生命の歴史は繰り返すのか? ジョナサン・B・ロソス 化学同人 まとめ

生命の進化は予測可能なものなのか、それとも完全に偶然に左右されるのか                               様々な環境におかれた生物がどのような進化で環境に対応するかで進化の偶然性と反復性を知ることができる。

 爬虫類学者の筆者が生命の進化が偶然の産物なのか、それとも反復性を持つものなのかを知るための様々な研究について書かれている。

 反復性を持つとされる根拠は違う場所、時間であっても、似た環境であれば同じような進化をする収斂進化と呼ばれる現象。一方、一回きりの進化をした生物も少なくなく進化は偶然とする根拠もある。

 従来進化は長い時間がかかるものと考えられてきたが、環境の激変などで短時間で環境適応進化することが確認されており、それらを利用した研究が盛んにおこなわれている。

 基本的には短期的な進化は反復性を持つことが多い。違う環境で同じ淘汰圧にさらせられると同じよ

うな遺伝的な変異で適応することも多い。

 一歩で、ごくまれに非常に複雑な遺伝変異が起こることで環境に適応することがある。このような進化は予測が難しく、ごくまれにしか発生しない。

 進化の反復性を明らかにできれば、薬の開発や病気の治療に役立つ可能性もある。

現状では、進化は短期的には反復性を持ち、予測できるが、長期的にはごくまれに起こる変異が発生する確率が増えるため、予測が難しく偶然性が強い傾向にある。

収斂進化:生命の進化には反復性があり予測可能とする説

 似たような環境に生息する種は、共通の淘汰圧を受けるため、同じような特徴を進化させやすい。このような進化を収斂進化と呼び、収斂進化は生命の進化に反復性があるとする説の根拠となっている。

 自然界を生き抜く方法は限られており、同じ特長が何度も進化するためと考えられている。

 自然界には種が違うが、特長の似た生物が多く見られる。似ている生物は近縁種と思われがちだが、中にはかなり遠い種もある。このような生物は別々に同じ特長を持つように収斂進化したといえる。

イルカやマグロ、サメなどの高速遊泳する生物の姿が似ているのは収斂進化の例になる。

進化の偶然性:進化は一回きりで予測できないとする説

収斂進化が見られることも多いが、生物の中には一回きりの進化で変わった特徴を持つ生物も少なくない。コアラのような生物は化石記録をさかのぼっても見つかっていないし、カモノハシも他の生物の寄せ集めと勘違いされるほど、他の動物とは違う特徴を持つ。

進化は緩やかに進むと思われていたが、環境の劇的な変化で短時間でおこることもある

 以前は進化は非常に緩やかに進むため、検証は不可能と思われていた。しかし、環境の激変などによる急速な進化は実在しており、生物が淘汰圧にどのように反応するかしることができる。

 急速な進化がどのように進行するかを知ることができれば、進化のメカニズムを解明できるだけでなく、病原体や害虫の進化に対応しやすくなる。

複雑な器官や社会が同じ構造をもつのは収斂進化の例

 タコの眼球は脊椎動物の眼球の仕組みと非常に似てる。タコとヒトの共通祖先が分岐したのは
5億5000万年前で、眼球のような極めて複雑なものでも同じような特徴に進化する。

 眼球のような解剖学、身体的な特徴以外でも収斂進化は見られる。アリと白アリは実は近縁ではないが、その社会構造(高度な分業、フェロモンによるコミュニケーション、菌を繁殖させ食べるなど)は非常に似ている。

 カモノハシやコアラのような唯一無二の進化を生み出したオーストラリアでも他の種の持つ進化的な特徴は他の地域でも見られている。

 

 収斂進化はヒトでも見られる。人の肌の色は従来、暗色だったが、日照の乏しい高緯度地域では暗色ではビタミンDの合成に必要な紫外線が透過しにくかった。そのため紫外線を透過しやすい明るい色に進化した。明るい色への進化は複数の場所で別々に起きており、収斂進化の例といえる。

適応拡散:環境が似ていると違う場所でも、同じ進化で適応する

 生物はある種が多くの子孫種を生み出し、それぞれの生息地に適応し特徴を進化させていく。
 この分岐進化の結果、一つの共通祖先から、複数の種からなる一つのグループが形成されることがある。このような現象を適応拡散と呼ぶ。

 

 もともとは大陸だった場所が、多くの島になったような場所では、適応拡散によって子孫種はそれぞれ同じような特徴を別々に進化させることも多い。

 

 爬虫類のアノールでは樹上に適したものと地面に適したものがおり、異なる島二つのスペシャリストへ進化することが複数確認されている。
 
 環境条件が似ている場合に、自然淘汰は同じようなスペシャリストの組み合わせの進化を促している。適応拡散の反復性も進化の反復性、規則性を示す例となっている。

進化の特異点:同じ環境に別の方法で適応することもある

 進化が特異的で、反復性がない例としてはニュージーランドが挙げられる。ニュージーランドは哺乳類が占める生態系の役割を鳥類が担っている。

 島以外でもゾウの長い鼻は進化的に類を見ないなど、一度きりしか進化しない例も多く見られる。

 また、ある環境状況に適応するやり方が複数あることも珍しくはない。ライオンのような捕食者に対抗するには俊足を進化させ逃げる、カモフラージュ、装甲による防御など様々な方法がある。

 同じ機能、例えば飛翔でも、その内部構造は蝙蝠と鳥、翼竜では異なっており、収斂なのかそれぞれが特異的な進化なのか見分けることは難しい。

進化の速度は環境によっては意外と早く進行する

 進化が特異的である例も、収斂進化のように決定的である例もそれぞれ無数に存在する。どちらであるかは収斂進化の有無に関わるものを理解する必要がある。

 進化生物学では、進化にかかる時間が膨大なため、従来あまり実験が行われてこなかった。しかし、近年。強い淘汰圧が速い進化を促すことが知られてきた。
 
 極端な食料不足などの環境要因で進化が一気に進行することもある。ダーウィンフィンチはエサである種が水不足によって大きく減少すると大きな種を食べられる大きなくちばしを持った者だけが生き残ることができた。この結果を受け、同一種を異なる環境に分けることで、異なる淘汰圧にどのように
反応するかを観察する実験が多く行われるようになった。

 

 グッピーは捕食圧が強いとカモフラージュのため地味な色に、捕食圧が弱いとメスの気を引くために派手な色になることが知られている。同一種でも捕食圧の違う環境に分けると、素早くそれぞれの環境に合うように進化することが確認されている。


 パークグラス実験は人工肥料と堆肥の比較として150年以上続いている。人工堆肥が収量増加に影響を与えることはすぐに確認できたが、世代を経るごとに、区画ごとに種の分化が進んでいることも確認された。 区画ごとに異なる環境が遺伝的な差異を生み出し、環境への適応を高めていた。

 

 これらの結果は、自然下でも進化を実験的に研究できることを明確に示しており、以後多くの進化の実験が自然下で行われるようになった。

微生物による実験で、弱い淘汰圧でも同じような手法で環境に適応する様子が見られた(ただし完全に同じではない)

 これまでの実験で進化は比較的早い速度で起こることは確認されたが、自然の中で起こる進化はもっと緩やかなため、厳密に同じものであるとは言えない可能性もある。また、淘汰も人工的で自然とは異なる可能性(自然での淘汰圧は強さが変わったり、弱かったりする)もある。

 これまで見てきた生物では、緩やかな淘汰圧で緩やかな進化を確かめることは時間がかかりすぎ、難しいが、微生物であれば世代交代の速度が早いため可能となる。大腸菌を用いた実験では、遺伝的に同一な個体群をわけ、世代交代を繰り返させると違う群でも同じような手法で環境に適応し、祖先に比べ増加率が大幅に増加していくことが確認された。

 一方で、確認される遺伝的な変化は完全に一定ではない。DNAの同じ場所で変異が起きているわけではなく、すべての集団で同じような変異が起こるわけでもない。

複雑な変異は偶然性の高い進化によっておこる

 大腸菌の実験ではある時、一つの集団が爆発的に増加する現象が見られた。増殖の理由は本来分解できないクエン酸を分解できる能力を獲得したため、大きく増殖率を増やすことができた。
 

 その後の研究で、クエン酸を分解するには複数の変異が必要なため、非常に珍しい変異であることがわかった。このような進化は、複雑な変異を必要とするため、同じ遺伝子を持つ集団の中でも一部の群でしか見られない。つまり進化の偶然性と見られている。

 しかし、微生物を使った早い世代交代であっても地質学的には一瞬のことでさならなる時間経過では多くの集団で見られることかもしれない。

 進化の偶発性には、全く同じ状態から始めても、起こる変異がランダムなため最終的な進化が予想出来ないとする予測不可能性と初期には重要に見えないような違いが後々に大きな差異につながる因果的従属性の二つがある。
 
 大腸菌での実験は予測不可能性を示したもの。因果的従属性は完全に同一でない同種を同じ淘汰に晒しても、同じようには進化しないことで確認されている。大腸菌の実験では、全く同一種を分けて、同じ淘汰圧にさらすと同じような進化をすることが確認された。しかし、違う環境に置かれた集団をまた別の淘汰圧にさらすとうまく対応する主としない種にわかれることがわかった。
 つまり同じように進化したように見えても、遺伝的には多様性を持っていたと言える。

進化は短期的には予測可能だが、長期的には確率の低い変異が起こる可能性が高くなり、予想困難になる

 ここまで見てきた進化の実験は学術的な疑問がメインだったが、進化の反復性の詳細が明らかになれば病気の治療に役立つ可能性がある。もしも細菌の体内への適応に過程を理解できれば、治療につなげることができる。進化の反復性が高ければ新薬や治療の開発が容易になる。
 
 また、細菌が抗生物質に耐性を持つ際も遺伝的変異が起きているため、進化の反復性が発見されれば薬の開発に役に立つと見られている。今のところは偶発性による進化が多いが、一部では収斂進化した例も見つかっている。

 

 哺乳類の反映は恐竜の絶滅がなくてもおき、ヒトの誕生もまた不可避だったとする説も有る。高度な知性や自己認識能力はなんども起きているが、ヒトほど知性を発達させた動物はいないため、収斂進化なのか偶発的な進化であるかは判断のしようがない。

 進化的に独特な生物でも、持っている細かいパーツは他の生物でも収斂進化していることも多い。ヒトの二足歩行、体毛退化、立体視可能な眼などすべてを持った生物はいないが一部をもつ生物は損z内している。

 そのため、地球外生物も全く見たことのない姿ではなく、地球の生物の寄せ集めのような外見をしているかもしれない。

 進化が予測できるのかは、短期的にはイエスだが、経過時間が長くなると確率の低い変異が大きな変化をもたらすため、予想が難しくなる。

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