安い日本 中藤玲 日経プレミアシリーズ 要約

安さは日本の停滞と結びついている

 海外などで買い物する際などに日本の安さを実感することは多い。インバウンドの多さも話題になっているが、彼らも日本が素晴らしいからではなく、お買い得だから来ている。

 安さは消費者から見ればありがたいが、供給者の面では賃金が据え置かれ、消費が動かず、需要が増えない悪循環に陥る。安さは日本の停滞と結びついている。

 本書ではデフレの続く日本と世界とのギャップ、企業や個人が何をすべきかがかかれている

日本のディズニーランドの価格は世界一安い

 日本のディズニーランドは世界で一番安い価格となったいるが、日本人にとっては割高に写っている。

 日本のディズニーランドも6年で2000円の値上げを行っているが、それでも世界の価格上昇に追いついていない。

ダイソーが100円なのは日本だけ

 ダイソーの商品も海外では100円以上であることが多い。台湾では180円、アメリカ160円、タイ210円など日本によりも価格は高い。
 物流費などの要因もあるが、多くの国は人件費の上昇で価格が上がっている。100円以上の値段であっても給料があがっているため、購買力が上がり、成り立っている。

 日本のように40年以上100円で変わらないことが異常

値上げができなければ、企業がもうからず、賃金も上がらない 

 日本では長いデフレによって企業が価格転嫁できない状況に追い込まれている。
値上げができなければ、企業がもうからず賃金が上がらない。賃金が上がらなければ、
消費が増えず、物価が上がらないという悪循環が続き、徐々に日本の購買力が下がっている。

 この要因を為替の原因とされることもあるが、ミスリーディング。国内と海外の物価上昇がともに2%で国内が海外に比べ、安くなっていれば円安といえるが、実際には日本は20年間物価は上がっておらず、アメリカは20年間ほぼ毎年2%づつ上昇している。

アメリカの給料は毎年3%あがっている

 アメリカでは物価は2%ずつあがるが、給料も3%ずつあがっている。日本は物価、給料が上がっておらず、この25年間で購買力が40%も低下している。

 2016年にガリガリ君が10円値上げする際に、テレビCMで謝罪広告のような雰囲気をだし話題となった。アメリカでも取り上げられ、企業の値上げが重大なニュースになることが驚きを持って伝えられた。日本ではそれほどまでに値上げが難しくなっている。
 実際にユニクロや鳥貴族は値上げによる客離れを招き多くの業界に恐怖を植え付けた。消費者も生産者への還元を考えれば、適正価格にすべきだが、自分の所得水準を考えれば、値上げは困ると考える傾向が強い。

日本の実質賃金は30年間下がり続けている

 デフレにより日本の物価変動を除いた実質賃金は30年間下がり続けている。1997の実質賃金を100とすると2019年の日本は90.6だが、アメリカは118、イギリスが129と増加傾向。

 日本の低賃金化も目立ち、企業の人件費は30年間増えていない。労働生産性の停滞と多様な賃金交渉のメカニズムがないことが大きな原因。

 日本の労働生産の低さは価格の低さが要因。日本が効率よく物を作っても値段が安いため生産性は低くなってしまう。

 賃金が上昇しないのはベテランの賃金が抑制されている影響が大きい。若手の人手不足で給与は上がっているが、全体のパイはふえていないため、全員の底上げができるわけではない。

上昇傾向にある初任給も海外に比べると低い

 若手の人手不足によって初任給は上がっているが、海外に比べると終身雇用などもあり、低い。
 AIやIT人材は特に差が大きい。アメリカでは世代をとわず1000万を超える給与があるが、日本では終身雇用、年功序列の影響もあり、30代で520万円、50代でも750万と低い。

 そのため、人材を引き抜かれたり、人材の獲得が難しいなどの問題が多く起きている。賃金が低いことに加え、個人の実力を評価しない文化も海外の人材の獲得を難しくしている要因。

 日本の給与上昇はベア、定期昇給がメインとなるため多様な賃金交渉を行う仕組みがないことや金銭面の要求をすることを避ける傾向にある。
 転職時もも前職をもとに給与を決めることが多く、流動性も低いためそもそも自分の市場価値を理解していない。

ジョブ型雇用で全てが解決するわけではない

 
 職務の内容や必要な能力を詳細に記載した職務定義書を提示してから雇用するジョブ型への移行が進んでいる。成果や能力で判断し個々にあった待遇を提示しやすくなるというメリットがあるが、年功序列や年次主義を残したままでは機能しない。従業員と企業が対等になり、透明性の高い人事制度がかかせない。
 
 中小企業などでは日々のマネジメントや処遇との連動を強化するだけのロール型雇用も有効となる。

外資マネーが日本を買っている

 日本の価格の安さは、外資マネーの流入を招いている。
 ニセコでは、スキー場やホテルのマンションなどの運営を海外企業が行う例が増えている。

 製造業向けの部材メーカーや消費財メーカーが日本の大手が興味を示さず、海外企業に買われる例も増えている。中国企業に買われたことでグローバルな販路で息を吹き返す企業も多い。中国企業が日本のサプライチェーンへの進出が進むと、日本の大企業が取引先の中小企業を争奪する可能性もある。
 アメリカと関係のある会社は中国資本への警戒もあるが、コロナ化で業績不振の会社は増えており、優れた技術を持つ会社の争奪戦が始まっている。

 アニメの分野も日本の待遇が悪いことでレベルダウンが起きている。中国が豊富な資金力で設備が整い、質が上がっており、中国が日本の下請けであった状態から逆転している。
 エンターテイメント業界には悪しき労働習慣が残っているため、まずは労働者に報いる仕組みが不可欠となる。

爆買いやインバウンドも安さが最大の要因

 インバウンドの増加や爆買いを日本製品の高品質と表現するメディアもあったが、大きな要因は割安感。コロナで明らかになったようにインバウンドへの過剰な依存はリスクも大きい。

 携帯料金の政府からの値下げ圧力もデフレの中でスマホによる通信量の増大で、家計に負担となっていた。しかしこのまま値下げ競争が加熱すると、設備投資が進まず通信インフラが後退してしまう可能性もある。
 
給与が安くても物価が安ければ良いという考えは大きな問題となって返ってくる。

個人の問題・ブランドの購入や海外旅行が困難になる
人材の流出・海外企業の賃金が高ければ転職する人も増える
人材の育成不足・留学ができない、国際的に活躍できる人材が減っていく
これらの問題は日本の成長力を根本的に削いでしまう。

長期のデフレはぬるま湯で日本にいる分には心地よかったが購買力、成長力を奪っている。
解決策はさまざまで、インフレ、解雇規制の撤廃、規制緩和、生産性の高い分野への人材移動などが上げられるが、結局は各々が新しい一歩踏み出せるかどうかにかかっている。

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