本の概要
生物が地球環境に適応してきたプロセスを進化と呼ぶ。中でも数の生物種が互いに影響しながら、進化することを共進化と呼ぶ。
この共進化は微化石と呼ばれるごく小さな化石の探索によって明らかになった。
大陸の配置などの地球環境を変える現象が気候を変え、海の構造を変え、生物の進化をもたらした。
植物プランクトンの一種である藻類の増加が巨大生物の進化を促した可能性も有る。このような共進化に迫っていく。
植物プランクトンは栄養の少ない表層で効率をよく栄養を吸収するために、体表面を大きくして栄養塩との接触面積を増加するため、小型化するように進化してきた。
プランクトンには3大プランクトンと呼ばれる3つの種がある。
- 珪藻類
- 過鞭毛藻
- 円石藻
の3つ。それぞれ様々な特徴があるが、それぞれ、周囲の栄養状態が悪いときに休眠状態でやり過ごす特徴がある。周囲の栄養状態を感知し、再び活動を行うが、その再活動の条件が異なる。
大陸の移動などの大きな地形変化で海洋構造が変化し、プランクトンの多様化や大量発生が見られることがある。
クジラの祖先は陸で住んでいたが、エサとなるプランクトンの多様化増加に伴い、海へ移動しその種を増やした。またその後のプランクトンの大量発生でサイズを多くしたとみられている。
このように海洋の変化が、プランクトンとクジラの共進化仮説を促したとみられている。
海洋がどのように変化し、生態系に影響を与えてきたかは現在の3次元だけでなく、時間軸もいれた4次元で考える必要がある。それは様々な生物どうし、生物と環境間の共進化を考えること。
その試みが環境変動によって生態系がどのような変動を起こすかの予測の手助けになるかもしれない。
本で学べること
- プランクトンの生態と海洋での役割
- 様々な生物とプランクトンの共進化
- 微化石とよばれる化石からどんなことが学べ、何に生かせるのか
はじめに プロローグ
生物が多様な地球環境に適応してきたプロセスを進化と呼ぶ。
複数の生物種が互いに影響しながら、進化することを共進化と呼ぶ。
共進化は蜂のような昆虫と花粉を提供する花のように共生、寄生のイメージがあるが、生物同士さらには地球環境そのもののから受けた変化も生物の進化に大きな影響を与えており共進化といえる。
陸を変える現象が気候を変え、海の構造を変え、生物の進化をもたらしてきた。
この進化は微化石と呼ばれるごく小さな化石の探索によって明らかになった。
「陸上で流れる時間」と「海中で流れる時間」を比べるとそこに暮らす生物の時間の早さが異なっている。体のサイズと世代交代のスピードの違いからこのようなことが起こる。
陸上植物がCO2を吸収することは知られている。実は海中でも植物プランクトンとその堆積物が多くのCO2を蓄積している。
植物プランクトンの一種である珪藻類の増加が巨大生物の進化を生み出し可能性にせまる。
第1章 生物どうしの複層的なつながり
生物の食べる食べられるの関係を食物連鎖と呼ぶ。光合成を行う植物は生産者、それを食べる草食動物を1次消費者、1次消費者は食べる肉食動物は2次消費者…と呼ばれる。
実際の自然界では鎖のような一直線の関係はほとんどなく入り乱れている。そのため食物連鎖ではなく、食物網といわれることもある。
海中で光合成を行うプランクトンを植物プランクトン、エサを食べるプランクトンは動物プランクトンと呼ぶ。植物プランクトンは5000種いると考えられている。海中でも陸上と同じように食物網は存在している。
陸上植物の吸収するCO2の80%にあたる量を海洋生物が保存していることがわかっている。
第2章「海の生産者」はなぜ小さいのか
植物プランクトンは陸上の植物と比べ、そのサイズは非常に小さい。
海の中は光を通しにくいため、植物プランクトンは海面に近いところで生きていかなければならない。一方で死んだプランクトンは海底に沈み分解され栄養分となるが、栄養分はその表面にはなかなか戻りにくい。
栄養の少ない表層で効率をよく栄養を吸収するためには体表面を大きくして栄養塩との接触面積を増加することが有効。
積を増やしてしまうと、より栄養が必要になり非効率なため、小型化と表面積をできる限り、大きくすることで適応してきた。
植物プランクトンの小型化によって一次消費者である動物プランクトンも小型化した。
微小プランクトンは早く成長し、再生産、早く死ぬという短いライフサイクルが特徴。
植物プランクトンの必要としている栄養素は、炭素、窒素、リン、ケイ素、鉄など。
海底に蓄積した栄養素を表層に送る現象に「湧昇」がある。風や、温度差等で起こる、湧昇の頻繁に起こる箇所でプランクトンは大量に生息している。
3大プランクトンとしては
- 珪藻
- 過鞭毛藻
- 円石藻
がある。
珪藻はガラスできできた殻に包まれている。分裂に必要な栄養を使い切ると海底に沈み、「休眠胞子」と呼ばれれ不思議な細胞を形成する。栄養状態が改善するまで海底に堆積し過ごすことで、低栄養状態を生き延びるもの。
水温の変化、湧昇による光の検知、周囲の栄養状態の検知などで休眠状態から再び、発芽することができる。
過鞭毛藻は光合成をしながら、エサを刈ることもある植物と動物の特徴を持つプランクトン。
栄養が少なくなると休眠シストと呼ばれる状態になり、低栄養状態をやり過ごす。水温の変化によって再び発芽する機能が強く、季節的な湧昇が多い環境下で繁栄。
円石藻は他の2種に比べサイズは小さいが、その生物量は非常の多い。硫黄化合物を大気へ放出するなどの働きがあるが、そのライフスタイルにはなぞも多い。
植物プランクトンのサイズはごく小さいが、生態系に及ぼす影響は大きい。
第3章 「生態系を進化させた」大事変の発見
珪藻類のキートケロス属の休眠化石については、研究が少なく、どれだけの種類があり、どのような進化をしてきたか等の情報がなかった。
キートケロス属の正確な分類を行ったことで、過去の環境変動や進化に関する研究に重要な指標として利用できるようになった。
研究の結果、休眠胞子の種類や産出数がいくつかの時代で急激に増加していることがわかった。
3390万年前休眠胞子の種が急激に増加し、サイズが半減していた。また、850万年前と250万年前には休眠胞子の産出量が増加している。
3390万年前にはオーストラリアが南極から離れたことで、南極大陸に氷床ができ始めたことなどで、地球全体が寒冷化が起きた。海洋が寒冷化すると表層の沈み込みが起きやすくなり、栄養塩の表層への供給量が増加した。それによりプランクトンの生産量が増加した。
海流の流れも変化し、海洋の構造は全く違うものへの変化した。
湧昇が不定期に頻繁に起こるようになるとキートケロス属の繁栄に適している。キートケロス属は他の種と違い、海温だけを発芽のきっかけにしなかったため、有利となり、その数を大きく増やした。
850万年前と250万年前は湧昇の活発化が起き、キートケロス属を含む珪藻類の生産量が増加した。
第4章 「進化のエンジン」を考える
クジラの祖先はカバと共通していると考えられている。原クジラ類はある地点で海に戻り、現在のクジラに進化した。
捕食に使う髭の進化、サイズの巨大化のタイミングなどから考えると3390万年前の珪藻類の多様化による海への移動、850万年前と250万年前の湧昇の活発化によるエサ(プランクトン)の増加による巨大化が起きた可能性が高い。
つまり、海洋の変化が珪藻の種類と数を増加させ、クジラの種類を増やし、サイズを大きくしたというクジラと珪藻類の共進化仮説があり得るかもしれない。
アシカやオットセイなどの魚をエサとする海洋哺乳類も珪藻などのプランクトンの増加を契機に数を増やしている。ペンギンや鮭などもその数を増やしていることがわかってきた。
さらには850万年前には陸上でも地形の変化が乾燥化を招き、イネ科の植物が広がり、それを食べるウマが種ると数を増やしたというものもある。
地球環境の変化による珪藻の繁栄が海洋生物の進化を促したかについてはタイミングが同じだけという可能性も有るが、それに合うデータも出てきている。
海洋がどのように変化し、生態系に影響を与えてきたかは現在の3次元だけでなく、時間軸もいれた4次元で考える必要がある。それは様々な生物どうし、生物と環境間の共進化を考えること。
その試みが環境変動によって生態系がどのような変動を起こすかの予測の手助けになるかもしれない。
おわりに
現在、珪藻が減少し、円石藻が増加している海域がある。温暖化に伴い海水の混合が減り、一次生産者の交代が起こっている、その交代がどのような影響を与えるかはまだ分かっていない。
食物網に与える影響が大きい可能性もあり、今まで目をむけてこなかった生き物の変遷を注視し、守っていく必要がある。過去に起きたことを調べることでどのような対策が重要か知ることができる。
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