水素社会入門 西宮伸幸 3分要約 

3分要約

なぜ水素が注目されているのか

 再生エネルギーや電気自動車に大きな注目がされているが、水素の利用が今後のカーボンニュートラルの実現に重要となるため。水素と水の循環でエネルギーサイクルを回し続けることができる可能性を秘めている。

水素のどこが重要な点なのか

 クリーンなエネルギーとして利用できることに加え、高い効率で別のエネルギーに変換することができるため水素を利用しエネルギーを貯蔵できるようになる。貯蔵性、輸送性にも優れるため、エネルギー利用の幅が増えることが期待される。このようなエネルギーキャリアとしての働きから大きな注目を集めている。

水素エネルギーの仕組みと利点はなにか

水素をエネルギーとして利用するには水素による発電と燃料電池としての利用の二通りがある。燃料電池は水素が反応し水となる際に発生するエネルギーを利用するもので燃料電池を利用した燃料電池車は電気自動車と比較してもエネルギー効率、走行距離、補給時間の短さなどで優っている。

 エネルギーキャリアとしての利用では、自然エネルギーで生み出したエネルギーを水素に変換し,他の場所に移動して利用するなどの応用も期待できる。

 水素発電は燃焼時の化学エネルギーを熱エネルギーに変換し、タービンを回して発電する方法。燃料電池と比較すると効率に劣るが、現行の施設の利用が可能などの利点がある。

水素エネルギーの欠点は何か

 水素製造時に利用するエネルギーとコスト。

 現在は化石燃料を使用し水素を製造している。水素の製造を再生エネルギーで可能になれば、水と水素の循環によるエネルギーのループが可能になる。

 技術的には実現可能なところまで来ているが、1/10にしなければという試算もある。まずは現行よりも効率がUPする場所で化石燃料を用いた水素を利用していき、需要が増えることでコストを下げていくべき。

 技術的には実現可能。どのように水素社会を実現していくか多くの人が関わり考えていくことが重要になる。

クリーンエネルギーとしての水素のポテンシャルは高い

 いま世界では各国が脱炭素に向け、数値目標を掲げている。日本でもカーボンニュートラルを掲げ、化石燃料に代わるエネルギーに期待が集まっている。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーや電気自動車に注目が集まりがちだが、水素が今後のカーボンニュートラルを実現するうえで重要になる。

 水素社会とはどんな仕組みなのかあまり知られていない水素のポテンシャルをわかりやすく解説している。

水素の可能性は二酸化炭素を出さないことだけでなく、エネルギーキャリアとして利用できること

 水素エネルギーはトヨタの燃料電池車、MIRAIの発表で大きく注目されている。水素には下記にような利点がある

1.水素は環境に有害な物質をださない

2.さまざまな一次エネルギー(石油、原子力、水力、太陽光など)から容易に製造できる

3.高い効率で別のエネルギーに変換できる

4.大量でも少量でも貯蔵できる

5.短距離でも長距離でも輸送できる

 二酸化炭素などの有害な物質を出さないことばかりに注目が集まっているが、他の特徴に重要な点がある。水素の大きな可能性はエネルギーキャリアとして活用できること。

水素と水の循環でエネルギーサイクルを回すことができる

 水素は一時エネルギから製造され、もう一度エネルギーに戻すことができるため、水素を利用しエネルギーを貯蔵することができる。この働きをエネルギーキャリアと呼ぶ。

 貯蔵性や輸送性にも優れるため、蓄電池などの技術では難しかったレベルまで、エネルギーの利用の幅を拡げることができる。余ったエネルギーを水素に変え、足りない場所やときに使う際の効率が従来技術以上になるため循環型のエネルギーを実現できる。

 水素を水から製造する際の一次エネルギーに二酸化炭素を排出しないエネルギーを利用できれば、水素と水の循環によってエネルギーサイクルを回し続けることができるようになる。

水素エネルギーは石油代替として様々な視点から研究されてきた

 水素エネルギーはオイルショックや化石燃料の枯渇への対応のため、石油の代替エネルギーとして本格的に研究が始まった。その後は窒素酸化物などの大気汚染が問題となり、有害物質を排出しないクリーンエネルギーとして注目されるようになった。現在では地球温暖化対策としてのの研究が多いが、様々な視点から研究が続けられてきた。

水素の製造に自然エネルギーを利用できれば理想的

 現在、水素の製造で広く行われているのは、化石燃料を高温で水蒸気と反応させ、炭素が二酸化炭素になる発生する水素を利用する。現在実用化されている水素のほとんどはこの方法で作られている。カーボンニュートラルの実現には化石燃料の改質ではなく、クリーンな方法が求められる。

 古くから知られるのは水を電気分解し水素を得る方法。電気分解のエネルギーを自然エネルギーにできれば、温室効果ガスの排出のないエネルギーとなるがコストが課題となる。

気体であるため貯蔵、運搬がネックだが多くの対応が検討されている

 水素は常温で軽い気体のため、体積が大きく貯蔵、運搬に不便となったり、わずかな隙間から拡散してしまうため扱いが難しいという欠点がある。

圧縮、低温での液化、金属原子間に水素を取り込ませる水素吸蔵合金、有機物と反応させて液化し、使用する際に水素の戻すなどの仕組みが検討されている。

 用途によって使い分け、併用していくことになると思われる。

燃料電池車の課題はコストと水素の補給場所の少なさ

 水素をエネルギーに変換する方法は燃料電池と水素発電がある。

 燃料電池は化学反応で水素を水に変える際にエネルギーを発生させるため、二酸化炭素を排出せずにエネルギーを得ることができる。

 燃料電池社と電気自動車を比べると、エネルギー効率、走行距離、燃料補給時間の短さでは燃料電池車が勝ってるが、コストで大きく劣っている点、水素ステーションの少なさが課題となる。

 大型車では電池容量を大きくする必要のある電気自動車よりも小さくてもパワーのでる燃料電池車のほうが有利なため、まずはトラックやバスなどで普及すると思われる。大型車は商用車であることが多く、走行ルート中に水素ステーションがあればよいため、ステーションの数の少なさが問題になりにくい利点もある。

水素のによる発電も検討されている

 水素発電は燃焼によって化学エネルギーを熱エネルギーに変換し、タービンを回す仕組み。原理自体は火力発電と同じであり、火力発電の中に水素を混ぜて少しでも二酸化炭素の排出を少なくすることも検討されている。熱エネルギーへの変換を通るため、効率は燃料電池に劣るが、ゼロを目指す布石としての利用は充分にあり得る。

安定供給、経済性、環境、安全性がエネルギー政策に重要

 エネルギー政策で重要となるのは4つの項目で、日本と水素技術の関係は以下のようになる。

1.安定供給

 日本はエネルギーの自給率が低いが、水素の製造技術があれば、安定供給を生み出すことが可能。

2.経済性

 コストが合わないと普及しない。水素エネルギーのネックになっている部分。

3.環境

 クリーンさ。水素が注目される一番の要因。

4.安全性

 安全の担保は絶対的に必要。筆者はガソリンや灯油と同じレベルの安全性と考えてる。

エネルギーキャリアとしての利用にも多くのもメリットがある

 エネルギーキャリアとしての水素のメリットは以下の5つ

1.再生エネルギーの普及促進

 再生エネルギーは天候に左右されるため、需給のミスマッチが大きく、電力の過不足が懸念される。    水素の状態で保存できれば再生エネルギーのデメリットをなくし、普及させることができる。

2.僻地、離島での使用

 水素の状態で移動すれば送電設備の整備されていない地域でも、電力を使うことができる。燃料電池の反応で発生した水を飲料水とする計画もある。

3.電力インフラの平準化

 過疎地などでも水素によるエネルギーを利用することで利便性を高め、従来にように送電するよりもコストを抑えることができる。

4.未利用資源の活用

 風の極端に強い地域など自然エネルギーを得るために有望だが、利用できていない場所も多く水素をエネルーキャリアとして利用することで活用できる。特に日本は太陽光、風力などの自然資源が十分でないため、大きなメリットがある。

5.災害時の備え

 水素を備蓄していれば、地震などがあっても発電が可能になる。

課題は水素製造時の化石燃料使用とコスト

 水素社会実現の大きな課題は4つある。

1.ブルーからグリーンへ

 水素をエネルギーにする際には二酸化炭素を排出しないが、水素を作り出す工程では二酸化炭素を排出することがある。自然エネルギーで作られた水素をグリーン水素、化石燃料を使用するが発生した二酸化炭素を貯蔵したり再利用した水素をブルー水素、二酸化炭素を再利用していない水素をグレー水素と呼ぶ。グリーンに比率を高められるかが課題。

2.二酸化炭素を排出しない

 移行期にはブルー水素の利用が必要となるが、二酸化炭素の再利用が課題となる。地中に埋める方法もあるが、量に限界がある。化学原料への再利用する手もあるが、エネルギー効率の悪さが課題。

3.サプライチェーンの構築

 一次エネルギーの調達先や経路を構築する必要がある。一次エネルギーに化石燃料を用いる場合は二酸化炭素の排出と自然エネルギーへの転換が課題となる。

4.競争力あるコスト

 いかにしてコストを下げるかも課題。現状の1/10にする必要があるという試算もある。まずはブルー水素でも水素の利用量が増えれば、徐々に採算がとれるようになり、価格が下がり、需要が増えるというループになる。

技術的にはあと一歩でどんなビジネスを構築するかを幅広い人で議論する必要がある

 世界各国での実証実験が進んでいるがそのビジョンは異なる。日本の場合は再生可能エネルギーを十分な量自国内で調達することが難しいため、海外からの輸入が前提になる。

 水素社会は理想の未来像ではなく、すでに背中が見えるところまで来ている。あとはそれをどう実現するか、どんなビジネスを構築できるかを社会で考えていくことが必要になってくる。科学者だけではなく、多様な人がかんがえることで水素社会を実現することができる。

 

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