武器としての会計思考力 矢部謙介 日本実業出版社 要約

会計思考力は経営の現実を読み解き、変える力を得ることができる

 会社の実態を調べるには様々な方法があるが、決算書には必ずその会社の実態が現れる。
 会計思考力を持つことで、経営の現実を読み解き、経営の現実を変える力を得ることができる。 

 各種の諸表を読む際は実際のビジネスとの関わりあいを考慮し、全体を見ることが重要。

 財務諸表の読み方、分析法を知ることで読み解く力と、Key Performance Indicator(KPI)の活用によるマネジメントで変える力を学ぶことができる。

B/Sには企業の戦略や経営方針が現れる

 B/Sは企業の資金調達の方法や集めた資金をどのように投資しているかを表している。そのためその企業の戦略や経営方針が良く表れる。

 資金調達の方法は負債と純資産、投資の方法は資産という形で記載されている。
負債+純資産=資産とイコールになるためバランスシートと呼ばれる。

負債:短期的な支払いが必要な流動負債と長期的な固定負債に分かれる
流動資産:短期の借入金、借り掛け金、支払い手形など
固定負債:長期の買い入れ金

純資産:株主に帰属する資本
資本金:株式を新規発行した際に調達した資金
利益余剰金:利益の内株主に配当せず、事業に再投資した分(いわゆる内部留保)会社が
大きな利益を上げてきたかを測ることができる。

資産:流動資産と固定資産に分けられる
流動資産:現金、受取手形、売掛金、在庫、有価証券
固定資産:建物、機械設備、土地などの有形固定資産、のれんなどの無形固定資産がある

のれんは企業買収を行った際の買収金額と買収された企業の純資産の差

B/Sを読むコツは以下の3つ
細かい部分ではなく全体をみて疑問点を整理する。
全体像を把握した後、金額の大きい項目に着目する。
B/Sと現実のビジネスのつながりを意識する。

金額と比例した面積を各項目にあてはめる比例縮尺図を作ると全体を見やすくなる。

損益計算書(P/L)は会社が挙げた利益を計算する

 会社が挙げた利益を計算することが目的

一番上から
1.売上高
2.売上原価
(1-2=売上総利益)
3.販管費
(売り上げ総利益-3=営業利益)
4.営業外収益(利息、株の利益など)
5.営業外費用(支払利息)
(営業利益+4-5=経常利益)
6.特別利益(株式の売却など)
7.特別損失(災害による被害)
 (経常利益+6-7=税等調整前当期純利益)

最終的に税金が引かれ、当期純利益となる。

P/Lを読むコツは以下の3つ
1.全体像の把握
2.販管費の内訳で金額の大きい順に見て、ビジネスの特徴をつかむ
3.P/Lと現実のビジネスのつながりを意識する

 販管費の内訳は業界によってある程度決まっているため、そこからずれがあると業種のシフトをしようとしているかもなどと予想を立てることができる。

キャッシュフローは必要な現金が充分かを示す

1年間を通じた現金の収支。支払いに必要な現金が充分かを示す。

大きく3つに分かれている。
1.営業活動によるキャッシュフロー
 (本業での利益など)

2.投資活動によるキャッシュフロー
 (有形固定資産の売買)

3.財務活動によるキャッシュフロー
 (買い入れ金やその返済、配当金の支払いなど)

財務諸表にはその会社のビジネスモデルが反映される

財務諸表にはその会社のビジネスモデルが反映されている。比例縮尺図から仮説を立て、詳細項目で検証するプロセスを回すことが大事になる、

業種による違いの例
花王
 消費財メーカーであるため在庫による流動負債、製造のための設備、土地の固定資産が多い。原価率の低い化粧品を扱うため、原価率は低め。広告費が必要なため販管費は高い。

クラコーポレーション(くら寿司)
 鮮魚が多いため、在庫が少なく、一般消費者からの支払いが多いため、手形なども少ないため流動負債は少ない。
 回転ずしの原価率は他の外食産業より高くなっているが、純資産の割合が高く
好調を維持している。費用で掛かるコストを抑えるオペレーションを実施している。

ヤマダ電機
 家電業界も競争が厳しく、原価率が高い。広告などの販管費を抑えるにも難しく利益率は低い。

 一般的にBtoC企業は工場や店舗の必要性から有形固定資産の割合が高く、広告の必要性から販管費が、高くなりやすい。

新日鐵住金
 BtoB業界のため、手形が多く流動資産の割合が高い。原価率は高いものの、広告や人件費などの販管費は低い。

信越化学工業
 純資産が非常に多い。原料の価格を抑えながら技術力で高いシェアを獲得している、

 BtoB業界は販管費が低い。高い利益を上げられかは原価率を低く抑える技術に依存している。

クックパッド
 固定資産の割合が小さい。IT企業は売り上げが伸びても固定費が上昇しにくいため、売り上げが伸びれば伸びるだけ利益が増える。売り上げが小さいときから固定費がかかるため、ハイリスクハイリターンとなる。

資金繰りの悪化を確かめるにはキャッシュフローが重要

 資金繰りの悪化はキャッシュフロー(CF)を確認することが重要、営業CFがマイナスで財務CFがプラスの場合、P/Lでは問題なく見えるが、新たな資金調達ができなければ倒産してまうリスクがある。

各種諸表から計算される財務指標で経営状況を把握できる

 比例縮尺図は非常にわかりやすいが複数年の財務諸表を分析するのは手間がかかってしまう。そのような財務指標を使うことで、安定性、効率性、成長性などを示す指標を計算することができる。

財務指標も現実のビジネスとのつながりを意識することが重要。

安定性:倒産の可能性、負債に対する支払い能力

 流動比率=流動資産/流動負債
 当座比率=当座資金/流動負債 
 固定比率=固定資産/純資産
等の指標がある。
負債に対する支払い能力、固定資産をどのような形で資本を投資しているかなどが判断できる。

効率性:投入した経営資源が有効に活用されているか?

 総資産回転率=売上高/総資産等の指標があり、資産の有効活用性を測る。

収益性:十分な利益を上げているか

 売上高利益率=利益/売上高
 ROA=利益/総資産
 ROE=当期純利益/総資産

 売り上げが利益につながっているか、資本、資産で利益を生み出せているかを測るROEは不特定多数の株主から資金調達を行っている場合に特に重要な指標となる。

成長性:高い成長力があるか、成長余力があるか
 売上高前年比成長率=当年売上高/前年度売上高

業種や置かれた状況で目標とする財務指標は異なる

 財務諸表を分析する際には勘違いしやすい項目がある。

 キャッシュを多く持っている企業は資本効率が悪く、株主からは好ましく思われない。新たな投資や配当や自社株買いなどをするのかといった姿勢をはっきりすることを求められる。

 一方で、任天堂はゲームビジネスのリスクの高さを考え、キャッシュを多く保有している。自社のリスクを踏まえ必要なキャッシュの量を見極めることが重要。

 一般に流動率が100%以下の場合、負債を賄える流動資産が足りなく、危険と考えられる。しかし、スーパーのようなに日銭商売を営む会社では、随時現金収入があるためそれほど問題にならない。業種によっても同じ指標の見方は変わってくる。

財務指標からKPIを設定すると会社のビジョンを明確な目標にすることができる

 KPIとは業績評価指数、重要業績指標とよばれ、会社などの組織の目標達成水準を測るための指標として利用される。

 会社のビジョンと経営方針から目標とするKPIを設定することになる。KPIとビジョン、経営方針を連動させるような形をとるようにすることが重要。KPI設定後はその達成のために行動指標に落とし込む。

 KPIとなる重要指標を設定し、組織で共有することは以下の3つの点がメリットになる。
・目標達成の原動力になる 

・異変が起きたときにすぐに対応できる

・行動計画と実績の差を見えるかできる

KPIを設定する際には様々な注意点がある

 KPIに設定される指標を多いが、以下に注意する必要がある。
1.難解な指標を用いない
 社員が理解できるような指標を用いる。

2.資本効率が絡む指標を用いる場合、縮小方向に向かい過ぎないようにする
 売り上げを上げるよりもコストを削減したほうが容易に指標を達成できるが、今後の成長が
なくなってしまう。効率の良い資本投下を意識することを共有する。

KPIの現場への落とし込み
 KPIへ現場への落としこみ、機能させるには以下の5つがカギとなる。
1.KPIを行動指標に落とし込む
 KPIを達成するにはどの指標を重視し、その数値を達成するにはどう行動するかを決める。

2.適切な数値目標
 目標が簡単すぎても、難しすぎても機能しない。過去のデータ、競合のデータなどを活用し適切な目標を設定する。

3.KPIを複雑にし過ぎない
 KPIが多すぎる場合、重要な目標が絞り込めておらず、事業部門の理解を得られない。適切な数は様々だが、15~20程度を目安にするとよい。

4.PDCAサイクルを機能させる
 Checkで各種データを収集し、目標と実績の差異を明らかにすることで、原因を突き止める。経営資源の不足なのか行動指標が適切でないなどの原因を突き止める。
 PDCAサイクルは短いサイクルで確認するほうが良いが、工数と効果のバランスを考える必要もある。IOTを利用し、データを自動で取得すると工数を減らしつつ、効果を上げることもできる。

5.適切なコミュニケーション
 会社のビジョンの共有をし、行動指標に落とし込むことや目標と実績の差異を明らかにするため現場とのコミュニケーションを取るために上位組織長と部門長の間を取るファシリテーター(調整役)が重要。

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