目的に合わない進化(下)アダム・ハート 3分要約

3分要約

目的にあわない進化とは何か

 我々の身体は現代ではなく、 狩猟採集民に最適化するために進化している。そのため現代と狩猟採集民の環境にギャップがあると精神や身体に負担になり大きなストレスの原因となる。

どのような環境がストレスの原因となるのか

 ソーシャルメディアのような不特定多数と常時繋がっている環境は古代では考えられなかった。

 人間の構築できる社会的関係の限界は150人ほどとも言われており、小規模の社会動物として進化してきた人間はこれ以上の規模の社会関係にはストレスを感じやすい。

 アルコールの分解も元は自然界にあるアルコールを分解するために進化したが、アルコールを自分達で生み出すことができるようになると健康に害を与えるようになった。

 リスクをとることを好む姿勢も進化的には有用だったが、ギャンブルへの依存症を生むなどの弊害もある。

 信用しやすいがためにフェイクに騙されたり、未来を想像することが苦手なことも適応とのギャップによって起きている。

 不適合を認識し、限界を受け入れることで不適合から救済しすることが可能になる。

暴力性も進化の産物なのか

 霊長類の暴力性は高く、暴力性を決める遺伝子も少しづつわかっている。

 また暴力性を制御する機能も進化している。解明が進めば進化的な観点から暴力を減らす効果的な対策が可能になる可能性もある。

バーチャルな世界もストレスの要因になる

現代の典型的で,日常に遭遇するストレスとして大きいのは携帯電話によって接続可能になるバーチャルな世界。

ソーシャルメディアでいいねなどを高評価を受けることが中毒性が高い一方で,嫌がらせを受けることも少なくない。

ソーシャルメディアの利用は自尊心を失わせたり、うつ病や不安を増加させることも報告されている。

オンラインでの関係は社会的な結びつきの代わりにはなりにくい

現実世界での友人関係は人を幸せにし,健康になり,長寿に結びつくことがわかっている。しかしオンラインでの友人関係は問題を起こすことも多い。

動物たちがグルーミング,毛づくろいをするのは,寄生虫を除去することも目的の一つだが,それ以外にもグルーミングする方もされるほうも心拍数が下がるという作用がある。

グルーミングによって個人同士を結びつけ協働と連携を育むことが可能になる。噂話にも社会的な結びつけを強くする効果はあると言われている。

人間の構築できる社会的関係の限界はダンバー数と呼ばれ,150人ほどと言われている。人類は小規模の社会的動物として進化してきたため,突如巨大化した集団の中で生きることに適応しきれていないため,ソーシャルメディアなどの大規模集団にストレスを感じやすくなっている。

霊長類は暴力的な傾向を持つが,抑制する機能も進化している

人間の暴力性は至る所で見られる。力が強く他を打ち負かすような個体は大きな利益を得ることができるため,多くに子孫を残せるとされる説も多く見られる。

 実際に霊長類の致死的同種内暴力は2.3%と哺乳類全体の0.3%よりも高い。人類も2%と比較的高く進化的に身につけたものである可能性が高い。

いつくかの遺伝子が暴力性を決めていることや動物の品種改良によって暴力性を高めることができることもわかっている。

 一方で暴力を振るい殺人を犯す能力があっても圧倒的多数は人を殺すことはない。衝動を制御する機能もまた進化してきている。

このような仕組みが解明されることで,進化的観点から暴力を減らす効果的な介入が可能になることが望まれる

ドラッグは古くから利用されてきたが,技術の発展で高濃度化している

ドラッグが身体に悪影響を及ぼすことは間違いないが,短期的に心地よさをもたらすことも事実。多くのドラッグは報酬系と呼ばれる神経伝達回路に作用し,ドーパミンを放出させる。

ドーパミンは多幸感や高揚感を得られるもので,本来は獲物を仕留めた時や食物を大量に採集できた際,性行為時などに放出されるが,ドラッグはドーパミンを強制的に放出させることで徐々に依存状態になっていく。

ドラッグと人間の関わりは古く,コカインなどはコカの歯を噛んだり,お茶にすることで古くから摂取されていた。現代はこれらの原料を加工し濃縮する技術が発展したため,古代の人々が摂取していた量よりはるかに多くの成分を摂取するためより依存や健康被害を受けやすくなっている。

アコールの匂いに惹かれるのも進化の産物

アルコールも古くからあるドラッグの一つ。アルコールは果実が熟した際に発酵されつくられるためアルコールの匂いに魅力を感じ,分解できる人の方が栄養価の高い食物を探せるようになったため,アルコールの消化能力を進化させたと考えられる。

 自然のアルコールは濃度が低く問題にならなかったが、農耕によってアルコールを製造できるようになると濃度は濃くなり,健康に害を与えるようになった。

ギャンブルへの依存も進化の不適合の一つ。リスクを冒すことで大きな報酬を得られる場合,そのような行動に報酬を与えることは進化的に有用であった。

自然の中で生きているために有用であった報酬系が乗っ取られることで,多くの行動や物質に依存するようになってしまっている。

信用しやすい能力がフェイクを信じてしまう原因

フェイクニュースのような誤った情報を信じてしまう能力も,進化で獲得した認知能力と現代社会との間の不適合の一つ。

騙されやすいことは信用しやすいこと。日常的なことを全て疑っていたら何もできなくなるため,我々は信用することで生きやすくなっているが,その分深く考えずに情報を信じてしまうようにもなっている。

特に権威のある人,自信のある人,魅力的な人の言葉は嘘だという証拠がなければ信じてしまいがち。

 また自分と周囲を内集団と外集団に分け,内集団に肯定的,外集団に否定的な意見は特に信じる傾向にある。帰属意識も強いため自分の集団に不利な意見を見ないようになり、より自分の意見にさらにバイアスがかかっていくエコーチェンバー現象も問題になっている。

社会生活を円滑にするために身につけた認知メカニズムが現代のデジタル社会と大きな不適合を起こしてしまっている。

未来を想像することも進化的に重視されなかったため苦手

現在社会の最大の不適合は脳を大きくし,抽象的な思考と社会的な協働を可能にした進化が器用な手と結びつき,環境を破壊し,自らを破滅に追いやるほどの道具を生み出したこと。

環境破壊を止めるには遠い未来を想像し,計画を立てる必要がある。しかし自然選択と進化は現在のこの場と近い未来に対処するためにある。そのため未来の私たちを想像してもそれを現在の私たちと同じ人物だと見做さない傾向がある。

 また、今この場を生き、自己保存を優先する利己的な傾向も持ち合わせており、未来の自分や他人よりも、今の自分を最も優先してしまう。

 しかし、このような不適合を認識することで未来の私たちも依然として渡したりであることを意識し、限界を受け入れることで不適合から救済し、未来世代も地球上で繁栄できるような知恵を得ることができる。

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