生物はなぜ死ぬのか 小林武彦 講談社現代新書 要約

生物の仕組みには必然性があるため死にも理由がある

 

 地球には生きているものと生きていないものの2つしかない。
 生物学は生きているものの生き様、関わりあい、身体の仕組みを研究する学問で、どうやって生きているかを研究対象としている。
 見方を変えれば、生きていることはいずれ死ぬため、死にゆくものを研究しているともいえる。

 本書では死について考えるときに なぜ死ななければならないのかという疑問に答えている。
 生物の仕組みには必然性があるため、死ぬことにも理由がある。その謎を解くカギは生物は進化が作ったということ。
 死を考えることで、生きる意味、喜びや悲しみの根源、自然との関わりあいの大切さがみえてくるはず。

RNAの誕生で自己増殖が可能となった

 物理学、化学、天文学などの自然科学はビックバンから始まった自然現象の研究だが、生物学だけは地球ができて以降を対象としている。

 生物がどのように誕生したかは今でも詳細にはわかっていない。

 原子の地球は強い放射能、紫外線が宇宙からふりそそぎ生物の住める環境ではなかったが、化学反応を引き起こすことには有利となり、アミノ酸や核酸のもととなる有機物が生成し蓄積されていった。

 蓄積した有機物が最初の遺伝物質の候補となっているRNAを生み出したと考えられている。RNAには塩基と呼ばれる部分があり、塩基は種類によって対になる塩基がきまっている。そのためオリジナルのRNAを鋳型にし、新しいRNAを作り出すことができる。
 この仕組みが生物に欠かせない自己増殖の仕組みの始まりと推定されている。

 RNAが誕生すると効率的に増えることのできるRNAがさらに増加し、他の物質を圧倒して増えるようになる。RNAは分解性にも富んでいたため、分解されたRNAが新しいRNAの材料となることもできた。

 RNAの増殖を助けるようなタンパク質などの物質と結びつくことで、より効率性が増すと、タンパク質と結びつくことのできるRNAが生き残るようになった。
 その後、RNAとタンパク質などが膜につつまれるようになり、RNAはアミノ酸を組み合わせてタンパク質を創り出すリボソームへと変化した。リボソームは地球上の全ての生物がもつ重要な器官となっている。

 これらの手順は極めて確率が低いが、化学反応が起こりやすい状態で何億年もの時間をかけて発生したと考えられている。

生命の美しさの源は多様性である。               多様性のためには作って、分解する仕組みが必要

 ヒトは本能的に新しく生まれたものや変化を好んだり美しく思う。新しく生まれたり、変化を起こすためには作っては分解する仕組み(ターンオーバー)が必要となる。

 生物はDNAの変化で変異を起こす。変異が環境に有利であればその変異が進化として受け継がれていく。ターンオーバーは進化の原動力にもなっている。

 DNAによる進化が真核生物や多細胞生物を生み出すと多様化がどんどんと進んでいった。多様性が進むと生物間に関係性が生まれ、生態系となり、多くの生き物が共存できるようになった。生育する効率で生き延びるかがきまっていた生命誕生初期から、どのように生き延びるかというステージに移って行き、現在の地球もこの状況が続いている。

現在の地球は多様性の減少危機に瀕している

 現在の地球は大量絶滅期で過去の大量絶滅と比較しても早いペースで生物が絶滅している。多様性が減少するとどうなるのか、どこまで多様性が減少しても問題ないかはわかっていない。

 しかし、多様性が減少すると生態系が崩れやすくなる。ある生物が絶滅してもその生物の生態系での役割を別の生物が担うことができるが、大量絶滅では担い手が現れず、生態系が崩れる可能性が高い。

 恐竜が絶滅した際には恐竜のニッチを埋めた哺乳類が大きく広がっていった。哺乳類が広がる際にも様々な進化を遂げており、絶滅や死は進化に非常に重要となる。

生物の死に方はアクシデントと寿命の2つ 

 生物の死に方は他の生物に食べられたり、病気、飢えなどのアクシデントか寿命の2つ。一般に大型生物はアクシデントで死ににくく、小型生物はアクシデントで死にやすい。
 大型生物は食べることが生きることで、小型生物は食べられないことが生きることで、それぞれの状況にあった変異で環境に適応して進化してきた。

 2500年前まで人の寿命は、幼児期の死亡率が高かったこともあり、15歳だった。徐々に寿命は延び、最近100年で寿命が2倍になっているがこのような生物は他にいない。現代人の多くはアクシデントではなく老化の過程で死ぬ。

 DNAの複製は非常に精度が高く、10億塩基に1回程度のコピーミスしかしない。生物の誕生初期には変異が多いほうが多様性を生みだし有利となったが、環境が安定したことで精度が高いほうが有利となった。

 細胞が老化すると機能低下が起き、徐々に機能不全を起こす。この機能不全がヒトを死に追いやる。

 細胞にはテロメアと呼ばれる器官があり、DNAの複製に欠かせない細胞が分裂するとテロメアが短くなり、老化が誘導されることが知られている。
 テロメア合成酵素は幹細胞では発現しているが、分化した細胞ではテロメア合成酵素が働いていないため、徐々に老化していく。

 細胞の老化は、活性酸素の蓄積による機能低下を避けるため、細胞増殖に関わる遺伝子が壊れることによる細胞のがん化などを防ぐために起きている。
 しかし加齢とともにこの機能も低下し、病気になりやすくなる。人類は進化で獲得した想定年齢よりも長生きになったため老化するようになったとも考えられる。

遺伝子の変化が多様性を生み、生物は多様性と死で進化してきた

 ヒト以外の動物が死に対する恐れを持つものは少ない。人の持つ共感も進化上有利なため選択されてきた。
 
 生物の死ぬ理由は死ぬことで食料や生息地の不足を防ぐこと、もう一つのより大きな理由が多様性を生み出すため。 
 多様性を生むには多様な試作品を作る必要があり、試作品を作るための材料を提供するためにターンオーバーする死が必要となった。

 有性生殖もマイナーチェンジを起こせる優れた方法であるため、多くの生物で見られている。マイナーチェンジにより多様性を獲得した子は親よりも優秀であることも生物が死んでいく理由となる。

老化のメカニズムを知ることで長寿が可能になる

 老化のメカニズムも徐々に明らかになっており、特定の遺伝子が長生きに果たす役割が判明している。特にリボソームRNA遺伝子が不安定なほど老化が進みやすいことがわかっている。
 
 他の長寿の動物から学ぶこともできる。ハダカデバネズミは他のネズミ種に比べ非常に長寿。
その特徴である社会性や老齢化しても働き続ける姿を取り入れることができるかもしれない。

 生物が生まれるのは偶然だが、死ぬのは必然。死はターンオーバーによる材料供給の意味でも
生命の連続性を維持する原動力になっている。

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