空気を読む脳 中野信子 まとめ 講談社+α新書

本の概要

 日本は欧米の罪の文化に対し、恥の文化といわれる。

 かたき討ち、特攻、醜い勝ちより美しく負けることを好む、高い協調性を持つ一方異質な人を排除しやすい、など日本の心性を脳科学を中心に論じていく。

 協調性が高い人ほど不公平な仕打ちを受けると義憤にかられやすい。この性質は脳内物質の量で決定される。

 人類にとって社会性の維持は非常に重要なため、利他的な行動には脳が快楽物質を出し、利他的な行動をとるようにしている。

 オトキシンは仲間を助ける、子育てをするなどの行動に直結する脳内ホルモンだが、増加すると妬みや憎しみの感情も強まる。家族を守る感情が行き過ぎた結果、支配につながる原因ともなる。

 褒める教育は褒め方次第では子供の挑戦心を失わせる。能力ではなく努力や過程を褒めることが有効。

 幸福度は環境の違いは小さく、遺伝的要因が大きい。日本人は幸福度が低いことが知られているが、無理に高めようとしても無駄になってしまう。様々感情を持ち悩むことも多いが、ある程度は遺伝子のせいと思うことで気が楽になる部分もあるのでは?

 人間のネガティブな面も実はメリットになってい場合も多い

  • 真面目で悲観的なことは長生きにつながる
  • 合理性が低いため、新しいことに挑戦できた

 などはデメリットがメリットにつながった例。

本で学べること

  • 脳科学でどんなことがわかるのか
  • 日本人の心性は脳のどんな作用から生まれているのか
  • 脳科学からわかることをどのように生かしたらよいか

はじめに

 欧米の罪の文化に対し、日本は恥の文化であることはよく言われている。

 何かをしてもらったたり、与えられたりしたときに報いなければならないと思うことは互酬性とよばれる。恩だけでなく、屈辱もまた返したいと思うもの。

 日本では仇打ちをしたものを英雄視する風土がある。このような日本の心性を脳科学を中心に論じていく。 

 第1章 犯人は脳の中にいる ~空気が人生に与える影響とは?

 人間が身の回りの人との関係性を重要視する性格傾向は協調性と呼ばれる。協調性が最も強く表れたのが特攻という歴史。

 戦前の教育や空気が特攻を生み出したとされてきた。しかし戦後教育は大きく変わったにもかからわず、その特性は消えていない。

 脳の特性を調べると協調性の高い人ほど、不公平な仕打ちを受けると義憤にかられ行動しやすいことがわかってきた。この傾向はセロトニントランスポーターが少ないほど、強いのだが、日本人はセロトニントランスポーターが世界でも一番少ない。

 セロトニンは精神安定剤とも似た構造で精神の安定、安心化の源となる。セロトニンは8億年以上前から地球上に存在し、生物の体内で重要な機能を担ってきた。

 行動や他社との関わりに影響を及ぼし、セロトニンが増えると孤独で行動していた動物が集団で行動にするようになる例もある。

 日本人は醜く勝つよりも、美しく負けることを好む。日本人は歴史上の人物でも悲劇性を持つ人物が人気を集める。

 脳の中では美しい、美しくないの判断は他者への配慮、共感性などを司る社会脳と呼ばれる領域にあるため、これらの概念と混同されやすい。

 社会性の維持は他の生物に比べ脆弱なホモサピエンスにとって非常に重要なため、社会脳が刺激された際に快楽物質が放出されるようにし、利他的にふるまうようになっている。

 一方で利他行動が強すぎる人は不正をした相手に自分の利益を失っても制裁を加えたいと言う気持ちが強くなる。

 私たちは確実なものより不確実なものを好む。ギャンブル、スポーツ、ビジネスなど

 生きることは選択の連続であるため、確実なものしか選べないと何も決定できないため脳がこのような傾向を持っている。

 人類は共同体のなかでおいしいところどりをするフリーライダーを排除することで共同体のリソースを守ってきた。不倫のバッシングも一夫一妻の共同体のルールを守らず、快楽を求めていると考える人がいるために起こる。

 ある特定の遺伝子を持つ人は持たない人に比べ不倫率や離婚率が高いことがわかってきた。その遺伝子を持つ人は人口の50%ともいわれている。

 第2章 容姿や性へのペナルティ ~呪いに縛られない生き方

 女性の容姿の美しさは決断力や指導力が必要な場面では美しさが低評価の要因となる。

 これまでの日本の教育は「良き歯車をつくる」で、今でも多くの人の思考に残っている。女性の特性は歯車になるのに邪魔とすら考えられ、女性が活躍するにはなるべく男性的に見せる必要があった。

 近年、毒親という表現があるように家族との人間関係は他人との関係よりも難しく、複雑。

 脳内ホルモンであるオトキシンは仲間を助ける、弱いものを守る、子供を育てるなどの行動に直結する。オキトシンが増えると妬み、憎しみの感情も強まる。

 オトキシンの濃度が高いと外集団バイアスと社会的排除が見られる。

 外集団バイアスは自分たちの集団に含まれない人たちを、不当に低くみなし、社会的排除は集団内の異質な人を不当に扱うこと。

 家族でこの仕組みが働くと家族を守るために、子供や配偶者を支配しようという考えになる。

 同性愛者の生産性という表現が問題になっている。同性愛者男性の親戚の女性にはストレートの男性の女性の親戚に比べ、1.3倍子供の数が多い。同性愛者の持つ共感性などが親族を助けることに熱心なためというデータもある。

 同性愛は種の保存のための基本的なメカニズムで、人間以外にも幅広くその仕組みが採用されている。むしろ生産性を向上させる仕組みといえる。

第3章 褒めるは危険 ~日本人の才能を伸ばす方法とは?

 近年は褒める教育が推奨されてる。

 あるテストを行った子供たちに

  • ・「本当に頭がいいんだね」とほめる
  • ・「努力のかいがあったね」とほめる
  • ・何のコメントもしない

 の3つのグループに分けると、頭がいいと褒められた子は次のテストで難しい問題と簡単な問題を選ばせると簡単な問題を選ぶ。努力を褒めた子は難しい問題を選ぶ。

 より良い成績を大人に確実に見せるために簡単な問題を選んでしまう。

 さらに別の難しい問題を全員にやらせると頭がいいと褒められた子は

  • ・課題が楽しくないと感じる割合が増える
  • ・点数は発表させると嘘をつく
  • ・最初と同じ難易度の問題の正解率が下げる。(何のコメントもしない子以上に下がる。)

 などの傾向がある。つまり頭がいいと褒めると

  • ・頑張らなくてもできると必要な努力をしなくなる
  • ・周囲に頭がいいと思わせなければと思いこむ
  • ・頭がいいという評判を維持するため、うそをつくことに抵抗がなくなる。
  • ・いい評判を維持するため、失敗を恐れ簡単な問題ばかり選択する。

 ご褒美も逆効果になる。大人がご褒美をくれる=嫌なことと認識し、その行動を嫌いになってしまう。

 大人でも報酬額が多いほど、その行為、行動を楽しくないものと考えがちになる。

 報酬は単純な課題に対する応答の早さを高めたい際には有効だが、創造性を引き出したいときにはマイナスとなる。

 男性と女性を比べると女性のほうがセロトニンの合成能力が低い。

 セロトニンは安心感の源となるため、女性のほうが不安になりやすく、男性のほうが楽観的。

 他にも男性は地位、名声などの社会的報酬によって承認欲求を満たす、一方女性は誰かに必要とされることで承認欲求を満たすなどの違いもある。ただし、後天的に決まる部分も多い。 

 子供の脳は大人と比べ、ストレスに弱い。また従来とは20歳以降も成長が続くという説も出ている。

 睡眠が学習の効果を上げることはよく知られている。加えて子供の睡眠のリズムは大人よりも後ろ側にずれている。学校の試験時間や始業時間を1時間遅らせ成績が上がった例もある。

第4章 「幸福度が低い」わけがある ~脳の多様すぎる生存戦略

 双子を対象にした研究結果から、子供の反社会的行動の40~50%は遺伝によって説明できるという主張もある。

 幸福度という測りにくいと思われる尺度についても調査されている。一卵性双生児の片方の幸福度を調べればもう一人の幸福度も予測できるというもの。

 幸福度には収入額、配偶者の有無、職業、宗教などの環境の違いの影響は非常に小さく、二卵性双生児ではそのような傾向が見られなかったため、遺伝の影響は大きいという主張。

 日本人の幸福度が低いことで知られるが、遺伝的な要因が大きいのであれば無理に高めようしても無駄になってしまう。

 さらに真面目で悲観的な性格を持っていることが長寿との相関が高いことがわかってきた。

 人間には弱みに見える部分でも、実はメリットになっている部分がある。

 合理性がないことは弱みとしてとらえられるが、合理性が適度に抑えられ、新奇探索性があったから、祖先は新しい環境に移動した、集団行動ができたなどとも考えられる。

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