気候を操作する 杉山昌宏 3分要約

3分要約

気候を操作するとはどういうことか

 大気から直接二酸化炭素を吸収したり、直接気候を冷やすなどで気候を直接操作することで。気候工学と呼ばれる学問で温暖化対策で注目が集まっている。

なぜ気候工学が必要なのか

 温暖化の主要な原因である二酸化炭素の排出減少などの温暖化対策は世界中で広がっているが、排出量減だけで気温上昇の目標を達成することは難しいため直接的な介入が必要とされている。

 コロナによって経済活動が大きく停滞したときでも排出量が8%しか減っていないことを考えると排出量減が経済を大きく犠牲にし、混乱をもたらしてしまう。

 また、すでに上がってしまった気温は、これから二酸化炭素の排出を減らしても1000年ほど影響が残る。直接的な気温減少や二酸化炭素の吸収は従来の温暖化対策では不可能な貢献をすることができる。

具体的な気候工学の方法は

 主に二酸化炭素の吸収する方法と太陽光を反射するなどして、吸収量を減らす方法がある。

気候工学の懸念と対策は

 技術的にはそれほど難しい技術ではなく、画期的な手法が必要なわけではない。

 温暖化対策への関心が弱まることや生態系への副作用も少ないながら懸念されている。

 それ以上に大きな問題はガバナンス。倫理的、法的、社会的な課題を考慮する必要があるため、技術開発の段階からステークホルダーとの関係調整を行うことが重要になる。

 そのためにも一般の人に正しく情報を伝えることが重要だが、興味の無い人に伝える難しさなどもあり、ガバナンスにどうやって生かしていくかは大きなテーマになっている。

温暖化対策だけでは、気候変動に対応出来ず、気候工学が注目されている

台風の大型化,激しい豪雨の増加、気温の上昇など異常気象を感じることが増えている。これらの現象は世界的に確認されており,その原因が地球温暖化であることの確かさは科学の進歩でますます強まっている。

 温暖化対策は企業,国を問わず,行われその流れは加速しているが,それでも気候変動の影響を抑えるには足りていない。コロナウイルスによって経済が大きく停滞したにもかかわらず,2020年の世界の二酸化炭素の排出量は8%しか減っていない。

科学者たちはこの状況に極端な温暖化対策の必要性を感じており,その方法は大気から二酸化炭素を直接吸収する,直接気候を冷却するなどの気候工学と呼ばれもの。

科学技術の進歩はこれまで制御できないものをどんどん制御するようになっている。気候工学もその一つでその技術の内容やリスク,さらに未来の様々な問題を考えるために必要な学術的なアプローチを気候工学を通じて考えていく。

気候研究は不確実性が高いが、影響も大きいため、保険をかけて対策すべき

過去一世紀で地球の平均気温は1℃上昇し,猛暑や台風などの自然災害による被害も増加している。2018年の夏の気温は日本での観測史上最も高く,多くの人が熱中症になってしまった。

この猛暑はスパコンでの研究の結果,二酸化炭素の上昇なしにこのような猛暑が起こる可能性は低く,地球温暖化によるものであると結論づけられている。

気候科学はさまざまな要因を受けるため,予測が難しく不確実性が大きい部分もあるが,気候の与える影響は非常に大き傷め保険をかけて対策するべきと考えられる。

気候工学は従来の環境対策では不可能な貢献が可能

地球温暖化の影響は,熱波の増加,豪雨のような降水の変化,台風の強大化,氷床の溶解,海面上昇などがあり,長期的にはこれらの現象が増えるはほぼ確実。

人間は不確実性について,合理的に考えるのが苦手だが,不確実性が高いからこそ対策を強化する必要もある。東日本大震災での原発事故のように想定外と思われることにも合理的な対策を打ち、想定外を避けることが3.11の教訓とも言える。

気候変動は一度気温が上がると仮にいまから排出量を減少させても、その影響は1000年ほど続いてしまう。しかし気候工学は二酸化炭素の除去や気温を直接下げる可能性を保つため、従来の環境対策では不可能な貢献をすることができる。

排出量の削減だけで、二酸化炭素排出0を目指すと大きな混乱を招く

多様な温暖化対策が様々に進んでいることが事実で、科学的に評価されるべき。ただし、気温上昇を1.5℃に抑えるには2050年までに二酸化炭素の排出を0にする必要があるが、排出量の減少だけで達成することはできない。コロナでの経済停滞で8%しか減っていないことを考慮すると、大幅な削減を経済を犠牲にした手法で行えば世界中が大きな混乱に陥ってしまう。

また、意識の低い人にも同じように実行させる難しさ、対策にかかるコストの大きさなども二酸化炭素排出0が難しい理由の一つ。

気候工学とは直接気候システムに介入し、温暖化対策を行うこと

 気候工学とは人工的に直接気候システムに介入し、地球温暖化対策を行うことで主に太陽放射改変と二酸化炭素除去の二つの方法がある。

これらの技術は効果の目処がたち、技術的にも既知の物の組み合わせで問題ない。従来は二酸化炭素は排出量の削減意欲が低下するなどの批判もあり、タブー視されてきたが、温暖化のリスクが高まる中で注目を集めるようになっている。

二酸化炭素除去は比較的小規模で実施可能

二酸化炭素除去は主に3つに分けられる。

  • 光合成などの生物活動を利用                               海洋の肥沃蟹用プランクトンの増加、植林、木材を空気なしで燃焼させるバイオ炭などがある。 バイオマスを燃焼させ、発生した二酸化炭素を回収し埋めるなどの方法もある。        大規模化が必要で農地を圧迫する可能性や生態系影響が未知数といったデメリットがある。
  • 自然の無機化学反応を利用                                岩石を砕いて撒くと二酸化炭素と反応し除去可能。必要な岩石量が膨大になる。
  • 工学的な回収                                      吸着剤を用いて回収する。副作用は少ないが、コストが課題。

温暖化対策への関心が弱まることや生態系への副作用が心配されるが、影響範囲が放射改変と比べると小さいため、国際的なルール作りが不要で各国で対応できる点がメリット。

気候工学の最大の課題はガバナンス

技術の未来の在り方を決めるのは研究者ではなく、市民であるべき。そのために技術の開発に当たっては倫理的、法的、社会的な課題を考慮し、開発初期から方向性を考えるべきという考えが広まっている。

技術は一度開発されると既得権益と結びつき、方向性を変えるのは難しくなるため、欠点が後から顕在化してもなかなか対応しにくい。そのためガバナンスと技術開発が同時に行われるようになっている。

法定な枠組みや公的な目的でのみ利用されているか、情報が開示されているか、市民が意思決定に関わる仕組みがあるか、評価を公正に行う仕組みがあるかなどが重要。

開発段階でステークホルダーとの関係調整をすることがとても重要

一般市民での調査では、まだまだ気候工学を耳にしたことのある人は少ない。また二酸化炭素除去は放射改変よりも支持されやすい傾向にある。ただし、気候工学そのものを完全に排除すべきと考えている人は少なく、気候工学が温暖化対策を抑止してしまうモラルハザードを心配する人も少ない。

 技術の進歩と共に様々な便益がもたらされる反面、副作用やリスクが新しく生まれているため、何度も市民の意見を聞く必要があり、また簡単な世論調査と違い時間もかかるため一部のやる気のある人だけが参加してしまうため偏りが生じる可能性もある。

グローバル化が進み技術開発が進む21世紀では開発段階でステークホルダーと関与し、ガバナンスに生かすことが一大研究テーマとなる。

日本も排出量減以外の方法で温暖化対策に貢献すべき

 日本の経済規模は縮小傾向にあり、気候工学に大きな予算を割き研究を行い、研究をリードするのではなく、限られたリソースを継続的に投入することで世界での議論を喚起する役割を担うべき。

日本は研究では優れたものも多いが、全体では気候変動に対するリスク意識が弱く、気候工学の研究も非常に少ない。再生エネルギーの利用遅れや石炭発電の利用などのマイナスも大きい。省エネの分野では優秀なため勘違いしだちだが、情報発信不足もあり、環境的に後進国と見られている部分もある。

 科学技術と社会が複雑に絡み合う時代にグローバルな主張をしていくことは必須になっている。主張できる人を増やすことも気候工学への貢献の一つ。

現代の環境問題に対応するには複雑で大規模な地球システムを理解し、維持回復するための対策が必要。温室効果ガスの排出量減は必須だが、さらなる気候変動の対応も必要になっている。

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