社会はどう進化するのか ディビット・スローン・ウィルソン 3分要約

3分要約

社会と進化論の関係は何か

 生物学では進化論が極めて重要なものとされてきたが、社会と進化論を結び付けることは長い間タブー視されてきた。

 徐々に進化の観点から、人間の研究が進んでいるが、その数は少なく、政治や政策分野での進化論の重要性は理解されていない。

なぜ社会と進化論の結び付けはタブー視されてきたのか

 社会進化論が貧困や差別を助長したり、ナチスの政策のもとになどの誤解が原因で、タブー視されてきた。

 ダーウィンは進化論で人間の進化は協調にあると考えており、このような考えは間違い。

進化論はどのように社会に利用するべきか

 生物学的な現象、行動、社会的な分野でどのような進化が起きているかを解明し、その事実に基づいて政策の決定などを行うべき。

 進化は遺伝子だけでなく文化的な要因でも起こり、そのスピードも早い。

社会の進化とはどういうものか

 進化=反勅に有利になる特徴と考えれば利他的な性質を持つことは本来、不利におもえるが、実際には多くの種で利他性が進化している。

 利己的な個体は小さいなグループ内では有利となるが、グループ間の争いで見ると利他的なグループのほうが有利となる。そのため、社会性を持つ生物では利他性や善が大きく進化してきた。

 このように進化の世界観は生物学の領域だけでなく、社会にも当てはまることがようやく理解され始めてきた。

進化論を利用する際に注意するべき点は何か

 分析の中心を個体におくのではなく、小規模なグループに置くこと。人類は小規模なグループに適応するように進化してきたため。

 グループに注目することでうまくいっているグループが中核原理(CDP)を守っていることがわかる。あらゆる企業で中核原理は有効だが、企業などで利用されてることは非常に少ない。

1.強いグループアイデンティティと目的の理解

2.利益とコストが公平で、コストを払うほど利益を得られること

3.全員で公正な意思決定をしている

4.合意されたうえで行動を監視する

5.自分の仕事を果たしていない人に注意→処罰→排除と段階を踏んで制裁を行う仕組みをもつ

6.もめごとを迅速、更生に解決する仕組み

7.適正な自律性の容認

8.グループ間でもグループ内と同じ規律であるこ

 完全な自由放任も管理社会もうまくいかない。中核原理を利用し組織を運用することで文化的な進化をもたらすことができるようになる。

生物学以外での進化論の利用は非常に有用

 ダーウィンが進化論を見出して以降、生物学では、進化の光の下でなければ何事も意味をなさないという言葉があるほど、進化論の役割はとても大きなものになっている。

 生物学での重要性は高いが、進化論を誤って解釈した優生学による悲劇などから、社会性と進化論を結び付けることはタブー視されてきた。

 しかし、ダーウィンの進化論は協調に焦点を当てており、それを理解できれば、進化論を曲解し、貧困の放置、不妊の強制、人種差別などに利用されることはない。

 近年、徐々に進化の観点からの人間の研究が進んできているが、その数は極めて少なく、本来必要な政治や政策分野での専門家も進化論の重要性を理解していない。

 人間社会進化論から考える必要性や、その恩恵を知ることができる本になっている。

社会進化論=悪とする考えを一掃し、活用すれば大きな効果がある

 社会進化論という言葉は強者が弱者から巻き上げることを正当化する政策を揶揄されるために用いられている。人間社会に単純に適者生存の仕組みを当てはめると、貧困や差別を助長することにも利用できるが、ダーウィンは人間の進化が協調にあると考えていた。

 ナチス、ヒトラーによるジェノサイドにダーウィニズムが影響したとする説も根拠がなく、明確に否定されている。それでも社会科学などの分野に進化論を当てはめることはタブー視されてきた。

 ダーウィンの理論は誤用されうるし、実際にされてきたが、そのようなことはどんな理論にも起こりうることで、社会進化論が貧困や差別を助長すると考えるのは見当違い。進化が本来応用されるべき社会科学、人文科学の分野から除外されたことは多くの犠牲を生んでいる。

 従来の社会進化論=悪という神話を一掃することで、進化論の世界観を肯定し、活用する方法を探求することができるようになる。

観察したものに、意味があるか無いか分類することは非常に重要

 進化の産物を理解するためには以下の4つの問いに着目することが重要。

1.ある特徴に機能があるなら、それは何か?

2.その特徴の世代を超えた進化の歴史はいかなるものか?

3.対応するメカニズムはなにか?

4.その特徴はどのように発達するのか?

 あるもの観察したときに機能的に設計されたものか、意味のない物質的な現象かを分類することは重要。我々は二つの推測を使い分けているが、取り違えやすい。

 雪の結晶が無数の構造をとることは物質的な現象だが、機能的にそのような構造になったと理解しようとしてしまう。このような取り違えは多くの場面で見られ、現実を見失ってしまう原因となる。

4つの問いを行うことで摂り違いを防ぐことができる。雪の結晶は物質的なメカニズムであり、機能や世代を超えて伝わわっていくことはないため、進化の産物ではないとみなすことができる。

身体、行動特性に関する政策決定にも進化論が用いられるべき

 社会性が進化論に基づいている以上、政策にも進化論を参考にすべきだが、政策決定の場では進化論の観点は完全に抜け落ちている。

 環境の変化が人間の身体的な機能に与える影響は大きく、近視の増加もその一つ。現代の活動様式は目の発達プロセスに混乱を与えている。近視は近くを見るかどうかよりも、屋外で過ごす時間が長いほどなりにくいことが知られてきている。

 事実は今後の研究次第だが、事実が公共政策を導く指針になるべき。目の発達のような生物学的な現象については政策に応用しやすいが行動、社会的とみなされる分野でも応用すべきといえる。

 現代環境と身体組織が進化した際の環境の不整合は様々な障害へとつながっている。細菌は害であり、駆除すべきとする向きもあるが、体内には有益な菌も多くそれらを除去してしまうことは様々な疾患の原因となっている。疾患には生物学的な領域(ぜんそくや糖尿病)から行動的(うつ、不安)なものもある。

 行動特性にも進化論の影響は見て取れるため、行動特性に関する政策決定時にも進化論を考慮した決定が必要である。

利己性をグループ内では強いが、利他性のあるグループには勝てない

 進化は環境に適応した生物がそうでない生物よりも生き残る確率が高く、繁殖に有利になるためおこる。そのため利他的な性質よりも利己的な性質を持っているほうが有利に思える。実際小さいグループ内では利己的な個体は利他的な個体よりも有利になることも多い。

 しかし、利他的な個体で成立したグループは利己的なグループを打ち負かすことができるため、社会性をもつ生物では利他性や善が大きく進化してきた。

 檻の中で多くの卵を産む優秀なめんどりを選び、繁殖させ続けると子孫のグループは互いに攻撃してしまい卵の量が減ることがある。卵を多く生んでいたのは他の個体からエサを搾取するなどしていたからという理由だけであり、それらの個体の性質が集まるとグループの質は大きく低下してしまう。

 逆に檻全体で産卵量の多いグループを繁殖させると産卵量は増加する。小グループ内では悪、利己は勝利するが他のグループとの争いに負け徐々に淘汰されていく。

 グループ間の選択がグループ内の選択に打ち勝つ例は人間でも顕著で、協調を進化させた説明でもあり我々が道徳性を進化させた理由である。

進化は遺伝子だけでなく、文化的要因でも起こる

 進化を語るには遺伝子だけではなく、文化的な継承メカニズムを含めることが不可欠。遺伝的には変わらなくても環境や文化の違いで行動が変わり、それが有利に働けばそのような行動が次世代に伝わっていくこともある。

 文化的な進化は遺伝的な進化よりも迅速に進むが、未来世代を犠牲にし、現世代を優先するような作用となることも多い。文化進化的なプロセスを意図して持続可能な世界の実現に向け推し進める必要がある。

進化論を用いて考える際には個体ではなく、グループに注目する

 進化論の世界観が生物学の世界だけでなく、人間の経験にも広く当てはまる。ダーウィンはこの点を正しく認識していたが、ようやく社会もその考えに追いついてきたといえる。

 この考え方、生命観は道徳性への新たな視点をもたらすだけでなく、実践的な生活の質の向上に資する洞察を得ることができる。グループ活動、政策、経済、地球全体の問題にまで質の向上を期待できる。

 その際に注意すべきは個体を分析の中心にするのではなく、グループに着目すること。

 個人に注目すると利己的な行動をとることが最善なため、共有資源の管理を行うと必ず崩壊するはずという共有地の悲劇と呼ばれる問題がおこるはずだが、実際の社会では共有地をうまく活用しているグループも多く存在している。

グループがうまくいくには中核設計原理(CDP)を設計すると良い

 グループに着目することで共有地の悲劇が起きず、崩壊せずに進行することができる。ただし成功するグループには以下のような条件(中核設計原理:CDP)がある。

1.強いグループアイデンティティと目的の理解

2.利益とコストが公平で、コストを払うほど利益を得られること

3.全員で公正な意思決定をしている

4.合意されたうえで行動を監視する

5.自分の仕事を果たしていない人に注意→処罰→排除と段階を踏んで制裁を行う仕組みをもつ

6.もめごとを迅速、更生に解決する仕組み

7.適正な自律性の容認

8.グループ間でもグループ内と同じ規律であること

 8つの原則を持つ組織ほど、うまくいくこと調査からわかっている。

中核設計原理の有効性を生かしている組織は少ない

 8つのCDPに独自の目標に合わせた補助設計原理(ADPs)を組み合わせることで、組織の運営がうまくいく例は多いがそのことが社会で行かされているとはいいがたい。

 学校では、安価で成績を上げるだけではなく、その後の社会でも良い生活ができるという調査があるが、その導入は進んでいない。

 地域社会、宗教コミュニティ、起業など共通の目的を達成するために強調しあわなければならないグループはすべてCDPを必要とする。

人間進化では小グループ考え、その産物が個人と考えると良い

 多くの個人の資質や能力はそれまでの社会的プロセスの結果。人間の場合は周囲に協調的な人がいるかはその人に資質を発達させるが、無関心、敵対的な場合は負債を抱えることとなる。無関心や敵対も適応に有利な面もあり、一定数存在することは避けられない。そのような場合でもCDPを考慮することで、家庭問題などの解決もしやすくなる。

 人間の進化における選択単位として小グループが重要であり、その産物として個人があると認識することが進化論の視点では重要になる。

自然が上手くいくのは自由だからではなく、調整されているから

 経済では見えざる手に代表されるように、規制を少なくし、自由放任にすることが最も効率的であるとされてきた。

 この概念では自然が何もしなくても、秩序を保っていることを引き合いに出されることもある。確かにミツバチのコロニーでは個人は全体の利益を考えて行動しているわけではないが、うまくコロニーが機能しているため、一見すると正しいように見える。

 しかし、実際にミツバチのコロニーが機能するのはそのような行動をとるように、有害な行動をとらないように遺伝的にプログラムされているにすぎない。人間が小グループを形成し協調するためにも同じように規制、調整が必要になる。

 収入格差が大きいほど健康問題や社会問題にが深刻になり、福祉程度が減少すると政治的なストレスが増大するなど利己的で貪欲なことはいいこととする理論が間違いであることを証明するデータは多い。

自由放任と中央計画では変化に適応できない

 変化の大きい時代で進化や適応がキーワードとなっているが、実際に進化論に助言を求めるケースはほとんどないといってよい。

 変化に適応する際に機能しない方法は自由放任主義と専門家グループがなにをするか決め、計画を実施する中央計画。この2つの中間にうまく機能する方法が存在する。 

 うまく機能するには変異と選択のプロセスを活用することが大事。そのためにも組織にはCDPを持ち運用することが重要。企業は企業間の競争が激しく、適応したグループのみが生き残る選択圧が強い。そのため、変異と選択をうまく利用した企業のみが生き残る例が多く見られる。

人は協調的な小グループのメンバーになるべく進化している

 現代の諸問題の解決に科学が必要であることを疑う人はいないが、進化論を科学から除外してしまっている人は多い。

 遺伝子が遺伝のメカニズムの一部でしかないことが理解できたことで、社会や文化も身体的な特徴と同じように適応し、進化することがわかってきた。

 人は自分の行動に対し、承認や尊敬が得られる協調的な小グループのメンバーになるべきして進化している。

 このことを意識しそのような組織が長く続くようにCDPを設定することで文化的な差異を生み、文化的な進化をもたらすことができる。

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