経済学入門 マクロ編 ティモシー・テイラー かんき出版 まとめ2

概要

財政政策と金融政策で目標を達成することがマクロ経済学の役割だが、政策ですべて解決できるわけではない。経済学はより良い答えに近づく道具となる。

 マクロ経済学は経済全体を一つの生き物と捉える俯瞰的な見方のこと。財、労働、資本それぞれの市場に注目するミクロ経済学では語れない経済成長や国際収支を説明するもの。

 後半では、4つの目標を達成する財政政策と金融政策の詳細について書かれている。

 財政政策は税収と支出をコントロールすることで行う。自動的に景気を調整するシステム(ビルトインスタビライザー)以外の裁量的な財政政策は、経済学者から信頼を受けていない。

 金融政策は中央銀行がお金の量をコントロールすることで、景気を調整する。

金融政策の引き締めによるコントロールは比較的容易だが、緩和による景気拡大は難しい場合が多い。

 世界中が経済政策に理解を深め、短期的な対策と長期的な展望を両立させることで、生産性の向上が起きればすべての国がより豊かになる。経済学ですべてを一度に解決することはできないが、正しい知識を得ることで視野が広がり、より良い答えに近づくことができる。

 

財政政策

税収と支出のコントロールで経済をコントロールする

 財政政策は税収と支出を表す。

 アメリカの場合、主な支出は国防費、社会保障費、医療費。国債の利子返済の4つで2/3を占めている。財政政策の削減が難しいのはこれらの4つを削ることができない、削減が大きな反発を呼ぶため。

 

 一方、収入は所得税、法人税、給与税(社会保障税)、物品税。所得税が全体の43.5%を占めている。支出入はGDP比でみるとここ数十年大きく増えてはいない。

国の支出入がマクロ経済に及ぼす影響

4つのバランスを項目のバランスをとることが重要。財政政策にも限界はある。

「国民貯蓄」+「国外からの資金流入」=「民間の設備投資」+「政府の借り入れ」

がなりつため、財政赤字が大きい=政府の借り入れが大きい=設備投資額が減少する。
政府の借り入れが少なく、国民貯蓄が多ければ、着実な経済成長が可能になる。 

 減税などで景気を促進するような政策は失業率を減らすことが可能。インフレの抑制には支出の削減や増税で対応する。政府の借り入れと国民所得の上昇によって持続可能な国際周収支が可能になる。

 財政政策は消費と投資を税でコントロールしたり、政府支出の調整で総需要を動かしている。

 景気が拡張すると生活保護や失業手当が減り、政府支出が減少し、インフレを抑制する。このように自動的に景気を調整することができる(=ビルトインスタビライザー)

 ビルトインスタビライザー以外の裁量的な財政政策は経済学者から信頼しきられていない。タイミングが難しい(議会での承認には時間がかかる)、意図しない副作用がある、景気拡大時に増税するなどは反発を買いやすく、政治的に判断が難しいなどの理由でその効果は疑問視されている。

財政赤字

民間の設備投資の減少が特に経済成長を妨げる。

 財政赤字の拡大は

「国民貯蓄」+「国外からの資金流入」=「民間の設備投資」+「政府の借り入れ」がなりたつため政府の借り入れが増加すると、貯蓄が上がる、民間の設備投資減少、海外からの資本流入が増えるの3つが考えられる。
 経済成長を妨げる民間の設備投資を避けるため、貯蓄を増やす政策もあるが、アメリカではあまり貯蓄は増加していない。

お金

3つの役割を持ち、銀行はお金の貸し出しで経済をコントロールする

 お金の役割は以下の3つ

1.交換の手段:どんな売り物とも交換できる

2.価値の保存:しばらく手元においても価値が損なわれない

3.価値の尺度になる:様々なものの価値を比べることができる

 銀行はお金を貸し出し出すことで経済を活気づかせることができ、融資を控えると景気が悪くなる。

中央銀行

 銀行に貸し出すお金の量で景気をコントロールする

 各国の中央銀行は
「預金準備率」「公定歩合」「公開市場操作」によってお金の量をコントロールする。

預金準備率:銀行が融資に回すことのできるお金の割合。準備率を上げると融資額が減り、金利が上がる。

公定歩合:中央銀行が銀行にお金を貸し出す際の金利。
公定歩合を上げると、銀行が手元にお金を残すようになり、融資が減少する。しかし、銀行は他の銀行から借りることが多く、あまり使用されない。

公開市場操作:債券の売買でお金の流通量をコントロールする。
 中央銀行が債権を売るとと、銀行の現金が減り、融資が減少する。 

量的緩和政策:最も新しい手段。中央銀行が市場にお金を貸し出したり長期の債権を購入する。

 中央銀行が金利を上げると宣言するときには直接金利を設定するのではなく、これらの手法でお金の量によって金利をコントロールする。金融政策によって金融システムの健全性を保つことが仕事となる。

 金融引き締めはインフレを防ぐため、緩和は失業率の低下のために行っている。

 デフレでは金利の負担が大きくなり、お金の貸し出しが減少する状態で金融政策による景気向上が難しい。多くの中央銀行は2%程度のインフレを目標としている。

 金融政策は引き締めは比較的容易だが、緩和による景気拡大は難しい場合が多い。

貿易のメリット 

分業で生産性が上がる。

 各国の生産性にはそれほど大きな差異はないが、規模の経済がある。国内で消費しきれない量を作ることで1個当たりのコストを下げることができる。

 複数の国で分業するとより効率的で生産性が上がる(バリューチェーンの分断)がおこるなどが理由。

 グローバル化は進んではいるが、実際にはまだ国境の壁は大きく、同じ距離であれば国内のほうが取引量は多く、世界の物価も均一化されていない。

自由貿易と保護貿易 

自由貿易だけではうまくいかないが、保護貿易も解決にならない。

 経済学者は自由貿易を支持するが、国内の経済に混乱をもたらすこともある。

そのため、貿易を制限する保護貿易を行う動きがしばしば見られる。保護貿易は一定量以上の輸入の禁止、関税の引き上げなどで国内の労働者や未成熟な産業の保護する。
しかし、自由貿易のデメリットは保護貿易以外の方法で解決するほうが有益。

為替 

長期的には物価が等しくなるように変化 政府の介入は避け、市場に任せるほうが良い

 輸入業者にとっては、自国通貨は強いほうが良く、輸出業者にとっては、自国通貨は弱いほうが良い。自国通貨が強いほど外国からの投資も増える。

 長い視点では購買力平価(同じものを買う値段はどの国においても等しくなる)に近づくため、物価が等しくなるように為替レートは変化していくが、短期的には投資家の影響を受け、上げ下げしていく。

 為替の安定のために政府が介入することもあるが、市場に任せて変動するか固定するかのどちらかにしたほうが良い。

金融危機 

金融危機にはパターンがある

 国際的な金融危機が起こる大まかなパターンは同じ。
危機の前に外国から資金が流れ込み、銀行が融資をどんどん行う。株価も投資家の投資によって大きく値上がりする。

 そのうち、外国からの投資がストップすると、金利が上がったり、融資先の見極めが不適切で銀行がお金をが回収できなくなる。
 銀行がつぶれると政府が保証する必要があり、財政の危機になる。金融危機を防ぐため、IMF(国際通貨基金)が資金を貸し出すことで対応している。

いざというときに備え、銀行や企業に為替変動を考えさせる等の対策が有効。資金の種類も工場などの直接投資はすぐに引き上げることができなため、債券などの証券投資よりも安定感は高い。

まとめ

 経済学で正しい知識を持つと視野が広がり、よりよい答えに近づける

 世界経済は限られたパイを奪い合う競争ではない。ある国が成長したから他の国が貧しくなるわけではない。各国が協力して、生産性の向上が起きればすべての国がより豊かになる。短期的な対策と長期的な展望を共存させる必要がある。
 経済学ですべてを一度に解決することはできないが、正しい知識を得ることで視野が広がり、より良い答えに近づけるはず。

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