多様性を覆い隠してしまう。コクピットをパイロットの体形に合わせられるようにすることで事故は激減した。

仕事においても,多くの人の考えを持ち寄り,独自の考えの平均を取ることは意味があるが,標準化し多様性を排除してしまうと反逆者のアイディアは枯渇してしまう。

 健康や長寿ダイエットのために何を食べるべきかには多くの研究結果がある。しかしそのような研究の多くは食品会社が資金を提供していたり,ごく少数のサンプルをもとのしている。

同じような目標でも食べるべき食材や食べ方が異なることも多い。一人一人年齢,遺伝的特徴,生活習慣が異なり,同じ食べもものを食べた際の体内の反応も異なっている。ある人には健康に悪くても違う人には良いものである場合すら見られた。

標準化を受け入れるだけでなく,工夫する人ほど生産性が高い

コールセンターの離職率や生産性の違いとなる要因を検討する研究では,従業員に査定を行いデータを集め分析を行った。転職回数,オンライン査定で明らかになった性格や個性が調べられたが関連は見られなかった。

しかし,オンラインで査定を行う際のインターネットのプラウザの種類がFirefoxやChromeを用いていた人はSafariやExploreを用いていた人達よりも離職率が低く,生産性も高いことが明らかになった。

 FirefoxやChromeはデフォルトのプラウザではないため,従業員が自分でダウンロードし使用する必要がある。このような姿勢の従業員は自分で工夫して業務にあたる傾向が強く,問題を解決することも多かった。

医療,教育などの世界ではこれまで平均値や画一性が重要視されきたが,平均値が実態を現して限らず,柔軟性を持たせる工夫が必要となる。柔軟性の増加は失敗も増やすため,どこまで柔軟にするかのバランスが重要だが,失敗を恐れ,管理された硬直したシステムを採用した際に組織の質が低下する危険性は見逃されがち。

組織や社会の繁栄には個人の違いを活かせるかどうかにかかっている

ここまでの事例のように多様性はあらゆる場面で有力だが、今日の社会はいまだに個人主義の傾向が強い。

人類は地球上で最も繁栄した動物で,その原因を大きな脳によるアイデアとする傾向があるが,実際には逆で優れた知恵やアイデアが脳を大きくしてきた。

ネアンデルタール人は初期人類よりも賢かったが,社交性は人類の方が高かった。イノヴェーションには社交性が重要であり,人類の方が知恵を徐々に蓄積していった,知恵の蓄積は徐々に脳を大きくした。知恵の蓄積が火の利用を可能にすると消化に使うエネルギーが減り、脳に使うエネルギーをさらに増やすことができた。

人類は多様性という土台の上に築き上げられたと言っても良い。多様性を日常に取り組むためには無視式のうちに持つバイアスを理解し,排除する事。人に何かを与えたり,協力しようと意識することが大事になる。

多様性は差別や倫理的な問題と受け止められることが多いが,業績を上げる要因やイノベーションを起こす容易にもなる。多様性を正しく理解することで視野が大きく開けていくことになる。

 

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