生命とは何か What is LIFE ? ポール・ナース ダイヤモンド社 要約

生命がどのように機能しているか知ることが、重要性の増す生物学の理解につながる

 生命とは何か?本書ではこの疑問に答えるため5つの生物学の重要な考えを取り上げ5つの考えを新しい形で結びつけることで生命を定義する統一原理を導き出す。

 今後人々の生き方、生まれ方、食糧問題、パンデミック対策などに必要な生物学の重要性は増していく。これらの課題の前に生命がどのように機能しているか知ることが重要。

全ての生命は細胞でできている

 細胞は生命の基本単位で、生命の中核をなす特徴を持つ。多様性はあるが、あらゆる生命は細胞でできている。

 熱力学の第2法則ではあらゆるものは無秩序な状態に向かうとされている。細胞は外膜を持ち、内と外を分けている。内で秩序を作り、外で無秩序を作ることで、熱力学の第2法則に背くことなく生命維持に必要な秩序を守ることができる。

あらゆる細胞には遺伝子の全情報が書かれていて、細胞が分裂した際にコピーされ受け継がれる

 全ての生物の親子が似ていることは昔から知られていたが、それが遺伝子によるものと判明したのはメンデルの実験と最近のこと。

 あらゆる細胞には遺伝子の全情報がかかれたコピーがある。細胞が分裂するたびに遺伝子の一式がコピーされ、新しく作られた細胞間で均等に共有される。

 遺伝子はDNAという化学物質からできており、その構造中にある4つの塩基の順序が情報を含んだ暗号として働いている。

 4つの塩基は決まった組み合わせで一対となっていて、らせん構造を形成している。

 塩基の順序は特定のタンパク質の作り方を示しており、タンパク質は細胞の中の仕事の大半を担っている。

新しい細胞ができるには何百もの反応が連携する必要がある

 遺伝子の複製と細胞の分裂には緻密な連携が求められ、新しい細胞を作り出すのに必要な何百もの反応が連携する必要がある。このプロセスは細胞周期と呼ばれるプロセスによって実現する。
 筆者は細胞周期を正確に行うために必要な遺伝子(cd2遺伝子)を特定している。

全ての声明は同じ祖先から自然淘汰で枝分れしてきた

 地球上の複雑で多様性に富む生物は自然淘汰によって生み出されている。
進化は全く方向性のない漸進的なプロセスだが、膨大な時間で見ると、ずば抜けた創造力を発揮する。

 ダーウィンは進化のメカニズムとして自然淘汰を提案し、進化がどのように機能するのかを
示した。遺伝子の変異によって生命体の集団が変化すると世代から世代へ受け継がれる。
受け継がれた変異が子孫をうまく残れる特性に影響すると、その変異は多くの個体に受け継がれることで進化していく。

 自然淘汰による進化が起きるのは繁殖し、遺伝システムを持ち、遺伝システムが変異を生むことの3つが必要になる。

 すべての生命は同じ祖先が自然淘汰によって枝分かれしている。生命は徐々に進化し、異なる形と生活様式に変化したが、細胞周期のメカニズムは同じで、人間と酵母のcd2遺伝子はよく似ている。

生命は酵素が触媒する化学反応

 生命は極めて複雑ながら物理的、科学的現象から成り立っている。生命体で発生する化学反応を代謝と呼び、維持、成長、組織化、生殖といった全てのプロセスを促進している。
 
 代謝を行っているのが酵素で、タンパク質からできている。体中で様々な反応が起きてているにもかかららず、混乱せずに反応が進行するのは酵素が高温や圧力、酸性、アルカリなどの条件を必要とせず、区画がわかれているため。

 細胞の外膜の重要な役割が外の世界から分離することで、あるのは区画化が代謝を混乱なく行うために必須となるため。

 Cdc2タンパク質も酵素であり、サイクリンと呼ばれる別のタンパク質と結合し他のタンパク質にリン酸塩分子をくっつける働きをする。リン酸塩は負の電荷を帯びているため、くっつくことでそのタンパク質の性質が変化する。その変化が細胞のスイッチとして利用されている。

 リン酸化されやすい物からスイッチのONとなり、徐々にリン酸化さらにくいものをリン酸化することで順序良く細胞分裂を起こすことができる。

生命体は自身と周囲の変化を検出し、自身を制御している

 生命体には内側と外側の世界の変化を検出することが必要。細胞も内と外の科学的、物理的な環境を評価しその情報を利用して、自身の状態を制御している。

 DNAは生命の情報そのもので、データをコンパクトに収納している。細胞は遺伝子のなかから必要な部分だけを調節して働かせる。

 生体内では様々な調節、スイッチのONとOFFを切り替えることで恒常性を維持している。自然淘汰では何とかやっていけば生存できるため、生物が最高効率を持っているとは限らない。

筆者の考える生命の特徴は進化、境界、機械的な仕組みの3つ

 筆者の考える生命は以下の3つの特徴を持つ

・自然淘汰を通じて進化する
 そのために生殖し、遺伝システムを持ち、遺伝システムが変動する必要がある

・境界を持つ物理的な存在であること
 周りから切り離され、周囲の環境とコミュニケーションをとっている

・科学的、物理的、情報的な機械であること
 自らの代謝を構築し、維持、成長、再生する機械であること

 ウイルスは他の生物の力を借りなければ生殖できないため無生物とされるが、完全に自給自足できる生物はほとんどいない。
 程度の差はあれ全ての生物がこれらの条件のなかでグラデーションで広がっている。このような絆を理解しその意味に思いをはせることができるのは人間だけ。
人間は地球の生命に対し、特別な責任を負っている。

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