知らないではすまされない地政学が予測する日本の未来 松本利秋 SB新書

地政学は日本を取り巻くうねりの本質を知るための基礎になる

 グローバル化した世界ではアメリカによる平和と自由主義経済がゆらぎはじめ、強権的な支配者が他国に自分の意思を押し通すケースが増加している。

 最も顕著な例が中国の台頭。経済の発展を背景にした尖閣諸島周や辺南シナ海への領海侵犯などの混乱をもたらしている。

 政権交代でアメリカの外交戦略も見通しが立たない中、日本がアジアで生き残る可能性を探るのが本書の目的で、日本を取り巻くうねりの本質と解明を試みている。その基礎をなすのが地政学。

地政学とは地理学と政治学を組み合わせ、国益を追求する学問

 地政学は地理学と政治学を合わせた造語で、地理と政治の知識で人類の歴史の動態を分析、研究するもの。
 人類が文明を発展させるにあたり、立地と地図から読み取るストーリである景観が地政学を知るための根幹となる。世界の現実を大きく整理し、軍事力も含め国益を追求していく戦略を研究する学問。

地政学ではシーパワーとランドパワーの力関係が重要

 海洋国家の持つ力をシーパワー、大陸国家の持つ力をランドパワーと呼ぶ。シーパワーとランドパワーの力関係の変化は地政学で特に重要となる。


 第一次世界大戦はユーラシア大陸の心臓部を制覇しようとするランドパワーとそれを阻止したい海洋国家の闘いであり、心臓部を一手に支配する強力な国家の出現を防ぐことが世界平和のために重要と考えられている。

 ヒンターランド(後背地)はシーパワーがランドパワーと対決するときの物流を支援する地域。
朝鮮戦争時の日本などが該当する。

オフショア・バランシング:日本の取るべき戦略

 オフショア(沖合)から大陸国家を観察し、各国間を争わせるなどして覇権国家の勢力をそぎ、大陸の勢力均衡を図ろうとする外交戦略。


 イギリスが得意とする戦略であり、資源に乏しい島国国家で貿易で栄えるほかないという共通点をもつ。日本も自由な海と貿易を確保するためとるべき戦略である。

中国経済は海外貿易が支えているため、貿易ルート確保のためには他国との軋轢も辞さない

 中国は共産党による一党独裁であり、純粋な経済問題を外交安全保障問題とリンクされ、法や秩序を無視して、意思を通すことが可能になっている。


 中国経済は内需が小さく、海外貿易がささえており貿易ルートの確保は死活問題にかかわる問題となる。拠点となる島に軍事基地を置き、海洋国家を近付けるさせないために領土を広げる。
これが中国の基本戦略で、そのために様々な国と軋轢を生むほどに、領土拡大を試みている。

中国はソフトパワーが弱く、一帯一路の実現は困難

 自国を取り巻く海と陸をつなげるのが中国の一帯一路構想だが、周辺国とのトラブルが多い現状では実現困難。


 多くの国でインフラ援助、鉄道建築などを行っているが、トラブルも多い。経済で中国に依存させ、経済を政治的な影響力へ変換させようとしているが、国際社会からの反発も多く、進んでいない。
 

 援助の成功などは強いソフトパワーが必要だが、市民に多様な意見を許さない共産党独裁ではソフトパワーの強化は不可能。

中国外交の問題から米日欧は中国依存脱却を検討している

 コロナウイルスへの対応をめぐっても、責任を認めず、後手に回ったことで世界中の国から印象を悪化させている。

 以前から共産党によるプロパガンダの多用が問題視されており、米日欧は経済的な中国への依存から抜け出す道を探すようにもなっている。

日本にとって朝鮮半島は中国の侵略を止める重要性な存在

 中国、ロシア、日本に囲まれ、多くの国から侵略されてきた歴史を持つ。日本の立場からすると中国の侵略を食い止めて続ける存在でもあり、その重要性は現在でも変わらない。
 
 韓国は終戦後、朝鮮半島の南側をアメリカで占有し、後に独立した。アメリカのバックアップで成立したため、日本に対する敵対意識を作り上げ、反日を国民団結の象徴とした。


 安全保障上の重要性から日本の譲歩による融和が続いているが、関係の見直しが必要となっている。
韓国はアメリカから距離をおき、中国に近づくことで北へ向かい大陸国家としての新天地を開こうとしている。

 北朝鮮は核兵器により、ある程度の力を確保したが、経済規模などは非常に小さい。コロナによって出稼ぎによる外貨獲得も難しくなっている。中国との関係性は深いがロシアにも接近している。日本はロシアを通じて北朝鮮に間接的にアプローチできれば北東アジアのパワーバランスを得ることができるようになる。

日本の生き残りには中国、ロシアの周辺国と政治経済的な協力が重要

 国益を守るために、できるだけ情報を集め、広い選択肢を持つことが重要となる。そのための構想の一つがクアッドとなる。クアッドは日本、アメリカ、インド、オーストラリアからなるインド太平洋域内の安全保障のバランスと安定を目的としている。


 日本にとって自由な海域は貿易や石油の輸入に非常に重要で中国を囲む諸国を安定化し、中国をけん制することの重要性はより増している。


 他にも自由で開かれたインド太平洋戦略やTPPにはイギリスや東南アジアの参加も期待されている。
 

 東南アジアの国々にとっては経済的な中国への依存度が高いため、これらの国々との関係を築くこともが重要。効果的なシステムの構築で、東南アジアの経済的な発展が進めば中国の経済的な価値を下げることにもつながっていく。 

 

 日本の基本姿勢はロシアや中国の周辺国と積極的な政治、経済協力をしランドパワー国家である中国とロシアを大陸に封鎖することになる。

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