臓器たちは語り合う 丸山雄二 NHK出版新書 まとめ

本の概要、感想

 人体は脳が指令を出し、それぞれの臓器や器官がそれに従うというイメージを持つ人が多い

 しかし、近年の研究で臓器や器官は脳を介さず直接やり取りしていることがわかってきた

 人体とは何かという問いに対し、人体は巨大なネットワークであると結論つけている

 ネットワークを維持するために使用される物質=メッセージ物質と呼び、それらの働きといかに体内のネットワークが成り立っているかに迫っていく

 ネットワーク化によって人体は部分的に負担がかかっても、すぐには壊れないようになっている

 メッセージ物質によって負担を軽減する方向に働くことで、負担を一部の臓器ではなく体全体で受けることができる

 ネットワーク化された人体では病気の症状が出た場所=症状と原因とは限らない

 東洋医学が見直されているのも人体のネットワーク化が明らかになってきたため

 腎臓による赤血球の増加と高地トレーニングの関係、肥満が体に悪いのは免疫場を起こす炎症性サイトカインの放出によるなど身近な例をもとの体内の臓器がどのようにコミュニケーションを取っていて、そのコミュニケーションがいかに重要であるかがわかる

 コミュニケーションは非常に複雑だが、細胞同士のコミュニケーションの詳細を知ることで、病気がなぜ起こるのかやどのように治せるかの手掛かりになる可能性も秘めている

 受精卵の正確な分化を行っているのも細胞同士のメッセージ物質のやり取りであるというのはメッセージ物質の重要性が特にわかるエピソードとなっている

はじめに

 人体とは何か この問いに最新の科学は「人体は巨大なネットワークである」という答えを導き出している

 体内のネットワークの中で臓器から臓器へ、細胞から細胞へ情報を伝えるメッセージ物資を切り口にネットワークの仕組みを探っていく

 メッセージ物質を追いかけることで、人体についての理解を深めることができる

第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである

 ホルモンは以前から臓器から臓器へ指令を出す物質として知られており、脳から分泌され、脳からの指令を全身に伝えている

 ホルモンのような物質を通じて、脳が全身を支配しているという人体観だったが、1980年代に心臓がANPというホルモン物質を出していることがわかって以降、様々な臓器同士がメッセージ物質のやり取りをしていることがわかってきた

 ANPは腎臓が受け取ると利尿作用を示し、血管の細胞が受け取ると血管を広げる、血管の内側をきれいにする働きがある 全て心臓の負担を減らす方向に働く

 このように臓器は脳からの指令だけでなく、臓器同士でメッセージをやり取りしている

第2章 腎臓

 高地トレーニングの目的は腎臓にメッセージ物質を出してもらうこと

 酸素が薄く、肺で取り込まれる酸素が減ると腎臓はエポという物質を出す エポを骨が受けとると、赤血球の増産を始める 

 赤血球が増えると酸素を運ぶ効率が上がり激しい運動でも筋肉が酸欠になりにくく、持久力があがることになる 赤血球は多いと血液がドロドロになるため、常に高くできないためエポによる調整が必要となる

 腎臓は他にもレニンで血圧の調整も行っており、血液の管理する臓器として働く

 腎臓は血液から尿を作る過程で成分を吸収し、いらない、過剰なものを尿として放出している このとき腎臓はどの成分をどのくらい吸収するかを全身からのメッセージ物質を通じて決めている

 生物が長生きするかはリンの濃度を低めに保つことが重要 腎臓はリンの制御も行っており、腎臓の性能が寿命を決める重要な因子となっている

 今まで多臓器不全と診断されたケースの多くに腎臓が関わるなど、腎臓の重要度は臓器の中でも大きい

第3章 脂肪、筋肉

 脂肪組織はレプチンを出す量を調整している レプチンは食欲を抑える働きをする

 脂肪は脳にレプチンを通じて、指令を出している

 レプチンは多量に放出され続けると効果が薄くなる➡肥満につながる

 肥満が健康に悪いのは炎症性サイトカインの放出が増えすぎるため

 炎症性サイトカインは免疫を過剰に活性化し炎症を起こし、動脈硬化、糖尿病、校閲厚などの様々な病気の原因となる

 筋肉はIL6というメッセージ物質を放出する IL6は本来免疫を活性化される物質だが、炎症性サイトカインと共存すると免疫過剰を抑える向きに働く

 筋肉をつけることが健康につながる理由の一つで今も研究が進んでいる

 メッセージ物質は病気にする力も防ぐ力も持っている

第4章 骨

 骨の出すメッセージ物質としてはオステオカルシンが重要 オステオカルシンは糖尿病を防ぐ働きや記憶を力UPなどの効果が期待されている

 オステオカルシンは骨が衝撃を感知すると生成される➡運動によって生成される運動が健康に良い理由の一つ

 生殖年齢を超えても長生きする人間は特別 遺伝子から見ると、生殖年齢を超えて生きることに意味は少ないが、次世代の繁栄につながれば、遺伝子を残す助けになるため自然選択に優位に働く

 骨髄の中にある造血幹細胞は赤血球、白血球、血小板に分化する 骨髄移植によってドナーから造血幹細胞が患者に入ると、骨髄の中に入っていく

 骨髄の中の細胞が造血幹細胞を安定化させ、未分化のまま存在できるようになる

 この働きも脳とは独立し、メッセージ物質によるもの 臓器内の別の細胞同士もメッセージ物質を介してやり取りをしている

第5章 腸

 腸には人体の全細胞数よりも多い数の腸内細菌が住んでいる

 免疫細胞の7割が腸に集まっており、腸内細菌を用いて免疫細胞の教育を行う場にもなっている

 花粉症などのアレルギーは免疫の暴走によって起きている 腸内細菌のバランスが崩れると、免疫細胞の活動を抑える制御性T細胞が減ることが原因

 現代は清潔になり、感染症の脅威は減ったが免疫の働きの以前と強さは変わらないため、攻撃性を持て余して、過剰反応を起こす

 近代以前は、感染症などの脅威が強かったため、免疫の働きが強い人ほど生き残ることができたことが免疫過剰につながっている可能性もある

 免疫力を上げる=攻撃力をあげるではなく、攻撃すべき相手を見極め、不必要な攻撃をしないこと

第6章 ネットワークと病気

 人体そのものが少しのことで壊れないのは、ネットワークだから

 様々な臓器、細胞がメッセージ物質でネットワークを形成している 心臓の出すANPは上がった血圧を下げる 腎臓が出すエポは赤血球を増産し、減少した酸素濃度を増やすなどで働く➡人体のネットワークは引き戻す作用を持っている

 また、ネットワーク化することで一部に負担がかかっても全体で受け止めることが可能である、細胞、メッセージ物質に冗長性があるため、一部が破壊されても問題なく対応できるなども、引き戻し(恒常性)を可能にしている

 病気は引き戻しができなくなった状態 

 人体はネットワークを持つため、症状が出た場所と症状の原因が同じ場所にあるとは限らないということになる

 人体をネットワークとしてとらえてきた東洋医学が見直されているのはこのような理由から

第7章 ネットワークのさらに奥へ

 細胞には意思があるともないとも証明できていない 

 一般的に相互作用を持つネットワークは意思を持つように見える

 細胞内でも多数の分子がネットワークをもっているため、意思を持っているとしか思えないほど複雑なことができる存在といえる

第8章 脳

 脳は支配者ではないが、ネットワークの中で特別な存在 脳内の神経細胞の活動も細胞同士の会話で成り立っている

 脳は血液脳関門によって血液中から必要なものを選びだして、神経細胞のいる領域に取り入れる仕組みを持っている

 神経細胞同士の情報交換は電気信号だけで行われているのではない 神経細胞をつなぐ接続部分であるシナプスには空間が空いており、電気信号は直接伝わらない   

 そのため、神経伝達物質を放出することで情報の伝達を行う 複数の伝達物質を使用することで電気信号のONとOFFの切り替えだけでなく、複雑なコミュニケーションが可能

 複雑な物質のやり取りにノイズが入らないためにも、血管脳関門で不要な情報を脳内に入れないようにする必要がある

 この働きのため、脳の神経細胞に作用する薬は血管脳関門を通過できず、脳の治療は難しかった 薬に関門を通過できる物質をくっつけることで脳内へ薬を届ける研究も進んでいる

 人体のコミュニケーションを知ることで新たな治療のアイデアを生み出すことも可能

第9章 生命誕生

 受精卵は始めは一つの細胞だが、分裂と分化を繰り返し200種類以上の細胞となり、人体の複雑な構造を作っている

 iPS細胞は分化した細胞を未分化の状態に戻すことができ、再び分化させる際にメッセージ物質を使用する しかしメッセージ物質を適切に使用しても100%細胞を狙った形で分化さることは難しい

 一方、体内では驚くほど正確に分化が進む

 細胞同士がコミュニケーションを重ねることで正確な分化が可能となるが、人間の手でその条件を再現することは非常に難しい

 細胞は分化すると他の細胞に別の細胞になるようにメッセージ物質を送り、さらなる分化が進むことで正確に分化できる 

 細胞同士のメッセージ物質やり取りによって、非常に複雑なことも可能になる

第10章 健康寿命

 エクソソームは多くのメッセージ物質の詰まった物質で、ほとんどの細胞が放出しており、血液中には100兆個以上のエクソソームが流れていると言われている

 その中でもマイクロRNAが大きく注目されている 

 がん細胞がエクソソームを放出することで、体内を自分に有利な環境に変えていることがわかってきた

 がん細胞はその種類によってエクソソームの種類が異なっている 

 エクソソーム中のRNAを分析することでがんの特定が可能になれば、血液検査のみで複数のがん検診が可能となる

 また、エクソソームの膜に目印となる物資を付着させ免疫細胞にエクソソームを除去させる手法の研究も進んでいる

 臓器はネットワークを持つため、いきなり崩れないようになっている 静かに壊れることでネットワークへの影響を小さくしている

 人間の最後も周囲とのネットワークへの影響を小さくすることが求められている

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