3分要約
目的に合わない進化とは何か
現代と我々人類が進化した時代とでは,大きく環境が異なっている。
我々が自然環境の中の生活に適応するために身につけた能力は、21世紀の人類が構築してきた世界で役に立たないばかりか,マイナスになることもある。
進化的遺産と現代の環境との間で起こる不適合を知ることで,脱出する手段を発見できる。
目的に合わない進化がもたらす不幸にはどのようなものがあるのか
上巻では肥満,腸内微生物,アレルギーの増加,ストレスによる疾病などが挙げられている。
肥満はどのような不適合で起こるのか
食料が不足しがちだった古代では,エネルギーを溜め込むことで飢餓を乗り越えることができる倹約遺伝子を持つ人が優位であるとされてきた。
しかし,この説では全ての人が太っといてもおかしくないが,そうはなっていない。
他の説として,火や道具の使用で捕食者の脅威が減り,太っていても生き延びることができるようになったことで肥満が増えたとされるものもある。
肥満に限らず,環境の違う人々を対象にするため,遺伝子の違いが原因であると特定することは難しい。
アレルギーの増加は清潔になりすぎたからなのか
現代が清潔過ぎるため,免疫以上によってアレルギーが増えたという説は直感的に理解しやすいため,メディアでも大きく取り上げられやすい。
しかし,根拠は少なく誤りとされることも多い。
進化の不一致を考える際に注意すべき点は何か
遺伝子の要因か環境の要因かを見極めることは難しいため,安易でわかりやすいアイディアに飛びつかないように注意が必要。
また,大人になっても乳糖を分解できるのは酪農が盛んだった一部の地域の人のみ。地域差を考慮せずに栄養価の高いものを摂取すべきと考えてしまうと合わない人が多い可能性もある。
- 目的に合わない進化とは何か
- 目的に合わない進化がもたらす不幸にはどのようなものがあるのか
- 肥満はどのような不適合で起こるのか
- アレルギーの増加は清潔になりすぎたからなのか
- 進化の不一致を考える際に注意すべき点は何か
- 現在と昔の環境の違いが私たちに不適合を起こしている
- 私たちの進化は自然環境で生きる生活に適応している
- 肥満は進化の不適合の典型例として知られている
- 肥満は倹約遺伝子だけでは説明できない
- 太った人も生き延びることができたことで肥満が増加した
- 比較的短期間でも進化は起こる
- 腸内の微生物も自然環境に適応し進化してきた
- 清潔すぎるからアレルギーが増えた証拠は少ない
- ストレスは危機に備えるシステム。慢性的なストレスは疾病の原因にもなる。
現在と昔の環境の違いが私たちに不適合を起こしている
私たち人間が構築した21世紀の世界を生きることと,かつて自然環境の中で進化した動物であったこととには大きな隔たりがある。
進化が私たちにもたらした能力に適した世界は大多数の人々にとって存在しない世界であり,進化の遺産は私たちを助けるのではなく,目的不適合をもたらしている。
進化的遺産と現代の環境の間の不適合によっておこる不幸を知り,そこから脱出する手段を発見できる本になっている。
私たちの進化は自然環境で生きる生活に適応している
DNAの配列によって生み出されるタンパク質は様々な特性をもたらす。DNAを含む遺伝子は親から子へと遺伝するが,その際に変異を生じることがある。
多くの変異は否定的に作用するが,まれに変異を受け継いだ子孫が生存に有利になるようた新しい特性いもたらすことがあり,そのような特性を生み出す変異を持つ子孫は次世代を生み出す力が強ければその変異は次世代以降に伝わり,広がっていく。
この変異,変化が進化であり,私たちの進化は現代ではなく,自然環境の中での生活時に適応したもののため,様々な不適合が発生している。
肥満は進化の不適合の典型例として知られている
現代の人の悩みの一つがさまざまな病気の要因ともなる肥満であり,肥満は世界中で増え続けている。
古代の人類は食糧不足に落ちることも多く,飢餓に備え食べ物が豊富なうちに余剰のエネルギーを蓄えることが理に適っていた。
しかし,現代は高カロリーな食品に囲まれ,飢餓の心配はないが生理的な反応で万が一に備えエネルギーを蓄えてしまうため,脂肪が増え肥満になってしまう。これは倹約遺伝子仮説と呼ばれ,肥満が増加した要因として知られている。
倹約遺伝子仮説は進化的な適応と矛盾する世界を構築してきたとする見解の広告塔のような位置付けになっている。
肥満は倹約遺伝子だけでは説明できない
倹約遺伝子の候補となる遺伝子も実際に見つかっているが,倹約遺伝子にも問題がない訳ではない。
ある遺伝子が変異し0.5%だけ選択に有利になるとしても,6000回選択が行われれば,全ての個体が変異した遺伝子を持つとされている。
倹約遺伝子が過去の飢饉を乗り越えることに役立つのであれば,全ての個体が有益な遺伝子を持っているはずだが,そうはなっていない。
また,飢饉の際に太った人に比べ,痩せた人の方が生存率が低くなる証拠もほとんど見つかっていない。また現代の狩猟採取民たちの飢餓状態でない時の調査でも彼らが脂肪の蓄積をおこなっている訳ではないこともわかっている。
太った人も生き延びることができたことで肥満が増加した
倹約遺伝子仮説にはいくつか問題はあるものの,肥満の遺伝度は高いため遺伝的な仕組みがあると考えられている。
有力な対抗仮説に浮動遺伝子仮説がある。浮動遺伝子仮説は環境に適応した結果起こるのではなく,ランダムな偏りによって集団内に遺伝的な変異が広がっていくもの。
古代の人類は太っていると捕食者によって捉えられやすいため,痩せていることは極めて重要であった。しかし,道具や火の利用が可能になったことで、捕食者の脅威が減少すると痩せていることの意味が小さくなり、徐々に肥満の人でも生き延びやすくなることで変異が広がっていった。
肥満が浮動遺伝子で広がった証拠は完全ではないが,一部の倹約遺伝子で説明できないケースを説明可能であり,注目されている。
比較的短期間でも進化は起こる
パレオ式ダイエットは石器時代の人々のような食事をすることでダイエットするものだが,通常のカロリー制限と同じような効果しかない。
うまくいかない原因は様々だが,人間の進化が1万2000年前から止まっている考えていることも要因。実際にはこの短い期間の間でも人間は進化を遂げている。
農耕の発展は食糧の量を増やしたが,その初期段階では偏った食材による栄養不足や集団の大規模化による感染症の増加など狩猟採集民よりも栄養状態の悪い生活をしていた。
カルシウム不足も初期の農耕民に見られた栄養不足。カルシウム豊富なミルクに含まれる乳糖の分解にはラクターゼという酵素が必要だが,子供のうちしかラクターゼは活性化しない。
しかし,山羊や羊の家畜化と共に,徐々に大人になってもラクターゼが活性化することのできることで良質なカルシウムの摂取が可能になっていった。
このように人類は比較的短期間でも環境に適応し,進化することができる。一方で酪農が一般的でなかった地域では今でもラクターゼに活性がない人が多い。西洋式のミルクが健康に良いという考えが広がることで特定の食物への欲求と供給が高まるが,乳糖を分解できない人にとっては危険な状態でもある。
腸内の微生物も自然環境に適応し進化してきた
私たちは環境の変化から大きな影響を受けるが,環境の変化は身体外部だけでなく,私たちの内部の環境変化も大きな影響を持っている。
食生活の変化などは腸内環境に大きな影響を与えている。腸内のバクテリアは消化,ビタミンの合成,やミネラルの吸収,有害なバクテリアの増殖の抑制など様々な働きをしている。
腸内環境の変化はこれらの働きを鈍らせたり,炎症性腸疾患やメンタルヘルスの不調の原因にもなってしまう。
詳細の要因は研究中だが,地域によって異なる食生活に適応し,腸内環境が進化してきたため欧米型の食事への移行が大きく関係している可能性は高い。
清潔すぎるからアレルギーが増えた証拠は少ない
アレルギーの増加も進化と環境の不一致とされることが多い。清潔になりすぎたために免疫が過剰反応になり,アレルギーが増えたとする衛生仮説は直感的に理解しやすいこともあり,メディアなどでも取り上げられるが,根拠は少なく,誤りとされることもある。
ただし,特定の微生物の曝露がアレルギーなどの免疫異常を防ぐ効果があることもわかっている。不潔な環境で過ごす必要はないが、腸などへのバクテリアの導入のための糞便移植も検討されている。まずは野菜や果物を多く摂取することが面白みに欠けるが良い方法。
ストレスは危機に備えるシステム。慢性的なストレスは疾病の原因にもなる。
ストレスが我々の健康に与える悪影響は大きく,様々な病気の原因となる。
人間を含めた動物が恒常性が維持される中で活動することを好み,急激な変化を嫌う傾向にある。しかし環境が突然変化し,それが危険な方向への変化であった場合,何らかの対応をする必要がある。
その際にストレスによって体内の状態を急激に変化させることで、危険と闘争するか危険から逃走するかを判断することを可能にしている。
現代のストレスは古代に比べ、命の危機は少ないが慢性的であるため身体システムの機能不全や免疫システムの機能低下、メンタルヘルス疾病の原因となってしまう。
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