次なるパンデミックを回避せよ 井田徹治 岩波書店 まとめ

概要

 2020年に発生した新型コロナウイルスは世界を一変させるほどの脅威をもたらした。グローバル化によって新たな感染症が拡がり、パンデミックを引き起こす可能性を警告していた科学者は少なくなかったが、多くの人はそれほど真剣に受け止めていなかった。

 第2、3のパンデミックのリスクを軽減するためには、新たな感染症が広がる要因を理解する必要がある。
 本書で環境破壊がどのように感染症の拡大をもたらすかを知ることで
今後のパンデミックの回避に活かすことができる可能性がある。

 パンデミックを回避する対策にかかる費用は実際のパンデミック発生時の損失に比べ非常に少ないため、パンデミックの回避は世界経済にとっても重要なものとなる。

 感染症のリスクを高めているのは野生動物との不適切な接触増加や人間による自然環境の改変、ヒトやモノの移動の増加など。

 人間だけの健康を考えても感染症のリスクを減らすことは出来ない。

人間、動物、環境全てに配慮することが重要である。

 感染症のリスクを高める現象、行動を理解することができる本になっている。

動物由来感染症

 動物から人に移る病気のことを動物由来感染症と呼ぶ。

 エボラ出血熱、SARS、鳥インフルエンザなどはすべて動物由来感染症の一種。野生生物の生息地に人間や家畜が入り込むことで、野生生物の持つ病原菌に感染する機会が増えてしまっている。

 グローバル化で物や人の移動が増えやことも、病原菌が世界中に広がる可能性を高めている。

森林破壊

 人間による森林破壊、特に熱帯雨林の減少は深刻なペースで進行している。多くの生物の住む熱帯雨林を破壊すると動物由来感染症を拡大させることは以前から報告されてきたが、森林破壊に歯止めがかかっていない。

 森林破壊によって大型の捕食動物が少なくなり、病原菌を媒介するネズミなどの動物の割合が増加するため、動物由来感染症を増加させる。

温暖化

 蚊は多くの病気を媒介し、人間の命をもっとも奪う生物である。

温暖化は以下の要因で蚊の増加を促す。
・生息域が増える
・降雨量が増加することで、水たまりが増える
・これまで冬を超えられなかった蚊が生き延びることができる

 既にデング熱、マラリア、ハンタウイルス肺症などこれまで宿主から
人間への感染があまり見られなかった病気を蚊が媒介することで増加していることが確認されている。

 細菌や寄生虫も気温が上昇することで生息域が広がり、病気の原因となる可能性がある。

野生動物食 

 アフリカなどの熱帯雨林では野生動物を捕獲し食肉とするブッシュミートの需要が増加している。

 従来から先住民にとって貴重なタンパク質源だったブッシュミートだが、需要が増加し、これまで足を踏み入れていなかった地域でも捕獲が行われるようになっている。

 過剰な捕獲は森の生態系を壊す要因となり、捕獲量が触れると、これらの肉を扱う人も増え感染の機会が増加する

 また、コウモリ、霊長類、げっ歯類を食べること自体も動物由来感染症のリスクが高く、ブッシュミートの拡大が感染症を広める原因ともなる。

 啓蒙活動などで一時的に需要が減ることもあるが、多くは時間がたつと元に戻ってしまい、実効ある対策を打ち出すのは難しいのが現状。

ペット

 犬や猫などの商業的に繁殖されたペットではなく、遠い海外に住む珍しい動物を飼うエキゾチックペットの人気が高まっている。

 国境での検閲が家畜に比べ手薄であり、多数の動物を長距離運ぶため、動物間の感染症まん延のリスクが高い

 プレーリードッグ、オウム、爬虫類などが病原菌を持っている例は多く報告されている。違法な取引(密輸や野生動物を人工増殖と偽り取引するなど)が増加すると検査も行われず、感染症まん延の原因となる。

肉食

 世界人口の増加に伴い、食肉とされる家畜の数も増加が続いている。
地球上の哺乳類の生物重量は家畜が60%、人間が36%で野生動物は4%でしかない。

 地球環境へ負荷を与えるだけでなく、動物由来感染症のリスクを高めることにもつながっている。家畜は野生動物と比べ、多くの人間に感染する可能性のあるウイルスを持つ種が多い。


 ある種が増えるとその種の捕食者や寄生種も宿主を見つけることがようになり増加する。細菌、寄生虫、ウイルスにとっては家畜と人間が圧倒多数を占める状況が非常に有利になる。

 健康を考える際に人間の健康だけを考えていてはパンデミックを防ぐことはできない。人間、動物、環境すべての健康を考える(ワンヘルス)ことが重要となる。

生物多様性がパンデミックを防ぐ

 人間の活動による自然の劣化は種の絶滅と生態系の破壊をかつてないスピードで起こしている。国際的な取り組みによる対策も行われているが、成功しているとはいいかがたい。

 パンデミックを防ぐには病原菌が宿主を容易に探せる状況を作らないようにすることが必要となる。気候変動、生物多様性の消失への対応はパンデミックを防ぐことにもつながる。

 自然を守る対策を行うことで、自然が我々を助けてくれるようになる。

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