歴史を変えた自然災害 ルーシー・ジョーンズ 原書房 まとめ

人類が定住を始めた場所は肥沃な反面、氾濫しやすかったり自身が多いため、自然災害は人類を苦しめ続けてきた

 地震学者である筆者が自然災害と人類の歴史について書いた本。自然災害は人類の誕生以降ずっと人類を苦しめてきた。人類が定住を始めるような肥沃で水の方法な土地は便利な半面、洪水、暴風雨、地震などがおきやすいことが多い。

 災害への知識がなかったころは災害の原因を神の怒りや罰だと考え、誰かに非を押し付けようとしてきた。差別が助長されることも多く、災害で最も恐ろしい被害は人間性によってもたらされている。

 研究から地震のパターンからいつ地震が起こるかを人間の時間尺度で突き止めることは、不可能であることが分かっている。 
 しかし、どこで起こるかは完全な偶然ではない。そのため筆者は自然現象を予測することから災害の影響を予測することへ方向転換、災害被害を防止する力を人々に与えることを目標にするようになった。

ボンペイ ー火山の噴火ー

 噴火していないときの火山性の土壌は水はけが良く、栄養が豊富で居住に適しているため古代から、都市が置かれることが多かった。

 ボンペイもその一つでヴェスヴィオ山の近くの町であった。当時人々は噴火を神の怒りと考えていた。80年に大噴火を起こすと周囲に大きな被害をもたらした。

 ヒトは物事のパターン化を探すことが得意なあまり、偶然の出来事にも誤ったパターンを見つけてしまうことが多い。災害が起こった際に関係ないことを原因と考えてしまうことも多い。

リスボン ―大地震―

 1755年にリスボンを襲った大地震はヨーロッパを襲った最大の自然災害として知られているが、自然災害に対して政府が対応行った初めての事象でもある。

 復興作業を指示し、略奪を防ぐために略奪犯を処刑した。秩序を守り、復興を行った。家を失った人々に避難所と食料を提供し、負傷者を治療し、遺体の処理をし腐敗を防ぐなどの対応も行った。

 地震による被害は宗教観、哲学にも影響を与え一部の知識人が、災害が神によるものではなく自然現象と考えるきっかけにはなったが、多くの人は神の裁きと認識していた。

アイスランド ―火山の噴火―

 火山の噴火は最も物理的な被害が大きくなる可能性が高い災害。1873~74年のラキ山の噴火は人類史上で最も多くの被害を出した災害といわれている。国の1/5を超える1万人が有毒ガスとそれに伴う飢餓で死亡してしまった。

 ラキ火山の噴火は気温など地球規模で影響を及ぼし、広い範囲で飢餓を起こした。何百万という人が火山の噴火の影響でなくなったとされている。

カリフォルニア ―洪水―

 カルフォルニア州で最も多くの被害をもたらした災害は1861~62年の洪水だが、そのことを知る住民はほとんどいない。
 
 古い災害は徐々に忘れさられてしまう。人類は短期的な危機に素早く対応することで生き延びてきたため、長期的な危機感を持つことが難しい。また、洪水は原因が見慣れた雨のため、地震や火山の噴火と比べ危機感を持ちにくいことも原因

関東大震災 ―地震―

 日本は地震の多い国だが、関東大震災は特に大きな被害をもたらした。日本でも多くの人に災害は偶然ではなく、社会の落ち度によっておこると考えられていた。

 一方で地震の回数が大きいため、地震の研究は積極的に行われた。科学教育によって徐々に自身が精神の具現化ではなく、物理的な現象であることが知られてきたが、感情的な反感は簡単には克服できなかった。

 昼食時だったため多くの火事が起き、6割以上の人が家を失い、10万人を超える人がなくなった。

 地震が物理的な現象という考えが浸透しきっていなかったため、人々は地震で喪失と無力感に直面すると非を誰かに押し付けようとする。
 関東大震災では鎖国の影響も残り外国人、特に朝鮮人に非を押し付け、彼らを襲い、虐殺につながってしまった。

ミシシッピ川 ―洪水―

 ミシシッピ川はアメリカ最大の河川で輸送や作物の輸送に利用されてきた。川の氾濫を防ぐための堤防が機能するかが川の流域での生活に非常に重要であった。

 洪水の対策を考える際には、水の封じ込みが必要だが、水は利用も続けなければならないと
言う点で独特である。

 1927年には大雨によって堤防が決壊し、大きな被害を生んだ。当時、貯水池や水の迂回路はなく、堤防だけで洪水を防ごうとしていたため決壊してしまった。2011年の洪水も同じような規模だったが、余水路などの機能もあり堤防は決壊しなかった。

 ミシシッピ川の氾濫では弱い立場にあるアフリカ系アメリカ人への差別がより鮮明なものとなった。救助や助けを受け取れない、危険の仕事を強制されるなど事態が多く見られた。
 多くの災害時の最も深刻な脅威は人間性に対するものと心に刻んでおく必要がある。

中国 唐山 -地震-

 中国も地震の被害が多く、地震学特に地震の予知研究が行われてきた。広い範囲の農民から地下水の変化、井戸水の上下などのデータが集められた。975年の海城地震はその前兆から住民が避難し、被害を小さくできた。
 しかし翌年の唐山地震波全く予知できず、大きな被害をもたらし、正確な地震予知は不可能であることを示す形となった。

インド洋 ―地震―

 2004年スマトラ島でのマグニチュード9.1の地震と津波は大きな被害をもたらした。動いた断層の距離もこれまでにないほど長く、観測史上3番目に大きな地震となった。
 

 地震そのものの被害はそこまで大きくなかったが、津波による被害はインド洋一帯だけでなく、アフリカの東海岸でも死者を出すほどだった。また、タイなどでバカンスを楽しむ人の犠牲も出たことで、地球の裏側の災害への意識が高まるきっかけにもなった。

アメリカ ‐ハリケーン‐

 ハリケーンカトリーナは大きな被害をもたらした。人々は大きな災害を見ると誤ったパターンを見つけ出し、批難することで自分たちは大丈夫と思いたくなる。このときは政府の対応と犠牲者の失点を非難することとなった。


 政府にも問題は多数あったが、それだけが原因ではなかった。ヒトは本能的に自分の制御できない力によって苦しめられるという考え方を拒む傾向にある。その傾向を認識することで正しい認識を持つことができるようになる。

イタリア ―地震―

 多くの地震予知研究から小さな地震から大きな地震の発生時期の明確な情報が得られないことが
わかっている。
 一方で、正確な予測は不可能だが、大地震の危険性が上がることは予測できる。しかしそれも普段より5%危険度が上がるなどの程度のため、その取扱いは難しい。   
 イタリアのラクイラで起きた地震では、科学者が予測を正確に住民に伝えなかったとして訴えられる事態となった。

日本 ―東日本大震災―

 自然災害は弱い部分を露呈させ、そこに圧力をかける。東日本大震災では日本の建築基準法の厳しさもあり、地震そのものの被害はそれほど大きくはなかった。
 しかし、それまで予想されたよりも高い津波が大きな被害をもたらした。地震での死者は150人、
津波での死者は1万8000人を超えるほどであった。


 想定外の津波は原発の非常電源水没による冷却システムをダウンさせ、メルトダウンと放射性物質の放出を招くこととなった。建物や大部分は地震にも津波にも耐えたが最も弱い非常用電源という箇所から大きな事故となった。

 一方で大きな衝撃と破壊は長年の文化を壊し、作り変える力となることもある。多くの日本人が政府や行政府に頼りきりになっていたことから脱却し、組織的なボランティア活動や女性による地域活動の活発化などが進んだ面もある。

カリフォルニア ―減災、防災―

 筆者はロサンゼルス市長とともに地域の災害対策の仕事に取り組んでいる。あえて、命の危険を全面に出すのではなく、経済面を押し出した。震災後の復興にお金を使うより防災に投資するほうが良いことを示した。
 また、市長にとっても長期の防災計画は政治家としての名声につながりにくいものの取り組みは多くのメディアが注目し、高い支持を集めることとなった。
 

 人々が近視的な見方から長期的な視点を持てるようになった結果といえる。災害に対する本能的な反応を認め、災害が全ての人を襲うとことを理解できれば、大きな被害を防ぐことができるはずである。

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